7月の終わりに、連日、三者面談をした。
高校は義務教育ではないので、成績が悪いと進級できない。本人や保護者と進級規定を確認し、今は何が不足していて、これから何をしなければならないかを伝えなければならない。
これが、なかなか厄介である。
親子といっても、日ごろからコミュニケーションが取れていない場合は、面談の場でケンカに発展する可能性がある。
最初に担任をしたとき、ある女子生徒は母親の平手打ちをくらった。
2度目の担任のときは、男子生徒が母親にブチ切れ、「うるせえ、ババア!!!」と怒鳴り出ていってしまった。
「僕のクラスなんて、母娘でつかみ合いが始まりましたよ」とため息をつく同僚もいた。
今年はどうなることかと思ったら、やはりドラマが待っていたのである。
「オレ、親と仲悪いんだ。三者面談なんて、絶対イヤだから」
今年、担任をしているオサムは、口をへの字に曲げて抵抗した。
この生徒は、いわゆる多動性障害なのではと思うくらい、静かに座っていられない。授業中は、しゃべるか寝るかのどちらかだから、1の評価が4科目もある。
「進級できなかったら大変でしょ。担任は親御さんに、前もって伝える義務があるのよ」
「何だよ、ムカつくな」
悪態をつかれても、オサムだけを特別扱いするつもりはない。すぐさま母親に電話をし、面談の約束を取りつけた。当日は、バトル勃発の覚悟で臨む。
「先生、来たよ」
約束の5分前、オサムが職員室に顔を出す。資料を持って廊下に出ると、オサムの隣にいたのは、肌が真っ白で病弱そうな小柄の女性だった。
「このたびは、ご面倒をおかけして申し訳ありません」
女性は、細い体を深々と折り曲げ、挨拶をする。
「いえいえ、とんでもないです。お暑い中、ご来校くださいまして、ありがとうございます。こちらにどうぞ」
オサムは罰の悪い顔をしていたが、左手には母親の荷物がある。足が不自由な母親を、いたわっているようだ。
「学校では、なかなか授業に集中できません」
オサムの学校での様子を伝えると、彼女はますます小さくなったようだった。
「そうですか。家でも勉強している様子がないんです。困ったものです」
「えー、たまには、やってるじゃん」
オサムは少々すねていたが、決して親子仲は悪くなさそうだ。母親に反発することもなく、落ち着いて話を聞いていた。最後はオサムが、「これじゃマズいんで、2学期は集中して頑張ります」と宣言し、面談は30分ほどで終了した。
母親は、去り際に健康状態を簡単に話してくれた。
「実は私、10月に入院することになっておりまして、その間が心配です」
母親は、オサムを正面から見据えたあと私に視線を戻し、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そのとき、オサムは母親と目を合わせようとはしなかった。
2人を見送るため、昇降口に向かう。オサムは母親の一歩前を歩き、下駄箱から彼女の靴を出して並べた。母親が靴を履くと、ひょいと手を伸ばし、スリッパを拾って袋に入れる。
「じゃあ、先生、これで失礼します」
「はい、お気をつけてお帰り下さい」
母親につられて、オサムもペコリと頭を下げる。母親は、彼が開けたドアを通り、ゆっくりと歩いていった。
仲が悪いんじゃなくて、親に心配をかけたくなかったんだな……。
以来、オサムを見る目が少し変わった。
口だけだったら、男じゃないぞと言ってやりたい。
※ いつもありがとうございます。
コメントの返事が遅くなるため、しばらくの間、コメント欄は閉じさせていただきますね。
開いているときは、またよろしくお願いしま~す!
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
高校は義務教育ではないので、成績が悪いと進級できない。本人や保護者と進級規定を確認し、今は何が不足していて、これから何をしなければならないかを伝えなければならない。
これが、なかなか厄介である。
親子といっても、日ごろからコミュニケーションが取れていない場合は、面談の場でケンカに発展する可能性がある。
最初に担任をしたとき、ある女子生徒は母親の平手打ちをくらった。
2度目の担任のときは、男子生徒が母親にブチ切れ、「うるせえ、ババア!!!」と怒鳴り出ていってしまった。
「僕のクラスなんて、母娘でつかみ合いが始まりましたよ」とため息をつく同僚もいた。
今年はどうなることかと思ったら、やはりドラマが待っていたのである。
「オレ、親と仲悪いんだ。三者面談なんて、絶対イヤだから」
今年、担任をしているオサムは、口をへの字に曲げて抵抗した。
この生徒は、いわゆる多動性障害なのではと思うくらい、静かに座っていられない。授業中は、しゃべるか寝るかのどちらかだから、1の評価が4科目もある。
「進級できなかったら大変でしょ。担任は親御さんに、前もって伝える義務があるのよ」
「何だよ、ムカつくな」
悪態をつかれても、オサムだけを特別扱いするつもりはない。すぐさま母親に電話をし、面談の約束を取りつけた。当日は、バトル勃発の覚悟で臨む。
「先生、来たよ」
約束の5分前、オサムが職員室に顔を出す。資料を持って廊下に出ると、オサムの隣にいたのは、肌が真っ白で病弱そうな小柄の女性だった。
「このたびは、ご面倒をおかけして申し訳ありません」
女性は、細い体を深々と折り曲げ、挨拶をする。
「いえいえ、とんでもないです。お暑い中、ご来校くださいまして、ありがとうございます。こちらにどうぞ」
オサムは罰の悪い顔をしていたが、左手には母親の荷物がある。足が不自由な母親を、いたわっているようだ。
「学校では、なかなか授業に集中できません」
オサムの学校での様子を伝えると、彼女はますます小さくなったようだった。
「そうですか。家でも勉強している様子がないんです。困ったものです」
「えー、たまには、やってるじゃん」
オサムは少々すねていたが、決して親子仲は悪くなさそうだ。母親に反発することもなく、落ち着いて話を聞いていた。最後はオサムが、「これじゃマズいんで、2学期は集中して頑張ります」と宣言し、面談は30分ほどで終了した。
母親は、去り際に健康状態を簡単に話してくれた。
「実は私、10月に入院することになっておりまして、その間が心配です」
母親は、オサムを正面から見据えたあと私に視線を戻し、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そのとき、オサムは母親と目を合わせようとはしなかった。
2人を見送るため、昇降口に向かう。オサムは母親の一歩前を歩き、下駄箱から彼女の靴を出して並べた。母親が靴を履くと、ひょいと手を伸ばし、スリッパを拾って袋に入れる。
「じゃあ、先生、これで失礼します」
「はい、お気をつけてお帰り下さい」
母親につられて、オサムもペコリと頭を下げる。母親は、彼が開けたドアを通り、ゆっくりと歩いていった。
仲が悪いんじゃなくて、親に心配をかけたくなかったんだな……。
以来、オサムを見る目が少し変わった。
口だけだったら、男じゃないぞと言ってやりたい。
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