「高勝率男」木村一基の若手時代 vs鈴木大介 2002年 第33期新人王戦決勝 

2019年07月03日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回(→こちら)の続き。

 若手時代から「高勝率」で鳴らしていた木村一基九段は、その受けの力が際立っていた。

 

 

 

 

 2002年新人王戦決勝。

 ここで、鈴木大介七段相手に見せた将棋が、まさにそれを示していて、ここからの木村の玉さばきを見ていただこう。

 次に△35角と王手されると中央が受けにくく、△36歩からを取られて△45桂の「天使の跳躍」とか、雪だるま式に借金が増えていく。

 だが「受けの木村」は、なにもおそれない男なのだ。

 

 

 

 

 ▲58玉とこちらに寄るのが木村将棋。

 飛車先の銃剣に、自らを差し出す玉寄り。

 見た感じではとんでもなく怖いが、これで大丈夫とみている。

 以下、△35角▲36歩と打って、△24角▲65歩と眠っていたを活用。

 後手も△14歩と角の退路を作るが、そこで▲68銀と中央を守り、△72玉▲64歩がいかにも筋の良い突き捨て。

 

 

 

 △同歩に▲55歩△44飛▲56金とくり出して、押さえこみ一丁あがり。

 

 

 あの危なかった玉が金銀装甲車に守られ、悠々リクライニングでもしているように見える。

 これぞ、木村流の指しまわしである。

 さらにこの将棋は、終盤も話題になった。

 

 

 

 相手の無理攻めを誘って、王様がこんなところに。

 これが危険に見えても、木村流の安全地帯

 いやそれどころか、この玉を相手陣の寄せ拠点にしてしまおう、という発想なのだから、なんとも図々しいではないか。

 以下、△47飛成▲58金△46竜▲45飛と打つのが決め手。

 

 

 

 △同竜なら▲同角が、あまりにも気持ちよすぎな飛び出し。

 これが一気に後手玉をねらう好位置で、以下、鈴木も必死でねばるが逆転の目はなかった。

 いかがであろうか、この木村将棋のすごみ。

 ただ勝つだけでなく、将棋の作りが独特すぎる。

 渡辺明棋王王将居飛車穴熊や、永瀬拓矢叡王の「負けない将棋」のような勝負に辛い手ならまだしも、こんな口笛でも吹きながらスナイパー通りを闊歩するような玉形で、7割も勝てるというのが信じられない。

 よく、落とし穴に落ちないもんだなあ。

 そんな高勝率男・木村一基が次にねらうのは、当然タイトルである。

 その大きなチャンスが、2009年度のことであった。


 (続く→こちら

 


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