『「スーパー新幹線」が日本を救う』(藤井聡著、2016年5月発行、文春新書)はかなり説得力がある地方創生論である。本稿では、同書のさわりの部分の文章をそのまま抜粋する形で内容をご紹介する。*
なお、タイトルにある「スーパー新幹線」とは、既存の新幹線路線に加えて、リニア新幹線の経済効果、さらに収益性に難点があると予想される路線については整備コストを圧縮するアイディアを論じて、北海道から九州南端までくまなく新幹線ネットワークを構築するという意味である。
(注)文章をそのまま抜粋した部分が大部分で、それは≪≫の中に入っているが、一部その方式では論旨をうまく表現できぬ場合は、私の裁量で文章を接続してあり、その部分は≪≫に入っていない。
■北陸新幹線で賑わう金沢
≪平成27年3月、北陸新幹線が金沢まで開通した。それまで4時間弱もかかっていた東京と金沢の間が2時間半で行けるようになった。東京方面から金沢に大量の人々が訪れるようになり、北陸新幹線の利用者は半年で482万人へと一気に増えた。これは新幹線ができる前は特急に乗っていた利用者の実に3倍の水準。≫
≪当然さまざまな経済効果が金沢にもたらされた。まず、金沢随一の観光地、兼六園の入場者は約4割増えた。…そんな賑わいは市内の観光地だけでなく、まちなかのレストランや各種商店にも及んだ。≫
≪並行している在来線はしばしば新幹線開業によって衰退することが懸念される存在だ。にもかかわらず、新幹線の開業に伴って、旧来の路線(在来線)の運営をはじめたJRいしかわの普通列車の乗客数は13%増加した。≫
≪活況を示しているのは観光面だけではない。….本当の新幹線効果はその「先」にある。「先」とはすなわち、民間投資の増加と都市活力の増進、そしてこれらを通した人口増加である≫
≪こうした動きはもちろん地方創生にとって何より大切な雇用を生み出す。事実、厚生労働省によると、開業後数カ月経った時点での石川県の有効求人倍率は1.47倍と(全国平均は1.21倍)、全国トップクラスの高水準となっている。≫
≪金沢以外の諸都市にも様々な恩恵がもたらされている。…富山県内きっての温泉地である宇奈月温泉でも、前年に比して4割も多くの宿泊客を集めているし、黒部峡谷鉄道の利用者も前年から14%増えた。≫
≪新幹線の整備が今、安倍内閣が進めようとしている「地方創生」に莫大なディープインパクトをもたらすということが明らかに示されたのである。≫
■函館新幹線がもたらすインパクト
≪北海道新幹線は、函館までの開業だけでは、北陸や九州の新幹線に比べて地味な効果しか見込めないだろうと予測されてはいるものの、やはり東京と4時間で道南・函館が結び付けられる意義はけっして小さなものではない。
第一に、東京圏から函館圏への観光客、ビジネス客が確実に増加する。…
第二に、函館はこの新幹線で東北最大の都市圏、230万人を有する仙台都市圏と2時間半で結ばれる。…
第三に、青森・函館の間の往来を加速する。…
第四に、函館都市圏の人々が青森や仙台、東京へと訪れることが大幅に増加する。≫
≪まさに今、新幹線は九州最南端の鹿児島から北の大地、北海道までつながったのである。…その意味は我々日本国民にとって観光客の増加や輸送量の増大などだけでは計り知れぬ重大な意味を持っているのである。…新幹線がもたらすディープインパクトは物理的・即物的なものばかりでなく、精神的・民俗的なものである。≫
■新幹線は日本復活の最優良プロジェクト
≪昭和47年時点で、時の総理(田中角栄)が構想していた新幹線と高速道路網のプランを見ると、新幹線についてはおよそ9000キロ、高速道路は1万キロだった。それが現在では高速道路は1.3万キロが整備されているから、130パーセントの整備率。一方、新幹線については現在営業している路線の長さはおよそ3000キロだから、整備率は30%に過ぎない。そこには高速道路網は国土交通省がその整備を進め、新幹線は国が関与することなく、国鉄やJR等の別組織がその整備を進めてきたという事実がある。≫
≪今日、地方都市の疲弊は目を覆うばかりの状況であり、「地方消滅」の危機する叫ばれる状況だ。そんな中、「地方創生」の重要性が日増しに認識されるようになってきている。そして北陸の金沢や九州の熊本、鹿児島で明らかに見られた「新幹線のディープインパクト」を鑑みれば、新幹線の整備こそが、地方創生の切り札であることは明白なのだ。≫
≪そうした地方創生、地方活性化は、東京の一極集中を緩和し、地方分散化を促すという側面を持っている。…こうした諸事情を勘案すれば、新幹線ほどに優れた取り組みはほかに見出し難いのではないかと思えるほどに、日本国民の利益、公益に適うきわめて優良なプロジェクトなのである。≫
■新幹線は財政負担が低い優良インフラ投資
≪ダムや道路、堤防は国民に必要ではあるものの、それを運用することで直接的な収益が得られるものではない。だが、新幹線については、運賃という形で、収益を得ることができる。ダムや堤防では、それを作る時のお金は回収できないが、新幹線の場合は、回収できる可能性があるのだ。≫
≪実際、JR東海やJR東日本などは、新幹線の運用で巨額の利益を上げており、その利益が法人税という形で国民に還元されている。もちろん、地方の新幹線は東海道新幹線に代表される超優良路線に比べれば利益率は低いが、それでもダムや堤防よりもずっと多くの収益を生み出すことは間違いない。≫
≪さらには、国家全体として考えてみても、巨大地震の直撃を受ける地域から少しでも多くの産業や人口を分散化させておくことができれば、被害を最小化することが可能となり、国家そのものが強靭となる。≫
■日本復活の切り札―リニア新幹線
≪中央リニア新幹線は東京―大阪間の500キロを時速500キロで結ぶから、その所要時間は1時間となる*。…東京・名古屋・大阪という三大都市圏がリニアによって実質的に巨大な一つの都市圏として一体化されることを意味する。≫
(注)東京・名古屋間は2027年開業予定、名古屋・大阪間は2045年開業予定。
■東京―大阪間のリニア運賃はたった1000円しか変わらない
≪一般の方々から、リニアでは所要時間が半分以下になるのだから、運賃は倍くらいになってしまうのではないかと心配する声を聞くことがある。しかし、リニアによるスピードアップに見合う料金の増加分は、今の新幹線の運賃に比べて、東京―大阪間で1000円、東京―名古屋間については700円程度だと試算されている。≫
■四国を救う特効薬―四国新幹線
四国は大変に疲弊している。その理由は四国の各都市(松山、高松、高知、徳島)が、太平洋ベルト地帯の大都市から隔離されてしまったからだ。なぜ隔離されてしまったのかと言えば、東京・名古屋・大阪・広島・福岡といった大都市を通る新幹線が四国のいずれの街にも接続されていなかったからである。
昭和47年当時に構想されていた新幹線の整備プランでは、岡山方面から瀬戸大橋経由で高松・高知方面につながる路線と、大阪から和歌山経由で、徳島・高松・松山につながる路線が計画されていた。この二つの路線が整備されれば、四国は一挙に活性化する。
もちろん、四国新幹線は東海道などの新幹線に比べれば収益性で劣ることは間違いない。しかし、ローコストでの整備は可能である。
(1) 山形方式の採用
山形新幹線では、東京から福島までは通常の高速移動で、それ以後山形までは在来線の特急の速度で運行する。この場合、在来線と新幹線が同じ線路を共有するため、投資額が抑えられる。さらに、新幹線整備によって在来線沿線の利便性が低下するデメリットもない。
(2) 単線整備
新幹線は在来線よりも格段に時間が正確である。したがって、ダイヤを工夫すれば、すれ違う所だけ複線にしておけば、単線での整備が可能であり、大幅にコスト安で整備できる。
■日本海側に活力を取り戻す
≪日本海側に関連する未完成の新幹線区間は次の5区間である。
羽越新幹線(青森から秋田・新潟を経て富山まで)
奥羽新幹線(山形から秋田まで)
北陸新幹線(金沢から新大阪までの区間)
山陰新幹線(大阪から鳥取・松江を経て下関まで)
伯備新幹線(中国横断新幹線、岡山から米子を経て松江まで)≫
日本海側で整備済みの区間は北陸新幹線の上越妙高から金沢までの区間だけである。
≪地方の新幹線は、仮にお金を調達して作ったとしても、その運行収入(人件費やメインテナンスの費用)を賄うだけの運賃収入が得られない可能性が考えられる。…但し、日本海新幹線構想の数々の路線の中でも、少なくも次の三つは現状においても赤字路線とはならず、黒字で運行できるものと期待されている。①山形新幹線 ②羽越新幹線の「長岡―上越妙高」区間 ③伯備新幹線≫
≪山陰新幹線は沿線の人口も限定的で、フル規格で作ってしまえば、採算性はかなり低いのが現状だ。しかし、現状の山陰本線を使って「山形方式」で運行することを前提とすれば、十分赤字を回避することが期待できる。≫
≪ここまで拡大した都市部と地方部との格差は、本書で述べた各地の新幹線の整備を遅らせれば遅らすほど、拡大していくことは間違いない。…手遅れにならないうちに「今」、あるいはそれが難しいなら一日でも早く地方に新幹線を作っていくことは「地方創生論において極めて重大な意味をもっている。≫