Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

独自の科学的知見があるなら、とっくにそれに基づいて行動しているべきだろう

2020-08-12 | Weblog
「国は難癖をつけている」と被爆者側が思うのは、当然。
高野正明原告団長(82)の怒りは正当なものだ。

いわゆる「黒い雨」訴訟。
75年前、広島市への原爆投下直後に降った放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びた方々への救済を、国が、拒んだ。
国の援護対象区域外にいた原告84人全員(死亡者含む)を広島地裁は、被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた。
それを、国が控訴した。
きちんと原告全員を被爆者と認めた司法判断を、国家権力が、差し戻したのだ。

今回の裁判で被告となった広島市と県がもとめた、控訴の断念と被害者を幅広く救済する「政治決断」を国が認めなかった。
広島市長は、この結果について、謝った。異例のことではないか。

加藤勝信厚生労働相は控訴理由について「十分な科学的知見に基づいたとは言えない判決だ」と述べた。 

一方、援護対象区域については「地域拡大も視野に入れ、検証を進めたい」と表明。厚労省は検証に向け、専門家を含めた組織を立ち上げる方針で、区域拡大に向けた議論も行われる見通しとなった、そうだ。
安倍総理は「本日、上訴審の判断を仰ぐことといたしました。同時に広島県、広島市のご要望も踏まえまして、厚生労働省において黒い雨地域の拡大も視野に入れ、検証することと致しました」と言った。

ということは、まだ厚生労働省は黒い雨地域について、きちんと検証しきれていないということだ。
有識者をメンバーとする検証組織は「これから作る」のだそうだ。
なのに「科学的な知見に基づいたとは言えない」と決めつけている。

厚労省幹部は「広島地裁判決は長崎の裁判と違い、対象者それぞれについて吟味した形跡がない。科学的根拠も示されておらず、次々と手を挙げる人が現れれば裁判を繰り返すことになる」と説明。 
「控訴はしつつ、区域拡大などで実質的に救えるような方法を取るしかない」と与党幹部が語ったという。

気象台の技師らによる終戦直後の聞き取り調査をもとに国が1976年に定めた線引きがある。
中国新聞等によれば、地裁判決はそれを詳細に分析した上で「被爆直後の混乱期に限られた人手で実施された」「調査範囲やデータには限界がある」などと判決で明確に妥当性を否定している。
気象台の調査以降にも、科学的な調査は2度行われているという。いずれも「国の区域より4~6倍ほど広い範囲で黒い雨が降った」との結論が出ているという。
判決が国の線引きの妥当性を否定したのは、その後の二つの線引きとの客観的比較に基づいているのだ。
国の側こそ、その後の調査もなく、根拠なく、何の取り組みもしないできたのに、自らの線引きに固執している。
区域外で黒い雨にさらされたことと健康被害に因果関係がないと言いつのるなら、その根拠を示す責任は国の側にある。

原告や弁護団が記者会見で言うように、原告らが原爆の影響で健康を害したのは明らかだ。長い時間をかけて、それが裁判で認められたのだ。
原告88人のうち4年の間に16人がこの世を去っている。
最高齢の原告は96歳(被爆時21歳)、最年少は75歳(同生後4カ月)という。

誰の目にも明らかだろう。
誤った「政治的な判断」である。
この国は、誤った「政治的な判断」を、とことん繰り返してきた。
そして、ここまでシンプルな案件で、何一つ正当性が認められない悪質な「政治的な判断」を認めてしまうようでは、他の、進行形の、微妙な問題に対する政府の対応を、覆せるはずがない。

これまでも、許すのか。
この国に民主主義はないという現実。
マスコミも、政党も、然るべき対応を継続しなければ、存在価値がない。
当然、国民にも責任がある。
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坂川栄治さん急逝

2020-08-12 | Weblog
坂川栄治さんの急逝を知る。
ただ、亡くなられたのはもう一週間も前だという。

坂川さんは装丁家であり、雑誌『SWITCH』なども手掛けたアート・ディレクター。最近、長野は小淵沢の自然の中で活動されていて、ネット上で知る限り、お元気そうだと思っていたのだが⋯⋯。
コロナがなけりゃ、小淵沢に訪ねて行きたかった⋯⋯。


『TUGUMI』『ソフィーの世界』等、彼の手による装丁本は6000を超えるという。

彩流社から出している私の戯曲集シリーズも彼の手によるもので、これまで五冊が出ている。
最初の『バートルビーズ/たった一人の戦争』のときは、度肝を抜かれた。

色が好きなのは、第2巻『星の息子/推進派』。

ここに、以下のように書きました。

ワイルドです。素敵です。坂川栄治さん直筆のタイトル文字。大胆な、というより、迷いのない、色使い。
タランティーノがわざとB級映画を作ったみたいな勢いのあるテイストでもあるし、同時にヨーロッパ的に整然と完璧なバランスで作られているのも、間違いない。
坂川さんの「本の顔」(そういう題名の「ブックデザインの教科書」的な本を出版されています)による分類では、「文字で装う」部門の「書き文字」ジャンル。そしてどうやら確信を持って「こんな派手な」カテゴリーにポジショニング、のようです。 
きっと書店の皆さんは、平積みせずにはいられない! と、思います。

この本も、きれいです。『くじらと見た夢 / 南洋くじら部隊』。

『神々の国の首都/漱石とヘルン』は、ほんとうに、しぶい。

『8分間  / ゴンドララドンゴ 』も、きれいです。


また違う仕事をしたかったのに。

残念です。

でもご一緒できたことは、本当に幸せでした。




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海の繋がり

2020-08-12 | Weblog
東京都民はよそに行くなと言われて久しく、夏の海など夢のまた夢。

七年前、ヤルタに行ったとき、堤防沿いの猫の額ほどのビーチで、人々が涙ぐましい海水浴をしていたのを思い出す。(写真)
この年、チェーホフ・フェスティバルのオープニング作品として招かれ、『屋根裏』を上演したのだ。

ヤルタはクリミア半島南端で、海は黒海である。
ロシア人にとっては屈指の保養地として知られている。
レーニンはこの地を労働者のための療養の地へと作り変えようとした。
ヤルタ会談のヤルタである。会議場となったリヴァディア宮殿にも行った。
庶民的な市場も素敵で、私は滞在中、毎日行っていた。
この当時は、この地はぎりきりまだウクライナだった。

トルストイもチェーホフもヤルタで夏を過ごした。
チェーホフはここで『三人姉妹』『桜の園』を書いた。彼の住居と日本庭園は今も残っている。この地は「犬を連れた奥さん」の舞台でもある。
ひょんなことで昨夜遅くにチェーホフの家のことで当時の写真をひっくり返していて、あの芋を洗うようなビーチのことを思いだしたのである。

なぜ人は海に憧れるのだろうか。
島国の人間でさえそうなのだから、内陸で育った者たちが海を夢見るのもわかる。

アメリカはでっかい田舎である。その内陸で育った海を知らない若者たちが兵士として沖縄に配属され、海に興奮して舞い上がるのだ、という話も聞いたことがある。

ガルシア・マルケス『エレンディラ』を蜷川幸雄演出で上演するため戯曲化したとき、「エレンディラは海を見たことがなかった」というフレーズが、キーワードの一つだった。作曲のマイケル・ナイマンも、そのことを理解してくれていた。このときタイトルロールを演じた美波が、ジョニー・ディップがユージン・スミスを演じる水俣の映画で妻のアイリーンを演じるというのが、個人的には、海の因縁というか、不思議な円環である。
『エレンディラ』のラストで、ヒロインは海を跳ぶのである。


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周庭さん、保釈

2020-08-12 | Weblog
毎日新聞によれば、
香港警察に逮捕された民主活動家の周庭(英語名アグネス・チョウ)氏(23)が11日深夜、保釈されたという。黄之鋒(同ジョシュア・ウォン)氏(23)らが出迎えた。
周庭氏は保釈後、「政治的な目的による摘発でばかげている」と当局の対応を批判したそうだ。
香港では逮捕から2日以内に保釈される例が比較的多いそうだ。

とりあえず、よかった、と言っていいのか。
これからどういう展開が待っているのか。

世界が見ている、というのは、本当だ。
良い変化を期待するのも、当然だ。

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