「月刊Hanada」12月号に興味深い論考が掲載されているので、今回はこの論考「立憲民主党の『アベノミクス検証報告書』はぜんぶデマ!」(上念司)をテーマにしたい。
上念氏はその論考の冒頭で大略、次のように述べている。(青字)
立憲民主党が発表した「アベノミクスの検証と評価」(A4で1ページ半の短いレポート)の中身はトンデモ経済学と事実誤認、統計の恣意的などツッコミどころが満載だ。野党第一党の学力はこの程度なのか、と愕然とする。そして、その冒頭には次のように書いてある。(赤字)
「お金持ち」をさらに大金持ちに、「強い者」をさらに強くしただけに終わった。期待された「トリクルダウン」は起きず、格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった。
一方、実質賃金は下がり続け、二度にわたる消費税増税がそれに追い打ちをかけ、GDPの半分以上を占める消費の低迷が続いている。これが、日本経済が混迷から抜け出せない最大の要因である。
(1)実質賃金の低下
(2)消費増税(2 回)が家計を直撃
(3)ミリオネアー(億万長者)、貯蓄ゼロ世帯の増加
(4)産業競争力、潜在成長力の低下
(https://cdp-japan.jp/news/20210921_2145)
上記の(1)に関して:上念氏は「安倍政権下で実質賃金が低下したのは、当たり前である。なぜなら、雇用が増えれば実質賃金は低下するからであり、安倍政権下で雇用は450万人増加した」と指摘している。つまり、立民党は実質賃金の意味を理解していないことになる。
(注)実質賃金の意味は数式によって説明しないと理解しにくいが、長くなるので省略する。いずれにせよ、上念氏のこの批判は的を射ていると思う。
上記の(2)に関して:上念氏は「消費者物価指数がやっとプラス転換した時点で、消費税を上げたのは時期尚早だった」と安倍政権の政策の失敗を指摘する一方、「枝野氏は真正面からの経済論戦を避け、安倍総理を挑発することに終始して論点をそらした」と、枝野氏の態度を批判している。しかし、「2回の増税が家計を直撃した」のは事実であり、「経済理論による論戦をしなかった」と枝野氏を批判するのは、それこそ「論点ずらし」のように思われる。
上記の(3)に関して:上念氏は「富裕層が貧しい人から搾取したわけではない。欧米から見れば、日本は極めて平等な社会である」と主張し、その根拠を統計数字で示している。
上記の(4)に関して:上念氏は、2012年のアベノミクスから労働生産性と潜在成長率がともには上昇していることを数字で立証している。なお、立民党の報告書では「産業競争力」という用語を使用しているが、上念氏はこれに替えて、「労働生産性」を引き合いに出している。
上念氏は上記のごとく報告書の誤りを指摘しつつ、結論として「立民党が政権を取れば、弱者はより貧しくなる」と主張している。
さて、ここで不思議なことがある。冒頭の赤字部分は、爺が本日「アベノミクスの検証と評価」で検索した1ページ半の短いレポート(9月21日付)からコピペしたものである(今でもこのオリジナル版は見ることが出来、上念氏がこのオリジナル版を見て論評したことは確かである)。ところが、10月28日にこのURLを開けたら、そのページは見えなくなっていた。しかし、余白に立憲民主党と書いてあったから、爺がURLを間違えたわけではない。
そして、今日(30日)、同じURLで検索したら、カラーでグラフ入りのA4にして7ページほどの立派な報告書(日付は9月21日で変わらず)が出てきた。そして、そのタイトルは次のようになっている。(オリジナル版もネット上に残っている)
「適正な分配と安心を高めることこそ、何よりの経済対策」枝野代表らが、アベノミクス検証委員会 報告書について会見
「月刊Hanada」12月号が発売されたのは10月26日で、爺がURLを打ち込んで開けた10月28日には当該ページが見えなくなっていた。したがって、立民党は10月29日から30日朝までの間に、日付を変えずに記載内容を充実させたことになる。
こうした経緯を考えると、立民党は「月刊Hanada」 12月号の上念氏の論考を見て、急遽改訂版を作成したと思われる。その根拠の一つは、オリジナル版では「産業競争力」を論じているが、改訂版にはそれがないこと。そして、投票日の僅か数日前になって、改訂版が出てきたこと。
改訂版の立派な出来栄えは高く評価するものの、それが有権者の投票態度に影響することはないだろう。そもそも、こんなどうでもいいことを、ウジウジ考える暇人は爺ぐらいなものだろう(笑)。