毎年、両親や姉妹を呼んで、ひな祭りのお祝いをしている。すき焼きと寿司は出前にするが、茶碗蒸しや前菜は自分で作ろう。でも何を?
何週間も前から、料理ばかりを気にしていた。だが、大学3年の娘に言われて気がついた。
「お母さん、雛人形出さなくていいの?」
「しまった、忘れてた。次の土日にしよう」
しかし、予定していた日はインフルエンザにかかり、バイキン扱いをされて部屋から出してもらえない。
仕事再開となれば人形を出す時間がとれず、いよいよ次の休みはひな祭り当日となっている。
「今年はもう出すのやめる?」
娘が、私の顔色を伺いながら話しかけてくる。
「は? お客さんを呼んでおいて、雛人形は出してませんって言うの? 詐欺でしょ」
「それもそうね」
ひとまず、私が仕事から帰ったら雛段を作り、緋毛せんを敷くところまでやる。翌日、バイトに行く前に、娘がお人形やお道具を並べて完成させる作戦に切り替えた。
「できた~!」
よし、詐欺師にならずにすんだぞ。
そして迎えた当日。親族は18時に来るので、料理は昼食後に始める。前菜は、野菜のテリーヌだ。菜の花を添え、コンソメスープで煮込んだ色とりどりの野菜を寒天で固める。クックパッドは何と素晴らしいのだろう。
テリーヌの評判はよかった。約1名を除いて。高2の甥が、真剣な表情で、テリーヌを崩して中身を確認しているではないか。そういえば、彼は偏食が多い子だった。
「何が入っているか確認してるの?」
「うん。あ、オクラがある。お父さん、食べて」
甥はオクラ以外クリアしたようだ。中身が謎だなんて、悪夢のような料理に見えたに違いない。
男3人兄弟で育った義兄は、お道具がよくわからない。
「この四角いのは何?」
「火鉢」
「この大きいのは?」
「重箱」
「えっ、重箱なの? 右側の牛より大きいじゃない。縮尺が均等じゃないんだね」
「あはは、たしかに」
どの雛人形でも、重箱の大きさは尋常でないが、それだけ重要な道具ってことか? うーむ……。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。食べて飲んでしゃべっていたらお開きとなった。
翌日は、雛人形を片づけなくてはいけない。
「さて、お雛様。お引越ししますよ」
この雛人形は平成8年に購入した。もう20年以上経っているので、段ボールがボロボロになってきた。生協のカタログを見ると、桐製の収納箱が売られている。7段飾りだったら、収納箱は4段だ。注文したら先月上旬に届いた。この中に引越してもらうのだ。
「えーと、小物は箱に入れたままの方がいいか」
しかし、大物はむき出しで収納しないと入りきらない。屏風は収納箱のサイズを超えていた。桜と橘もかさばるから無理そう。でも、あとは全部中にしまうことができた。
「へー、いいね、それ。お人形も喜んでるんじゃない」
夫が横から口を出す。うんうん、私もそう思う。
人形は一番下の深い段に、と書いてあったが、数が多いから分けなくてはいけない。三人仕丁や七人雅楽は小さいから、浅い段でも大丈夫だ。
「となると、背の高いお道具が入るな」
ふと、目についたのが重箱だった。牛より巨大なこの嫁入り道具を、お雛様の近くに置いてあげたい。
来月になれば桜が咲く。
重箱にお弁当を入れて、お内裏様と一緒にお花見してくださいね。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
何週間も前から、料理ばかりを気にしていた。だが、大学3年の娘に言われて気がついた。
「お母さん、雛人形出さなくていいの?」
「しまった、忘れてた。次の土日にしよう」
しかし、予定していた日はインフルエンザにかかり、バイキン扱いをされて部屋から出してもらえない。
仕事再開となれば人形を出す時間がとれず、いよいよ次の休みはひな祭り当日となっている。
「今年はもう出すのやめる?」
娘が、私の顔色を伺いながら話しかけてくる。
「は? お客さんを呼んでおいて、雛人形は出してませんって言うの? 詐欺でしょ」
「それもそうね」
ひとまず、私が仕事から帰ったら雛段を作り、緋毛せんを敷くところまでやる。翌日、バイトに行く前に、娘がお人形やお道具を並べて完成させる作戦に切り替えた。
「できた~!」
よし、詐欺師にならずにすんだぞ。
そして迎えた当日。親族は18時に来るので、料理は昼食後に始める。前菜は、野菜のテリーヌだ。菜の花を添え、コンソメスープで煮込んだ色とりどりの野菜を寒天で固める。クックパッドは何と素晴らしいのだろう。
テリーヌの評判はよかった。約1名を除いて。高2の甥が、真剣な表情で、テリーヌを崩して中身を確認しているではないか。そういえば、彼は偏食が多い子だった。
「何が入っているか確認してるの?」
「うん。あ、オクラがある。お父さん、食べて」
甥はオクラ以外クリアしたようだ。中身が謎だなんて、悪夢のような料理に見えたに違いない。
男3人兄弟で育った義兄は、お道具がよくわからない。
「この四角いのは何?」
「火鉢」
「この大きいのは?」
「重箱」
「えっ、重箱なの? 右側の牛より大きいじゃない。縮尺が均等じゃないんだね」
「あはは、たしかに」
どの雛人形でも、重箱の大きさは尋常でないが、それだけ重要な道具ってことか? うーむ……。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。食べて飲んでしゃべっていたらお開きとなった。
翌日は、雛人形を片づけなくてはいけない。
「さて、お雛様。お引越ししますよ」
この雛人形は平成8年に購入した。もう20年以上経っているので、段ボールがボロボロになってきた。生協のカタログを見ると、桐製の収納箱が売られている。7段飾りだったら、収納箱は4段だ。注文したら先月上旬に届いた。この中に引越してもらうのだ。
「えーと、小物は箱に入れたままの方がいいか」
しかし、大物はむき出しで収納しないと入りきらない。屏風は収納箱のサイズを超えていた。桜と橘もかさばるから無理そう。でも、あとは全部中にしまうことができた。
「へー、いいね、それ。お人形も喜んでるんじゃない」
夫が横から口を出す。うんうん、私もそう思う。
人形は一番下の深い段に、と書いてあったが、数が多いから分けなくてはいけない。三人仕丁や七人雅楽は小さいから、浅い段でも大丈夫だ。
「となると、背の高いお道具が入るな」
ふと、目についたのが重箱だった。牛より巨大なこの嫁入り道具を、お雛様の近くに置いてあげたい。
来月になれば桜が咲く。
重箱にお弁当を入れて、お内裏様と一緒にお花見してくださいね。
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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)