カジノは男のロマンである。
私はギャンブルをやらないが、ルパン三世や映画『スティング』の影響で、カジノだったら通ってみたいと常々あこがれている。
といっても日本はまだカジノが認可されていないわけだが、実を言うと海外で少しだけ雰囲気を味わったことはある。
はじめて入ったのはオーストラリアでのこと。
メルボルンで行われるテニスのオーストラリアン・オープンを見に行ったのだが、観戦の合間に出かけたのが当地の名物「クラウン・カジノ」。
街中のセレブやギャンブラーが集まるこのカジノ。雰囲気があって、実に素晴らしかった。
まるで映画『華麗なる賭け』のようである。ディーラーが魔術師のような手さばきでカードを切り、ドレスアップした男女がカクテル片手に優雅に賭ける。
これよ、これこれ。ギャンブルはやらないが、後に『マルドゥック・スクランブル』を何度も読み返す身となる私にとっては、それはそれはシブイ光景であった。
そんな、高級感あふれるカジノだったが、ひとつ大きな問題があった。
服装である。
ふだんなら、黒のモッズスーツにWWLのレザーのネクタイ、そして『地獄の黙示録』のキルゴア大佐のかけていたデザインのサングラスをシブくかける。
「浪速のチバユウスケ」を自認し、よそさんからは「ブルース・ブラザーズのバッタモン」とかいわれている私であるが、その時の出で立ちは薄汚れたTシャツとジーンズであった。
オーストラリアは暑いのでこれでいいやと決めこんで、さらにはガイドブックによると
「クラウン・カジノは気さくなので、普段着でも入れます」
とあったので油断していたが、入ってみるとみな高価そうなスーツかタキシード、女性はドレスといった装いであり、そこで完全無欠に浮いていしまったのだ。
場違い感がハンパではなく、セレブな装いの皆様方の中にあって、ひとり難民のようであり頭をかかえたくなった。
そういえば、ニューヨークでミュージカルを鑑賞した際も、昼の部は若者がラフな格好で入場しており、
「さすがUSAの人だ。なんてカジュアルなんだ」
安心して、夜の部も同じような格好で見に行ったら、今度はタキシードとドレスの世界で客層が180度変わっていてビビッたものだ。
昼は若者がジーンズでコークといったところだが、夜は皆さま高価なシャンパンを飲んでおり、フリマで100円みたいなシャツを着ていた私は全体的に身の程知らず感がすごい豪快な浮きっぷり。
周囲の、ゴミ虫を見るような視線に耐えながら『サウンド・オブ・ミュージック』を鑑賞したものである。
舞台では「I Have Confidence in Me(自信を持って)」と歌っていたが、こちらは親に見捨てられたストリートチルドレンみたいな格好では、そんなもん持ちようもない。
やはり劇中歌の「So Long, Farewell(さようなら、ごきげんよう)」が歌われたときには、舞台の出来よりも、はやくこの状況からただひたすらさよならしたかった。
こういうセレブな場での「ラフな格好でもOKです」というのは、日本のパーティーにおける「平服でお越しください」のような「空気読めよ」感が強い注意書きと同じらしい。
とんでもない罠である。ちゃんと「スカタンお断り」と書いてくれれば、こちらもいろいろ考えたのに。
(この話題、次回【→こちら】に続きます。