頑固爺の言いたい放題

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なぜ町田に湯河原温泉があるのか

2015-10-21 14:45:20 | メモ帳

東名高速の横浜・町田インターのすぐ近くに、「湯河原温泉・万葉の湯」という看板を掲げた大きな施設がある。以前、私は町田に住んでいたので、時折マイカーからこの看板を見ては、「湯河原温泉の万葉の湯という温泉旅館が、日帰り温泉をここに出店しているのだろう」と想像していた。しかし、自宅からもっと近いところに日帰り温泉があったので、この「湯河原温泉・万葉の湯」にはまったく興味がなかった。

2年前に湯河原に転居して朝のウォーキングをしているとき、ボディーに≪万葉の湯≫と書いたタンクローリーが走っているのを見かけて、「あっ、これはあの町田の日帰り温泉に湯を運んでいるんだ」と思い当たった。

そして、ウォーキング途中にそのタンクローリーの駐車場を見つけた。少なくとも5台はある。ボディーのキャッチコピーをよく読むと、≪みなとみらい、小田原、町田、沼津、はだの≫とあり、そして≪いい湯、いい心、湯送中≫と書いてある(写真)。地元の人に聞いたところでは、≪万葉の湯≫は湯河原温泉の中心地に源泉を所有しているらしい。≪万葉の湯≫がこんなに大きなオペーレーションだとは知らなんだ!

たまたま湯河原の図書館で「高橋弘の温泉革命―東京・町田に万葉の湯が湧く」という本をみつけた。1997年発行のその本によれば、≪万葉の湯≫は写真DPE業を営む「日本ジャンボー」という企業の多角化事業だという。そういわれてみれば、あのタンクローリーの駐車場の近くに「日本ジャンボー」という社名を掲げたビルがある。そして、そのすぐそばに「万葉荘」という温泉旅館もあるし、温泉場の中心地に「万葉公園」という景勝地もある。つまり、このあたりは≪万葉の湯≫の本拠地なのである(ただし、「万葉荘」は≪万葉の湯≫」とは無関係であることが後日判明)。

さて、「なぜ≪万葉≫があちこちに出てくるんだ?」という疑問が湧いてきた。ネットで調べると、あの万葉集に≪あしがり(足柄)のといのかふちにいずる湯の…≫と詠まれている。「かふち」とは川縁だろうか。「とい」は土肥で湯河原町の一地域であり、私の住まいもここにある。

要するに、≪万葉の湯≫は「湯河原温泉の出前」という付加価値をつけた日帰り温泉なのだ。ネットで見るかぎり、レストランやサウナはもちろん個室休憩室など、もろもろの付帯設備が充実している。東京―湯河原間のJR料金は、各駅でも往復3,300円。時間は片道1時間半。費用と時間を節約して、近場で温泉気分を味わえる便利な存在なのである。

そして、≪万葉の湯≫は東京近郊の日帰り温泉にとどまらず、北海道、神戸、九州に広がりをみせている。まさか、そんな遠隔地に湯河原から湯を輸送しているとは思えないから、普通の温泉旅館業に多角化しているということだろう。

前出の「高橋弘の温泉革命」によれば、DPE店を経営していた高橋氏は町田に土地を取得したとき、最初はそこにパチンコ店を開業しようとしたらしい。デジカメに押されて先行きの見通しが暗かったDPE業からの多角化に、温泉業を選んだビジネスセンスに敬意を表する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


新観光立国論

2015-10-09 14:43:15 | メモ帳

「新観光立国論」(東洋経済新報社刊)は英国人の視点で、今後の日本の観光業のあり方を論じている。その提言を煎じ詰めれば、「人口減少・高齢化による日本経済の衰退を救うのは観光業だ」。日本は観光立国の4条件「気候」、「自然」、「文化」、「食事」に恵まれながら、それを十分に生かしていない。

半世紀前の日本の高度成長は人口急増があったお蔭。欧州諸国は人口減少を移民吸収で補った。日本は移民増加に否定的。ならば、短期移民すなわち外国人旅行者を増やすことで解決せよ。

著者のデーヴィッド・アトキンソン氏は日本在住25年、元証券会社のアナリストで、現在は国宝などの文化財を修繕する小西美術工芸社の社長。仕事の関係で日本の神社・仏閣などの文化施設に精通するようになったらしい。その論点を要約する。

●年間国際観光客到着数

フランス 8,473万人、アメリカ 6,977万人、スペイン 6,066万人、中国5,569万人、イタリア 4,770万人に対して、日本は1,036万人で第26位 ちなみにタイは2,655万人で第10位。つまり日本は観光業に関しては後進国。

●観光収入がGDPに占める比率:

世界平均1.8%に対し、日本は0.4%。逆算すると想定できる観光客数は5,600万人。現在の目標2020年までに2,000万人という目標は少なすぎる。

●観光支出額世界ランキング(国民一人当たりの観光支出額):

オーストラリア ($1,223)、ドイツ ($1,063)、カナダ ($1,002)、イギリス ($821)、フランス($665)、イタリア (452)、ロシア ($374)、アメリカ($273) の順。みな一人当たりGDPが高い国だが、日本ではこれらの国々からの観光客が少ない。

●外国人観光客は増えたが、増えたのはアジア人。欧米人は日本までの旅費が高くつくから、滞在日数が長い。滞在日数が長ければ、それだけ金を使う。欧米・オーストラリアからの観光客を増やす方法を考えよ。

訪日外国人観光客の国別ランキング(万人)2014

台湾                             283            

韓国                             276

中国                             241

香港                               93            

アメリカ                          89

タイ                               66

オーストラリア                30            

●「おもてなし」はオリンピック東京誘致のキーワードになったが、日本人同士だけで通じる価値観。標準以上のサービスを提供しても、観光客誘致のアピールポイントにならない。マナーの良さ、安全、サービス、交通機関の正確さもアピールポイントにはならない。世界遺産登録もアピールポイントにならない。ユルキャラは論外。

●「それはできません」「それは無理です」と否定が多すぎる。サービスとは客のニーズに応えることである。

●観光客の訪日目的はみな異なる。

台湾人:テーマパーク、旅館の宿泊

中国人:買い物

韓国人:食事 (歴史・伝統文化には興味なし)

アメリカ人:食事、自然体験、伝統文化

相手によって、マーケティングを変えることが必要。

●マーケティングには多様性が必要。日本には格安ホテルはあるが、超高級ホテルがない。超富裕層は一泊数百万円のホテルに泊まる。サービスに差をつけて、高い料金を課すことを考えよ(飛行機のビジネスクラス、ファーストクラスは成功している)。飲食業では高級料亭、高級レストランがあり、多様性に富んでいる。

●日本は外国人観光客にとって、便利とはいえない。道路が混んでいる、英語による表示が不十分、鉄道料金が高い、ゴミを捨てる場所がない、など。     

●観光資源を活用していない。リゾート施設が貧弱。スキー場ではスキーだけでなく、豪華な食事を楽しめるレストランも必要。ビーチリゾートでも同様。

●神社・仏閣がたくさんありながら、保存状態がよくない。ハコモノはあっても、なにがすごいのかわからない。ガイドブックが貧弱。拝観料を払って記念写真をとるだけでは、意味がない。伝統芸能(琴、三味線、尺八、茶道,能)は稼げる文化財。茶室はTea ceremony roomと言う説明だけでは外国人にはわからない。茶道の説明が必要。

●例外として、伊勢神宮の「せんぐう館」は社殿や宝物の歴史的価値をよく説明していて、外国人に好評。日光東照宮も多言語音声ガイドが充実している。東京の根津美術館も説明が行き届いている。

アトキンソン氏の指摘はどれも説得力があり、なるほどと思わせる。政府や地方自治体の観光関係者、飲食業、旅館業、交通業などに携わる人々にぜひとも読んでもらいたい力作である。