『回転スシ世界一周』を読む。
エッセイストで、料理関係の著作も多い玉村豊男さんが、パリ、ロンドン、アムステルダム、ニューヨーク、LAで、今世界中で人気の
「KAITEN-SUSHI」
を食べまくり、そのレポートをまとめた一冊。
今でこそ、回転寿司が世界で親しまれているのは、さまざまな媒体で語られているが、おもしろいことに、これが各国によって、それぞれ特徴がある。
日本でも、スパイシーなインドカレーが家庭料理であるカレーライスになったり、オランダのクロケットがコロッケとしてご飯のおかずになったりと、
「アレンジがすぎる」
ことがあるが、世界のSUSHIも、生みの親をはなれると、これがなかなかにフリーダムである。
まず有名なのは「カリフォルニアロール」。
発祥の地はロサンゼルスの日本人街「リトルトーキョー」。
マグロの入荷が、とぎれがちになった時期に、たまたまアボカドがたくさんあまっていたので、それを試行錯誤の末、商品化したのだとか。
また、欧米での巻きものは、海苔をご飯の中に巻く「内巻き」を採用しているが、これは海苔を食べる習慣がなかった欧米人が、あの黒くて薄いものを見て、
「オー! ニポンジンハ、ペーパーヲタベルノデスカ!」
とビビるから。
あれが「紙」に見えるのだ。だから、内側にかくす。
どうも、ガイジンさんには、あの黒くてうすい物体というのはミステリーであるらしい。
やはり日本人のソウルフードであるおにぎりでも、白いご飯が見えなくなるよう、全体に海苔を巻くタイプがあるが、これが「爆弾」に見えるとか。
これまた物騒な話である。
となると、日本にくわしくない人が、うっかりコンビニのおにぎりコーナーの前に立ったりした日には
「ノー! コンナトコロニBOMBガ、タクサンアリマース! カミカゼ、バンザイ、リメンバーパールハーバー!」
なんて、一度は戦争放棄したはずなのに、「再軍備疑惑」なんて、持たれるかもしれない。
なるほど、文化のちがいというのは、おもしろいもの。
そんな誤解されがちな海苔は、なるたけ表舞台には出さないという方針か、ロンドンのスシ屋では、生春巻きやサーモン、ゴマなどで巻いたりしている。
さすがテロの本場(?)、ここでも爆弾と警戒されているのか。
写真を見たかぎり、まあ普通においしそうではあるけど。
味オンチのイギリス人のくせに、なかなかに生意気ではないか。
また、スシではないが、小さく盛りつけた焼きそばに焼き鳥をトッピングし、ソバとトリのモンブラン風なんていう創作料理もある。
モンブラン。なんだかオシャンティーである。
焼きそばといえば縁日の屋台か、カップ焼きそばというイメージが濃い私としては、モンブランなんていわれると、なんだかむずかゆい。
味も甘そうだしなあ。
こういう「親の手」をはなれて独自に発展していく寿司の中で、もっともアメリカンにかぶれているのが、これであろう。
ロサンゼルスのスシ屋にある「ジョン・レノンロール」。
ジョン・レノンロール。
そう聞いただけでは、パッとは、なんのイメージもわかない。
ジョン・レノンロール。何を巻いているのか。まあ、創始者がビートルズファンだったことはわかる。
このジョン・レノンロール。一体どんなものなのか、とりあえず素人ながらに予想してみたが、考えられるのは、
○「ジョン・レノンの好物を海苔で巻いた」
●「ジョン・レノンが常連の店のオーナーが開発した」
○「ジョン・レノンの出身地の名物を使っている」
●「ジョン・レノンが海苔で巻かれている」
○「マジ超適当につけた」
といったところであろうか。
正解はとレシピを見てみると、蟹やエビの天ぷらを巻いたスシに、きゅうり、梅干し、おしんこ、ミントの葉を玄米酢飯で裏巻きにしたもの。
……って、おいおい、それのどこにジョン・レノンな要素があるねん!
おそらくは、ベジタリアンつながりということなのであろうが、そんな安易でいいのか。
しかも玉村さんに
「ちょっと情けない味」
と評されては、勝手に名前を使われたうえに酷評され、ヨーコも砂を噛む思いであろう、イマジン。