Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§151「読書について」 小林秀雄, 1939.

2022-06-05 | Book Reviews
 知りたいことや分からないことはネットで検索すれば、すぐに答えを得ることができるようになると、時間がかかる読書の価値は薄れてしまうような気がします。

 また、その答えなるものを、答えとして認識してしまえば、「それは、いったいどういうことなのか?それは、なぜそうなのか?」なんて、考えることの価値さえも薄れてしまうような気もします。

 でも、作者が本に記した眼前の言葉を読むことを通じて、「なぜそう書いたのか?なぜそう書くに至ったのか?そして、その作者はいったいどんな人なのか?」という問いかけを重ねることが読書の価値であると、小林秀雄は記しています。

「書物が書物には見えず、それを書いた人間に見えて来るのには、相当な時間と努力とを必要とする」(p.13)

 ひょっとしたら、その問いかけを積み重ねることが考えることにほかならず、その言葉の力によって世界のみならず自らの在りようをも学ぶことができるのかもしれません。

「間に合わせの知識の助けを借りずに、他人を直に知ることこそ、実は、ほんとうに自分を知る事に他ならぬからである」(p.15)

 そして約65年の時を経て、池田晶子もまた同じように記しているような気がします。

「私が言葉を語っているのではなく、言葉が私を語っているのだと気がつく瞬間というのは、人間にとって、少なからぬ驚きである」(§147「新・考えるヒント」p.49, 2004.)

(余話)この短編は2003年出版された短編集に収録され、小林秀雄の影響を受けた木田元がその解説を寄稿しています。

初稿 2022/06/05
写真 「モリソン文庫」 東洋文庫, 1917.
撮影 2022/06/04(東京・本駒込)
初出 「文藝春秋」, 1939.
発行 中央公論新社, 初刷 2013/09/25.


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