これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

愛夫弁当

2012年05月27日 15時32分33秒 | エッセイ
 子供が高校生になると、毎朝のお弁当作りに悩まされる。料理は得意ではない。本を何冊も買い、簡単そうなメニューを選んでは、毎日をだましだまし乗り切っている。
「大変だねぇ」と夫が言う。丸きり他人事だ。だが、私は彼の実力を知っているので、「たまには作ってよ」などと、決して頼まない。
 あれは平成三年だった。私は女友達と4人で、二泊三日の軽井沢旅行に出かけようとしていた。新幹線の時間を教えたら、当時はまだ婚約者だった夫が見送りに来ると言う。
「おはようございます」
 大宮駅に着くと、私より先に友達が夫を見つけ、声をかけた。軽く会話をかわしたあと、「じゃあ、そろそろ」とホームに向かうところだった。夫がバッグから小さな包みを手渡し、「朝、作ってきたんだ」とささやいた。
 新幹線で包みを開けて仰天した。中身が、ホイルに包まれたおにぎり2個と、タッパーに入ったプチトマトだったからだ。

 4人で出かけるのに、一人分のお弁当を作ってきて、どうしろというのか!!

 本人の自己満足としか思えない判断の悪さである。友達も、皆あぜんとして言葉を失い、信じがたいものを見たという顔だった。
「なによ、これ。悪いけど手伝って。手分けして食べちゃおう」
 私はおにぎりを半分に割り、それぞれを友達に押しつけた。一人が半分ずつ食べれば、お昼には差し支えないだろう。しかし、にぎるときに水をつけすぎたのか、やたらとベタベタしていて、塩気が足りなかった。
 次はプチトマトだ。タッパーのフタを開けると、上の2個がつぶれ、汁がはみ出している。どうやら、強引にフタを閉めたらしい。友達には無傷のトマトを配り、手分けして片付けてもらった。ホッとした反面、余計な気苦労に疲れ、夫を恨めしく思った。

 先日、娘とケンカをした。毎朝の苦労を知らないことに腹を立て、つい感情的になる。
「明日はお弁当なしだからね。コンビニで買いなさいよ」
 だが、娘に甘い夫が、コンビニ弁当では可哀相だと思ったらしい。いつになく早起きして、私の代わりに作ってやっていた。弁当箱をのぞくと、玉子焼きにできあいの佃煮、キウイに加えて、山盛りのプチトマトが入っていた。またフタをすればつぶれそうだ。
 そして、テーブルの片隅には、ソフトボールのような、巨大なおにぎりが転がっていた。

 女の子なのに、なぜこんな大きさに!?

 まるで、罰ゲームのようなお弁当だ。あまりにもセンスがなさすぎる。
「お母さん、昨日はごめんなさい。明日からまたお弁当作って」
 その日の夜、娘が詫びを入れてきた。これは夫のおかげか? もし、コンビニ弁当だったら、なかなか謝らなかったかもしれない。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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