「徴用工訴訟」問題に関し、韓国の最高裁判所は1965年に締結された日韓基本条約を無視し、新日鉄住金などの日本企業が賠償金を支払うべきであるという判決を下した。そして原告による被告の資産差し押さえを認めたままになっている。
ではその日韓基本条約締結の時、日本政府と韓国政府はどのような議論をしたのか。
韓国政府は「日本の韓国支配は、国際法違反の実力行使である」と主張し、日本政府は「正統な手続きを経て締結された」と主張し互いに譲らなかった。そこで両者は「もはや無効であることが確認される」という玉虫色の条文で両国が妥協した。
すなわち、日本側は「併合条約は当時の国際法上合法に締結されたが、韓国が独立した1948年に無効となった」と解釈し、韓国側は「併合条約は当初から無効が確認された」と解釈した。認識の不一致をお互いに知りつつ、条約をまとめて過去を清算したのである。
【日韓知識人共同声明】
日韓両国は併合条約が有効か無効かを議論しないことで両者が合意したのだから、今さら蒸し返すのは合意に反することになる。しかし、2010年5月、日本の知識人104人、韓国の知識人109人、合計213人は、「韓国併合100年日韓知識人共同声明」を発表した。
その声明とは、日韓併合は日本が強制したものであるから無効である、というもので、その趣旨は声明文の内の次の文章に要約されている。
今日まで両国の歴史家は、日本による韓国併合が長期に亙る日本の侵略、数次にわたる日本軍の占領、王后の殺害と国王・政府要人への脅迫、そして朝鮮の人々の抵抗の圧殺の結果実現されたものであることを明らかにしている。
この声明に署名した日本人の内で、学者以外の著名人には次の人々が含まれる。
今津 弘 (元朝日新聞副主幹)
大江 健三郎 (作家)
小田川 興 (元朝日新聞編集委員)
左高 信 (週刊金曜日発行人)
沢地 久枝 (ノンフィクション作家)
鶴見 俊輔 (哲学者)
梁 石日 (作家)
(ここまでは正論3月号増刊、「歴史戦 虚言の韓国、捏造の中国」から引用)
この「日韓知識人共同声明」の見解は1965年の協議における韓国政府の主張を理論づけたものといえるので、この声明に参加した日本人は、韓国側の立場を擁護していることになる。しかし、知見ある日本人が反日的立場に立つとは考えにくく、彼らは「客観的になにが公正であるか」という観点に立っていると考えたい。
では、日本の韓国併合に強制性があったと主張するこの共同声明は果たして的を射ているのか。併合に至った経緯を簡単に検証してみたい。
【韓国併合に至った経緯】
(1) 明治初期以来、日本は李氏朝鮮(以下、朝鮮)に開国し、近代化して、強い国になることを促していた。その目的は、ロシアが南進政策を明確に打ち出しており、もしロシアが朝鮮半島を手中にすると、次は日本が侵略の標的になるからである。
(2) しかし、朝鮮は「開国→近代化→富国強兵」を拒んだ。その理由は、儒教の教えにより、旧来の制度を変えることができないことと、朝鮮は清国の属国であって、決定権を持たなかったことである。
(3) 朝鮮半島の支配権をめぐり日本と清国が対立し、日清戦争(1894-5年、明治27-28年)が起きた。その戦争で日本が勝利して、朝鮮は清国から独立して大韓帝国になった(1897年、明治29年)。
(4) その後、ロシアが満州を占領し、その南下政策が一層顕著になった。日本はロシアの満州支配権を認める代わりに、日本の朝鮮半島における支配権を認めるよう要求したが、ロシアは朝鮮半島の北緯39度線以北を支配することを要求したため、日露戦争が勃発した。
(5) 日露戦争に日本が勝ち、大韓帝国(以下、韓国)を保護領として、漢城(ソウル)に統監府を設置し、初代統監には伊藤博文元首相が就任した。
(6) 日本の世論では、現状維持派と併合派が拮抗していたが、伊藤統監は併合に反対だった。その理由は、韓国の国家財政が大赤字だったので、併合すると日本がその赤字を引き継ぐことになるからである。しかし、朝鮮人テロリスト(安重根)が伊藤博文を暗殺したことで、一挙に併合派が優勢になった。
(7) 韓国政府は自己統治能力を失っており、日本に日韓合邦を提案した。そして最大の政治結社「一進会」もそれに賛同した。すなわち、韓国は自立することを断念したのである。
(8) 日本はイギリス、フランス、アメリカ、ドイツなどの列強の意向を打診して、併合に対する賛同を得た。清国は賛同こそしなかったが、異議は唱えなかった。当時、列強の植民地分捕り競争は一段落していたし、韓国は植民地としてのメリットがなかったので、日本の韓国併合に異議を唱える必要もなかったという事情もある。
日本にとって、韓国併合には経済的メリットは全くなかったが、安全保障上やむを得ない措置であった。韓国側も日本による併合以外の選択肢はなかった。そして、日本が併合を武力で強制したという形跡は見つからない。
【併合のメリット・デメリット】
日本は、併合後、韓国のインフラを整備し、学校教育を充実させ、産業の育成に努めた結果、国民の生活水準が大幅に改善され、35年間で人口が倍増した。経済的には大幅の持ち出しだったが、韓国の政情が安定し、近代化への道を進み始めたことで、ロシアの侵略を防ぐことができ、併合の主たる目的は達成された。
一方、併合は韓国人のプライドを傷つける結果となり、戦後大韓民国として独立して以来、反日教育により傷ついたプライドを癒し、愛国心を鼓舞する政策を続けている。
以上
参考文献:「日本国紀」 百田尚樹、「誰も書かなかった日韓併合の真実」 豊田隆雄