頑固爺の言いたい放題

森羅万象なんでもござれ、面白い話題を拾ってレポートします。

農水省のまやかし

2013-12-09 08:34:24 | メモ帳

農水省は「日本の輸入米の輸入税はキロ当たり341円。これを現在の国際相場によって比率に換算すると、関税率はこれまでの778%ではなく280%に低下した。比率が下がった理由は、国際価格が上昇して国内産との格差が縮まったため」と発表した(11月15日付、日本経済新聞)。この記事を読む人は「国際価格が上昇したとはいえ、まだ280%の関税を課さないと国産と釣り合いがとれないのか。TPP交渉は難儀なことだな」と理解するだろう。

 では、農水省が引用する国際価格とは何かというと、「タイの長粒種1級」である。ところが、長粒種(インディカ米)は我々が日常食べている短粒種とは形状だけでなく、風味がまったく異なる。したがって、国産との比較対象として長粒種を引用することは適切ではない。

 国際価格として比較の対象とすべき品種は、欧米の日本食業界が使用しているジャポニカ米(短粒種と中粒種)であり、主に米国のカリフォルニア州(加州)で生産されている。その短粒種は生産量がきわめて少なく、日本産と生産コストがほとんど変わりないから、日本の農業にとって脅威ではない。比較すべき品種は、世界中の日本食レストランが使用している加州産の中粒種なのである。そして、その相場は日本産の半分だから*、農水省方式に従えば、関税率は100%ということになる。

 こうした事情は農水省も当然知っているはずで、農水省の発表は情報を作為的に歪曲し、危機感を煽ろうとしている意図が明白だ。私が「まやかし」と批判する所以である。

 さて、今後の見通しはどうか。後進国の所得水準向上によって、コメ全体の国際相場は農水省も認めているように上昇しつつあり、これは長期的傾向と考えてよい。さらに、日本のコメ農業は大規模化の方向に進みつつあり、加州産との格差は今後大幅に縮小するだろう。

 もう一つの問題点は加州の供給能力である。くわしくはこのブログの8月末以降に投稿した「米国コメ事情1-5」をご覧いただくが、中粒種は余っているわけではなく、日本向けは増産に頼ることになる。しかし、ただちに増産態勢に入ることは彼らにとってリスクが大き過ぎ、日本の出方を見定めつつ徐々に生産量を増やすはずだ。当面の対日輸出増加量はせいぜい年間30-40万トンにとどまると推測する。その数量は日本の需要の5%程度であり、日本のコメ農業を崩壊させるというようなものではない。

 ㊟為替レートも円ベースの相場に影響を与えるが、為替レートの長期的予測は不可能であり、ここでは論じない。


地域振興商品券は地域経済を活性化させるか

2013-12-03 17:51:25 | メモ帳

私が住む湯河原町では、昨年から「湯河原温泉地域商品券」を販売している。5百円の金券が11枚綴りになったものが10冊で5万円。つまり、5万円を払うと5万5千円の支出が可能になる。なお、一度に購入できるのは5万円ぶんだけ。湯河原町商工会議所に加盟している温泉旅館、小売店、飲食店、サービス業(タクシー、クリーニング店など)で使用できる。

 私も今年4月の売り出しの時は5万円分を購入し、飲食店、酒屋、コンビニ(タバコ・週刊誌)で使用した。ところが、最近の発売では、翌日に買いにいったら、すでに売り切れだった。町のミニコミ紙によれば、発売後1時間で売り切れたという。販売総額は2千万円というから、400人が買ったことになるが、購入した人は全員が町の在住者だろう。

 酒屋で聞いたところでは、このプログラムへの参加費用はゼロで、商品券を町役場に持参すると額面通りの現金をくれるという。つまり、参加店の懐は痛まない。このプログラムに参加していない店もあるから、参加店は非参加店の商売を奪うことになる。それでも参加していない店があるが、酒屋のおかみさんは「面倒なんじゃないですか」という。常に予約だけで満席になっている飲食店は参加しないだろうが、そんな店はない。

 では、この商品券は湯河原の経済を本当に活性化するだろうか。

 私の場合は、この地域商品券がなくても、同じ買い物をしたと思う。焼酎を買い溜めしたが、それは需要の先食いでしかない。ほかの消費者も私と同様だろう。つまり、湯河原在住者だけが購入している限り、需要の創造にはつながらない。

 町が予算を増やしたらどうなるか。

 熱海に自宅があり湯河原に通勤している人がこの商品券を購入し、帰宅の途中に湯河原で買いものをすれば、町の商店を潤すことになるが、スーパーマーケットは参加してないから、買い物のアイテムがごく限られている。

 観光客は宿泊賃や土産物代に使えるが、5万円を先に支出することはかなりの負担になる。そもそも、この商品券があることが湯河原温泉に来る動機になるとは思えない。

 したがって、たとえ予算を増やしても効果は限定的である。

 1割引の原資は税金だから、このプログラムを利用しない消費者は、費用を負担しながら、恩恵にあずかれないことになる。言い換えると、5万円先払いする余裕がない消費者は損をするわけだ。もっとも、それで不平は出ていないようだが。

 結論として、湯河原町の町長と担当者は、完売のたびに「ヤッタ!」と喜んでいるだろうが、湯河原町は発売のたびに2百万円プラス商品券の発行費用と配布費用を損していると思う。費用対効果という観点から見て、愚策であると言わざるをえない。