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BL小説・風のゆくえには〜おうちで誕生日

2020年04月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

 勤め先の学校でも、交代で在宅勤務をすることになって3週間になる。
 今日は6回目の在宅勤務日。慶の誕生日である今日になったのは、日程調整会議の時にそうなるようにさり気なく誘導したからだ。……ということはバレてないはずだ。

 在宅勤務時の仕事の一つに、生徒の健康確認がある。

『おはよーございまーす』
「おはよう。元気?」
『元気元気ー』

 朝、6時半。
 幼稚園の休園の影響で出勤できなくなった主婦パートさんの代わりに、毎日一日中アルバイトをしている、という生徒が、「ビデオ通話できるのは朝だけ」というので、朝っぱらからかけている。

「宿題、進んでる?」
『うん!もちろん!』
「そう。良かった」

 明るい声にうなずきかけると、画面の向こうの女子高生が、プッと吹き出した。

『嘘に決まってるじゃーん』
「え、嘘なの?」

 もちろん、嘘だろうとは思ったけれど、そんなことはおくびにも出さず、眉を寄せて言ってやる。

「そんなにバイト忙しいの?大丈夫?」
『大丈夫大丈夫』

 えへへ、と笑う彼女は確かに元気そうだ。以前から家計のために学校帰りに毎日アルバイトをしている子で、「体力だけは自信ある」と豪語していたけれど、でも、無理は禁物。

「あまり無理しないでね」
『はいはーい』
「また来週、電話かけるからね?」
『はーい』

 バイバーイと手を振った画面に手を振り返す。

 本当は、「勉強もしなさい」といいたいところだけれども、今できることを頑張っている子に向かって、それ以上の要求をするのは酷だ、と思ってしまうおれは、教育者としては甘いのだろうな……

 ふうっと思わず大きなため息をついてしまったところで、

「こーすけせんせー」
「え、わ」

 いきなり、横から抱きつかれた。あたたかい、愛おしい、ぬくもり。

 寝室との仕切りの襖が閉まっているから大丈夫かと思ったけれど、うるさかっただろうか。

「慶」
 抱きしめ返しながら、そのフワフワした髪に顔を埋めて聞いてみる。

「ごめんね、起こしちゃった?」
「いや、寝たの早かったからな。どのみち目、覚めた」

 毎年、誕生日の前日は日付が変わるまで起きていてくれるけど、今年は「早く寝て」とおれが頼んだのだ。医師である慶は、今、連日、神経も体力もすり減らして働いている。元々寝付きは良いけれど、今はもう、ベッドに横になった途端、スイッチが切れたように速攻で眠ってしまう。

「寝足りなくない?もっとゆっくり寝てればいいのに」
「もったいないからいい」
「そう?」

 せっかくの休みだし、やりたいことでもあるのかな?
 でも、今は院長から「休みの日は仕事のことは一切考えるな」と厳命が出ているそうなので、仕事はしないはずだ。スポーツジムは休業中なので、ジョギングとかかな?

「慶、ケーキ予約してあるから、夕方取りに行こうね?」
「おーやったー」

 グリグリグリ、と胸のあたりに額を押し付けてくる。甘えっ子みたいで、ものすごく、可愛い。慶は自覚してないだろうけど、仕事が大変な時ほど、慶はこうして甘えてくる。甘えてくれることが嬉しい。愛しくてしょうがない。ぎゅっと抱きしめながら、耳元で聞いてみる。

「プレゼントどうしようか? 結局、決めてないね」
「それな!」

 いきなりパッと顔を上げた慶。
 もう見慣れたマスク姿。おれも慶も、お互いが家にいるときには、家の中でもマスクをしている。おれの母親が作って送ってくれた、立体の布マスクだ。内側がガーゼなので、つけ心地はすごくいい。気休めかもしれないけれど、それでも、少しでも万が一の危険を減らしたい今、送ってくれた母には感謝だ。

「プレゼントはー」
 慶は、イタズラそうにその瞳を輝かせると、変なことを言った。

「もう、もらった!」
「え」
「で、今日、これからももらう!」
「? 何を?」

 何を言ってるんだろう?

 ハテナハテナハテナ?としたおれの腕を、慶は何故かツンツンツンと突き……

「せんせー。こーすけせんせー」

 ニヤニヤしてる……。そういえば、さっきもそれ言ってたな……

「何それ?」
「嬉しい」
「え」

 嬉しい?

「お前が先生してるの見れて、嬉しい」
「え……」

 そういえば、昔、言ってくれたことがある。「お前が先生してるところ見るの好き」って……

「日本に帰ってきてから全然だったもんなー。なんかスゲー得した気分。もったいなくて寝てらんねー」
「…………」
「おれは今日一日、お前の先生姿を堪能するって決めたからな。ヤダって言ってもダメだからな。それがプレゼントだからな!」

 それが……そんなことが、誕生日プレゼント?

「昼飯はおれに任せろ。お前、在宅なんだからな」
「でも慶、せっかく誕生日……」
「だから」

 また腕をツンツン指で突かれる。

「今日一日、浩介先生見せろ」
「でも……」

 見せろと言われても…

「電話はあと4人にしかかけないよ? あとは課題のプリント作りするだけで……」
「いいからいいから!」

 慶が言う。昔と変わらない眩しい瞳。

「働いているお前、見たい」
「…………」
「お前のことは全部、知りたいからな」
「………慶」

 それ、高校一年生の時も言ってくれたね。……なんて、どうせ覚えてないだろうから言わない。

「…………。朝ご飯はおれに作らせてね? せっかくの誕生日だから、ちょっと豪華に、と思ってたんだ」
「おーやったー」

 ぎゅっと抱きついてくれた慶をぎゅっと抱きしめ返す。

「お昼はお言葉に甘えて慶にお願いするとして……夜は駅近くのステーキ屋さんなんてどう? こないだから持ち帰り始めたっていうから」
「おー、あそこ旨いよな!いいなー」
「うん」

 ぎゅっぎゅっとする。

「今年はおうちで誕生日、だね」
「おお」

 何年も何十年もお祝いしてきた誕生日。

「慶。お誕生日、おめでとう」

 今年も一緒にお祝いできる幸せに、心から感謝する。


---

お読みくださりありがとうございました!

慶君誕生日記念。
今頃2人は浩介特製の「豪華な朝ご飯」を食べているところです。いいな〜〜✨
そして今日は一日中、慶に仕事してるところを見られる浩介。慶、ニヤニヤしてるし、仕事やりずらいだろうな〜〜。

慶と浩介、今は寝室別々です。浩介がリビングに布団引いて寝てます。食事も向かい合わず、並んでしています。
エッチはお風呂で抜き合うか後背位……ってそこまでバラすなって慶に怒られるー(^_^;)

そんな感じで……
こんな不定期更新にお付き合いくださり本当にありがとうございました。

更新していない間もクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうございます。おかげでこの場に戻ってこられてます。

明けない夜はないと信じて。
どうか皆様、くれぐれもご自愛ください。


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BL小説・風のゆくえには〜何千日の日常(ブログ開設5000日記念)

2020年04月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

2006年8月10日

↑このブログを開設した日にちです。
あっという間に明日で5000日です。
お付き合いくださいました皆々様、本当に本当にありがとうございます。

せっかくなので、5000日前の主役二人の話を書こうと思い、確認しましたら……

この日ちょうど、浩介が「発作を起こして嘔吐した」頃なのでした…

せっかくのブログ開設記念日だというのに、間が悪い浩介らしいというかなんというか!!

でも、せっかくなので、書きます。
「風のゆくえには〜翼を広げて」のネタバレになります。
   
2006年8月
場所はミャンマーのとある町
作中、翼を広げて・後日談4.1 あたりになります。



【浩介視点】

 気がつくと、医務室のベッドで寝ていた。ここまでどうやって来たのかまったく記憶がない。誰かに運ばれたのだろうか……

(あの時……)

 校門の前での子供達の見送りが終わって、校舎に戻ろうとした時。
 通りの先に、母に似ている人を見かけて……。でも、

(……違う)

 一瞬、ゾワッとしたものの、すぐに母ではない、と気がついた。気がついたのに……

(どうしよう)

 もし、万が一、母に見つかったらどうしよう、という考えに支配されてしまった。

 せっかくあと2ヶ月後には、慶と一緒に暮らせるのに、もし、万が一、見つかったら………

(いや、大丈夫)

 大丈夫。大丈夫だ。そのために、おれはまだケニアにいるっていう小細工までしたんだ。だから大丈夫。大丈夫。大丈夫……

(……っ)

 瞬間、一気に周りから空気が消えた。
 身体が圧縮されていくような感覚に陥って、胃が押されて吐きそうになって、苦しくて、苦しくて……

(慶……慶)

 ひたすらに、慶を、おれの光を、温かいぬくもりを思い出して、ただ、ひたすらに、慶の瞳を、慶の腕を……

 それで……

 記憶が定かではないけれど、おそらく嘔吐したのだろう。口の中が気持ち悪い。起き出して、置いてあったコップの水をもらう。少しすっきりする。

 コップの中で揺蕩う水に、慶の瞳が重なる。美しい湖みたいな瞳。

「慶……」

 声に出して呼んでみる。慶……

 ただそれだけで、空気が清涼になる。ただそれだけで、身体中に愛しさが溢れる。ただそれだけで…………

「『ケイ』って何?」
「!?」

 いきなりの背後からの声に飛び上がってしまった。
 振り返ると、金髪美女が小首を傾げて立っている。精神科医のイザベラだ。

「浩介、倒れた時にもずっと言ってたけど、それ、呪文か何か?」

 グレーの瞳が観察するようにこちらを見ている。

「……迷惑かけて申し訳ない」

 質問には答えず、頭を下げると、イザベラはちょっと笑って肩をすくめた。イザベラに親近感を覚えるのは、そういう表情が友人のあかねに似ているせいだろう。

「別に迷惑なんかじゃないけど……浩介の発作、聞いていた話より、重症なことが心配」
「……大丈夫だよ」

 それはたぶん、2ヶ月後から始まる慶との生活が楽しみ過ぎて、それが奪われることへの恐怖が倍増しているせいだろう…という自己分析はしている。

 でも、それも、慶が来てくれたら、大丈夫になる。

「あと2ヶ月したら落ち着くから、大丈夫」
「ふーん?」

 イザベラはまた肩をすくめると、

「それじゃ、あと2ヶ月、頑張って?」

と、軽く、なんでもないことのように言った。その適当さが有り難い。そんなところもあかねに似てる。

 明日はちょうど、夏休み中のあかねがこちらに遊びに来ることになっている。イザベラとあかねは気が合いそうなので、引き合わせるのが楽しみだ。

 慶とイザベラを会わせることも楽しみだ。きっとイザベラは、慶のあまりもの美しさにビックリするに違いない。他の職員達もおれの生徒達も、すぐに慶のことを好きになるだろう。

 そんなことを思えることが、少しくすぐったい。友人も作れず学校生活もまともに送れず、母に叱られ続け、父に冷たい視線を向けられ続けていたこのおれが、友人を紹介する。学校の先生をしている。

(全部、全部、慶のおかげだ)

 慶。

 ケイ。おれの、呪文。

***

 慶から電話があったのは、それから5日後のことだった。余計な心配をかけたくないから、発作のことは、あかねにも事務局長にも口止めしてある。だから、その件ではないとは思うけど、タイミングが良すぎて焦ってしまった。

「なんかあったか?」

 勘良く、慶に言われてますます焦ったけれど、何とか普通に返す。

「うん。慶ともうすぐ一緒に暮らせると思ったら嬉し過ぎて頭おかしくなってる」
「なんだそりゃ」

 アホか。と、昔と変わらない口調で言ってくれる慶が愛しくて愛しくて、たまらない。

「まあでも、ホント、もうすぐだな」
「うん」
「あともう少し、待ってろ」
「うん」

 心地良い慶の声に包まれる。

「それから先は、ずっと一緒だからな」
「うん」

 ずっと一緒。
 これから先、何日も何百日も何千日も。
 一緒にいることが当然の日々が、続いていく。


---

お読みくださりありがとうございました!
これから約5000日後の現在も、二人は一緒にいます。当然のように。

コメントで教えていただいた、4月8日の「ピンクムーン」の夜も、浩介が慶を駅で待ち伏せ(?!)して、月の光の下を一緒に歩いて帰ってきたのでした。

今世の中は、当然だった日常からかけ離れておりますが…
今できる最良の道を選んで、また日常が戻ってくることを信じて、慶と浩介も、二人で一緒に、乗り越えようとしております。
そうそう、裁縫上手な浩介ママが二人分のマスクを5セット作って送ってくれましたよ!
浩介とお母さんとの関係が前とはまったく違うことが嬉しいです。

更新のない間もクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!心より感謝申し上げます。

こんな不定期更新にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
皆様もどうぞご自愛ください。


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