さばきのアーティスト ねばりもアーティスト 久保利明vs羽生善治 2007年 第55期王座戦

2020年04月24日 | 将棋・名局
 「さばきのアーティスト」久保利明は、ねばりも一級品である。
 
 振り飛車を得意とする棋士というのは、独特の粘着力のようなものを標準装備しているものだが、中でも久保利明九段のそれは、かなりのもの。
 
 前回は執念でもぎ取った深浦康市の初タイトルを紹介したが(→こちら)、今回は久保の強靭な足腰を見ていただきたい。
 
 
 2007年度の第55期王座戦
 
 羽生善治王座に挑戦したのは久保利明八段だった。
 
 羽生の2連勝でむかえた第3局
 
 先手になった久保の藤井システムに、羽生は△64銀型の急戦。
 
 攻め合いになるのを見越して、さっと米長玉にかまえた羽生の趣向が興味深い序盤戦だったが、仕掛けてからは一気に激しくなった。
 
 
 
 
 
 中盤戦。
 
 飛車の交換なうえにも取れそうで、振り飛車が大きな駒得だが、後手の攻めも先手陣の最急所にせまっている。
 
 もともと低い陣形の美濃囲いは△36コビンが弱点だが、そこに桂馬が跳んできているだけでなく、の援軍にのラインもあって、二重三重に圧がかかっている。
 
 受けがむずかしいどころか、すでに倒れていてもおかしくない局面だが、こういうところを持ちこたえるのが、振り飛車党の「腕の見せ所」だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲18金△57銀成▲37歩(!)。
 
 ▲18金はこれしかないが、△57銀成詰めろで飛びこむ筋があるから、無理だと捨ててしまいそうなところ、時間差▲37歩と穴をふさいで耐えている。
 
 ただ、見るからに危ない形で、「ホンマに受かってるん?」とドキドキしてしまう形だ。
 
 羽生は△58成銀と取って、▲同金に△57金とかぶせる。
 
 
 
 
 
 取れば言うまでもなく、△48銀で詰み。
 
 ▲47角成△58金、▲同馬、△48金、▲同馬、△同桂成、▲同玉に△68銀と打つのが、△66角からの詰めろ飛車取りで攻めが続く。
 
 こうなると、後手の米長玉が光って見える。これまた、どうやって守るのか1手も見えないが、久保はまたもギリギリでしのぐのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ▲36歩、△58金、▲49歩(!)。
 
 激しい空襲で屋根が吹っ飛んでいるが、この「掘っ立て美濃」のような形で、まだ寄りはない。
 
 飛車は取られるが、△69金ソッポに行ってくれると、先手は急に呼吸が楽になるので、▲41とのような手もまわってきそう。
 
 だが羽生もさるもので、次の手がなんと△68歩(!)。
 
 
 
 
 
 金がはなれては勝てないと見て、タダで取れる飛車を、わざわざ1手よけいにかけて確保しにいく。
 
 なんちゅう手なのか。
 
 そりゃ、意味を説明されればわからなくもないけど、それにしたってなかなか指せないよ。
 
 手番が来た久保は、ここで待望の▲41と
 
 歩を打たせたこのタイミングで、あえて飛車を逃げる手もあったが、勢いは金を取りたいところでもある。
 
 
 △69歩成に、▲37銀打と埋め、後手も△22銀といったん自陣に手を入れたところに▲16歩と天窓を開いて、まだまだ耐えられる。
 
 
 
 
 シビれるようなねじりあいで、こういうやり取りがたっぷり見られるから、羽生-久保戦というのは、一度味わったらやめられないのだ。
 
 そこからも超難解な終盤戦が続き、控室の検討では久保勝ちではという評判だったそうだが、いやそうでもないという声もあり、正直むずかしすぎてよくはわからない。
 
 ただ、最後に抜け出したのは羽生だった。
 
 途中、△25金△14歩といった、羽生らしいアヤシげな手が出るなど雰囲気が出まくる中、「詰めろのがれの詰めろ」をめぐるギリギリの切り返しが飛び交うとか、久保から最後に幻の絶妙手があったり、もうわけわかんないんだけど、とにかく勝負が決まったのはこの局面。
 
 
 
 
 久保は▲57角の王手から、最後の突撃をかける。
 
 もし詰みがなくても、どこかで▲48角と金をはずす手があって勝ちがありそうだが、ここで後手から「次の一手」のような決め手があった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 △46桂中合するのが、作ったようにきれいな手。
 
 ▲48角△38飛成で詰み。
 
 ▲46同角と取るしかないが、△35銀と打って詰みはなく先手玉は必至
 
 久保は▲35同角から王手ラッシュをかけるが、羽生は冷静に対処し、王座防衛で16連覇を達成したのだった。
 
 
 (羽生善治と森内俊之の名人戦編に続く→こちら
 
 (久保の軽やかな桂使いは→こちら
 
 
 

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