これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

おうちディナー

2010年06月17日 20時24分20秒 | エッセイ
 今月は夫の誕生日がある。
 毎年、外に食べに出掛けていたが、87歳の義母は足腰が弱ってしまい、遠出できない。そこで、今年は家でお祝いすることにした。
 とはいっても、私の手料理をふるまうと失礼にあたる。
 以前、友達の家に遊びに行ったら、「味覚障害か!?」と思うくらい不味い鍋料理が出てきて、大変苦労した。友人の好意に感謝しつつも、硬い鶏肉に味のないタラ、水っぽい椎茸と白菜などを、残さず平らげるのは苦痛だった。
 手編みのセーターをプレゼントするのと同じで、手料理も押しつけになってしまってはいけない。私は未熟な料理人だから、出しゃばって人様に迷惑をかけたくないのだ。
 実のところ、単に面倒なだけともいうが……。
 
 ネットで検索していたら、松花堂弁当を配達してくれるお店を見つけた。手頃な値段の割には本格的で、見た目もいいし美味しそうだ。
「お義母さん、今度のパパの誕生日には、松花堂弁当を取りますからね」
「あら、家まで持ってきてくれるところがあるの? 楽しみねぇ」
 義母は外食をあきらめていたから、とてもうれしかったようだ。
 誕生日当日も、朝からそわそわと話しかけてきた。
「砂希さん、今日はお弁当の日だったわよね。何時に来るの?」
「6時半です」
「ケーキを用意したいんだけど、あたしの代わりに買ってきてくれないかしら」
「いいですよ」
 義母は、あきらかにはしゃいでいる。長年、家事をしてテレビを見る毎日の繰り返しだから、刺激になるのだろう。
 お弁当が届いてからも、そっとフタを開けて中をのぞいていた。
 天つゆとお吸い物を温め、揚げ出し豆腐のあんをかければ準備オーケーとなる。



「パパ、お誕生日おめでとう! いただきまーす!!」
 おうちディナーの開始と同時に、娘がバースデーカードを手渡した。
「はい、お父さん」
 夫は礼を言ってカードを開いたが、渋い顔で目をパチパチさせた。
「字が小さくて見えない……」

 お料理は全体的に合格点だったが、天つゆと焼き魚の味が濃かったところと、天ぷらがカリッとしていないところが平均以下だ。
 しかし、普段から少食の義母が、お料理のほとんどを平らげたのには驚いた。そういえば、義母は濃い味付けのほうが好きなのだ。何度も「美味しい、美味しい」とつぶやき、喜んでいた。

 なんだか、義母の誕生祝いみたい……。

 ますます、私のつたない手料理なんぞ出せそうもない。ああよかった、じゃなくて残念だ。
 お料理のあとは、別腹のケーキが登場する。



 主役の座を奪われそうだと悟ったのか、夫は2個も食べていた。ますます太りそうだ。
「ああ、美味しかった。あたし、あと何回食べられるかしら」
「……」
 高齢の義母には、元気なうちに親孝行をしておきたい。
 でも、次のイベントは10月だ。私の誕生日までこれといったものがない。
 おっと、そういえば、姉の誕生日が8月だった。主役を呼ぶつもりはないが、遠く離れた我が家から、姉の誕生日を祝うという名目で、ごちそうをいただくのも悪くないかもしれない。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (12)
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