これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

送別会~ロシアより愛をこめて

2014年03月09日 17時45分13秒 | エッセイ
 今月末で、隣の席の職員が退職する。彼は定年まであと3年あるが、両親の健康状態が思わしくないため、仕事をやめて面倒をみるのだという。戦力ダウンは必至だが、家庭の事情だからいたしかたない。
 先日、彼の送別会をした。
「どのお店にしましょうか」
「寒いから、温かいものがいいですね」
「そうだ、ロシア料理は?」
 同僚の素子さんと相談してお店を決める。以前にブロ友さんがアップした、上野のマトリョーシカだ。



「じゃあ、私はお花を買って行きますから、先に出ます」
 時間差で早く出たのだが、おりしも送別会ブームと見えて、花屋は客でいっぱいだった。

 ひええ~!

「あのう、年配の男性の送別会なんですが、落ち着いた感じの花束をお願いできますか」
 順番が来たところで申し出ると、15分待ちだという。3月4月は、前もって予約をしておかないと時間が読めないと学習した。
 しかも、15分後に受け取った花は、落ち着きというより、ひたすら地味なだけ……。



 まあ、いっか……。

「すみません、遅くなりました」
 案の定、10分遅刻した。ちょうど、飲み放題がスタートしたというので、ワインを頼む。
「ボルシチです」



 初心者には、定番料理が一番だ。アツアツで給仕するのがロシア流なのか、かなりの熱さだった。
「ハフハフ、おいしーい」
 料理が出てくるスピードは、結構早い。せっかちな東京人に、向いているかもしれない。
「ピロシキです。ナプキンに包んでお召し上がりください」



 これまた定番。
 熱そうだと様子を見ていたら、隣の素子さんがためらいもなく、かぶりついている。
「熱くないですか?」
「ちょっとだけ」
 その一言でみんな安心し、彼女のあとに続いた。
「そろそろ、ウォッカを頼もうかな」
 一人の男性が店員を呼んだ。飲み放題のウォッカは2種類あったが、名前は忘れてしまった。水のように見えても、だまされてはいけない。
「アルコール度数40度ですよ」
「へー、どんな味? 飲ませて」
「アタシもアタシも」
 結局、みんなひと口ずつ味見をした。日本酒が濃縮されたような、キツい味だった。私は飲まなくていいと敬遠する。
「つぼ焼きです」



「来た~! これが美味しいみたいですね」
「そうそう」
 これは、ボルシチよりも熱い。上のフタはパン生地のようで、サクサクしていた。
「シチューとはまた違うわね」
「うん、いける」
 食べながら、主賓を囲んでの思い出話が始まった。1つめの職場でも、2つ目の職場でも一緒だったという腐れ縁の男性が、「あのときはこうだった」と懐かしい表情を浮かべる。4月からは、この彼は誰よりも淋しい思いをすることだろう。
「鶏胸肉のコラーゲン煮です」



 これはあっさりしていて、美容によさそうだった。
 実は、次の日もその次の日も、肌の調子がよかった。ひょっとして、この料理のおかげ?
「チョコレートフォンデュです」



 マシュマロやフルーツが運ばれてきた。これを、溶かしたチョコレートにつけていただくのだ。



「いやあ、チョコレートはいらないかな……」
 男性陣は弱気だ。フルーツだけをつつき、スルーされたチョコレートが余っている。
 さんざん飲んでしゃべったあとは、イチゴジャムの入ったロシア紅茶も、結構お腹にどっしりきた。



「ああ、もう食べられない」
 ということは、そろそろセレモニータイムだ。主賓に記念品と地味~な花束を渡し、お開きとなった。
「ロシア料理、珍しくてよかったね」
「話も弾んで、楽しかったです」
 同僚からの評判も上々だ。きっと、退職される方も、最後の思い出としておぼえていてくれると思う。
 今まで、ありがとうございました。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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