「宮田敦史は、やっぱりモノがちがうな」
モニターの前で、思わずうなったのは、あるYouTubeの動画見たときのことだった。
前回はアベマトーナメント出場決定をお祝いして、藤森哲也五段の「攻めっ気120%」の将棋を見ていただいたが(→こちら)、今回はある棋士の驚異的な終盤術を。
ことの発端は家でゴロゴロしながら、香川愛生女流四段のチャンネルを見ていたときのこと。
ふだんやっている将棋ウォーズ実況と違って、渡辺和史四段と、谷合廣紀四段がゲストに登場していた回だ(→こちら)。
なんでも2人は香川さんとおさななじみだそうで、トークに花が咲いたが、そこでもう一つ企画として、こういうものもやっていた。
「フラッシュ詰将棋」
一瞬だけ画面に映った問題を暗記して、それを早解きするというものだ。
まず、1秒で図面がおぼえられるというのがすごいが、それを暗算で即座に解けるのが、またワザである。
詰将棋を「鑑賞」するのは好きだが(すぐれた詰将棋には「芸術性」というのが存在するのです)解くのは好きでない自分は、もうこれだけで圧倒される。
ところが、世の中には上がいるもので、
「3問同時に出題されて解けるのか」
というチャレンジには、さすがの若手プロ3人も苦戦し(その模様は→こちら)、そこで思わずこぼれたのが、
「宮田先生はすごかった」
宮田先生って、宮田敦史七段か。そういや詰将棋といえば、この人だよなー。
なんて、おさまってたところに、そこでガバッとベッドに起き上がる。
え? てことは、敦史君は、これをやったってこと?
マジかぁ?
その内容は、こちらから確認していただきたいが、これがホンマにマジでした。
解いちゃうんだよ、この人は。
その様は一言でいえば、
「アンタ、人間じゃない!」(なんか誤解されそうな言い回しだな)
これには、深く、ふかーく、うなずかされたもの。
しばらく聞かなかなかったが、これこそが、
「スーパーあつし君」
との異名を取った天才の驚異だ。
藤井聡太二冠が出てくるまで、「詰将棋選手権」といえば、この人のものだったが、その力は、今でもまったくおとろえていない。
すごすぎですわ。マジで腰が抜けた。
ということで今回は、そんな宮田敦史の超絶的な終盤戦をご覧いただこう。
2006年の第64期C級1組順位戦。
宮田敦史五段と、北島忠雄六段の一戦。
後手の北島が、当時大流行していた「一手損角換わり」から右玉に組むと、宮田は銀冠にかまえる。
むかえた、この局面。
後手の△65桂は、次に△77桂成からの詰めろで、先手はなにか受けなければならない。
宮田は▲89桂と打つ。△77桂成に、▲同桂。
北島はもう一回、△65桂のおかわり。宮田は再度、▲89桂。
△77桂成、▲同桂に、みたびの△65桂。
同一局面がグルグルと回っているが、これで次に宮田が▲89桂と打てば、もうループは止まらず、千日手になったはず。
北島はそのつもりであり、局面の切迫度と時間に追われていることを考えれば、ここは「もう一局」が無難であろう。
だが、信じられないことに宮田は、ここから、すさまじい打開術を披露するのだ。
▲73金と打つのが、控室の検討陣もどよめいた一撃。
金のタダ捨てだが、△同角は勇躍▲65桂と取って、△55角に▲77桂と受けておく。
これで先手玉は詰まず、後手玉は▲65の桂馬の存在感が絶大で受けがないから、宮田勝ち。
そこで北島は△同玉と取るが、▲85桂打の継ぎ桂。
△62玉は▲73角から詰み。
△72玉は、▲73銀、△同角、▲同桂成、△同玉に▲65桂と取るのがピッタリで、先手勝ち。
△83玉が一番ねばれるが、▲73金とか、▲84銀、△同玉、▲62角みたいな形があぶなすぎて、とても指しきれない。
そこで▲85桂打には△同飛と取るが、▲同歩と取り返しておく。
先手玉はメチャクチャにあぶないが、△77桂成、▲同飛、△同角成、▲同玉、△67飛のような手には、▲86玉(!)
手順にドアを開けておいた屋根裏に逃げ出して、後手にななめ駒がないから、きわどく詰みはない。
この蜘蛛の糸をたよりに、千日手を打開したというのだから、宮田の読みと踏みこみがすばらしい。
むずかしい手順だが、これこそが将棋の終盤の醍醐味と、宮田敦史はうったえかけてくるのだ。
(続く→こちら)