農水省は「日本の輸入米の輸入税はキロ当たり341円。これを現在の国際相場によって比率に換算すると、関税率はこれまでの778%ではなく280%に低下した。比率が下がった理由は、国際価格が上昇して国内産との格差が縮まったため」と発表した(11月15日付、日本経済新聞)。この記事を読む人は「国際価格が上昇したとはいえ、まだ280%の関税を課さないと国産と釣り合いがとれないのか。TPP交渉は難儀なことだな」と理解するだろう。
では、農水省が引用する国際価格とは何かというと、「タイの長粒種1級」である。ところが、長粒種(インディカ米)は我々が日常食べている短粒種とは形状だけでなく、風味がまったく異なる。したがって、国産との比較対象として長粒種を引用することは適切ではない。
国際価格として比較の対象とすべき品種は、欧米の日本食業界が使用しているジャポニカ米(短粒種と中粒種)であり、主に米国のカリフォルニア州(加州)で生産されている。その短粒種は生産量がきわめて少なく、日本産と生産コストがほとんど変わりないから、日本の農業にとって脅威ではない。比較すべき品種は、世界中の日本食レストランが使用している加州産の中粒種なのである。そして、その相場は日本産の半分だから*、農水省方式に従えば、関税率は100%ということになる。
こうした事情は農水省も当然知っているはずで、農水省の発表は情報を作為的に歪曲し、危機感を煽ろうとしている意図が明白だ。私が「まやかし」と批判する所以である。
さて、今後の見通しはどうか。後進国の所得水準向上によって、コメ全体の国際相場は農水省も認めているように上昇しつつあり、これは長期的傾向と考えてよい。さらに、日本のコメ農業は大規模化の方向に進みつつあり、加州産との格差は今後大幅に縮小するだろう。
もう一つの問題点は加州の供給能力である。くわしくはこのブログの8月末以降に投稿した「米国コメ事情1-5」をご覧いただくが、中粒種は余っているわけではなく、日本向けは増産に頼ることになる。しかし、ただちに増産態勢に入ることは彼らにとってリスクが大き過ぎ、日本の出方を見定めつつ徐々に生産量を増やすはずだ。当面の対日輸出増加量はせいぜい年間30-40万トンにとどまると推測する。その数量は日本の需要の5%程度であり、日本のコメ農業を崩壊させるというようなものではない。
㊟為替レートも円ベースの相場に影響を与えるが、為替レートの長期的予測は不可能であり、ここでは論じない。