「ねえお母さん、ミキのパンダ知らない?」
娘が困った顔で尋ねてきた。それまでテーブルにあった、お気に入りのパンダのコースターが、ある朝こつぜんと姿を消したらしい。
こういうとき、疑われる者は決まっている。
「パンダ? 知らないなぁ。お父さんじゃないの」
「お父さんも知らないって。昨夜まであったのに、どこ行ったんだろう」
娘の方が先に疑っていたようだ。夫でなければ私かもしれない。椅子の上を片づけ、新聞袋の中を探してみたが、それらしいものは見当たらない。タオルや布巾にまぎれて洗濯したのではと思い、洗濯機も確認したがハズレだった。
ということは、私でもなさそうだ。
「まあ、そのうち出てくるんじゃないの」
「適当だな。あればいいけどね」
早々に捜索を打ち切ったものの、何かスッキリしない。理由のわからないことは、心に引っかかるものだ。普段は忘れているが、テーブルに目をやると不意に思い出し、「早く見つからないかな、気持ち悪い」と顔をしかめていた。
あれから3週間。ようやく、解決の糸口を見出した。
本に載っている論文を入力しようと、私はキーボードを叩いていた。ページが閉じないよう、本の上にノートパソコンの隅を置いて気づいた。
あれ、以前にも、こんなシチュエーションがあったような……。
既視感とはこういうことか。再現フィルムのように、3週間前の光景がよみがえってきた。
私はその夜、娘の弁当に入れるロールキャベツを作っていた。ひき肉にパン粉と玉ねぎを混ぜ、茹でたキャベツで包んだら、トマトジュースに調味料を入れて煮るため、レシピを見ようとした。
本が閉じないように、ページの重石に使ったのは……かのパンダではなかったか。
「まさか!」
あわてて本棚に駆け寄った。ロールキャベツのページを繰ると、やはり!
無邪気な顔のパンダが姿を現した。
「あった~~~~!!!」
まさに、犯人が、犯行現場に戻った瞬間である。
無事解決してスッキリしたが、人を疑う前に、自分の行動に責任を持たなくては……。
↑
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
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こういうとき、疑われる者は決まっている。
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「お父さんも知らないって。昨夜まであったのに、どこ行ったんだろう」
娘の方が先に疑っていたようだ。夫でなければ私かもしれない。椅子の上を片づけ、新聞袋の中を探してみたが、それらしいものは見当たらない。タオルや布巾にまぎれて洗濯したのではと思い、洗濯機も確認したがハズレだった。
ということは、私でもなさそうだ。
「まあ、そのうち出てくるんじゃないの」
「適当だな。あればいいけどね」
早々に捜索を打ち切ったものの、何かスッキリしない。理由のわからないことは、心に引っかかるものだ。普段は忘れているが、テーブルに目をやると不意に思い出し、「早く見つからないかな、気持ち悪い」と顔をしかめていた。
あれから3週間。ようやく、解決の糸口を見出した。
本に載っている論文を入力しようと、私はキーボードを叩いていた。ページが閉じないよう、本の上にノートパソコンの隅を置いて気づいた。
あれ、以前にも、こんなシチュエーションがあったような……。
既視感とはこういうことか。再現フィルムのように、3週間前の光景がよみがえってきた。
私はその夜、娘の弁当に入れるロールキャベツを作っていた。ひき肉にパン粉と玉ねぎを混ぜ、茹でたキャベツで包んだら、トマトジュースに調味料を入れて煮るため、レシピを見ようとした。
本が閉じないように、ページの重石に使ったのは……かのパンダではなかったか。
「まさか!」
あわてて本棚に駆け寄った。ロールキャベツのページを繰ると、やはり!
無邪気な顔のパンダが姿を現した。
「あった~~~~!!!」
まさに、犯人が、犯行現場に戻った瞬間である。
無事解決してスッキリしたが、人を疑う前に、自分の行動に責任を持たなくては……。
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