これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

狭き門

2009年11月26日 21時29分50秒 | エッセイ
 陶芸作家が500人いれば、その道のみで食べていかれる者は、わずか4名程度だという。残りの496人は、会社勤めなどをして生計を立てながら、副業として陶芸を続けるそうだ。
 そう教えてくれたのは、陶芸教室で講師を務める傍ら作品を創り続け、ときには個展を開くこともある田口さんだ。
「私は10代のときから陶芸作家を目指していましたが、運も才能もないものですから、それだけでは生活していけず、講師となったのです」
 しかし、彼の選択は正しかったようだ。なかなかのイケメンでトークも上手く、人の心をつかむことが得意な田口さんは、やがて人気講師となり、指導者としての実績をあげている。

 陶芸の経験はないが、おそらく私に向いていないもののひとつだろう。
 昔見たテレビ番組に、陶芸家が焼きあがった作品をチェックし、失敗作の皿や器を地面に叩きつけて割る場面があった。
 私から見ると、商品として十分通用しそうに見えたので、「完璧主義で自分に厳しい陶芸家」のイメージができた。
 きっと私だったら、「だいたいでいいんだよ」というアバウトな基準のもと、いびつな形の皿や、傾いた小鉢、水もれのする湯呑み茶碗などが出来上がるだろう。
 そして、うっかり手を滑らせて、完成品を次々と割ってしまうに違いない。

 田口さんにも辛いことはあった。
 教室の生徒と一緒に、あるコンクールに出品したところ、賞を取った生徒がいたのに、田口さんは落選してしまったのだ。
「生徒はグランプリ、私は知らんぷりですからね」
 語呂合わせの上手さとトークの巧みさに、思わず声を立てて笑ってしまったが、本当は笑うところではなかったのかもしれない。
 でも、陶芸にかかわる仕事で身を立てられた自分を「幸せ者」と言い切る田口さんに、暗さは微塵もなかった。
 お手本になる生き方をしている人は、皆輝いて見える。

「笹木さんに、私の作品をプレゼントしますよ。何がいいですか?」
 思いがけない申し出に嬉しくなった。
「ええーっ、いいんですか? 何にしようかな……」
 そのとき、娘のミキのお茶碗を買い換えようとしていたことを思い出した。
「じゃあ、お茶碗がいいです」
「はい、茶碗ですね。わかりました」
 ミキは、最近よく食べるようになり、ご飯をおかわりすることも珍しくない。
 田口さんをお見送りしてから、はたと気づいた。
 
 もしかして、私が使うと思って、小さな茶碗をくれるかもしれない。

 どんぶりと言えばよかったなぁ……。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする