『帰還』はダムの話なのだが、一部の俳優にダムを見たことがない人もいるというので、猪熊恒和発案で、メンバー有志でダム取材というか見学に行くことになった。といっても、舞台のモデルになっているのは熊本なので、さすがに日帰りでは無理だし、飛行機代がかかる。八ッ場ダムもいいのだが、ちょっと遠いという事情もあり、多摩川を堰き止めて造られた小河内ダム(おごうちダム)にゆくことになった。つまり奥多摩湖である。完成は1957年、建設から50年以上が経過している。湖の周囲の森がしっかり整備されているからか、半世紀で土砂の流入が30パーセントというのは優秀であろう。標高530m、面積は約263km2。貯えられた水は、ダム直下の多摩川第1発電所で発電に使用後、多摩川に放流され、小作取水堰・羽村取水堰で水道原水として取水されている。ダムに沈むため、あるいは造成のため、945世帯が移転した。19年余りの歳月を費やした工事では87名が犠牲になったという。関東地方では大きいダムであるわけだが、全国にはもっと大きなダムがある。しかしやはり関東地方の水瓶だけあって、大量の水を堰き止める偉容は、上から見下ろすと凄まじいスケールではある。……ダムにはいろいろな目的があり、それぞれのダムによってケースがまるで違う。そのことも改めて認識する。……行きは新宿駅の人身事故で青梅特快が運休、何度も乗り継いで行くことになった。関東地方はやはり広い。知らないところだらけだ。奥多摩は行ったことはあるが、記憶は曖昧である。習性として固有名詞を覚えられないということもあるが、当てずっぽうに行動することが多かったからだろう。途中、自分が上京して三十四年目であるという事実に、改めていろいろなことを思ったりもした。
「改憲論議」がこれほど語られた「憲法記念日」があっただろうか。諸外国から「安倍総理大臣は歴史を直視せず、誤った認識で国家主義を煽っている」と批判されているその人が、過去の憲法制定の経緯を云々することも呆れた話だ。「憲法違反の選挙で選ばれた議員たちに憲法を変えられたくない」と言っていた人がいたが、まったく同感。「政権交代のたびに憲法を変えることになるのはおかしい」は、小澤一郎の言。改憲派の人間でも、現行憲法の何が悪いのか、明瞭に語れている者は一人もいない。……これらの論議は無意味と思うのでなるべく加担しないできている。話題に挙げるだけで加担しているようないやな気になるからだ。ふつうは、社会の民度が向上し、世の中がよくなっているなら、それにつれて、「国民への締め付け」は、緩くなっていいはずである。現政権が行おうとしていることは、「逆行」以外の何者でもない。……高江N4地区に2月に完成した一つのヘリパッドが、琉球朝日放送によって空撮された。じっさい写真で見ると悔しい。……京都・同志社大学の烏丸キャンパスの一角に、京都府警上京署の交番が完成。大学敷地内に交番が設置されるのは、全国初。憲法で保障されている「学問の自由」、「大学の自治」は反古にされた。……インドネシアの首都ジャカルタで建設が計画されている最初の地下鉄工事の入札結果は、見込まれていたとおり、日本と地元の建設会社で作る共同企業体が落札。ここ十年来の経済成長により、マイカーブームのジャカルタの交通渋滞は半端ではなく、それを解消するために地下鉄をつくるのはわかる。第1期分の総工費は、日本円で1400億円程度、円借款とインドネシア政府の資金で賄われる。トルコに原発を売りつけるよりははるかに良いことだ。……ベトナムの将校が日本のPKOを学びに来て結局は「憲法」の存在に気づいたという。「日本は平和憲法をこそ輸出しよう」という意見は、たいへん正しく意義がある。