これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

筋肉注射

2010年11月07日 21時07分47秒 | エッセイ
 主治医から、「3日連続で注射を受けるように」と指示された。
 注射が好きな人は、ごく少数派だろう。尖った針でブスリと腕を刺される痛みは、なるべくならば避けたい。私は足取り重く、処置室に向かった。
 処置室では、看護師さんが注射器を準備して待ち構えている。私は「もう逃げられない……」と観念した。
「笹木さんですね。これから筋肉注射をしますが、やったことはありますか?」
 はてさて、どうだったろう。
「……ないかもしれません」
「ちょっと痛いんですよ。腕とお尻のどちらがいいですか」
 少々考えた。もう11月なので、お尻を出すのは寒そうだ。
「じゃあ、腕でお願いします」
「右と左は、どちらがいいですか」
「右で」
 看護師さんが、三角筋のあたりをアルコールで拭き始める。さきほどまで事務的だった表情が、生き生きと輝いてきたような気がした。手術の好きな外科医は多いそうだが、注射の好きな看護師も負けず劣らずなのかもしれない。
「はい、じゃあ、チクッとしますよ~♪」
 だが、「チクッ」どころではなかった。「グサッ」という感じで針が筋肉に突き刺さり、ズブズブと深みにはまっていく。たしかに、これは痛い。
「お薬入りま~す。もうちょっと我慢してくださいね☆」
 苦痛に耐える私の耳に、弾むような看護師さんの声が飛び込んでくる。

 ううう~!!

「はい、終わりました。揉んでおきますからね」
 看護師さんは針を抜くと、パッドつきの絆創膏を貼り、親指で上からグイグイ押し始めた。注射よりも、こちらのほうが痛い。思わず、イスから飛び上がりそうになった。
 
 相当な苦痛を味わっただけでなく、注射後2日ほどは腕に穴が開いているようなチクチク感が残る。
「明日は、別の場所にしたほうがいいですよ」というアドバイスに従い、翌日は左腕を出した。
 今度の看護師さんは、感情を表に出さないタイプなのだろう。淡々と注射器を準備し、静かに声かけをしてあっさり終了した。絆創膏の上から揉むこともせず、早々に部屋を出された。
「昨日より痛くない」と喜んだのもつかの間で、時間が経つと、ジワジワと痛みが広がってくる。誰に打たれても、筋肉注射は痛いものらしい。絆創膏をはがすと、パッドではなくテープの部分に血がついている。
 貼るところズレてるし……。

 そして、今日、最後の注射を受けてきた。両腕を使ってしまったので、今度はお尻である。右の中臀筋あたりに、ブスリと狙いを定められた。
 小学生のとき、キリスト教会の日曜学校に通っていた。そこで、「右の頬を打たれたら、左の頬も差し出しなさい」と教わったおぼえがある。あれは、『マタイによる福音書』だったろうか。
 右の腕に注射を打たれた私は、左の腕をも差し出し、さらには右の尻も出している。
「偉くない?」と牧師に同意を求めたくなった。

「はい、終わりましたよ」
 看護師さんの疲れた声を合図に、私はベッドから起き上がった。予想に反して、ほとんど痛みを感じない。
 そういえば、背中やお尻は鈍感な部位だっけ。
 最初から、お尻にしておけばよかったんだな……。




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コメント (18)
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