これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

赤いヌラヌラ

2018年03月01日 21時02分50秒 | エッセイ
 毎朝、小さな商店街を抜けて職場に向かう。
 午前7時半では、大半の商店がシャッターを下げ眠っているが、おにぎり屋とコーヒーショップは元気よく目覚め、何人もの客を飲み込んでいる。
 販売せずに、シャッターを開けて準備をしている店もある。揚げ物屋だ。天ぷらやコロッケ、カツなど何十種類もの揚げ物を作り、順に並べていた。30代前半の夫婦が切り盛りしているようだ。朝からアップテンポの邦楽を流し、体でリズムをとりながらの作業である。楽しそうなのはいいとして、近所迷惑にならないのかと疑問に思っていた。
 ところが、このところ、揚げ物屋のシャッターが開いていない。おおかた、寝坊でもしたのだろう。だが、気づいたら一週間も同じ状態が続いている。となると、引っ越しか? シャッターの隅の小さな貼り紙を見つけたので、読んでみた。
「失火のお詫び」
 えっ、火事?!
 不穏なタイトルに仰天する。本文には、半月前にこの店から火が出て建物を焼き、大変迷惑をかけた、申し訳ないと書いてあった。おそるおそる、シャッターの上に視線を動かしてみたら、ガラスのない窓枠が目に入った。黒ずんだ室内には天井がなく、焼け残った柱の間から青空が見える。通りに面した部分は残っているが、シャッターの中はがらんどうらしい。何とも無残な……。
 いつも、シャッターから上は見ていなかったから、気づかなかったというわけだ。裏側から見たら、巨大な亡霊に見えるに違いない。怖い怖い。
「おや? お隣のシャッターも黒いな」
 揚げ物屋の隣はソバ屋である。シャッターだけでなく、心なしか壁も黒ずんでいるような気がするが、間違いではなかった。こちらも、2階の窓が溶け落ちて、部屋の中が丸見えとなっている。隣家からの火が燃え移り、人の住めない場所に変えてしまったらしい。
「ああ……」
 炎が、ヌラヌラとうごめく大ダコに見えるのは私だけだろうか。8本の長い足に触れられると、すべてが焼け焦げてしまう。いや、タコには申し訳ないと思うが。



 だが、タコは、地震や大雪、大雨と違って封じ込めることができる。揚げ物屋がすべて火災に見舞われるわけではないし、たとえ火が出ても、正しく消火器を使って消し止められるのだから。
 関東地方の冬はカラッカラに乾燥している。
 みなさん、火事には十分お気をつけて。


    ↑
クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする