「高勝率男」木村一基の若手時代 vs杉本昌隆 1999年 第57期C級2組順位戦

2019年07月02日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 木村一基九段王位戦の挑戦者になった。

 挑戦者決定戦で戦ったのが羽生善治九段で、タイトル100期、豊島将之三冠との新旧王者対決と、相手に注目が集まる中で、勝ち切ったのは見事の一言。

 本人は「4連敗もあるかも」なんて言ってたけど、王位リーグでは稲葉陽八段阿久津主税八段という強敵に勝利。

 前期王位菅井竜也七段には、リーグ戦とプレーオフで「往復ビンタ」を食らわせる。

 9期ぶりのA級復帰も決め、この勢いなら豊島将之王位も、そう簡単には行かないと気を引き締めているのではあるまいか。

 ということで、前回は木村一基がはじめてA級にあがった「ど根性」な将棋を紹介したが(→こちら)、木村九段といえば思い出すのが、デビュー時の鮮烈な勝ちっぷりであった。

 17歳三段に上がり、毎期のように昇段争いにからみながら、そこから四段昇段までに6年半もかかってしまった苦労人

 三段リーグ風通しの悪さには毎度、本当にうんざりさせられるが、木村の場合ホッとしたのは、その後この停滞に、お釣りがくるほどの勝ちっぷりを見せてくれたことだ。

 デビューから長く高勝率を続け、通算勝率7割超えていたのは羽生と木村だけというのは、当時よく話題になっていたこと。

 そんな木村の将棋が、まずクローズアップされたのが、1999年、第57期C級2組順位戦の9回戦。

 今では藤井聡太七段の師匠としてすっかりおなじみの、杉本昌隆五段との一戦だ。

 木村四段にとっては2期目のリーグだが、ここまで8連勝トップを快走している。

 一方の杉本も7連勝しながら、ひとつ前の7回戦では、行方尚史五段との全勝同士の決戦に敗れて1敗

 ただし順位が2位というのが大きく、まだ自力圏内。

 つまりこの一番は勝った方がほぼ昇級決定という、双方とも死んでも勝ちたい鬼勝負なのだ。

 特に実力は認められ、毎年のように昇級候補に上がりながら、すでに8期も足止めを食らっている杉本(こっちのリーグも息苦しすぎだ……)からすれば期するものはあったろうが、木村はこの大一番で見事な将棋を見せる。

 このころの木村で話題になっていたのが、おなじみの受けの強さと、もうひとつ居飛車穴熊全盛の時代に、対振り飛車で急戦を得意としていたこと。

 「ひふみん」こと加藤一二三九段も愛用する棒銀のような急戦策は、一見破壊力が武器に見えて、実はじっくりとポイントをかせいだり、押さえこみに行ったりする展開になりやすい。

 玉も薄いので、攻めと見せてその内実は、受けが強くないと指しこなすのは難しいのだが、それが木村の棋風にピッタリと合っていたようなのだ。

 取り上げられていたのが、この局面。

 

 

 

 

 木村の急戦から戦いが起こり、杉本が△29飛とおろしたところ。

 飛車交換に成功し、しかも先にそれを敵陣に打ちこんでいるのだから、一目は振り飛車がさばけ形のはずである。

 だが、次の手が地味ながら好手だった。

 

 

 

 

 ▲66歩と突いて、居飛車が優勢。

 この歩がフトコロを広げながら相手の角道遮断

 さらには美濃囲いのコビン攻めもうかがうという、急戦党なら絶対おぼえておきたい、すこぶるつきに味の良い手なのだ。

 これで、振り飛車側におどろくほど有効手がない。

 △63金▲46角△36歩▲45桂と軽やかにさばかれて、△42歩と謝るのではつらい。

 

 

 

 先手陣の、のびのびとした形を見れば、いかに居飛車がうまく指しているか伝わってくる。

 以下、木村四段が圧倒して、早々にC1昇級を決めたのだった。

 実力者である杉本を、この内容で押し潰したのだから、すごいものだ。

 木村の対振り飛車戦でもうひとつ有名なのが、2002年新人王戦決勝3番勝負。

 対するのは鈴木大介七段

 1勝1敗でむかえた決着局。後手の鈴木大介がゴキゲン中飛車にして、早くも中央から動いていく。

 後手が3筋を突き捨ててから、△44角と引いたところ。

 

 

 

 次に△35角と王手されると、5筋のタレ歩が大きく、△36歩桂頭攻めもあり突破されそう。

 対応が難しそうだが、「受けの木村」はここから、力強く迎え撃つのである。

 

 (続く→こちら

 


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