遠すぎた橋 中原誠vs森内俊之 2003年 第16期竜王戦 挑戦者決定三番勝負 第2局

2022年11月19日 | 将棋・名局

 前回の続き。
 
 2003年の第16期竜王戦で、挑戦者決定三番勝負に進出した、中原誠永世十段
 
 ここで森内俊之九段に勝てば、本人のみならずファンも熱望した、


 
 「中原誠vs羽生善治」


 
 というタイトル戦が実現するのだ。
 
 ただ、当時の森内はすぐ後に、棋士人生最大ともいえる大爆発を起こすことになるほど絶好調で、まさに今の王将リーグにおける羽生と豊島将之と同じく、公平に見て「年配者不利」な予想は自然な流れだった。
 
 その通り、初戦森内が順当に取るが、そこはを期待するギャラリーからの


 
 「空気を読め」


 
 という無言のには悩まされたようで、精神的には大変な戦いだったよう。
 
 その「ホーム」の利もあったのか、第2戦では中原が逆襲を見せる。
 
 得意の相掛かりから、中原らしい軽快な手が各所に見られて、おもしろい将棋になる。

 
 
 

 図は森内が、△62飛と転換して、先手の玉頭をねらったところ。
 
 手番をもらった先手は、なにか先攻したいところだが、の打ちこみもなく、具体的には手が見えない局面だ。
 
 だが、相掛かりのスペシャリストである中原は、目のつけどころがちがうのだ。

 

 

 


 
   
 
 
 
  ▲95歩、△同歩、▲93歩が意表の手作り。
 
 ふつう、相居飛車の端攻めと言えば、▲15歩とこちらを突き捨てるものだが、中原流はこっちから。
 
 たしかに、△同香▲85桂から手を作れそう。

 △同桂も好機に▲94歩と打たれると、タダで取られそうとなれば、この歩は相手にしにくいが、それにしても見えないところだ。
 
 森内は無視して、△66歩、▲同歩、△同飛、▲67歩、△62飛と、歩を補充して手を渡すが、そこで▲25飛が、また軽快なゆさぶり。


 
 
 
 
 
 
 次に▲35飛から、飛車に使って暴れていこうということで、このあたりは横歩取りなど、空中戦にも強みを発揮する中原の腕の見せどころか。
 
 後手は△33銀と形を整え、▲35飛△65歩と横をシャットアウトする。
 
 中原はかまわず▲65同桂と取るが、△44銀で飛車がせまい。

 

 
 
 
 
 
 飛車を逃げるようだと、▲65がいつかタダで取られることが確定しており、先手が苦しいが、中原はここでワザを披露するのだ。

 

 

 


 ▲53桂不成と捨てるのが、ハッとする勝負手。

 △同銀でタダだが、ヨコのラインが開いたことで、▲85飛と大きくさばいていく。
 
 
  
 
 駒損の攻めなので手順としてはやや強引だが、これで飛車の働きに差があるため、先手が指せるという読みだ。
 
 流れは中原にあるが、森内も△63角と先手でしのいで、▲83飛成△64桂と反撃。


 
 

 

 先手はこそ作ったが、▲81竜のような暴れまわる手がないと、一気の攻略はむずかしい。

 こういうとき、あせりは禁物で、ここで中原は渋い指しまわしを見せるのだ。

 

 

 

 

 


 
 
 ▲22歩、△同金、▲77銀が落ち着いた対応。
 
 ここは一発▲22歩とタタくのが、筋中の筋という手。
 
 △同金壁形を強要させてから、▲77銀と一転、自陣に手を戻すのが絶妙の呼吸。
 
 この2手は、アマ高段クラス以上なら、おそらく一目であろうが、まさに緩急自在で「強い人の指す手」という感じ。

 この局面、△64の桂で銀を取られると丸々銀損になるのだが、それで先手もやれるという大局観がすばらしい。
 
 リズム的にも美しく、中原の充実度がうかがえるというところだ。


  
 
 
 
 最終盤のこの図をみれば、▲22歩のタタキが、いかに効果的かわかろうというものだろう。
 
 大強敵の森内を、得意の軽妙なさばきから押しこんでタイに戻し、見ている方は、


 
 「これは来たんちゃう?」


 
 期待はますます高まったが、残念ながら中原の進撃もここまでだった。
 
 第3局では、得意の落ち着いた指しまわしを見せ、森内が横歩取りの激しい戦いを制する。
 
 結局、中原は期待された羽生とのタイトル戦を、一度も実現することはできなかった。
 
 大声援を受け、図らずも敵に「アウェー」の戦いを強いたこの竜王戦は、ある意味では最大のチャンスだったかもしれないが、終わってみれば森内の精神力の強さが光った形となった。

 その後、森内は4連勝羽生から竜王を奪うと、王将戦名人戦でも、やはり羽生から奪取

 一気に三冠王を達成するのだから、森内にとっても大きな勝利となったわけで、皆が必死な中「空気を読め」とかホント「余計なお世話」なんだなあとか、思ったものであった。

 

 

 ■おまけ

 (中原誠、渾身の名人防衛劇はこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 


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