夏になると、ウナギが食べたくなる。
去年までは駅前のスーパーで、とろけるほどに軟らかくてジューシーな蒲焼きを買っていたのだが、ここは2月末で閉店している。新規開拓せねばならない。
困ったときはデパートだ。仕事帰りに地下の食品街に寄った。
まずは、インフォメーションで情報をゲットする。
「あのう、ウナギの蒲焼きが欲しいんですが、どこで売っていますか?」
受付嬢は、パウチされた館内図を片手に、場所の説明を始めた。
「現在地はここです。このまま左手に直進していただきますと、ウナギの蒲焼きを扱っている店が2軒、隣合わせに並んでいますので、こちらでお求めいただけます」
ニッコリ微笑まれると、なんだか得した気分になる。私は礼を言い、左に向かって歩き始めた。
それにしても、夕方のデパ地下は混んでいる。人をかき分けかき分け直進した。キャリーバッグを転がす紳士を追い抜き、割れたワインボトルを片付ける店員に同情し、前に前にと歩いていった。
突然、人口密度が低くなった。洋菓子、和菓子、お総菜のエリアは混雑していたのに、ウナギの前では閑古鳥が鳴いている。これなら、ゆっくり品定めができそうだ。
まずは、「静岡産うなぎ」が売りの店からだ。ショーケースには、何種類かのウナギが並んでいる。
ざっと眺めたあとは、商売敵である隣の店に視線を移す。ショーケースは10cmも離れていないだろう。店の間の仕切りもない。余計なおせっかいだが、こんな至近距離にライバル企業を配置して、問題が起きないのかと心配になる。
私が品定めをしていると、店員からテレパシーが伝わってきた。どちらも、「隣を見ちゃダメ。こっちを買いなさい」と念じている。客は私しかいないから、一挙一動を見張られている感じだ。
お隣のウナギはほどよい色に焼けており、美味しそうだった。でも、「国産うなぎ」と書かれている点がマイナスだ。やはり、静岡産のほうが魅力的である。
私は最初の店に視線を戻し、店員に注文した。
「蒲焼きを3人前ください」
「はい、かしこまりましたぁ~♪」
子育てを終えたと思われる、年配の店員だった。選ばれた者の優越感を漂わせ、手早く袋とパックを取り出す。
静岡産の文字に惹かれたものの、白焼きに近い色がだんだん気になってきた。こんなに白っぽくて大丈夫だろうか。
「あのう、ずいぶん色が薄いんですけれど、味はちゃんとついているんですか?」
私の素朴な疑問に、もう一人の店員が答えた。こちらも、孫がいそうな年代の女性だ。
「ちゃんとついていますよ。うちのウナギは、お隣さんと違って、タレを塗りたくってないんです!」
「そうそう、サッパリして美味しいんです! ほっほっほ~」
オバ様二人は声を合わせ、毒針のある言葉でチクリと商売敵を牽制した。こちらがたじろぐ勢いだ。まったく、女同士は恐ろしい……。
仲が悪いことを隠そうともしないのに、どちらの店も1260円と同じ値段だった。価格カルテルだったりして……。
「へえ、そんなこと言うんだ。信じられない店だね」
娘は唖然として私の話を聞いていた。
しかし、オバ様が豪語するだけあって、間違いなく美味しいウナギである。

ふっくらとしていて、タレがサラリとしている。全然しつこくない。これならいくらでも食べられそうだ。
「お母さん、このウナギ、骨が多くてイヤだよ」
ふくれっ面の娘がダメ出しをした。たしかに口の中がチクチクする。スーパーの軟らかウナギが懐かしい。
「じゃあ、今度は、もうひとつの店で買ってこようか」
「そうしてよ。ウチはお隣さんと違ってホネホネじゃないですからね、ほっほっほ~! なんて言うかもしれないよ!」
そんなバカな!?

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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
去年までは駅前のスーパーで、とろけるほどに軟らかくてジューシーな蒲焼きを買っていたのだが、ここは2月末で閉店している。新規開拓せねばならない。
困ったときはデパートだ。仕事帰りに地下の食品街に寄った。
まずは、インフォメーションで情報をゲットする。
「あのう、ウナギの蒲焼きが欲しいんですが、どこで売っていますか?」
受付嬢は、パウチされた館内図を片手に、場所の説明を始めた。
「現在地はここです。このまま左手に直進していただきますと、ウナギの蒲焼きを扱っている店が2軒、隣合わせに並んでいますので、こちらでお求めいただけます」
ニッコリ微笑まれると、なんだか得した気分になる。私は礼を言い、左に向かって歩き始めた。
それにしても、夕方のデパ地下は混んでいる。人をかき分けかき分け直進した。キャリーバッグを転がす紳士を追い抜き、割れたワインボトルを片付ける店員に同情し、前に前にと歩いていった。
突然、人口密度が低くなった。洋菓子、和菓子、お総菜のエリアは混雑していたのに、ウナギの前では閑古鳥が鳴いている。これなら、ゆっくり品定めができそうだ。
まずは、「静岡産うなぎ」が売りの店からだ。ショーケースには、何種類かのウナギが並んでいる。
ざっと眺めたあとは、商売敵である隣の店に視線を移す。ショーケースは10cmも離れていないだろう。店の間の仕切りもない。余計なおせっかいだが、こんな至近距離にライバル企業を配置して、問題が起きないのかと心配になる。
私が品定めをしていると、店員からテレパシーが伝わってきた。どちらも、「隣を見ちゃダメ。こっちを買いなさい」と念じている。客は私しかいないから、一挙一動を見張られている感じだ。
お隣のウナギはほどよい色に焼けており、美味しそうだった。でも、「国産うなぎ」と書かれている点がマイナスだ。やはり、静岡産のほうが魅力的である。
私は最初の店に視線を戻し、店員に注文した。
「蒲焼きを3人前ください」
「はい、かしこまりましたぁ~♪」
子育てを終えたと思われる、年配の店員だった。選ばれた者の優越感を漂わせ、手早く袋とパックを取り出す。
静岡産の文字に惹かれたものの、白焼きに近い色がだんだん気になってきた。こんなに白っぽくて大丈夫だろうか。
「あのう、ずいぶん色が薄いんですけれど、味はちゃんとついているんですか?」
私の素朴な疑問に、もう一人の店員が答えた。こちらも、孫がいそうな年代の女性だ。
「ちゃんとついていますよ。うちのウナギは、お隣さんと違って、タレを塗りたくってないんです!」
「そうそう、サッパリして美味しいんです! ほっほっほ~」
オバ様二人は声を合わせ、毒針のある言葉でチクリと商売敵を牽制した。こちらがたじろぐ勢いだ。まったく、女同士は恐ろしい……。
仲が悪いことを隠そうともしないのに、どちらの店も1260円と同じ値段だった。価格カルテルだったりして……。
「へえ、そんなこと言うんだ。信じられない店だね」
娘は唖然として私の話を聞いていた。
しかし、オバ様が豪語するだけあって、間違いなく美味しいウナギである。

ふっくらとしていて、タレがサラリとしている。全然しつこくない。これならいくらでも食べられそうだ。
「お母さん、このウナギ、骨が多くてイヤだよ」
ふくれっ面の娘がダメ出しをした。たしかに口の中がチクチクする。スーパーの軟らかウナギが懐かしい。
「じゃあ、今度は、もうひとつの店で買ってこようか」
「そうしてよ。ウチはお隣さんと違ってホネホネじゃないですからね、ほっほっほ~! なんて言うかもしれないよ!」
そんなバカな!?

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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)