「反日への最後通告」(ハート出版)は韓国の反日政策を批判する秀作だが、著者の池萬元氏(1942年生)の経歴がユニークである。
韓国陸軍士官学校卒業、砲兵将校として米国海軍大学院に留学し、システム工学で博士号を取得。ベトナム戦争に従軍、1987年に陸軍の大佐として退役し、米国海軍大学大学院で2年間教鞭をとる。その後、ソウル市市政改革委員などの公職についた。ここまでですでに輝かしい経歴だが、“ユニーク”と評した理由はその後である。
2002年以降、光州事件*の真相解明をテーマとする多数の論文を発表したが、その研究内容が一般的認識と異なることで訴えられ、200件を超える訴訟に発展した。今なお係争中の訴訟が20件以上あり、反対派に暴力を振るわれたこともある。
*光州事件とは1980年に発生した暴動事件だが、これについては後述する。
さて、著者の基本的立場は反共(すなわち反文在寅)であり、日本とは友好関係を築くべきだと主張していること。同書のキモの部分を引用する。(赤字)
韓国と日本の戦争が最悪の局面を迎えている。韓国と日本の両国民の戦争ではなく、韓国の共産主義者たちと日本国民の戦争だ。この戦争は一日も早く終わらせなくてはならない。
韓国には保守派(反文在寅)が四割近くいるはずであり、この部分はその保守派へのメッセージだと解する。ちなみに、本書は2019年に韓国で出版され、日本語訳の出版は2020年4月である。
反日感情の論理とは何だろうか。朝鮮は美しい花の国だったのに、悪鬼のような日本が銃刀で蹂躙したということだ。しかし、この論理は事実ではない。結論から言えば、朝鮮は汚く、未開だった半面、日本は学ぶべきことが多い感謝すべき国だ。(P.8)
共産主義者は金日成を教祖として信奉し、終わることがない反日感情を国民一人ひとりの胸に刻みこまなければならなかった。なぜ反日感情なのか? 金日成の神格化は、ひとえに彼の捏造した「輝かしい抗日戦争」という伝説の上に成り立っているからである。そのためにこの地に毒キノコのように広がった金日成信者たちは、どこまでも日本を憎悪し、その憎悪心を広く宣伝し、煽動しなければならなかった。(P.11)
1910年に日本が李朝から譲り受けたものは、迷信深い九割の無知蒙昧な人々と欲深く嘘つきで陰謀が得意な一割の両班、そして汚物で覆われた大地と伝染病だった。日本はこんな朝鮮を接収するなり、わずか十年で漢陽(ソウル)を東京風に変貌させた。(P.23)
日本は朝鮮を無能な独裁王朝から救った。や両班の奴隷と化していた民を解放させた。科学と教育の力で開化させた。・・・当時の朝鮮には内乱と外国の侵略から王室を保護する能力すらなかった。自力では持ちこたえる自信がなかった王室が日本に支援を要請したのである。(P.27)
日本による併合は、韓国近代史のもっとも議論が分かれる部分である。本書は、多数の写真や外国人の意見を証拠として引用し、日本による朝鮮併合の正当性に反駁する余地がないまでに論証している。
世界で最も学ぶことの多い国が隣にあるのは大きな祝福だ。素材や部品、そして技術を品質で世界最高の地位を占める日本が韓国の隣国であることも韓国の祝福だ。このように有益な日本といきなり壁を築き、相互扶助の友好関係を敵対関係に急変させた人々こそが「売国奴」と呼ばれるのにふさわしい。(P.242)
この部分は日本人としてこそばゆくなるほどの賛辞であるが、客観的に見て正論だと思う。
さて、同書の特徴は重点を反共・反北朝鮮に置いていることだが、その背景には冒頭に述べたように筆者が光州事件に関して訴えられ、18年間その裁判に没頭させられてきたことがあると思われる。
率直に申して、爺はこれまで光州事件についてほとんど知識がなかった。しかし、去る5月18日の韓国政府の式典において、文大統領は「光州事件の真相を必ず明らかする」と述べたことで、「光州事件って何だ?」と関心を持った。そして、たまたま読んでいた本書によれば、1980年に光州で発生した民主化運動は北朝鮮のゲリラ部隊が煽動したものだという。この事件は複雑なので、次の機会に譲ことにする。
さて、爺が一つだけ著者の発言に納得できないことがある。それは、最近スキャンダルで満身創痍になっている元正義連代表の尹美香の行動に関する批判である。
尹美香廷対協代表(当時)は、2017年に在韓ベトナム大使館の前で、韓国軍がベトナムで女性を強姦したために生まれたライダイハンについて謝罪した。この謝罪は、日本に慰安婦問題で再度謝罪するよう求める牽制だったことは明白である。「日本はわれわれに見習え」というわけだ。その行動の是非はともあれ、池氏が尹元代表の発言を韓国軍のベトナムにおける多大な功績を貶めるものだと非難したことが本書に記されている。
ベトナムにおける韓国軍の功績が多大であったとしても、強姦は別の話であり、非難されて当然である。池氏は問題点をすり替えて、韓国軍の名誉を守ろうとした。爺は「反日への最後通告」を勇気ある著作として高く評価するが、この点だけは納得できない。
この部分は別として、本書は韓国人と日本人に是非とも読んでもらいたい秀作である。
次回予定:「韓国の光州事件とは何だ?」 または「尖閣諸島問題」