前回(→こちら)の続き。
若手時代から「高勝率」で鳴らしていた木村一基九段は、その受けの力が際立っていた。
2002年、新人王戦決勝。
ここで、鈴木大介七段相手に見せた将棋が、まさにそれを示していて、ここからの木村の玉さばきを見ていただこう。
次に△35角と王手されると中央が受けにくく、△36歩から桂を取られて△45桂の「天使の跳躍」とか、雪だるま式に借金が増えていく。
だが「受けの木村」は、なにもおそれない男なのだ。
▲58玉とこちらに寄るのが木村将棋。
飛車先の銃剣に、自ら頭を差し出す玉寄り。
見た感じではとんでもなく怖いが、これで大丈夫とみている。
以下、△35角に▲36歩と打って、△24角に▲65歩と眠っていた角を活用。
後手も△14歩と角の退路を作るが、そこで▲68銀と中央を守り、△72玉に▲64歩がいかにも筋の良い突き捨て。
△同歩に▲55歩、△44飛、▲56金とくり出して、押さえこみ一丁あがり。
あの危なかった玉が金銀の装甲車に守られ、悠々リクライニングでもしているように見える。
これぞ、木村流の指しまわしである。
さらにこの将棋は、終盤も話題になった。
相手の無理攻めを誘って、王様がこんなところに。
これが危険に見えても、木村流の安全地帯。
いやそれどころか、この玉を相手陣の寄せの拠点にしてしまおう、という発想なのだから、なんとも図々しいではないか。
以下、△47飛成、▲58金、△46竜に▲45飛と打つのが決め手。
△同竜なら▲同角が、あまりにも気持ちよすぎな飛び出し。
これが一気に後手玉をねらう好位置で、以下、鈴木も必死でねばるが逆転の目はなかった。
いかがであろうか、この木村将棋のすごみ。
ただ勝つだけでなく、将棋の作りが独特すぎる。
渡辺明棋王・王将の居飛車穴熊や、永瀬拓矢叡王の「負けない将棋」のような勝負に辛い手ならまだしも、こんな口笛でも吹きながらスナイパー通りを闊歩するような玉形で、7割も勝てるというのが信じられない。
よく、落とし穴に落ちないもんだなあ。
そんな高勝率男・木村一基が次にねらうのは、当然タイトルである。
その大きなチャンスが、2009年度のことであった。
(続く→こちら)