藤森哲也五段が、アべマトーナメントへの出場権を獲得した。
先日放送された、第4回アべマトーナメントの出場枠を決めるエントリートーナメントは、関西ブロックから小林裕士七段が勝ち抜き。
2枠ある関東ブロックからは、まず梶浦宏孝六段。
そしてもうひとり、藤森哲也五段が予選を勝ち抜いて、この3人が見事、最後の1チームとして本戦出場を決めたのであった。
中でも注目なのが、藤森五段の戦いぶり。
藤森の「てっちゃん」といえば、私の世代だとお母様の「なっちゃん」こと藤森奈津子女流四段(ステキな人なんだな、これが)の息子さんというイメージだが、今のファンには楽しい解説や、YouTubeの方が思い浮かぶかもしれない。
そんなエンターテイナー藤森哲也だが、今回は本業でも魅せてくれました。
もともと、てっちゃんといえば、勝負強いタイプで、三段リーグでは最終日7番手からの大逆転で昇段。
デビュー後も新人王戦2回と、加古川清流戦でもファイナリストになっており、優勝こそ逃したものの、そのパンチ力をアピールした。
本戦でも、頼れるチームメイトとともに、選抜されたエリート達に一泡も二泡も吹かせてほしいものだ。
ということで、前回は昇級祝いで高崎一生七段の将棋を紹介したが(→こちら)、今回は藤森哲也五段の快勝譜を紹介したい。
2017年の第89期棋聖戦一次予選。
藤森哲也五段と、高野智史四段の一戦。
相居飛車から、先手の藤森が現代風の雁木に組むと、高野は△33桂&△42銀とそなえ、専守防衛の姿勢で迎え撃つ。
むかえた、この局面。
藤森が4筋から歩をぶつけ、桂交換をしたところ。
先手は、
「攻めは飛角銀桂」
「玉の守りは金銀3枚」
という基本通りのフォーメーション。
なんとも美しい形で、
「将棋の王道」
という感じがするが、後手も金銀4枚と角の利きもくわえて、厳重にロックをかけ、待ち構えている。
まさにサッカーでいうイタリアの「カテナチオ」だが、ここから藤森は華麗、かつ力強い進撃で、固い門のカギをこじ開けていく。
▲35歩、△同歩、▲45歩、△同歩、▲15歩、△同歩、▲45銀。
「開戦は歩の突き捨てから」
という、お手本通りの仕掛け。
これはもう、相居飛車の将棋を楽しみたい方には、ぜひともマスターしてほしい呼吸。
単に▲45歩は、△同歩、▲同銀に△44歩で追い返される。
ここは景気づけで、3筋と1筋をからめて行くのが、のちの攻撃の幅を大きく広げるのだ。
今度△44歩は、本譜の▲34歩で攻めがつながっている。
高野は△45歩と取るが、▲33歩成と取って、△同銀に▲37桂がまた、リズムの良い攻め。
3筋の突き捨てがまたも生きて、▲45桂ジャンプから▲33歩が、銀の持駒と連動して絶品。
「桂はひかえて打て」
これまた格言通りの攻めだ。
後手も△46歩、▲同飛、△44歩と、争点をずらす手筋を駆使し、しゃがんで受けるが、かまわず▲45歩と合わせる。
△55桂と、角筋を遮断しながら反撃に移るも、▲44歩と取りこんで、△同角、▲45歩、△53角。
そこで、われわれも大好きな▲44銀の打ちこみ。
まさに、塚田泰明ゆずりの
「攻めっ気120%」
という大突貫。
師匠のキャッチフレーズが「攻め100%」だから、その勢いは2割増しだぞ!
△同銀、▲同歩、△同金に▲15香と走るのが、これまた居飛車党の必修科目ともいえる香捨て。
これで貴重な一歩が補充できるうえに、香を上ずらせて、後手の守備力もけずっている。
△15同香しかないが、そこでむしりとった一歩を使って、▲33歩が絶好打。
「攻めの藤森」の持ち味が、これでもかと発揮されている。
△22金に、俗に▲32銀と打ちこんで、ガリガリ攻めていく。
まるで、『将棋放浪記』で紹介されている棋譜みたいだが、プロ相手に、それものちに新人王戦で優勝することになる高野智史を、こんなサンドバッグあつかいできるのが、すさまじい。
今、早めに△73銀や△73桂とくり出す急戦が流行っているのは、相居飛車の後手番は、どうしてもこういう形になりやすいから。
そりゃこんな目にあわされれば、その前に動こうと、必死になるわけである。
そういや、羽生善治-森内俊之の矢倉戦とか、谷川浩司-佐藤康光とか、丸山忠久-郷田真隆の角換わりとかって、いつもこんな感じだったなあ。
クライマックスは、この場面。
藤森の百烈拳が急所にヒットしまくりで、ここでは先手が勝勢。
ただ、駒の数が少なく、歩切れということもあって、足が止まると一瞬で指し切りになる恐れもある。
後手玉が、左辺に逃げ出す前になんとかしたいが、次の手がまた「筋中の筋」という手で、勝負が決まった。
▲64歩と突くのが、これまたぜひとも指に、おぼえさせていただきたい好感覚。
△同歩しかないが、▲55角と藤森流に言えばブッチして、△同歩に▲63桂がトドメの一撃。
角取りだが、△62角は頭金。
△53角は▲32金打で、ピッタリ詰み。
以下、数手指して高野が投了。
攻められっぱなしで一度もターンがまわってこない、典型的な「後手番ノーチャンス」という将棋だった。
最後の▲63桂が、『将棋世界』で藤森が連載していた講座に、紹介されていた手。
なので、これを見ていただこうと思ったのだが、今回あらためて並べ直して、あまりにもきれいな攻めが決まっていたので、ちょっとくわしめに取り上げてみた。
てっちゃんはよく、『将棋放浪記』で、
「勝つことも大事ですが、皆様が楽しんで上達できるように、できるだけ基本に忠実で、筋のいい、きれいな手をお見せしていきたいです」
そう言ってるけど、これこそまさに、そんな将棋だった。
連結のいい囲いから、歩の突き捨て、1筋の香捨て、▲44銀の俗筋から、最後は切れ味のいい寄せでフィニッシュ。
ホント、この棋譜を何度も並べるだけで、アマ初段くらいにはなれるんじゃないだろうか。
それくらい、お手本のような攻め筋なのだ。
てっちゃん、強いぞ!
(「スーパーあつし君」の終盤力編に続く→こちら)