羽生善治と竜王戦 「19歳2か月 羽生竜王」への道 その3

2019年05月03日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編
 前回(→こちら)の続き。
 
 ファンの熱い期待を背負って、竜王戦で勝ち上がっていく、若き日の羽生善治五段
 
 初挑戦まで、あと一歩の準決勝で対するのは、大山康晴十五世名人
 
 名人18期をはじめ、タイトル獲得80期(!)を誇る将棋界の大レジェンドであり、羽生があらわれるまでは、文句なしの「史上最強」棋士であった。
 
 今でいえば、第11回朝日杯準決勝、羽生善治vs藤井聡太戦のようなものだが、この2人には
 
 
 「なぜか大山(に限らず旧世代の棋士や評論家)は、羽生をあまり評価していなかった」
 
 
 という事情もあって、おそらくそれはあまりに「羽生世代」の将棋や思想昭和の価値観とちがいすぎたから。
 
 今で言う「AI否定論者」の見せるアレルギー反応と、新しい時代からの「侵略」を恐れる心理のようなものだったのかもしれないが、その意味でも両者負けられない勝負。
 
 まさに実力だけでなく、プライドもかけた「新旧最強者対決」だったのだ。
 
 この大一番、大山おなじみの振り飛車に、羽生が棒銀で対抗。
 
 中盤のねじり合いから、双方飛車が成りこんで難解な終盤に突入。
 
 を詰めた羽生が、今度は玉頭から襲いかかるものの、受けに定評のある大山のは重く、なかなか決め手をあたえない。
 
 むかえた、この局面。
 
 
 
 
 
 
 ▲75にいた△83を取り、後手が△同銀と応じたところ。
 
 自然な▲同香成△同角当たりで攻め切れない。
 
 ▲75金と厚くせまる手が見えるが、解説によると、ここに駒を使っては戦力不足になってしまうとのこと。
 
 攻め手が見えず、いかにも「受けの大山」のペースのようだが、ここで羽生が見せたのが、後手の守備網を問答無用で突破する、力強い1手だった。
 
 
 
 
 
 
 
 ▲66銀と出るのが、若き日の羽生が見せた、すばらしい進撃。
 
 守備の駒を、グイと前線に押し出すこの手によって、後手はどうにも身動きがつかないのだ。
 
 △53銀と引くが、続けて▲75銀とさらにくり出すのが、強烈すぎるショルダータックル。
 
 
 
 
 
 
 この上部からので、後手玉はシビれている。
 
 大名人の肋骨を折らんばかりに壁に押しつけ、モハメドアリなら
 
 
 「オレの名前を言ってみろ!」
 
 
 そう叫びそうな場面ではないか。
 
 以下、△72銀の必死の防戦に、▲74銀と取って△同歩▲83香成△同銀に、▲84銀の頭突きが、とどめの一撃。 
 
 
 
 
 
 △同角▲71角
 
 △同銀▲72金から、それぞれ詰み
 
 本譜△72銀打の受けにも、▲73金と打ちこんで詰んでいる。
 
 攻めあぐねて見えたところから、▲66銀から▲75銀の流れは見事で、まさに勝利への階段をあがるかのよう。
 
 ここで勝って、問答無用で自分を認めさせた羽生は、挑戦者決定戦でも、森下卓五段相手に2連勝し、ついにタイトル戦に初登場。
 
 七番勝負でも、先輩である島朗竜王とフルセットの激戦を制して、見事初タイトルを獲得。
 
 「100」への偉大なる第一歩を踏み出すこととなるのだ。
 
 
 (佐藤康光「三冠王」への挑戦編に続く→こちら
 
 
 
 
 
 

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