量販店で買い物をしていたら、館内放送が聞こえてきた。
「お客様に、お車の移動をお願いいたします。大宮××……」
放送はたいてい、朗らかな女性の声である。「鈴の転がる声」とはよくいったもので、耳に心地よく、気分が安らぐ。
私の声は低くて、どんよりしている。おそらく、すり鉢で胡麻をゴリゴリすっている音に近い。「もっとキレイな声だったらよかったのに」と、放送を聞きながらため息をついた。
中には、耳障りな放送もある。
先日、仕事帰りに、電車に乗っていたときのことだ。
「次は、池袋、池袋です……」
まったく張りがなく、かすれて弱々しい男性の声が流れてきた。いつもは聞き流す車内放送だが、奇妙なものにはアンテナが伸びる。ついつい、神経を集中させてしまった。
「JR山手線、埼京線、ゼー、地下鉄有楽町線、丸の内線、ヒー、副都心線、はお乗換えです……」
乏しい声量で、呼吸困難になりながら、どうにか話している雰囲気である。電車の運行に支障はないかと心配になった。
近くにいた学生風の男の子たちは、遠慮なしに声を上げて笑っている。
「やべーよ、この人、死にそ~!!」
聞くとはなしに聞いていた、周りの大人たちも、口元を上げて「同意」の意思表示をする。
車内が苦笑で満ちても、この放送は終わらない。
「どなた様も、お忘れ物のないよう……オォ……お乗換えください……」
もう、ええっちゅうに。
妹が、専門学校在学中、卒業旅行でヨーロッパに行ったときのことだ。
エールフランスの航空機で、パリのシャルル・ド・ゴール空港を目指していたのだが、途中で気流の乱れがあった。
突然、機体が小刻みに上下左右に揺れ、体もガクガクと振動を受ける。二十歳そこらの学生たちは、あわてふためき、「キャーッ」と悲鳴をあげた。
ベルト着用サインの点灯とともに、放送が入るが、外国語だから何を言っているのかわからない。ドキドキしながら待つと、ようやく日本語の放送が入った。
「お、お客様に、ごあな、ご案内いたします。ただいま、きる、気流のみみみ乱れた場所を通過しておりますので、ベルトをしっかりはめ、お締めになり……」
どもったり噛んだりで、乗務員の動転ぶりが伝わってくる。本当は墜落しそうなのを隠しているのではと不安になり、生きた心地がしなかったそうだ。
「そのあと、また放送が入ったときは、別の人に替えられてたんだよ」
放送を入れることで、かえって乗客の不安を煽るようではまずい。
聞き手の負担になるような放送は、ただの騒音といえないこともない。
しかし、ウグイス嬢のごとく、美しくスムーズに流れる言葉は、意外と心に残らないものだ。途中で集中力を失い、最後まで聞かないことも多い。
むしろ、「何だこれは!」という放送こそ、気になってしまい、全神経を集中させる傾向がある。
ぜひ聞いてもらいたい内容ならば、わざと変な声にしたり、途切れ途切れに話したりするほうがいいのではないか。
一見、レベルの低い放送のようで、実はウグイス嬢もまっ青の高等テクニックだったりして……。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「お客様に、お車の移動をお願いいたします。大宮××……」
放送はたいてい、朗らかな女性の声である。「鈴の転がる声」とはよくいったもので、耳に心地よく、気分が安らぐ。
私の声は低くて、どんよりしている。おそらく、すり鉢で胡麻をゴリゴリすっている音に近い。「もっとキレイな声だったらよかったのに」と、放送を聞きながらため息をついた。
中には、耳障りな放送もある。
先日、仕事帰りに、電車に乗っていたときのことだ。
「次は、池袋、池袋です……」
まったく張りがなく、かすれて弱々しい男性の声が流れてきた。いつもは聞き流す車内放送だが、奇妙なものにはアンテナが伸びる。ついつい、神経を集中させてしまった。
「JR山手線、埼京線、ゼー、地下鉄有楽町線、丸の内線、ヒー、副都心線、はお乗換えです……」
乏しい声量で、呼吸困難になりながら、どうにか話している雰囲気である。電車の運行に支障はないかと心配になった。
近くにいた学生風の男の子たちは、遠慮なしに声を上げて笑っている。
「やべーよ、この人、死にそ~!!」
聞くとはなしに聞いていた、周りの大人たちも、口元を上げて「同意」の意思表示をする。
車内が苦笑で満ちても、この放送は終わらない。
「どなた様も、お忘れ物のないよう……オォ……お乗換えください……」
もう、ええっちゅうに。
妹が、専門学校在学中、卒業旅行でヨーロッパに行ったときのことだ。
エールフランスの航空機で、パリのシャルル・ド・ゴール空港を目指していたのだが、途中で気流の乱れがあった。
突然、機体が小刻みに上下左右に揺れ、体もガクガクと振動を受ける。二十歳そこらの学生たちは、あわてふためき、「キャーッ」と悲鳴をあげた。
ベルト着用サインの点灯とともに、放送が入るが、外国語だから何を言っているのかわからない。ドキドキしながら待つと、ようやく日本語の放送が入った。
「お、お客様に、ごあな、ご案内いたします。ただいま、きる、気流のみみみ乱れた場所を通過しておりますので、ベルトをしっかりはめ、お締めになり……」
どもったり噛んだりで、乗務員の動転ぶりが伝わってくる。本当は墜落しそうなのを隠しているのではと不安になり、生きた心地がしなかったそうだ。
「そのあと、また放送が入ったときは、別の人に替えられてたんだよ」
放送を入れることで、かえって乗客の不安を煽るようではまずい。
聞き手の負担になるような放送は、ただの騒音といえないこともない。
しかし、ウグイス嬢のごとく、美しくスムーズに流れる言葉は、意外と心に残らないものだ。途中で集中力を失い、最後まで聞かないことも多い。
むしろ、「何だこれは!」という放送こそ、気になってしまい、全神経を集中させる傾向がある。
ぜひ聞いてもらいたい内容ならば、わざと変な声にしたり、途切れ途切れに話したりするほうがいいのではないか。
一見、レベルの低い放送のようで、実はウグイス嬢もまっ青の高等テクニックだったりして……。
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