これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

回し者

2010年07月01日 21時17分39秒 | エッセイ
 夕食を終えたあたりから、雷が鳴り始めた。
 和太鼓を打ち鳴らすような、重量感のある響きが聞こえる。いや、金属製の雨戸を開け閉めする音のほうが、近いかもしれない。ガラガラ、ゴロゴロと鳴り響くたびに、威嚇されている気分になる。

 さて、コンセントを抜くべきか……。

 浦和に住んでいたとき、激しい雷雨のあとに、電話が壊れたことがある。
「雷が鳴ったら、すぐにコンセントを抜いてください。そうすれば、ただの置物になりますから、被害を受けませんよ」
 サービスマンにそんなアドバイスをされた。最初のうちは、せっせとコンセントを抜いて回ったが、なにしろ数が多い。テレビ、DVDレコーダー、冷蔵庫、エアコン、電話、パソコンetc……。しかも、時計機能がリセットされ、プラグを差し込んだとたんに「0:00」と点滅するではないか。ああ、忌々しい。
 次第に面倒くさいと感じはじめ、コンセントを差したままで雷をやり過ごすようになった。
 しかし、この日の雷は騒々しかったので、再び警戒心が呼び起こされる。
 ひとまず、命の次に大事なパソコンのコンセントだけは抜いておいた。

「えー、コンセント抜いたほうがいいの? どうしよう、充電中だよ」
 娘は、ごていねいにも、携帯電話の充電をしているところだった……。

 なんだって、わざわざ、こんなときにするかな!?

 思わず、歯をむき出したくなった。
 わが家やそんな状況だったが、雷はお構いなしに近づいてくる。和太鼓調の「ドドーン」も勢いを増し、雲の上で「ぶちあわせ太鼓」を始めているようだ。
 やがて、太鼓どころか、空からビルが降ってきたかと思うほど大きな「ガラガラ、ドドドーン!!」という音が耳に突き刺さった。大音量が頭の中でこだまし、すさまじい衝撃である。
 低音だけでなく、グラスをいくつも落としたような「カシャーン」という高音も混ざっている。まさか、尾崎豊が天国で窓ガラスを叩き割っているのではと疑った。
 初めて聞く轟音に、度肝を抜かれた次の瞬間、家中がフッと暗闇に変わった。
 停電だ。

「お母さん、お母さん! 真っ暗だよ!!」
 娘も驚いている。私は懐中電灯を探し、夫に手渡した。
「ブレーカー上げてきて」
 間もなく明かりはついたが、家電製品は大丈夫だろうか。
「見て! 雷が落ちる前に、充電器抜いたんだよ。ミキの携帯は無事♪」
 そんなものはどうでもいい。まずは、台所から順にチェックしていく。冷蔵庫、テレビ、エアコン、電話……。おおむね無傷だったが、寝室のエアコンだけが動かない。一番落雷の方向に近かったせいだろうか。
 面倒がらずに、コンセントを抜いておけばよかったと、私はどっぷり後悔した。

 昨日はボーナスの支給日だったから、買い替えできないこともない。
 いや、むしろ雷は、ボーナスを狙って暴れた感がある。家電業界と癒着しているのではないか。
 さては、回し者だな……。




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
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