4月22日の産経新聞に「NHKの国会答弁は到底納得できません」と題した全面広告が掲載された。その文面は、昭和30年(1955)11月17日に放送された番組「緑なき島」に捏造写真が使われていることを問題視している。
“捏造”とする根拠は、YouTubeの動画<“負の遺産”軍艦島はNHKの捏造から始まった>(製作者:真実の歴史を追求する端島島民の会)に示されているが、いくつか挙げてみよう。
●NHKの番組には褌一丁の作業員が登場するが、三菱鉱山の保安規程では、坑内作業員は衣服の着用が義務づけられていた。
●同様に、作業員はキャップランプ(安全灯)がついているヘルメットの着用が義務づけられていたが、番組に登場する作業員は異なるヘルメットをかぶっている。
●当時、坑内の撮影は禁止されていた。
(以下、省略)
どう見ても、番組の映像は間違っている。別の炭坑で撮影されたか、またはこの番組のために特に撮影された映像であることは確かである。この件で、青山繁晴および和田政宗両参院議員が国会の場で、それぞれNHKの会長・副会長に質問したが、誠意ある回答を得られなかった。
では、なぜ66年前の番組が今になって問題視されているのかというと、韓国の反日活動に「緑なき島」の映像が悪用されているから。2015年にユネスコの世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の中に端島炭坑(通称軍艦島)があり、この登録を記念して、「緑なき島」のDVDが発売され、韓国の反日団体が入手したものとみられる。
その反日活動とは具体的に、2015年に開館した釜山の国立日帝強制動員歴史館に「緑なき島」の映像が展示されていること、韓国映画「軍艦島」はこのDVDを参考にしたことが明らかであること、KBS放送の番組で「緑なき島」の映像が使用されたこと、など。
この「軍艦島」関連の出来事を時系列に示すと次のようになる。
1955年(S30)11 月17日 NHKが「緑なき島」を放送
1974年(S49)端島炭坑(軍艦島)閉山
2015年7月 明治日本の産業革命遺産をユネスコの世界遺産に登録
2015年11月 NHKはDVD「軍艦島よ、永遠に」を発売
2015年12月 国立日帝強制動員歴史館(釜山)開館
2017年7月 韓国映画「軍艦島」が大ヒット
2018年10月 韓国大法院は元徴用工の損害賠償責任を認める
2020年3月 産業遺産情報センター(新宿区若松町)開館
2021年1月15日 韓国KBSTVが番組「列島の視覚」にて「緑なき島」の映像を使用
2021年3月16日 参院内閣委員会で和田政宗議員がNHK副会長に質疑
3月30日 参院総務委員会で青山繁晴議員がNHK前田晃伸会長に質疑
NHKが「緑なき島」を制作した当時からすでに66年経過しており、番組の映像がどこで撮影されたかの記録が社内に見つからないのだろう(または、見つかったが、知らん顔している)。しかし、動画<“負の遺産”軍艦島はNHKの捏造から始まった>を見れば、この番組で使用された映像が軍艦島の映像ではないことは明らかである。
昭和30年当時は、戦前の日本をなんでも否定する意識が一般的だったから、番組制作者は歪曲または捏造した映像を使用することに心理的抵抗を感じなかったのだろう。後年、この映像によって日本が多大の迷惑を蒙ることになるなど、夢にも思わなかったに違いない。
だが、番組制作者のミステークは日本の国益を大きく損なった。朝日新聞の慰安婦誤報に匹敵する大誤報である。そして、誤った方向に導いたという点で、韓国人にも迷惑をかけたといえよう。NHKはこの大誤報を全世界に謝罪すべきである。
次回は、今回の続編として、「韓国人の徴用工問題に関する認識」を論じる。