前回(→こちら)の続き。
演劇などの公演で関西の若い男の子の反応がうすいのは、
「自分たちには笑いのセンスがある」
皆がみな思いこんでいるから。
そこには「格付」「勝負」の要素がからんできて、彼らはみな「負けたくない」から、「仲の良い身内」以外のことでは、なかなか笑ったりつっこんだりしてくれないのだ。
高校時代のクラスメートであるマツダ君も、私のつまらないボケに「なんでやねん!」と反応した後、「しまった!」と口走った。
そう、「笑いのセンスのある彼」にとって、会話というのは常に自分がボケて、
「その切れ味によって、本来ならつっこむ気もなかったはずの相手につっこませる」
こういう流れになっているのだ。
そんな彼にとって、「思わず、つっこんでしまった」というのは、
「相手のボケを、反応に値すると認めてしまった」
ということになる。
これはまさしく「敗北」であり、ましてや素で「宇宙人おらんやろ」などといった、「センスのない」ストレートな反応をしてしまった。
いや「させられた」ことは、屈辱以外のなにものでもないのだ。
あやつるはずのオレ様が、逆にあやつられた、と。
こちらとしては悪気も笑いにするつもりもまるでなかったが、これは大失敗だった。
これ以降、マツダ君は「負けた汚辱」を雪ごうと、なにかにつけてこちらに、つっかかってくるようになったのだから。
といっても人のいい彼のことなので、別に暴力的なヤカラではなく、
「オレとおまえと、どっちのボケが勝るか勝負だ!」
という、まあ罪はないものだったが、会話中やたらと一発ギャグを連発してきたり、こっちが軽い冗談でも言おうものなら、オチ前に入ってきて「ボケつぶし」に血道をあげたり、もうめんどくさいことこのうえなかった。
そんな心配せんでも、地味男子のオレが女子から笑いなんかとれへんからさ!
クラスの男子としては、キミのほうが「格上」って、みんな思ってるから!
まあ、そういう問題でもないのだろう。彼からすれば、私がやったように
「つっこむつもりもないのに思わず」
な一言がほしいわけで、こっちも平和裏にコトが済むならそうするのにやぶさかではないが、「電話に出んわ」とか「パイン食べ過ぎて、お腹いっパイン」とか、悪いけどつまらないし……。
いや、クラスの女子は大爆笑ですけどね。
くだらないジョークのはずが、なまじまぐれ当たりしてしまい、「勝手にライバル宣言」をされて、もう大迷惑というか、まあ自業自得ではある。
この経験から、関西の男子にとって「笑い」というのは勝負であり、
「笑わされる」
「つっこまされる」
ことは「負け」であり「屈辱」なのだから、そんなもん、こっちが舞台でなにやっても笑うはずがありません。
たまさか、うまくいってひと笑い取れた日には、逆に地獄。
「敗北感」にさいなまれた彼らは、マツダ君のようにますます意固地になり、
「もう二度と、あんなみじめなことにはならんぞ」
腕組みをして踏ん張るのだ。
『泣いてたまるか』は渥美清の名作だが、「笑ってたまるか」は、だれも幸せにならないド根性である。
だからもう……土下座でもするから帰ってください、と……。
そんな彼らの心をつかむ方法もないことはなくて、ひとつは「毒舌か下ネタ」。
彼らにとって笑いは「勝負」であり、そこでは「過激な話にちょっと腰が引ける」というのは「負け」になる。
「オレ様は、この程度の毒ではまったく動じないね。それどころか、余裕をもって笑えるよ」
そうアピールしたいから、がんばって笑ってくれる。
もうひとつは「マニアックな小ネタ」
やはりこれも「勝ち負け」で、一般ウケはしなさそうなセリフなんかに、
「こういう素人さんには難しいネタにも食いつける、オレ様のお笑い知性」
をやはりアピールしたいから、これまた必死に笑ってくれる。要はプライドを刺激すればいいわけだ。
でも、それでウケてもなあ、というのも正直なところ。
こういうのって、勝ち負けじゃなくて、どっちも楽しんでってのがベストだと思うし。
昨今のヤング諸君はどうか知らないけど、「ダウンタウン世代」のわれわれの青春時代は、こんな感じでした。
松ちゃんの
「結局、笑いのセンスがあるヤツが一番エライ」
という価値観は、芸人の地位(とビッグな態度)を格段に上昇させたけど、ものすごい数の「カン違い男子」も生んだのであった。
いやほんと、「若いときの笑いのセンスの自意識」=「ほぼ内輪ウケと女子への好感度」だからなあ。
私の経験では、ホントにすごいヤツって、意外とみなに知られてない在野にいるもの。
みんなが「暗い」とか「ヤバい」とか「そんなヤツいたっけ?」って言いがちな子の中に、人と違う発想やセンスが転がっていたりするのだ。
だから今でも、私は人気者より、そういうかくれた人材を発掘するのが好きだ。
あと、ここでは「関西の」と言ってますけど、それこそダウンタウンの影響で今では日本中が「オレ様」男子であふれていることでしょう。
リア充系男子諸君は、ちょっと気をつけていただけると、「男前特権」に関係ないわれわれにはありがたいです、ハイ。