禁断の位置「一段金」 日浦市郎vs中川大輔 1989年 第20期新人王戦 第2局

2024年02月11日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 「《スカタン》って将棋用語としても使いますけど、意外と解説とかで言う機会ないんですよね」

 

 以前、将棋のネット中継での解説で、ある若手棋士がそんなことを言っていた。

 「スカタン」とは、『デジタル大辞泉』によると、

 


 1・予想や期待を裏切られること。当てはずれ。「すかたんを食わされる」

 2・見当違いなこと、間の抜けたことをする人をののしっていう語。
  
 とんま。まぬけ。すこたん。「このすかたんめ」「すかたん野郎」


 

 
 要するにのような存在を指す言葉である。だれがやねん。

 そんな「スカタン」は将棋でも使うことがあって、まさに

 

 「いい手と思って指したら、とんだ尻抜けで、大事な駒などがまったく働かなかったり、戦場から取り残されたりする状態」

 

 昭和の用語かと思ってたら、若手棋士の口から突然出てきたので、知ってるんやーと、たいそう印象的だった。

 そんな「スカタン」で思い出すのは、まずこの将棋。

 



 1989年の第20期新人王戦

 日浦市郎五段中川大輔四段で争われた、決勝3番勝負の第2局

 日浦の先勝を受け、後のなくなった中川だったが、相掛かりの後手番で苦しい戦いを強いられてしまう。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 中川が△54香と打ったのに、日浦が▲48金と受けたところ。

 後手は飛車を奪われ、自陣にも火がついてあせらされている。

 一目は△36金と打って、▲29飛(▲16飛もある)に△37金と食いちぎって、▲同銀△66桂とかせまりたいが、攻撃の形に含みがなく単調で、見た目ほどには威力がない。

 なにかひねり出したい場面だが、ここで中川はどうしたのか、まさかという手を指してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 △39金と打ったのが、典型的な「スカタン」。

 次に、△38金と取って、▲同金△57桂成がねらいだが、自然に▲27銀とかわされて、これ以上ないくらいの大空振りである。

 

 

 

 

 中川ほどの強者がまさかというか、それこそルールをおぼえたての初心者がやらかしそうな失敗。

 取り残された△39が、あまりにもヒドイではないか。

 そもそも△38金から△57桂成のねらいも、これまたあかららさまでとても通るとは思えず、やはり後手が苦しいが、この金でそれが決定的に。

 に追われたか、それともなにか打開策はないかと必死に考えていた中、エアポケットにおちいってしまったか。

 この手に対して日浦は

 


 「この金を見て、負けられないと思った


 

 と語ったが、さもあろう。

 プロ将棋ではなかなか見ない愚形で、冒頭の若手棋士が「使う機会がない」というのも、そもそも強い人の将棋だと、めったに表れないからだろう。

 だからこそ、「こんなこと、あるんやなー」と今でも記憶に残っているのだ。見事な「スカタン」である。

 将棋の方はこのまま日浦が勝ち、見事に新人王戦優勝を決めるのであった。

 


(異筋の金が好手になるケースはこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)


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