「《スカタン》って将棋用語としても使いますけど、意外と解説とかで言う機会ないんですよね」
以前、将棋のネット中継での解説で、ある若手棋士がそんなことを言っていた。
「スカタン」とは、『デジタル大辞泉』によると、
1・予想や期待を裏切られること。当てはずれ。「すかたんを食わされる」
2・見当違いなこと、間の抜けたことをする人をののしっていう語。
とんま。まぬけ。すこたん。「このすかたんめ」「すかたん野郎」
要するに私のような存在を指す言葉である。だれがやねん。
そんな「スカタン」は将棋でも使うことがあって、まさに
「いい手と思って指したら、とんだ尻抜けで、大事な駒などがまったく働かなかったり、戦場から取り残されたりする状態」
昭和の用語かと思ってたら、若手棋士の口から突然出てきたので、知ってるんやーと、たいそう印象的だった。
そんな「スカタン」で思い出すのは、まずこの将棋。
1989年の第20期新人王戦。
日浦市郎五段と中川大輔四段で争われた、決勝3番勝負の第2局。
日浦の先勝を受け、後のなくなった中川だったが、相掛かりの後手番で苦しい戦いを強いられてしまう。
むかえたこの局面。
中川が△54香と打ったのに、日浦が▲48金と受けたところ。
後手は飛車を奪われ、自陣にも火がついてあせらされている。
一目は△36金と打って、▲29飛(▲16飛もある)に△37金と食いちぎって、▲同銀、△66桂とかせまりたいが、攻撃の形に含みがなく単調で、見た目ほどには威力がない。
なにかひねり出したい場面だが、ここで中川はどうしたのか、まさかという手を指してしまうのだ。
△39金と打ったのが、典型的な「スカタン」。
次に、△38金と取って、▲同金に△57桂成がねらいだが、自然に▲27銀とかわされて、これ以上ないくらいの大空振りである。
中川ほどの強者がまさかというか、それこそルールをおぼえたての初心者がやらかしそうな失敗。
そもそも△38金から△57桂成のねらいも、これまたあかららさまでとても通るとは思えず、やはり後手が苦しいが、この金でそれが決定的に。
秒に追われたか、それともなにか打開策はないかと必死に考えていた中、エアポケットにおちいってしまったか。
この手に対して日浦は
「この金を見て、負けられないと思った」
と語ったが、さもあろう。
プロ将棋ではなかなか見ない愚形で、冒頭の若手棋士が「使う機会がない」というのも、そもそも強い人の将棋だと、めったに表れないからだろう。
だからこそ、「こんなこと、あるんやなー」と今でも記憶に残っているのだ。見事な「スカタン」である。
将棋の方はこのまま日浦が勝ち、見事に新人王戦優勝を決めるのであった。
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