昨日(9月27日)の読売新聞は、外食大手が海外への出店攻勢を強めているという趣旨の記事の中で、「海外の日本食レストランは約156,000店(2019年)で、2013年の3倍近くに増えた」と報じている。念のため<海外の日本食レストラン数>で検索したところ、農林水産省のHPに次のデータが見つかった。
アジア 101,000
北米 29,400
欧州 12,200
その他 13,600
合計 156,200
同データによれば、全世界の日本食レストラン数は、13年前の2006年対比6.5倍となった。通常、レストランの店舗数は人口の自然増程度しか増加しない。だから、13年間に6.5倍になったのはとてつもない急成長なのである。
本論に入る前に、なぜマスコミが「日本食レストラン」という用語を使うかについて説明しておきたい。
Chinese restaurant の日本語訳が「中国料理店」であるのと同様、Japanese restaurant の日本語訳は「日本料理店」のはずである。しかし、海外ではラーメン店、牛丼店、「牛角」のような焼肉店もJapanese restaurantのカテゴリーに入れており、こうした料理は日本人の感覚では日本料理ではない。そこで、「日本食レストラン」という用語が考案されたと考えられる。
さて、日本食レストランの急増が始まったのは1970年代の後半、米国においてである。それまでは日系人が日系人と日本企業の駐在員を相手にする店が大半だったが、寿司ブームが起きて、にわかにアメリカ人が寿司店に押し寄せるようになった。
なお、寿司ブームは健康志向の高まりとともに、日本製の車・カメラ・TV受像機などの品質が高く評価されるようになったことで、日本そのものに対する信頼感が生まれたことが背景にあった。
その寿司店急増の原動力は中国系アメリカ人だった。当時、中国料理店は過当競争状態になっていたため、中国人のオーナーシェフが寿司に転向したのである。彼らは日本人経営の店で寿司の調理法を学んで新しい店を開き、その店で学んだ別の中国人がまた新しい店を開いた。つまり、中国人の間で、ねずみ算式に寿司店が増えたのである。そこで発生した問題は調理技術の低下だが、これについては別の機会に譲る。
その後、鉄板焼きやラーメン、牛丼なども人気を呼び、日本食レストラン業界が多角化したことも、店舗数の増加をもたらした。そして、日本食ブームは米国東海岸から、大西洋を隔てた欧州に飛び火した。
そうした中、韓国人、タイ人、ベトナム人なども、コメに馴染みがあることや、日本人の振りをしてもアメリカ人にはわからないこともあり、人気がある日本食レストラン業界に参入した。
2005年時点*で北米(米国・カナダ)に約10,000店あった日本食レストランの内、約40%が中国人の経営だった。そして日本人と韓国人の経営がそれぞれ15%、残りの30%がタイ、ベトナムなどのアジア人と白人だった。
*注 「2005年時点」としたわけは、その時まで爺は米国の日本食業界に関与していた関係で、当時のデータが手元にあるため。
2000年代以降、グローバルな視点でみると、日本食店の増加はアジア、特に中国で加速したようだ。冒頭に引用した読売新聞の記事によれば、回転寿司店の「スシロー」が広州にオープンし、1時間以上の待ち時間になる繁盛ぶりというが、こうした日本資本の店は全体から見ればほんの一部で、中國ではほとんどが中国人がオーナーシェフの店と思われる。
一般論として、エスニック料理店はその民族がオーナーシェフであるのが通例だが、日本食レストランだけは例外で、全世界的に見れば、日本人経営の店は1%程度ではなかろうか。つまり、ノンジャパニーズが業界の急成長の主役であるという点で、日本食は特異な存在なのである。