「トヨトミの逆襲」(以下、本書)の単行本は2019年11月に刊行されており、今更その書評を書くのは<十日の菊、六日の菖蒲>の感がある。しかし、爺が購入したのは2021年11月に刊行された文庫版なので、時機が遅いことはご容赦頂きたい。
さて、本書の副題は「小説・巨大自動車企業」であることから、モデルはトヨタ自動車であることは容易に想像できる。例えば、本書の前編である「トヨトミの野望」に登場する武田剛平社長の経歴は、1995年から1999年まで社長を務め、退任後、経団連会長になった奥田碩(ひろし)氏の経歴と見事に一致する。
そして、本書の主役である豊臣統一が社長に就任するのが2009年だが、トヨタ自動車の現社長である豊田章男氏が社長に就任したのも同じ年。ほかの登場人物にしても、経歴が符合する実在の人物を容易に推測できるし、トヨトミ自動車の売上高や利益もトヨタ自動車のそれと一致する。
つまり、この小説は実在の企業と人物を骨格にしながら、考え方や行動の大部分は著者である梶山三郎の創作なのである。だが、どこまでが真実なのかわからず、これは読者の判断次第であり、そこが本書の面白さの一つ。例えば、豊臣統一社長の東京妻が登場するが、まさかこれは実在の人物ではないだろう(笑)。
ところで、本書の題名にある「逆襲」とは、EV車開発に出遅れたトヨトミ自動車が画期的技術を持つ小さな町工場と提携して、他社より性能が勝るEV車を作り上げ、凱歌をあげるストーリーを意味する。その時期を本書では2022年としているが、それは本書が刊行される3年前であるから、この部分は著者の想像の産物ということになる。
想像の産物ではあるが、それがいかにも本当らしく思えるのは、著者が本書を執筆するに当たり、業界の現状を克明に取材したからだろう。
本書にはトランプ前大統領やソフトバンクの孫正義氏らしき人物も登場して、スケールが大きいことも魅力の一つである。本書は梶山三郎の第一作であるが、これだけ雄大で面白い作品を発表すると、著者は第二作の構想に難儀するのではないだろうか。ともあれ、梶山三郎の第二作が楽しみである。
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今年も明日で終わりです。このブログの投稿は明日から3カ日は休ませて頂き、1月4日から再開する予定。フォロワー諸氏のご愛顧に厚く御礼申し上げるとともに、各位が良き新年を迎えることを祈念します。