コロナから復活し、ようやく恒例の三姉妹忘年会にたどり着いた。
「じゃあ、14時メドに集まろうね」
本来であれば2週間前に実施のはずだったが、前日の13日に私がコロナに罹患しているとわかり、延期してもらったのだ。遅ればせながら料理を作り、姉のマンションに駆け付けた。
姉が用意してくれるアルコールはシャンパーニュばかり。乾杯はドンペリの白だった。
「ロゼは倍ぐらいの値段だったから、白でいいかなと思って」
「もちろん、いいわよ!」
間違っても、ドンペリを自分で買おうなどとは思わない。気前のいい姉を持つと優雅な年末を迎えることができる。
「かんぱーい」
グラスを合わせる「カシャッ」という微かな音とともに、忘年会がスタートした。話題の中心は体力が落ちてボケが進んだ両親のことで、夏に集まって以降の様子などを、それぞれが話し始めた。
「アタシが行ったときは、お父さんが昔の話も始めていたから、誰が来たかはわかっていたわよ」
「お母さんは、お父さんの食が細くなったと言ってるけど、手抜き料理ばかりで美味しくないからかもね」
「味噌汁の具が玉ねぎだけっていうのもどうかと思うわ」
「他の野菜も入れればいいのに」
「車の運転も、そろそろやめる時期だよね」
「でも車がなかったら生活できないでしょ」
「困ったもんだ」
毎回毎回、似たような内容なのだが、那須の一角に二人だけで生活できているところはありがたい。年明けにも顔を出し、年始の挨拶をしに行きたい。
ドンペリが空になり、ヴーヴクリコが登場した。姉がスズキのハーブ焼きを作り、温かいうちに食べ始める。妹と「焼き立てが一番ね」と絶賛していたら、姉が奇妙なことを言い始めた。
「ねえ、怪談を録画してあるの。一人だと怖くて見られないから、三人で見ようよ」
これまで、姉は「浦沢直樹の漫勉」や青池保子の仕事風景など、趣味の映像を見せてくれることが多かったので、怪談は予想しておらず、まったくの不意打ちに近かった。
「え~、帰れなくなったらどうしよう」
妹は戸惑う仕草を見せたが、もともとは心霊写真集を何冊もコレクションしていた強者である。結局見ることになり、スズキを平らげたあと、グラスを持ってテレビの前に移動した。
映像は今年のものなのか昨年なのか不明だが、タクシードライバー、リフォーム業者、ユーチューバーの三種から体験者などが集められ、再現フィルムとともに恐怖体験を公開する形式になっていた。
タクシーに乗せた客が幽霊だったという話は昔からある。しかし、この映像では、幽霊が配車アプリを使ってタクシーを呼ぶので、時代を反映しているところに笑ってしまった。今後はライドシェアにも拡大していくのだろうか。
リフォーム業者の話はまあまあ怖かった。両親が亡くなったため、両親が営んでいたラーメン屋の店舗をリフォームしたいとの希望を持つ女性が、業者に「中に入るときは必ず家側から入るようにして、店舗側からは入らないでください」と注文をつける。訳ありだなとの予想がつく。しかし、別の施工業者から「窓を閉め忘れた」との連絡を受け、このリフォーム業者は夜中にラーメン屋に向かって車を飛ばすのだ。しかも、家側からではなく、店舗側のカギを開け、中に……。盛り上げ方がとても上手だった。
もし私がリフォーム業者だったら、「窓が開いていたって大勢に影響なし」と決めつけ、絶対に近づかないんだけどな。真面目で偉い。
ユーチューバーの怪談は、映像に謎の声が入っているとの内容だった。「これがそうです」と流していたが、上手く聴き取れず、怖さが伝わってこなかった。ちょっと残念。
「じゃあ、次はモエにしようか。ロゼがあるよ」
「いいねえ」
テレビの前からテーブルに戻り、おしゃべりの続きに興じる。
実は、私は毎年、テレビを見ている途中で寝てしまい、後半のおしゃべりには加われないことが続いていた。しかし、今年は全然眠くならず、最後まで参加できたことがウレシイ。
「最後にケーキを食べよう」
「いただきまーす」
このあと、日付が変わる前に帰宅したのだが、じきに姉からお詫びLINEが送られてきた。
「ピザとエスカルゴも用意していたのに、出すのを忘れた。ゴメンね」
たしかに、食べ物が少なく物足りないと感じてはいた。姉も妹も食べることへの執着がないので、量的には食卓に載っている料理で十分だったようだ。食い意地の張っている私は、コロナ明けであることから悪酔いを警戒して、シャンパーニュの2倍も3倍も水を飲み、お腹が水で膨れていたため空腹感がなかった。もしお腹が空いていたら、「もっとくれ」と料理を催促し、ピザとエスカルゴが忘れ去られることもなかっただろうに。
「そうか、満腹じゃなかったから眠くならなかったのかも」
ようやく合点がいった。来年以降も水を大量に飲み、食べ足りない程度でやめておけば、最後まで忘年会を満喫できるに違いない。
さて、来年は脱皮と再生を表すという巳年である。
食べることは大好きだけど、飲食や消化に使うエネルギーを別のことに活用していけば、新たな挑戦につながるかもしれない。
今年もお世話になり、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
エッセイ・随筆ランキング
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「じゃあ、14時メドに集まろうね」
本来であれば2週間前に実施のはずだったが、前日の13日に私がコロナに罹患しているとわかり、延期してもらったのだ。遅ればせながら料理を作り、姉のマンションに駆け付けた。
姉が用意してくれるアルコールはシャンパーニュばかり。乾杯はドンペリの白だった。
「ロゼは倍ぐらいの値段だったから、白でいいかなと思って」
「もちろん、いいわよ!」
間違っても、ドンペリを自分で買おうなどとは思わない。気前のいい姉を持つと優雅な年末を迎えることができる。
「かんぱーい」
グラスを合わせる「カシャッ」という微かな音とともに、忘年会がスタートした。話題の中心は体力が落ちてボケが進んだ両親のことで、夏に集まって以降の様子などを、それぞれが話し始めた。
「アタシが行ったときは、お父さんが昔の話も始めていたから、誰が来たかはわかっていたわよ」
「お母さんは、お父さんの食が細くなったと言ってるけど、手抜き料理ばかりで美味しくないからかもね」
「味噌汁の具が玉ねぎだけっていうのもどうかと思うわ」
「他の野菜も入れればいいのに」
「車の運転も、そろそろやめる時期だよね」
「でも車がなかったら生活できないでしょ」
「困ったもんだ」
毎回毎回、似たような内容なのだが、那須の一角に二人だけで生活できているところはありがたい。年明けにも顔を出し、年始の挨拶をしに行きたい。
ドンペリが空になり、ヴーヴクリコが登場した。姉がスズキのハーブ焼きを作り、温かいうちに食べ始める。妹と「焼き立てが一番ね」と絶賛していたら、姉が奇妙なことを言い始めた。
「ねえ、怪談を録画してあるの。一人だと怖くて見られないから、三人で見ようよ」
これまで、姉は「浦沢直樹の漫勉」や青池保子の仕事風景など、趣味の映像を見せてくれることが多かったので、怪談は予想しておらず、まったくの不意打ちに近かった。
「え~、帰れなくなったらどうしよう」
妹は戸惑う仕草を見せたが、もともとは心霊写真集を何冊もコレクションしていた強者である。結局見ることになり、スズキを平らげたあと、グラスを持ってテレビの前に移動した。
映像は今年のものなのか昨年なのか不明だが、タクシードライバー、リフォーム業者、ユーチューバーの三種から体験者などが集められ、再現フィルムとともに恐怖体験を公開する形式になっていた。
タクシーに乗せた客が幽霊だったという話は昔からある。しかし、この映像では、幽霊が配車アプリを使ってタクシーを呼ぶので、時代を反映しているところに笑ってしまった。今後はライドシェアにも拡大していくのだろうか。
リフォーム業者の話はまあまあ怖かった。両親が亡くなったため、両親が営んでいたラーメン屋の店舗をリフォームしたいとの希望を持つ女性が、業者に「中に入るときは必ず家側から入るようにして、店舗側からは入らないでください」と注文をつける。訳ありだなとの予想がつく。しかし、別の施工業者から「窓を閉め忘れた」との連絡を受け、このリフォーム業者は夜中にラーメン屋に向かって車を飛ばすのだ。しかも、家側からではなく、店舗側のカギを開け、中に……。盛り上げ方がとても上手だった。
もし私がリフォーム業者だったら、「窓が開いていたって大勢に影響なし」と決めつけ、絶対に近づかないんだけどな。真面目で偉い。
ユーチューバーの怪談は、映像に謎の声が入っているとの内容だった。「これがそうです」と流していたが、上手く聴き取れず、怖さが伝わってこなかった。ちょっと残念。
「じゃあ、次はモエにしようか。ロゼがあるよ」
「いいねえ」
テレビの前からテーブルに戻り、おしゃべりの続きに興じる。
実は、私は毎年、テレビを見ている途中で寝てしまい、後半のおしゃべりには加われないことが続いていた。しかし、今年は全然眠くならず、最後まで参加できたことがウレシイ。
「最後にケーキを食べよう」
「いただきまーす」
このあと、日付が変わる前に帰宅したのだが、じきに姉からお詫びLINEが送られてきた。
「ピザとエスカルゴも用意していたのに、出すのを忘れた。ゴメンね」
たしかに、食べ物が少なく物足りないと感じてはいた。姉も妹も食べることへの執着がないので、量的には食卓に載っている料理で十分だったようだ。食い意地の張っている私は、コロナ明けであることから悪酔いを警戒して、シャンパーニュの2倍も3倍も水を飲み、お腹が水で膨れていたため空腹感がなかった。もしお腹が空いていたら、「もっとくれ」と料理を催促し、ピザとエスカルゴが忘れ去られることもなかっただろうに。
「そうか、満腹じゃなかったから眠くならなかったのかも」
ようやく合点がいった。来年以降も水を大量に飲み、食べ足りない程度でやめておけば、最後まで忘年会を満喫できるに違いない。
さて、来年は脱皮と再生を表すという巳年である。
食べることは大好きだけど、飲食や消化に使うエネルギーを別のことに活用していけば、新たな挑戦につながるかもしれない。
今年もお世話になり、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
どうしよう吹き出してしまうような内容だったら...と心配しましたが😅
相変わらず三姉妹仲良しで、喜ばしいですね~😉
来年もまたニヤニヤ読ませて下さいね~😉
私はあと2日働きます(最後のブログ書かなきゃ...)✊
修正を拝見し、自分の文章も見たところ、ライドシェアの部分に誤りを発見しました。
気をつけま~す!
怪談がお好きなんでしょうか。
怖い話が嫌いっという方にそっぽを向かれるのを避けるため、詳細については書きませんでした。
お好きな方には物足りないかも……。
姉と妹にはいつも支えてもらっています。
ZUYAさんは職場を支えていらっしゃいますね。
あと2日、大変ですが頑張ってください!
数年前は実家で新年会として妹家族達に会ったりもしたものですが、近年はそのような機会も作らず、だいぶご無沙汰してますわ。
姉妹で持ち寄っただけなのに豪華なお食事で、ケーキも美味しそう。
お姉さん、みんなで食べるつもりだったピザとエスカルゴ、一番の担い手である砂希さんが居ない状態で無事に消化できたんでしょうか?