親友の幸枝は、ことあるごとに山に出かけている。
「今度は尾瀬に行こうかな。あ、一緒にどう?」
「いいねぇ、行く行く」
大学時代のゼミの教授も山が好きで、「今頃の尾瀬はニッコウキスゲがキレイですよ」などと話していたことを思い出す。狭い電車に揺られ、パソコンとにらめっこしてばかりの毎日から脱出するチャンスだ。ちょっと遠いけれど、楽しんでくるぞと気合いを入れた。
朝は4時に起き、5時半に練馬の家を出て、現地に着いたのが10時半過ぎだった。5時間もかかるとは、やはり「遥かな尾瀬ぇ~」なのである。若い世代は、この「夏の思い出」という曲を知らない人が多いようで残念に思う。
歩く前に、体育会系の幸枝がウォーミングアップを始めた。私もアキレス腱を伸ばしたり、膝の屈伸をしたりしたが、目の前にトンボがたくさんいたので、ついついそちらに気を取られた。
近づくとササッと逃げていく。
「虫よけスプレーをかけてきたからかな。ちぇ~っ」
嫌われてしまったかと悲しくなったが、中にはあえて接近してくるトンボもいた。しかも、ウエアにとまったりして、スプレーをものともしない。大物なのか鈍感なのかわからないが、しばし、トンボとの触れ合いが楽しかった。
「さあ行こう」
準備のできた幸枝について木道を目指す。尾瀬には平坦なイメージがあったが、30分以上、斜面を下っていくので「帰りは上りか、大変そうだな」と覚悟をした。行きはよいよい、帰りは怖いとはこのことだ。
やっと木道に出てホッとした。見上げれば、原色のような青い空に、ふわふわした白い雲が浮かび、足元には一面の緑が広がっている。
これですよ、これ。
東京のコンクリートジャングルとは真逆の大自然。期待していた通りの景色が広がっていた。
「後ろが至仏山(しぶつさん)で、前に見えるのが燧ヶ岳(ひうちがたけ)だよ」
幸枝が何やら説明していたが、うわの空で「ああ」とか「うん」などの返事をした。山と緑に囲まれた場所に来られたことがうれしくて、それどころではなかったのだ。
この木道はあなどれない。振り返って至仏山を撮ろうとしたら、重いリュックにバランスを崩し、落ちてしまった。水場でなかったからよかったものの、場所によってはずぶ濡れになる。気をつけよう。
「ニッコウキスゲはまだ先だよ」
「ふーん」
1時間ぐらい歩いただろうか。
木道だけでなく、吊り橋も渡っていった。
この日の尾瀬は28度だった気がする。都心の最高気温が37度と報道されていたので、汗はかくけれど、かなり涼しい。
「あったあった」
ようやくニッコウキスゲの咲く場所に到着した。
「なんか、まばらだね」
幸枝の顔が曇る。来るのが早かったのか、遅かったのかと不満気だったが、初心者の私にはさほどのダメージはない。
大学時代の教授も、同じことを言ったかもしれないなと口端を上げた。
時間の都合で、ニッコウキスゲを見たら引き返し、来た道を戻っていく。
青白緑の3色セットの空間で、マイナスイオンを十二分に浴びリフレッシュできた。山の丸みに「またおいで」と呼びかけられた気がして、微笑みながら別れを告げる。
尾瀬のトイレは入山者の負担となるため、1回につき100円が必要だ。さすがに長財布はかさばるので、小さな財布を探したが見当たらず、ファスナー付きの袋に入れる破目になった。
ちょっと恥ずかしい。次回はミニミニ財布を用意しなくては。
身軽になってから最後の上りに備える。何カ所か、途中に休めるスペースがあるので、体力に自信のない人でも何とかなる。でも、体力自慢の幸枝と一緒では、そういう雰囲気にもならず、黙々と段差を上って行った。
足は痛くないが、肺のあたりが苦しくて、すぐに息切れする。弱音を吐きたくなっても、我慢して動くしかない。ツラくても歩いて歩いて、上って上ってを繰り返すと、やがて終わりが見えてくる。
「着いた~!」
ゴールを迎えたときの清々しさが、登山の醍醐味だろうか。
苦しかったことも忘れ、「次はいつ?」と予定を探る。
ぜひ、紅葉の尾瀬に行ってみたい。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「今度は尾瀬に行こうかな。あ、一緒にどう?」
「いいねぇ、行く行く」
大学時代のゼミの教授も山が好きで、「今頃の尾瀬はニッコウキスゲがキレイですよ」などと話していたことを思い出す。狭い電車に揺られ、パソコンとにらめっこしてばかりの毎日から脱出するチャンスだ。ちょっと遠いけれど、楽しんでくるぞと気合いを入れた。
朝は4時に起き、5時半に練馬の家を出て、現地に着いたのが10時半過ぎだった。5時間もかかるとは、やはり「遥かな尾瀬ぇ~」なのである。若い世代は、この「夏の思い出」という曲を知らない人が多いようで残念に思う。
歩く前に、体育会系の幸枝がウォーミングアップを始めた。私もアキレス腱を伸ばしたり、膝の屈伸をしたりしたが、目の前にトンボがたくさんいたので、ついついそちらに気を取られた。
近づくとササッと逃げていく。
「虫よけスプレーをかけてきたからかな。ちぇ~っ」
嫌われてしまったかと悲しくなったが、中にはあえて接近してくるトンボもいた。しかも、ウエアにとまったりして、スプレーをものともしない。大物なのか鈍感なのかわからないが、しばし、トンボとの触れ合いが楽しかった。
「さあ行こう」
準備のできた幸枝について木道を目指す。尾瀬には平坦なイメージがあったが、30分以上、斜面を下っていくので「帰りは上りか、大変そうだな」と覚悟をした。行きはよいよい、帰りは怖いとはこのことだ。
やっと木道に出てホッとした。見上げれば、原色のような青い空に、ふわふわした白い雲が浮かび、足元には一面の緑が広がっている。
これですよ、これ。
東京のコンクリートジャングルとは真逆の大自然。期待していた通りの景色が広がっていた。
「後ろが至仏山(しぶつさん)で、前に見えるのが燧ヶ岳(ひうちがたけ)だよ」
幸枝が何やら説明していたが、うわの空で「ああ」とか「うん」などの返事をした。山と緑に囲まれた場所に来られたことがうれしくて、それどころではなかったのだ。
この木道はあなどれない。振り返って至仏山を撮ろうとしたら、重いリュックにバランスを崩し、落ちてしまった。水場でなかったからよかったものの、場所によってはずぶ濡れになる。気をつけよう。
「ニッコウキスゲはまだ先だよ」
「ふーん」
1時間ぐらい歩いただろうか。
木道だけでなく、吊り橋も渡っていった。
この日の尾瀬は28度だった気がする。都心の最高気温が37度と報道されていたので、汗はかくけれど、かなり涼しい。
「あったあった」
ようやくニッコウキスゲの咲く場所に到着した。
「なんか、まばらだね」
幸枝の顔が曇る。来るのが早かったのか、遅かったのかと不満気だったが、初心者の私にはさほどのダメージはない。
大学時代の教授も、同じことを言ったかもしれないなと口端を上げた。
時間の都合で、ニッコウキスゲを見たら引き返し、来た道を戻っていく。
青白緑の3色セットの空間で、マイナスイオンを十二分に浴びリフレッシュできた。山の丸みに「またおいで」と呼びかけられた気がして、微笑みながら別れを告げる。
尾瀬のトイレは入山者の負担となるため、1回につき100円が必要だ。さすがに長財布はかさばるので、小さな財布を探したが見当たらず、ファスナー付きの袋に入れる破目になった。
ちょっと恥ずかしい。次回はミニミニ財布を用意しなくては。
身軽になってから最後の上りに備える。何カ所か、途中に休めるスペースがあるので、体力に自信のない人でも何とかなる。でも、体力自慢の幸枝と一緒では、そういう雰囲気にもならず、黙々と段差を上って行った。
足は痛くないが、肺のあたりが苦しくて、すぐに息切れする。弱音を吐きたくなっても、我慢して動くしかない。ツラくても歩いて歩いて、上って上ってを繰り返すと、やがて終わりが見えてくる。
「着いた~!」
ゴールを迎えたときの清々しさが、登山の醍醐味だろうか。
苦しかったことも忘れ、「次はいつ?」と予定を探る。
ぜひ、紅葉の尾瀬に行ってみたい。
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