クリント・イーストウッド監督の映画『15時17分、パリ行き』を観るため、パソコンで映画館のスケジュールを検索していた。
「うーん、8時20分か。早いなぁ」
「映画観るの?」
大学3年生の娘が横から液晶画面をのぞき込む。
「ミキも観たい映画あるよ。テロに立ち向かった人たちの実話で、何時何分パリ行きとかいうヤツ」
「え? これ?」
何と、親子で同じ映画を探していたようだ。だったら、一緒に行くしかない。
「7時20分には出たいから、6時起きね」
「ひー」
朝に弱い子なのでパスするかと思ったら、アラームとともに目覚めて支度を始めた。映画の力はすごい。
いざ、新宿ピカデリーへ。
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この映画は、2015年8月21日に高速列車内で起きた無差別テロを題材にしている。アムステルダムからパリに行くため、スペンサー、アレク、アンソニーの3人の青年がその列車に乗っていた。だが、突如、武装した男が車内に現れ、乗客に発砲したのだ。
スペンサーとアレクは筋骨隆々の軍人である。テロリストに立ち向かい、拘束するだけなら簡単だ。彼らは戦いのプロなのだから、映画は15分で終わるだろう。しかし、そこに至るまでの過程にドラマがある。
3人は少年時代から問題児だった。勉強はできない、集中力はない。教師には、発達障害が疑われるから薬を飲ませたらどうかと言われたり、頻繁に校長室に呼び出されたりして、母親に苦労をかけていた。
印象深い場面はいくつかあった。とりわけ、アンソニーがスペンサーに言ったセリフが忘れられない。丸々と肥えて重量感のあるスペンサーが、空軍に入りたいと打ち明けたとき、アンソニーは「体型的に空軍ではない」との反応を見せた。スペンサーはこれに反発して「俺が減量できないと思うのか」といきり立つのだが、アンソニーはクールに「できないとは思わない。でもお前はやらない」と答えるのだ。
ドキッとした。だって、私のことを言われたような気がしたから。今まで、やりたいのにできなかったことは数えきれないくらいある。だが、本気で取り組もうと思っただろうか。願いを叶える努力をしただろうか。やらずにすむ言い訳を見つけてはダラダラと過ごし、いくつものチャンスをフイにしてきた事実はごまかせない。
「お前がやらなかっただけだろ?」
そうだ、アンソニー。君は正しい。私にも、君のような友達がいればよかったと思う。
せめて、これから先の目標は「それなりに頑張ってみた」と言えるように行動しなくては。何もしないままお婆さんになるのは御免だ。
そんなことを考えていたせいか、3人が犯人を取り押さえ、怪我人を救助して救急隊に引き渡したときには、「自分にもやりたいことができるかもしれない」という希望が見えてきた。我ながら単純なヤツなのだ。
しっかり勉強することは大事だけど、人の役に立ちたいとか、人の命を救いたいという気持ちを持ち続けることはもっと大事。困難に立ち向かい、恐怖に負けずに行動できる人はそうそういない。点数至上主義の教師やママたちにも見てほしい。
「いい映画だったね」
娘も早起きしたかいがあったと喜んでいた。
時計を見ると、まだ10時を回ったところである。このあとは池袋に出て、買い物とランチをしなくては。
副都心線でもいいのだが、定期券区間のJRにしようと娘が言う。ならば埼京線だ。電光表示板で乗り場を確認した。
「えーと、3番線だね」
「10:27当駅始発って書いてあるよ。池袋行きだって」
「池袋行き!?」
これはおかしい。埼京線の下りでは新宿の次が池袋となる。山手線の4駅分とはいえ、時間にして5分、たったの1駅で終点になる電車を運行することが許されるのか。自分の目を疑ったものの、3番線にはその始発列車が腰を下ろして待ち構えている。やはり間違いではないようだ。
「さすがにガラガラだね」
「1駅じゃ、乗る意味ないって怒る人いるよね」
「でも、面白いから乗って行こう」
「いいね」
ワクワクしながら乗り込んだ。車内に表示された駅名が衝撃的だ。
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「池袋、池袋、終点です」
発車から5分後、予想通りのアナウンスが流れた。本当に1駅分しか走らない電車であった。
「今日はジンとくる映画を見たし、ヘンテコな電車にも乗れたし、買い物もできてラッキー!」
「ホントだね」
帰る頃には雪が積もっていた。
まったくもって、奇妙な春分の日であった。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「うーん、8時20分か。早いなぁ」
「映画観るの?」
大学3年生の娘が横から液晶画面をのぞき込む。
「ミキも観たい映画あるよ。テロに立ち向かった人たちの実話で、何時何分パリ行きとかいうヤツ」
「え? これ?」
何と、親子で同じ映画を探していたようだ。だったら、一緒に行くしかない。
「7時20分には出たいから、6時起きね」
「ひー」
朝に弱い子なのでパスするかと思ったら、アラームとともに目覚めて支度を始めた。映画の力はすごい。
いざ、新宿ピカデリーへ。
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この映画は、2015年8月21日に高速列車内で起きた無差別テロを題材にしている。アムステルダムからパリに行くため、スペンサー、アレク、アンソニーの3人の青年がその列車に乗っていた。だが、突如、武装した男が車内に現れ、乗客に発砲したのだ。
スペンサーとアレクは筋骨隆々の軍人である。テロリストに立ち向かい、拘束するだけなら簡単だ。彼らは戦いのプロなのだから、映画は15分で終わるだろう。しかし、そこに至るまでの過程にドラマがある。
3人は少年時代から問題児だった。勉強はできない、集中力はない。教師には、発達障害が疑われるから薬を飲ませたらどうかと言われたり、頻繁に校長室に呼び出されたりして、母親に苦労をかけていた。
印象深い場面はいくつかあった。とりわけ、アンソニーがスペンサーに言ったセリフが忘れられない。丸々と肥えて重量感のあるスペンサーが、空軍に入りたいと打ち明けたとき、アンソニーは「体型的に空軍ではない」との反応を見せた。スペンサーはこれに反発して「俺が減量できないと思うのか」といきり立つのだが、アンソニーはクールに「できないとは思わない。でもお前はやらない」と答えるのだ。
ドキッとした。だって、私のことを言われたような気がしたから。今まで、やりたいのにできなかったことは数えきれないくらいある。だが、本気で取り組もうと思っただろうか。願いを叶える努力をしただろうか。やらずにすむ言い訳を見つけてはダラダラと過ごし、いくつものチャンスをフイにしてきた事実はごまかせない。
「お前がやらなかっただけだろ?」
そうだ、アンソニー。君は正しい。私にも、君のような友達がいればよかったと思う。
せめて、これから先の目標は「それなりに頑張ってみた」と言えるように行動しなくては。何もしないままお婆さんになるのは御免だ。
そんなことを考えていたせいか、3人が犯人を取り押さえ、怪我人を救助して救急隊に引き渡したときには、「自分にもやりたいことができるかもしれない」という希望が見えてきた。我ながら単純なヤツなのだ。
しっかり勉強することは大事だけど、人の役に立ちたいとか、人の命を救いたいという気持ちを持ち続けることはもっと大事。困難に立ち向かい、恐怖に負けずに行動できる人はそうそういない。点数至上主義の教師やママたちにも見てほしい。
「いい映画だったね」
娘も早起きしたかいがあったと喜んでいた。
時計を見ると、まだ10時を回ったところである。このあとは池袋に出て、買い物とランチをしなくては。
副都心線でもいいのだが、定期券区間のJRにしようと娘が言う。ならば埼京線だ。電光表示板で乗り場を確認した。
「えーと、3番線だね」
「10:27当駅始発って書いてあるよ。池袋行きだって」
「池袋行き!?」
これはおかしい。埼京線の下りでは新宿の次が池袋となる。山手線の4駅分とはいえ、時間にして5分、たったの1駅で終点になる電車を運行することが許されるのか。自分の目を疑ったものの、3番線にはその始発列車が腰を下ろして待ち構えている。やはり間違いではないようだ。
「さすがにガラガラだね」
「1駅じゃ、乗る意味ないって怒る人いるよね」
「でも、面白いから乗って行こう」
「いいね」
ワクワクしながら乗り込んだ。車内に表示された駅名が衝撃的だ。
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「池袋、池袋、終点です」
発車から5分後、予想通りのアナウンスが流れた。本当に1駅分しか走らない電車であった。
「今日はジンとくる映画を見たし、ヘンテコな電車にも乗れたし、買い物もできてラッキー!」
「ホントだね」
帰る頃には雪が積もっていた。
まったくもって、奇妙な春分の日であった。
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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
本当にTBなくなって不便です。
これもご時世って事でしょうが…復活してほしいなぁ。
『15時17分、パリ行き』ご覧になられましたか!
イーストウッド監督作では恐らく最短ではなかろうか、と。
主題のテロリストとの闘いはほんの僅かの時間でしたが、
主人公3人に感情移入する為には
彼らの生い立ちを描かざるを得なかったのは理解出来ました。
御年80歳を越えても挑戦的な映画を撮る監督ですよね。
イーストウッドの作品はマカロニ・ウエスタンの頃からほとんど観ていますが、やはり監督に集中している作品(俳優として出演しない)は秀悦ですね~
そして本作、実際の事件は短い時間の間に発生・解決されたがそれをどのようにスクリーンの長い時間にするのか、いろいろ事前に考えましたが、なるほどあぁ
言う風に持っていくとは...あっぱれイーストウッドです
埼京線は渋谷まで延長する前に乗っていました。新宿から池袋まで1駅なんですよね。一区間が長いのではないでしょうか。
監督としてのイーストウッドには、あまり接点がありませんでした。
これもまた新しい手法になるのでしょうか。
現在と過去を行ったり来たりしますから、混乱する人もいるのではと思います。
テーマはわかりやすくて共感できるものでした。
もう80歳超えなんですね。
いつまでも思うままの映画を撮ってほしいものです。
俳優としてのイーストウッドに慣れているせいか、監督としての彼にはまだまだ近づけません。
『ミリオンダラー・ベイビー』は観ました。
ショッキングな結末に暗くなったおぼえがあります。
ZUYAさんはイーストウッドがすごく好きなんですね。
私にとってのメル監督と同じくらいかも。
おススメいただき、ありがとうございました。
観てよかったです。
そうなんです。
突き刺さるようなひと言でした。
自分の性質は自分が一番わかっていないのかもしれません。
でも、これを機に、もっと行動力を意識すればいいと思います。
頑張らなくては!