すっかり辺りが暗くなったころ、ドン、ドン、ドン、ドンという大きな花火の音が、耳に突き刺さってきた。まるで、わが家の庭で打ち上げたかのような轟音だが、実際には200mほど先のお寺で上がった花火である。
このお寺では、日蓮上人の命日に合わせて、御会式(おえしき)が行われる。その日は、命日の前日で「お逮夜(たいや)」といい、屋台やら、万灯行列、纏やらが登場し、夜遅くまで賑っていた。
夕食後、娘のミキが外出の準備をし、話しかけてきた。
「お母さん、御会式行ってくるね」
ちょうど、木枯らし一号の吹いた夜で、私は一歩も外に出たくなかった。すかさず、500円玉を渡して言う。
「クレープ買ってきて」
9時には帰るということなので、床暖房の入ったフロアで暖まりながら娘を待った。
私にとって、7年前の御会式は忘れがたいものがある。
お逮夜の翌日、つまり日蓮上人の命日には法要が行われる。法要の前に、稚児行列があり、この寺の保育園に通っていたミキも参列することになったのだ。衣装は園が貸してくれるし、ご祈祷と記念写真つきで、滅多に体験できないイベントだった。
男児の衣装には烏帽子を合わせる。

女児には、烏帽子ではなく金冠となる。

問題は、金冠がズレて落ちないように、髪をきちんと結わいてほしいと指示されたことだった。
ミキの髪は強いクセ毛で、しかも量が多いから、全然言うことを聞いてくれない。私も、諦めが早いというかいい加減というか、「そこそこできていればいいや」と安易に妥協する性格である。頭皮から浮き上がり、不安定で中途半端な結び方のまま、「これ以上は無理」と見切りをつけて、保育園に連れて行った。
衣装に着替えたあと、金冠を載せてもらう順番を待っていたときだ。ゆかちゃんという子のお母さんが、ミキの頭をジッと見ていた。何か言いたげだったが、結局何も話しかけてこなかった。
なんだろう??
気になったけれども、あまり話したことがなかったので、そのままにしておいた。
しかし、彼女は再びこちらに視線を向け、意を決したように近づいてきた。
「あのう、その髪、直したほうがいいと思うんですけど……」
私はギョッとした。彼女は、ミキの適当に結わかれた髪を見ていたのだ。
「私は美容師なので、よかったらやりますよ」
ゆかちゃんのお母さんの手には、当たり前のように黒ゴムとハサミ、櫛の3点セットが握られていた。
「えっ、いいんですか!? ぜひ、お願いします!!」
私は大喜びで頼み込んだ。
きっと、彼女の職人気質が、ミキの気の毒な髪を見過ごせなかったのだろう。右手をサッと振りかざすなり、奔放なうねりを櫛で抑えつけ黒ゴムをクルクル巻いて、赤子の手を捻るように反抗する髪を制圧した。
「わあ、スゴイ!! さすがは美容師さんですね!」
私はすっかり感心し、彼女の技を褒めちぎった。詰めの甘い母親は他にもいたようで、ゆかちゃんのお母さんは、あちこちで立ち止まっては子供たちの髪を結び直していた。
おかげで、稚児行列で町内を練り歩いたあとでも金冠がずれず、よい記念写真が撮れたのだ。私は急に写真が見たくなってきた。
間もなく、玄関のチャイムが鳴った。
「ただいま。ミキだよ」
ドアを開けると、お約束のクレープが目の前に差し出された。

私は娘にではなく、クレープに「おかえり~♪」と言った。

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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
このお寺では、日蓮上人の命日に合わせて、御会式(おえしき)が行われる。その日は、命日の前日で「お逮夜(たいや)」といい、屋台やら、万灯行列、纏やらが登場し、夜遅くまで賑っていた。
夕食後、娘のミキが外出の準備をし、話しかけてきた。
「お母さん、御会式行ってくるね」
ちょうど、木枯らし一号の吹いた夜で、私は一歩も外に出たくなかった。すかさず、500円玉を渡して言う。
「クレープ買ってきて」
9時には帰るということなので、床暖房の入ったフロアで暖まりながら娘を待った。
私にとって、7年前の御会式は忘れがたいものがある。
お逮夜の翌日、つまり日蓮上人の命日には法要が行われる。法要の前に、稚児行列があり、この寺の保育園に通っていたミキも参列することになったのだ。衣装は園が貸してくれるし、ご祈祷と記念写真つきで、滅多に体験できないイベントだった。
男児の衣装には烏帽子を合わせる。

女児には、烏帽子ではなく金冠となる。

問題は、金冠がズレて落ちないように、髪をきちんと結わいてほしいと指示されたことだった。
ミキの髪は強いクセ毛で、しかも量が多いから、全然言うことを聞いてくれない。私も、諦めが早いというかいい加減というか、「そこそこできていればいいや」と安易に妥協する性格である。頭皮から浮き上がり、不安定で中途半端な結び方のまま、「これ以上は無理」と見切りをつけて、保育園に連れて行った。
衣装に着替えたあと、金冠を載せてもらう順番を待っていたときだ。ゆかちゃんという子のお母さんが、ミキの頭をジッと見ていた。何か言いたげだったが、結局何も話しかけてこなかった。
なんだろう??
気になったけれども、あまり話したことがなかったので、そのままにしておいた。
しかし、彼女は再びこちらに視線を向け、意を決したように近づいてきた。
「あのう、その髪、直したほうがいいと思うんですけど……」
私はギョッとした。彼女は、ミキの適当に結わかれた髪を見ていたのだ。
「私は美容師なので、よかったらやりますよ」
ゆかちゃんのお母さんの手には、当たり前のように黒ゴムとハサミ、櫛の3点セットが握られていた。
「えっ、いいんですか!? ぜひ、お願いします!!」
私は大喜びで頼み込んだ。
きっと、彼女の職人気質が、ミキの気の毒な髪を見過ごせなかったのだろう。右手をサッと振りかざすなり、奔放なうねりを櫛で抑えつけ黒ゴムをクルクル巻いて、赤子の手を捻るように反抗する髪を制圧した。
「わあ、スゴイ!! さすがは美容師さんですね!」
私はすっかり感心し、彼女の技を褒めちぎった。詰めの甘い母親は他にもいたようで、ゆかちゃんのお母さんは、あちこちで立ち止まっては子供たちの髪を結び直していた。
おかげで、稚児行列で町内を練り歩いたあとでも金冠がずれず、よい記念写真が撮れたのだ。私は急に写真が見たくなってきた。
間もなく、玄関のチャイムが鳴った。
「ただいま。ミキだよ」
ドアを開けると、お約束のクレープが目の前に差し出された。

私は娘にではなく、クレープに「おかえり~♪」と言った。

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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)