中国では、自由主義国ではありえない事態がおきる。以下、情報源はネットである。
中国の巨大IT企業アリババの創業者で、世界有数の大富豪として知られるジャック・マー(馬雲)氏(56)が昨年11月以降約3ヶ月の間、消息を絶った。金融界には、「消されたのではないか」という憶測が流れたが、1月20日にマー氏自身が運営するオンライン・イベントにその姿を見せた。だが、マー氏が今でも、中國当局の厳重な監視下にあることは間違いない。
マー氏の姿が消えてから1月20日までの、アリババの状況を時系列で追ってみる。
●昨年11月、アリババグループ傘下で電子決済サービス『アリペイ』の運営企業『アント・グループ』のIPO(新規上場)が、当局の圧力で延期に追い込まれた。
●12月、中國当局はアリババグループによる過去のM&Aに関する手続きの不備を指摘。手続きに違反があったとして罰金刑を科した(これには罪状が不明確という批判もある)。同月には、独禁法違反の疑いでグループへの調査も開始された。
●12月24日、当局は独占禁止法違反の疑いがあるとしてアリババ本社の家宅捜索に踏み切った。アリババの株価は307香港ドル(10月28日)から、224香港ドル(1月8日)へと大幅下落した(グラフ参照)。
グラフの真ん中が1月8日
余談だが、この状況に気が気でないのは、アリババ株の約25%を保有する筆頭株主ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長だろう。単純計算で、5兆円が吹き飛んだことになる。
さて、マー氏がアリババを創業したのは、今からわずか20年ほど前の1999年。中国のインターネット黎明期に電子商取引の将来性に着目し、ネット通販事業を主軸に一代で同社を世界的企業に成長させた。事業の拡大とともに国内外の企業を次々と傘下に収め、2014年にはニューヨーク証券取引所への上場を果たした。その総資産額は4000億元(約6兆4000億円)とされる。
アリババグループはこれまで順風満帆のように見えたが、マー氏と習政権の間には対立もあった。その背景には、アリババのバックには反習近平派(江沢民派)がついているという事情もある。
そして、昨年10月、上海で行なわれた外灘金融サミットの席上で、マー氏が「時代錯誤の規制が中国の技術革新を窒息死に追い込む」と、中国当局の金融規制を公然と批判したことで、中国当局との対立が深刻化したのである。
中国通の評論家、石平氏は次のように語る(赤字)。
一連の流れを見ていると、中国社会、特に中国の若者に与えるマー氏の影響力が強大化したことが、国家主席の習近平、および当局にとって切迫した脅威となっていることがわかります。アリババの電子商取引は売上高が激増する一方、市中の商店はどんどん潰れている。習近平は、アリババ及びマー氏を“社会不安を煽る危険因子”と見なし、是が非でもグループを解体して国有化したいと考えているのではないか。
石平氏と同じことを、朝香豊氏も「それでも習近平が中国経済を崩壊させる」の中で述べている(赤字)。
習近平が好ましくないと考えるビジネスモデルは否定されるのです。アリババもテンセントもやがては国有化されるでしょう。今やインターネット・ビジネスは中国にとって基幹産業になったのです。・・・習近平としては、“ジャック・マーとかは社会全体の調和など頭になく、自分のビジネスの発展と自己利益だけしか考えていない利己主義者であり、ああいう奴らがのさばっていては社会が正常に発展することはない”と思っているのでしょう。
成功したために当局に虐められる憂き目にあったのは、マー氏だけではない。
●不動産事業で中国一の大富豪になった王健林氏も、その万達集団が突然に銀行借り入れを停止され、次々と資産を売却せざるを得なくなった。
●安邦保険集団を創業し、保険を核に銀行や証券も抱える総資産2兆元(約32兆円)の金融集団に成長させた呉小睴氏も詐欺や職権乱用の罪に問われて、懲役18年を言い渡され、個人資産105億元(1600億円)は没収された。
●小さな農場から従業員9千人の大農場を築いた河北大午農牧集団の創始者である孫大午氏は幹部とともに突然連行され、企業資産は当局に接収された。
こうした状況下では、民間の活力は期待できない。自由主義経済の理念は“民間の活力が経済を発展させる”だが、習政権は真逆のことをやっているわけだ。
一方、前回述べたように、借金に頼る中国の国家財政は破裂寸前で、綱渡りのような状態にある。もしも破綻すれば自由主義諸国も痛手を蒙るから、“高みの見物”と笑ってはいられない。まったく迷惑な話である。