「奇跡的」な受けの手 大山康晴vs米長邦雄 1978年 名将戦

2022年08月31日 | 将棋・好手 妙手

 大山康晴十五世名人の受けは絶品である。

 将棋の棋風は大きく分けると「攻め将棋」「受け将棋」に二分されるが、プロアマ問わず基本的には、前者の方が数が多いのではないか。

 やはり、単純に攻める方が楽しいし、受けは神経を使うし、時間がない将棋だと「勝ちやすい」という事情もあって、そうなりやすいのであろう。

 そんな中、受けの巨人として君臨する大山の存在感はかなりのもので、「受け将棋萌え」の私はリスペクトするところ大である。

 前回は羽生善治九段が若手時代に見せた、暴れ馬のようなラッシュを紹介したが、今回は米長邦雄永世棋聖がその著書『米長の将棋』で

 

 「奇跡的な受けの妙手」

 

 と絶賛した大山の妙手を紹介したい。

 

 
 1978年名将戦

 大山康晴十五世名人と、米長邦雄八段の一戦。

 大山の四間飛車に米長は居飛車穴熊。玉頭戦のねじり合いがあって、この局面。

 

 後手は銀冠の金をはがされ横腹がすずしいが、先手の攻めも薄く、次に▲74を取られると完全に攻めが切れてしまう。

 先手はその前になんとかしたいが、ここで妙手の前に手筋講座。

 まずは▲73金と打ちこんで△同金に、初心者の方は流れで▲同歩成と取りたくなるかもしれないが、そこをこらえて▲71角成とするのが、ぜひ覚えていただきたい筋。

 ハッとする角のタダ捨てだが、「玉は下段に落とせ」がこの際のセオリー。

 後手は2枚のなどで上部が厚く、単に▲73同歩成△同玉はそれを目一杯働かせてしまうため、そこを無力化させる意味でも有効だ。

 整理すると、▲73金、△同金、▲71角成、△同玉、▲73歩成

 

 

 頭を押さえられた後手は△82金と受けるが、一回▲78飛と遊び駒を活用し、△76桂とさせ質駒を確保するのが、キメのこまかい手順。

 やるだけやってから、▲63金とへばりつく。

 

 

 

 先手の攻めもギリギリだが、後手も相当に恐い形。

 となれば、△73金▲同金△82金▲63金千日手も視野に入ってくる。

 実際、米長も優勢なのに千日手に逃げられたか、とガックリしていたそうだが、ここで意表の手が飛んできた。

 

 

 

 

 

 △74金と、から打つのが、この際の妙手。

 米長と逆に、大山もまたこの将棋は自分が優勢と思っていたのだろう、「させるか!」とばかりに打開してきた。

 こうなれば先手も行くしかない。

 ▲76飛切札を発動し、△同銀に▲74と、は△同銀で攻め切れないから、▲83と、との方を取って、△同金に▲86桂

 

 

 

 これで決まったように見える。

 △73金引は▲62銀と打ちつけて、△82玉▲73金△同金にその取らず▲74歩と打つのが好手で寄り。

 

 

 

 

 ところが「平然と」放たれた次の手を、先手は見えていなかった。

 喰らった米長が「歴史に残る手」と絶賛した受けの妙手とは……。

 

 

 

 

 

 △73飛が「受けの大山」の見せた、すばらしいしのぎ。

 ▲62銀王手飛車取りがあるため猛烈に指しづらいが、これが盤上この一手ともいえる見事な切り返しなのだ。
 
 △73飛に▲同金△同金引で、▲74歩△63金▲41飛△61歩で受け切り。

 

 

 △73飛に▲74桂を取るのは、△63飛を取られて攻めにならない。

 

 

 

 苦慮の末、結局▲62銀と打つしかなかったが、△82玉、▲73金、△同金引、▲61飛、△72金打、▲73銀成、△同金寄、▲74歩、△63金寄、▲95歩、△62銀、以下後手が勝ち。

 

 

 △73飛と打った形が巧妙なのは、飛車を取れば△同金引に逃げられ、▲74桂を取れば△63飛などで飛車が取れない。

 なんとも悔しいことになっており、大山も「残念でした」と笑いをかみ殺していたことだろう。

 正確には、この妙手2発で後手有利と言っても、穴熊も健在でまだ先は長かったそうだが、先手にねばりを欠いた手が出てしまい勝負所を失うことに。

 これには米長自身が、

 


 「こんな妙手を指されては仕方がない」


 

 認めるように、自分が読んでない手を指され「完全に上を行かれた」ショックがあったわけで、評価の点数以上に勝てない流れになってしまったということなのだろう。

 

 


 (大山、神業的な受けで米長を粉砕

 (大山、らしくない派手な手で米長を圧倒

 (「受けの大山」を突破した米長の絶妙手

 (名人挑戦をかけた「大雪の決戦」)

 

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 


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