忍者武雷伝説 屋敷伸之vs森下卓 1990年後期 第57期棋聖戦 第2局

2023年10月20日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 挑戦者森下卓六段が、屋敷伸之棋聖に勝利して幕を開けた、1990年後期、第57期棋聖戦5番勝負。

 腰の重い森下が、「忍者流」の奇手をくり出した屋敷を押さえこみ、得意の展開で先勝

 屋敷の才能も破格だが、安定感では棋界随一の森下の方が一枚上かと思いきや、ここからシリーズはややこしくもつれていく。

 第2局は屋敷が先手矢倉模様から急戦調に展開。

 足早にをくり出し、さらににも手をつけ、主導権を握っていく。

 

 

 

 図は▲23香成と、屋敷が2筋を突破したところ。

 部分的には先手が大成功で、私レベルならもう、後手をもって勝てる気がしないところ。

 もちろん、プロレベルではそんな簡単には終わるわけはなく、ここから森下の受けの妙技をご覧あれ。

 

 

 

 

 

 


 △26歩が、おぼえておきたい受けの手筋

 ▲同飛と取らせれば、

 

 「大駒は近づけて受けよ」

 

 のような形で、いつでも△25歩先手を取りながら、利きを遮断することができる。

 後手からすると、▲22成香を取られるのは、たいして痛くない。

 角のななめのラインは受けにくいが、飛車タテの突破は存外受けやすいというのは、おぼえておきたい将棋のセオリーだ。

 そこで屋敷は▲13成香と、こちらを取る。

 角をもらえるところ、でガマンなどつまらないようだが、こういうときは後手陣のキズを残しながら攻めるのがコツ。

 △同角に、▲14香と角の丸い頭を責めていく。

 △24角▲25歩と打つ。

 

 

 

 なるほどという流れで、単に▲22成香△同銀で手順に固めさせてしまうが、こうやってを目標にしながら敵陣を乱していくほうが、ずっと攻めとしては効いている。

 こうなると角が責められる形で、後手が苦しそう。△25同桂▲同金△51角と大駒を逃がすくらいしかないけど、駒損後手も引くし冴えないよなあ。

 私のような素人はその程度しか思いつかないが、次の手が華麗な一着で、そう簡単ではない。

 

 

 

 

 

 △45桂がカッコイイ跳躍。

 ▲同歩△57角成で、見事に逃げられてしまう。

 かといって▲24歩と取るのも、△57桂成で突破される。

 通せんぼをキープするには▲45同金しかないが、「べろべろばー」とばかりに△51角とかわして、パンチは入らない。

 屋敷は▲24桂と攻撃を続行するが、△33金上▲13香成△45歩▲26角△42玉と上がるのが、これまた見習いたい玉さばき。

 

 


 


 「玉の早逃げ八手の得」

 

 のようなもので、戦いながら自然に王様を戦場から遠ざけるのは、受けのテクニックのひとつである。

 以下、▲37桂△35銀▲15角△52玉

 

 

 


 屋敷の猛攻を、ヒラリとかわす、あざやかさ。

 こうなると、先手は1筋2筋に攻め駒が渋滞している印象がある。

 形勢はまだ、むずしいだろうが「受け将棋萌え」の私は、一連の森下の指しまわしにはウットリである。

 そこからも、難解なねじり合いが続くが、当時話題になったのが、この局面。

 

 

 

 森下が△47金と貼りついたところ。

 ふつうの発想は、▲73金飛車を取って、△同角▲53桂成と突貫していくところだろうが、なんと屋敷は単に▲53桂成

 これでは△同飛と、手順に逃げられてしまうわけで、大損のように見える。

 

 

 まあ、素人ながら理屈をつければ、△同金ではなく、△同飛と取らせることによって、△43玉と逃げ出す形を作らせない。

 ということなのかもしれないが、それにしたって現実の飛車は大きな駒である。

 その誘惑を振り切っての▲53桂成

 好手かどうかはわからないが、

 

 「人と違うことを考えている」

 

 という意味では屋敷らしいアヤシサを感じさせる手で、今でも記憶に残っているのだ。

 どこまでも続く形勢不明の闇を打ち破ったのは、どうやら屋敷が先だったようだ。

 

 

 


 森下が△36桂と、きびしい両取りをかましてきたところ、ここで屋敷が力強いカウンターをおみまいする。

 

 

 

  

 


 ▲56歩△同金▲57銀

 飛車を見捨てて玉頭から駒をぶつけていくのが、すごい発想だった。

 △同金▲同金と取り返した格好が、▲63金打からの詰めろになっている。

 これが、飛車を取らずに▲53桂成とした効果だったか。

 たしかに、△53同金の形なら、これが一手スキになっていないから、先手も危ないが、ここまで進めば、なるほどと感心することしきりだ。

 どうやら、これで勝負あったようで、△42金と遅まきながら脱出路を作るが、やはり▲63金打から押しつぶして、先手勝ち。

 これで1勝1敗タイに。

 因縁の対決は、あらためて3番勝負にもつれこむこととなるのだが、ここから決着までは、ここまで2局のオーソドックスな熱戦と違い、少々不思議な展開となるのだ。

 

 (続く

 

 


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