高校2年生1月末のお話です。浩介視点で。
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5時間目の英語は小テストからはじまった。
小テスト、というわりには、結構長めの長文問題もあり、歯ごたえはある感じ。
……と思ったけれども、早々に終わってしまって、2回見直しした時点で、終了時間まで10分以上余ってしまった。
(慶、大丈夫かな……)
斜め前方に目をやる。おれの席の3つ前の左隣、一番前の一番窓際の席に、おれの愛しい人が座っている。
おれ達が親友という関係にプラスして、恋人にもなったのは一か月ほど前のこと。でも、みんなには内緒にしている。おれが慶を好きなことは隠していないけど、みんなは冗談だと思っているみたいだ。
まあ、恋人っていっても、今までの親友関係とたいして変わらなくて、変わったことといえば、時々キスするようになったことくらいで……。
(慶……)
絵のように美しい慶。冬の日射しに照らされた白皙。少し茶色がかったフワフワの髪。見とれてしまう。
慶は左手で頬杖をつき、右手でシャーペンをプラプラと揺らしていたが、やがてそのプラプラが止まってしまった。
(……慶、寝てる……?)
考えるために目をつむっているのか、眠っているのか判断しかねるところだ。
ただ、昼休みも、しきりと眠い眠いと言っていた。昨日の晩、遅くまでテレビを見ていたとかで……
(あ)
がくんっと頭が下がった慶。だけど頬杖をやめる気配も何か書きだす気配もない。
ただでさえ、慶は英語の長文が苦手だ。解いているうちに寝てしまった可能性は高い。
(どうしよう……)
残り8分……
「先生」
テストの邪魔にならないよう小さく手をあげると、今年教師なりたての祥子先生が「どうしたの?」とやってきてくれた。
「トイレ行きたいんですけど……」
「提出してからならいいわよ」
「はい」
先生にテストをおしつけ、立ち上がる。
そのままゆっくり慶に近づくと……案の定、長文の3問目から答えが空欄になっている。でもここで声をかけたらまずいよな。どうしよう……
頭を素早く巡らせた結果、通りすがりに左手を慶の机の上ですべらせた。
「あ、ごめん」
なるべく自然な形で、慶の筆箱を下に落とす。ぽとっと落ちた筆箱を、しゃがんで拾って慶を見上げたが、
(じゅ、熟睡?! これでも起きないなんてっ)
慶は頬杖をついたまま、まだ寝ている。キスしたくなるような無防備な寝顔の慶……。
(可愛すぎだ……)
立ち上がって、筆箱を机の上に置き、そのままその手を慶のあごにかける。親指でそっと唇をなでると、
「………あれ?」
慶がぼんやりと目をあけた。
「浩介? ……あれ?」
ようやく起きたらしい。寝ぼけた慶も抜群にかわいい。ああ、このままキスしたい。
と、思ったけれど、
「ちょっと、桜井君。トイレ行くんじゃなかったの?」
祥子先生が眉を寄せて立っている。
「まさか、答え教えてあげたりしてないでしょうね」
「あ、いえいえ」
手を離して、首を振る。
「渋谷君があまりにも可愛かったのでキスしようとしただけです」
「キ……っ」
慶の顔が途端に真っ赤になり、まわりの数人がクスクス笑いだした。
「もう、バカなことしてないで、さっさとトイレ行きなさい」
「はーい」
あきれ顔の祥子先生の横を通り抜け、教室の出口へ向かう。出るときに振り返ると、慶がムーッと鼻に皺をよせこちらを見ていた。その顔もかわいい。その鼻の頭にキスしたい。
(がんばって)
声には出さずに言って手を振ると、慶も声をださず「ばーか」と返して、イーッとした。もう、ホントにもう、かわいすぎる。
ドアを閉めふり仰ぐ。2年10組のプレート。あと2か月でこのクラスともお別れだ。
おれは文系コース、慶は理系コースに進むので、3年では絶対にクラスがわかれてしまう。
そっと窓からのぞくと、慶は今度は真面目に長文に取り掛かっていた。こんな姿を見れるのもあと少し……。
今のうちに目に焼きつけておこう……と思ったら、
「桜井くん」
さっさといきなさい。と祥子先生にシッシッと手で追いやられてしまった。残念。
後日返された小テスト、結果は、おれはもちろん100点だったが(このくらいのテストで100点取れなかったらおれは生きていけない)、先生から「本当はふざけてた分、マイナスしたいくらいだからね!」と怒られた。
一方の慶は、92点。なんとか長文を解くのも間にあったそうだ。
「起こしてくれてサンキューなー。あれあのまま寝てたらあと10点は低かった」
「どういたしまして」
帰り道のいつもの川べり。土手に並んで座って話していたら、慶があの時イーッとしたのも忘れたようにニコニコといってくれた。イーッてした顔もニコニコした顔もどちらも可愛い。
「お礼にジュースおごるぞ」
「んーいいよー。ジュースよりもさ」
慶の手をとり、顔をのぞきこむ。
「お礼にキスして?」
「…………」
途端に真っ赤になる慶。慶はえーとかあーとか言って、しばらくうんうん唸っていたけれど、やがて観念したように、ぼそっと言った。
「目つむれ」
「うん」
素直に目をつむる。するとキョロキョロとまわりを見渡しているような気配のあと、
「………っ」
ちゅっと軽く唇が合わさった。ああ…柔らかくて気持ちいい……大好きな慶の唇。慶からのキス。嬉しい。
目を開けると、慶がこれでもかというくらい真っ赤な顔をしてうつむいていた。
「慶……」
「あーッ、もう恥ずかしいっ」
慶は立ち上がると「帰るぞっ」と言ってずんずん土手をのぼっていってしまった。
「慶ー待ってよーもう一回!」
「しねえよっばーかっ」
「なんでー!もう一回ー!!」
「ばかっあほっ」
慶がプンプン怒りながら歩く後ろを追いかける。
この姿も覚えておこう。いつまでも覚えておこう。
「慶」
「あ?」
おれ達、こうしてずっと一緒にいられるのかな……
その言葉は胸にしまって。
「大好きっ」
「な……っ」
後ろから抱きつくと、慶が慌てて離れようとする。
「お前っこんな往来でーっ」
「誰もいない誰もいないっ」
大好きな慶を抱きしめる。
これからもずっと一緒にいられますように。クラスが変わっても一緒にいられますように。受験が本格化しても一緒にいられますように。
たくさんの願いをこめて、ぎゅうぎゅうぎゅうっと抱きしめた。
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以上です。
高校生の二人。付き合いたての二人。
初々しい! かわいい! まだキスも軽いのしかしたことないのね。
この1ヶ月後が「R18・初体験にはまだ早い」になります。こうしてどんどん大人の階段のぼっていくのね~。
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
注:具体的性表現入ります。苦手な方ご注意ください。
桜井浩介:教師。身長177cm。物腰やわらかな平均的男性。内面は病んでる。
渋谷慶:小児科医。身長164cm。超美形。中性的な顔立ちに反して性格は男らしい。
二人はずっと東南アジア某国で暮らしていましたが、ようやく日本に帰ってきました。
今日は、クリスマスイブイブ。二人が付き合いはじめた記念日でもあります。
(「あいじょうのかたち」がはじまる直前の話になります)
慶の妹南ちゃんが、横浜みなとみらい地区にあるとあるホテルの予約を譲ってくれました。
久しぶりの日本!久しぶりの横浜の夜景!これはもう盛り上がるしかないでしょ~~。
浩介視点でいきます。
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『風のゆくえには~R18・聖夜に啼く』
久しぶりの日本。久しぶりのみなとみらい。色々と変わっていたので、慶と一緒に間違い探しをしながら方々歩き回った。
今は、観覧車が見えるホテルの一室にいる。
慶の妹の南ちゃんが、旦那さんと来るはずだったのが急に都合が悪くなったそうで、予約を譲ってくれたのだ。そうでなければ、クリスマスイブ前日にこんな良いホテル、予約なんて取れるわけがない。
無駄に広いベッド。窓から観覧車が見える浴室。これ一泊何万するんだろう……。
「帰国祝いのプレゼントだってよ。有り難く受け取ろうぜ」
慶はご機嫌で鼻歌なんか歌ってる。慶が鼻歌なんて、すごく珍しい。
歌っているのは、恋人がサンタクロース。
散策している最中に、おれたちが日本を離れていた間にできた新しい商業施設の中で、聖歌隊の子供たちのステージをみたのだ。
ツリーの前に人だかりができているのを不思議に思って近づいていき、そのままそこで二人釘付けになってしまった。
なんて澄んだ綺麗な声!
クリスマスソングからはじまり、途中で日本のポップスの曲も入り、今年大流行したディズニー映画の歌まで歌ってくれた。
「日本に帰ってきたんだな……」
ポップス曲を聴きながら慶がポツンとつぶやいたのを聞いて、胸が締め付けられた。おれのせいでずっと帰ってこられなかったんだもんな……。
「慶……あの」
「おれこの曲好き」
「え」
暗い気持ちに沈みそうになったところ、いきなり手を掴まれ、その手を慶の手ごとダウンジャケットのポケットに入れられた。ポケットの中でつながる手。みんなステージに目を奪われているから、慶がおれのポケットに手を入れてるなんて気がつかないだろう。
ギュッとポケットの中で手を握ってくれる慶……。愛おしい……。
最後はきよしこの夜を皆さんで歌いましょう、と言われ、2人して真面目に歌ってみた。
子供たちの穢れのない歌声に皆が包まれていく。
キリスト教徒でもなんでもないのに、今、神様に感謝したい。と心から思った。
神様、感謝します。慶と出会わせてくれて、慶と一緒にいさせてくれて。これからも愛しいこの人と共に生きていけますように………
「これ、観覧車から見えてねえのかなあ」
ふと鼻歌をやめて、つぶやいた慶。湯船に浸かりながら大きな窓から外を見つめている。煌びやかな夜景をバックに、完璧な裸体が揺蕩っていて、まるで映画のワンシーンのようだ。
「んーよっぽど窓に近づかない限り大丈夫なんじゃない?」
いいながら、慶の背中の方から足を入れる。
「夜景、綺麗だね。空に浮いてるみたい」
「キラキラしてるな」
キラキラしてるのは慶も同じだけどね……。
思いながら、湯船の中で背中からぎゅうっと抱きしめると、
「……こういうの、すっげー久しぶりだな」
慶が絞り出すようなため息と共に言った。
「うん。やっぱりお風呂はいいね」
夜景を見ながら、空の向こうに思いを馳せる。
とうとう、日本に帰ってきてしまった……。
でも、大丈夫……おれの腕の中には慶がいる……。
「慶……さっき歌聴いてる時さ…」
慶の細い指を湯船の中で探し出し、絡ませて繋ぐ。
「手、繋いでくれたの、すごく嬉しかった」
「ああ……」
慶がおれの手を取り、指を噛むように口づけてくれる。
「なんかどうしても手繋ぎたくなったんだよ」
嬉しい。慶が照れたようにうつむいたので、白いうなじが晒された。
「手だけ?」
その色っぽいうなじに唇を添わせると、慶がピクリと震えた。
「んん……っ」
慶のこらえるような声。
慶は声を抑えることが癖になってしまったようだ。この8年、外に漏れ聞こえることを心配して、夜の生活の音は極力しないように心掛けていた影響だろう。
「ねえ、慶……声、聞かせて?」
「ん……っ」
お湯の中で慶のものを優しく掴む。もうすでに固くなっていた。
「慶の声、聞きたい」
「……んなこと言われても」
熱い吐息を吐きながらも慶が冷静に言う。
「声なんか出そうと思ってでるもんじゃねえだろ」
「なんで。日本にいたころはいつもイイ声で喘いで……」
「ああ?」
あ、しまった。慶の眉間にシワが寄った。
「何だって?」
「あー……あの……」
おれが答えるよりも早く、慶はざばっとおれの手から離れ、立ち上がった。
怒らせてしまった……?
慶はそのまま行ってしまうのかと思いきや、くるりとこちらを向き、心配して慶を見上げていたおれの方へ身をかがめた。
「え……」
慶の柔らかい唇が下りてくる。味わうように唇を吸い込んでくる慶……。
でも、舌を絡めたくて、そちらに割り入ろうとしたところで、すっと身を引かれてしまった。
「慶……っ」
つんのめりながら慶の腕をつかんだが、慶はスルリと湯船から出ていってしまった。
(ああ、せっかくの夜景が見えるお風呂。もっとここでイチャイチャしてたかった……)
内心グルグルしていたら、慶がバスロープをはおって戻ってきた。
「慶?」
慶は浴槽から窓まで続いているスペースに身軽にのぼると、そこにあった石鹸やタオルを横によけて、こちらをむいて腰をかけた。
「お前、そんなこと言うならな……」
そして、湯船にいるおれの肩に片足をのせ、ジッとおれのことを見つめてくる。
吸い込まれそうな瞳。目が離せない。
慶の足がすいっと動いた。足の指で頬をなでられゾクゾクする。
「そんなこと言うなら……」
慶は挑発的な瞳で、ささやくように続けた。
「イイ声で啼かせてみろよ?」
「………」
夜景を背にした美しい姿……空に浮いているみたいだ。白いバスロープのせいで余計に天使のように見える。おれだけの天使。
足の指に口づける。慶は足の指まで美しい。長くて細くて……舌を使ってしゃぶると、ビクビクっと慶が震えた。
そのままふくらはぎ……膝の後ろ……太腿……と唇を上に這わせていく。
バスロープの前をはだけさせ、足を押し広げる。のけぞった慶の白いあごが、窓にうつる……
「慶……」
そっと陰嚢を包み込む。慶から滴が垂れはじめているけれど、わざとそこには触らず、まわりにだけ舌を這わせる。
「……んっ」
小さく慶がうめいた。腰が浮いているのに気が付かないフリで、太腿にキスを続けていると、
「こう……っ、じらすな……っ」
「んー」
慶の文句に内心嬉しくなって、わざと足の指に唇を下ろす。
「んん……っこう……っ」
「うん………あ」
急に窓の外が明るくなったのに驚いて唇を離した。観覧車のイルミネーションがはじまったのだ。15分ごとに花火のようなイルミネーションが見られるのだが、毎時00分は5分間あるらしい。
「ほらほら、慶、さっきはすぐ終わっちゃったけど、今回は5分あるからたくさん見れるよ」
「あ……ほんとだ」
慶が観覧車を見るために、窓の方に体をむけた。その白い頬にイルミネーションが映りこむ。ああ、なんて綺麗な……
「慶……」
「ん………っ」
腰を掴み、四つん這いにさせると、慶の引き締まった尻の間の無防備な場所が、おれの前にさらけ出された。
イルミネーションに照らされるそのあられもない姿にどうしようもない興奮がかきたてられる。ここに自分の欲望を突っ込みたい。奥まで突きあげたい。……自制がきかなくなりそうだ。
少し冷静になり、後ろから手を回して、慶の滴を指でのばす。
「あ………っ」
慶がのけぞる。
滴で湿らせた指をうしろから差し込むと、慶はさらに仰け反った。
「こう……っ、指なんかでするな……っ」
「ダメ?」
「んんんっ」
指を奥まで入れてかき回しながら、前もゆっくり扱きはじめる。
「観覧車、綺麗だね。でも、こんな窓に近づいてたらさすがにあっちからも見えちゃうかな」
「ん………っ」
慶が観覧車から顔を背けようと体をねじった。その動きを利用して仰向けにさせる。
「でも慶は観覧車よりずっと綺麗」
「あ…………っ、んんっ」
慶の足を押し開き、慶の大きくなったものを口に含む。苦いような甘いような慶の味を舌で味わいながら、右手は後ろに入れたまま、左手は陰嚢を優しく揉む。
「あ………っ、こう……っ」
「声、聞かせて?」
しゃぶりながら、慶にいったが、慶はなぜかぶんぶん首をふった。
「いや……だっ」
「なんで。意地悪だなあ慶は」
「意地悪は、お前だろ……っ」
おれの指に突きあげられながら、慶が涙目でいう。
「お前のを入れろよ…っ。指なんかじゃイヤだ。声なんか絶対に出さねえ…っ」
「………慶」
「お前のが、ほしい…っ」
「………っ」
その目、その言葉だけで、イってしまいそうになる。破壊力全開だ……。
なんとか正気を保ちつつ、指を入れたまま慶の耳元に口を寄せる。
「じゃあ、入れたら声聞かせてくれる?」
「それはお前次第だろっ」
「……厳しいなあ」
軽くこめかみにキスをしてから、ゆっくりと引き抜く。ブルッと震えた慶……
ああ、かわいすぎる……
「なんかすごいプレッシャーなんだけど」
「なに今さら言ってんだよ」
「だって、これで慶が無言だったらさあ……。あ、終わっちゃった」
もう5分すぎたらしい。イルミネーションが通常の時計の秒針のみの点灯に変わってしまった。さっきまで眩しかったせいか、浴室の中が妙に暗く感じる。
「続きベットでする?」
「ここでいい」
「でも」
「さっさとしろ」
「…………」
いつもながらムードのない言葉。
ああ、さっきまでの盛り上がりは、イルミネーションの魔法だったんだろうか……
ブツブツ思いながら、こっそり浴室に持ち込んでいた潤滑ジェルの蓋を開ける。
この8年、南ちゃんが差し入れの荷物の中に毎回忍ばせてくれていたのだ。あちらでも売ってはいたのだけれども、相手もいないのに何買ってるんだ?と突っ込まれたら返答のしようもないので買えずにいたから、本当に助かった。
「お前、用意いいな」
「だって、観覧車のイルミネーションみながらしたかった……、んんっ」
慶がおれから容器を奪い取り、おれのものをぬるぬるとしたジェルで包んでくれる。萎えかけていたものが途端に固く大きくなっていく。
「だったらさっきなんで指でしてたんだよ?」
「んー、興奮しすぎて自制がきかなくなりそうだったから」
「なんだそりゃ」
慶は容器の蓋をしめると、自分の手についたジェルをバシャバシャと湯船で洗い、再び湯船横のスペースに腰をかけた。
「自制なんかするなよ? おれを満足させろ」
「だからそれがプレッシャーだっていうのに……」
「何言ってんだよ。いつもみたいにやりゃいいんだよ」
「いつもみたいに……」
ってことは、いつも満足してるってこと?
うわ……嬉しい。
「じゃ、遠慮なく……」
「ん……っ」
慶の白い脚を押し広げ、体の真ん中に自分の欲望を押し込める。指で慣らしてあった上に、ジェルのぬめりも手伝って、抵抗もなくズブズブと中に入っていく。慶は中まで熱くて引き締まっていて、おれを捉えて離さない。
「あ……っ」
慶の完璧に整った顔に苦痛の表情が浮かぶ。でも、これがすぐに快楽のゆがみに変わることをおれはよく知っている。
「慶……綺麗」
「あ……んん、夜景……?」
「夜景もだけど、夜景に浮かぶ慶がね……天使みたい」
「なに………んっ」
慶の太腿を強めに掴み、体を裂くように突き上げる。突き上げながら、慶がいつも一番感じるところを探しあてる。慶がいつも感じてくれるのは……
「……あっ」
慶の表情が変わった。ここだ。そのままそのポイントを外さないように突き上げ続ける。
「あ……っ、浩介……っ」
慶がイヤイヤというように首を振りながら、バスロープの端をぎゅうっと握った。かわいすぎる。
「慶……声、聞かせて?」
「んん……っ」
「慶………」
腰を動かし続けつつ、滴が浮かんでいる慶のものの先をなで、ゆっくりと扱きはじめると、
「あ………っ」
あああああ……っ
ようやく、堰を切ったように、慶の声があふれでた。
慶の、声……。
ようやく聞けた。慶の声。いつもの慶からは想像できない、色っぽくて、切ない、かすれた声。
興奮をかきたてられて、慶の中のおれがはちきれんばかりになってくる。
「慶……っ」
「んんん……っあ、浩介……っ」
涙目の慶が切なげにこちらを見つめ返してくる。
「慶、もう、限界……っ」
「一緒に……」
慶がおれの太腿に掴まりながら、足をシッカリと腰に巻き付けてくる。これじゃ外せないじゃないか……っ
「慶、そんなことしたら」
「中で出していい」
「でも」
「いいから……っ」
慶のあごが上がり、夜景に照らしだされる。白くて美しい……天使のようだ。
その天使の中に、欲望を吐きだすなんて……なんて冒涜。なんて魅力的な冒涜……
「ああ……慶……っ」
「あ……んんんっ、こう……っ」
浴室の中に喘ぎ声が響き渡る。お互いを呼ぶ声が交差してそして……
「ん……っ」
「慶……っ」
おれの手の中の慶が熱い熱を吐きだしたのと同時に、おれも必死にこらえていた欲望を一気に吐き出した。ドクンドクンと慶の中に吐き出されていく……。
「まだ」
「え」
あわてて抜こうとしたが、慶に絡めた足の力を強められ、動けなくなった。
「まだ。まだ繋がってたい」
「慶………、あ」
慶のかわいいセリフに胸が締め付けられたところで、再び外が明るくなった。15分のイルミネーションのはじまりだ。
「……綺麗だな」
「慶の方が綺麗だよ」
照らし出される慶の白い頬。本当に綺麗……
「ばーか」
慶が優しく笑ってくれる。少し枯れてる声。
ああ、本当に、日本に帰ってきたんだな……
頭の中で、聖歌隊の子供たちのクリスマスソングが鳴り響く。
一日早い聖なる夜に切に願う。どうか、どうか、この人とずっと一緒にいられますように……
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以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!
書きたかったシーンは、
・聖歌隊の歌を聴きながらポケットの中で手を繋ぐ
・夜景をバックに「イイ声で啼かせてみろよ?」という慶
でした。この二つを書くためになぜこんなに長くなる……
最近R18もの書いてなかったので、ついつい楽しくて……
---
クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!
どれだけ励まされていることか……画面に向かって声出して「ありがとうございます!」と叫んでます(マジです)。
感謝の気持ちでいっぱいでございます。
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この世の中に、慶とおれしかいなければいいのに。
そんなことをよく思う。
そうすれば、嫉妬したり嫉妬されたりせずに、ただ純粋に愛すること愛されることだけに溺れていられるのに………
慶は、素晴らしく美しい容姿をしている。ただ美しいだけではなく、人目をひくオーラを持ち合わせているので、どこにいても老若男女問わずちらちらと視線を送られる。でも、その中性的な容姿とは裏腹に、性格は男らしく一刀両断的。そのギャップが魅力的。わりと人懐っこいので友達も多い。
そんな彼が、こんなどこにでもいるような平凡なおれを一途に想ってくれている。想ってくれているだけでなく、おれに対する独占欲は凄まじく、ものすっごく嫉妬深い……なんて、誰も信じてくれないだろうな。
***
おれは毎週土曜日の二時から、心療内科の戸田先生の診療を受けている。
今日は、来週にせまった母親とのカウンセリングに向けて、最終調整を行った。
合同カウンセリング、本当は先月行うはずだったのだけれども、当日熱を出してしまい(精神的なものだったのか、カウンセリングの予定時間を過ぎたらすぐに下がった)、延期になっていたのだ。でも来週は慶にも同行してもらうので大丈夫だと思う。
慶は今日も仕事の昼休みを調整して、最後の方だけ顔をだしてくれた。
もちろん、来週のために慶は来てくれたのだけれども、本当の目的はたぶん違う……。
今日の診察の後、おれ達の高校時代の先輩である美幸さんのお子さんを、美幸さんが診察を受けている間だけ預かることになっているのだ。
美幸さんというのは、おれの初恋(というと語弊があるのだけれども…)の人なので、慶はおれと美幸さんが会うことを、ものすごくものすごーく嫌がっている。
でも、美幸さんのお子さん、優吾君の発達に気になることがあり、それを放っておけない医者の鏡である慶は、おれと美幸さんとの接触を渋々目をつむっている、という状況だ。
おそらく今日、仕事を調整してまで来てくれたのは、おれと美幸さんを二人きりで話させないため……というのが一番大きな理由なんではないだろうか。
慶のその嫉妬心、愛してくれている証拠なので嬉しいは嬉しいんだけど……正直、ちょっと面倒くさい時もある。……なんて言ったら、何されるか分からないから怖くて絶対言えないけど。
慶はあんなに中性的で綺麗な顔をしているのに、鍛えているから力も強いし、わりと短気で手も足もすぐ出るので、怒らせると本当にこわいのだ。
でも、ベッドの中ではおれに責め立てられて、イイ声で啼いてたり、妙に甘えてきたり、そのかわいさといったら、もう……
「渋谷君! 桜井君!」
「!」
診察室から出て受付に向かいながら、慶の後ろでイカガワシイ妄想を膨らませていたところに、美幸さんの緊迫した声が飛びこんできた。
「優吾こっちにこなかった?!」
「え?!」
切羽詰まった表情をした美幸さん。
「受付してる間にいなくなっちゃったの。探してるんだけど見つからなくて」
「え……」
そ、それは大変……。血の気が引いてしまったところに、慶の淡々とした声が聞こえてきた。
「いつからですか?」
「5、6分前……かな」
慶は軽く肯くと、おれを振り返った。
「浩介、お前外を探してくれ。名前は呼ぶな。目視で探せ。見つけたら、危険がない限りは声はかけないで、携帯で知らせて美幸さんの到着を待て」
「は、はい」
「おれは防犯カメラチェックしてくれるよう頼んでくる。美幸さん、もう一度院内を探してください」
美幸さんが震えながらコクンと肯く。
トラブルが起きた時、慶はいつもにもまして冷静になる。有無を言わせない迫力に、おれも美幸さんもすぐさま指示に従う。
外……事故にあったりしてないといいのだが。
玄関を出ると、熱風が体にまとわりついてきた。今日も35℃まで上がるという予報通り、異常な暑さだ。
病院前の駐車場にもいないので、敷地内から出てみる。確か駅に行く一本道の途中に公園があったような……
進んでみると記憶通り、数件の家を挟んで、小さな公園が出てきた。入り口に生い茂っている木の陰からのぞいてみたところ、
「あ、いた」
ホッと胸をなでおろす。父親である田辺先輩によく似た面差しの、小さな男の子。
ベンチに日傘をさして座っている女性の横で、何かしているようだが、今はその女性の陰になって何をしているのかよく見えない。
とりあえず、慶と美幸さんにメールで知らせる。
慶からは声をかけるなと言われているので、木陰に隠れて様子をうかがっていたのだが……
「………」
何か、モヤモヤとしたものを感じて心臓をおさえる。なんだろう……この光景、見たことがあるような……
分からないまま、その場でジッとしていたら、美幸さんがこちらに向かって走ってくるのが見えた。こっち、と指をさすと、美幸さんはおれの前を軽く会釈して通り過ぎ、すぐさま優吾君の元に走り寄った。
「優吾っ何してるのっ」
美幸さんの尖った声に、日傘の女性が振り返った。
「あら、ボク、ママ来たわよ」
「!!!!」
その、声……
その、姿……
心臓が、止まるかと思った。
美幸さんにニッコリと笑いかけているその女性は……その女性は。
(お……母さん……)
おれの母親、だった。
立っていられず、その場にしゃがみこみ、木の幹に額をあてて息を整える。
(なんでこんなところにいるんだよ……っ)
苦しい、けれども過呼吸までは起きていない。すごい成長だ。なんて自分で自分を褒めていたところで、
「きゃあっすみませんっ、もう、優吾っ何してるのよっ」
美幸さんの悲鳴が聞こえてきた。
どうやら、優吾君が母のカバンの中身をベンチに並べてしまっているようだった。
「すみません。本当にすみません。すぐにやめさせますので…ほら、優吾!やめなさい!」
「あら、いいわよ、お母さん」
美幸さんのトゲトゲした声にかぶさるように、母が穏やかな口調で言った。
「気になるのよね? このカバンの中、何入ってるのかな? ってね?」
「すみません……っほら、優吾……」
「いいわよいいわよ。好きなだけやらせてあげなさいよ」
母はなぜか、うふふ、と笑った。
「好奇心旺盛ってことよ。いいことよ? かしこい子になるわ」
「でも……」
困ったような顔をした美幸さんに、母が微笑みかけている。
「うちの息子もね、小さい頃はこういう風に、何でもかんでも興味を示してね。家じゅうの引き出しから物を出したりしていたのよ」
「あ……うちもです。困りますよね」
美幸さんが少しホッとしたように笑った。
うちの息子って……当然、おれのことだ。そんな話、聞いたこともない……。
「息子さん……いつそういうのなくなりました?」
「そうね……幼稚園に入る頃かしら」
「幼稚園かあ……入れるのかな……こんな調子で」
「あら、大丈夫よ」
母は気軽な感じに、美幸さんの腕をポンポンとたたいた。
「そのうち興味が一つのことに向くようになるわ。それまでは色々なことに触れさせてあげればいいのよ」
「でも……、あ、やだ、優吾っ」
「ああ、いいからいいから」
「ああ……本当に、すみません……」
ベンチの上から落ちてしまったものを、美幸さんがしゃがんで拾いながら謝っている。
「すみません。本当に………」
「大丈夫よ。謝らないで大丈夫だから。大丈夫よ」
「………」
美幸さんが、母を見上げて、首を振った。
「でも、ご迷惑を……」
「別に迷惑じゃないわよ。息子の小さい頃をみているみたいで懐かしいわ」
「…………」
母は目を細めて優吾君を見つめている。
「この子もきっと、うちの息子みたいに、頭が良くて、優しい子になるわよ」
「そう……だといいんですけど」
「大丈夫よ。今が一番大変な時よね? ここが過ぎると……そうね、今度は、幼稚園でお友達できたかしら?とかお勉強はどうかしら?とか別の心配が出てきて……結局、ずっと、子供のことが心配なのよね。親なんてそんなものね。成人した今だって心配でしょうがないんだから」
「そう……ですか」
ふっと笑う美幸さん。
「ずっと、心配ですね」
「そうよ。そんなものよ?」
「そう……ですよね。あ、優吾……」
優吾君が、一度出して綺麗に並べたものを、今度はカバンの中にしまいはじめた。
「あら、しまってくれるの。ありがとう」
「もう……優吾……」
美幸さんが呆れたようにため息をつく。
「本当にすみません……」
「だから大丈夫よ。謝らないで。謝ってばかりじゃ疲れちゃうわよ」
「でも……」
「子供なんてすぐに大きくなって手元から離れていっちゃうんだから、今一緒にいられること楽しまないとね」
「…………」
美幸さん、おもむろに立ち上がって、深々と頭を下げた。
「ありがとう……ございます」
「こちらこそ。懐かしかったわ。あ、ボク、帰るの? またね」
カバンの中身を全部入れ終わって満足したのか、優吾君はスタスタと公園の出口に向かって歩きだした。
「す、すみませんっ、ありがとうございましたっ。優吾……っ」
慌てて美幸さんが追いかけてくる。おれも立ち上がろうとして、
「……慶」
いつからいたのか、おれの後ろに慶がいて、おれのことを引っ張り上げてくれた。母から見えない角度でコッソリと木陰から道路に出る。
「……びっくりした。なんであの人いるんだろう」
美幸さんと優吾君の後ろを歩きながら、二人に聞こえないようつぶやくと、慶も小さく言い返してきた。
「お前のこと見るためかもな」
「え」
おれを見るため……?
「お母さん、合同カウンセリングの予定時間が、お前が普段カウンセリングを受けている時間だって気がついたんじゃないか? だから、この時間にあそこで待ってれば、お前が駅まで行くのに必ず通り過ぎるって思って……」
「……こわっ」
思わず身震いする。
「まるでストーカーだね」
「まあ、そういうなよ」
慶が苦笑する。
「お母さん、本当にお前のことが心配なんだろ。さっきも言ってたじゃねえか」
「…………」
その心配が余計なお世話だというんだ。
「頭が良くて、優しい子、だってな」
「………別に頭良くないし優しくないし」
意味が分からない。だいたい、あんな理解のある母親面して、偉そうに。自分は散々、思い通りにならないおれに当たり散らしてたくせに。
「お騒がせしてごめんなさい」
病院の駐車場に入ったところで美幸さんがくるりと振り返った。
「予約の時間、過ぎちゃったね」
「事情説明してあるから大丈夫ですよ?」
慶がいうと、美幸さんが安心したように微笑んだ。
「なんか迷惑かけて申し訳なかったけど……良かったな」
「え?」
首を傾げると、美幸さんがんーーっと伸びをした。
「さっきの女の人が言ってくれたの。すぐ手元からいなくなっちゃうんだから、今一緒にいられること楽しまないとって。ああそうだよなーと思ってさ」
「………」
「あんな風に、大丈夫大丈夫って言われたこと初めてだし、謝らなくていいなんて言ってもらえたのも初めてで、なんかすごく嬉しかった」
美幸さん、少し涙目になってる……。
「それは、良かった」
慶がニッコリと言うと、美幸さんも小さく笑った。
「…………」
おれは……何を思えばいいのか分からない。
あの人はまだあのベンチに座っているのだろうか。手元からいなくなった息子を待って、座り続けているのだろうか……
***
帰りは慶に車で迎えに来てもらった。
母がここら辺にいるかもしれないと思ったら、怖くて病院から出られなかったからだ。
「優吾君、どうだった?」
「うん。あのパズルはまったみたいで、結局あの後もずっと大人しくパズルをやってたよ」
「そうか……」
慶は途中で仕事に戻ったので、優吾君が帰るまでは一緒にいられなかったのだ。
「それで、慶の言った通り、あと一回、の約束して、それが終わったら車で帰る。車の中でDVDを見るって説明したら、すんなり終わることができて、美幸さんも驚いてた」
「ふーん」
……あ、しまった。美幸さんの名前を出してしまった……。
機嫌悪くなった? と心配になったけど、慶はそのまま普通に話を続けてくれた。
「で、美幸さんはどうだったんだ?」
「ああ、うん……美幸さん、なんかスッキリした顔してた、かな」
「ふーん」
「…………」
ふーん、って、なんかこわいんですけど……。
慶は運転に集中してるのか、何か考えてるのか分からない真面目な顔で前をジッとみている…。こんなことなら運転代わればよかった…。
だいたい、慶は美形すぎるから、真面目な顔してるとこわいんだ。その顔で見つめられると固まってしまう。まるで睨んで人を石に変える伝説の何かみたいだ。あれなんて名前だったっけ。えーと……
「ゴルゴン……」
「ゴルゴン?」
「何でもない何でもない」
思わず言葉に出てしまったのを聞き咎められて、ブンブン手を振る。こんなこと思ってるなんて知られたら、それこそ石にされてしまう。
慶はいぶかしげに、
「何だよ? ゴルゴンゾーラ? 夕飯の話か?」
「あ……うんうんうん」
慶の勘違いに乗っかることにする。慶はチーズ系の食べ物が大好きなのだ。
「夕飯、どっか寄るか?」
「あ、ううん。鶏肉、今日が賞味期限だから帰ってもいい?」
「ああ、もちろん」
「ゴルゴンゾーラチーズのソースで煮ようかな」
「それはいいな」
言いながらも大きく息をはいた慶。……疲れてるのかな?
「大丈夫? 慶? 疲れてる?」
「いや、別に」
でも、ずっと真面目な顔をして真っ直ぐ前を見たままだ。
「慶……やっぱり今日色々あったから疲れて……」
「悪い。ちょっと話しかけないでくれるか?」
「あ……はい」
やっぱり美幸さんに会ったことを気にしてるんだろうか…
静かな車内でうーん……と唸りそうになったところ、急に慶が車を減速させて、路肩に停車した。工場の横の道路で、車通りも人通りも少なく、よくタクシーやトラックの運転手が昼寝のために路駐しているところだ。
「運転交代?」
やっぱり疲れてるんでしょ?
言いながら、運転席の慶の方を向いたのと同時に、
「………え」
ぽかん、としてしまった。
今……キスされた。ほんの触れるだけの、したかしてないか分からないくらいの軽いキス。
目の前に慶の綺麗な瞳がある。慶の細い指がおれの頬を辿っている。
「……慶?」
「限界だ」
「え」
もう一度、触れるだけのキス。
「心の狭いおれは、お前の口から美幸さんの名前が出てくる度に、唇をふさぎたくなる」
「………」
「だから車の中で美幸さんのこと話すのはやめてくれ。危険過ぎる」
「………慶」
あいかわらずの嫉妬心、独占欲……
本当に面倒くさい人だ。
でも……そんなところも、好き。
「じゃあ、帰ってからするね」
「別にしなくていい」
「するする。だってその分キスしてくれるんでしょ?」
「しなくてもする」
もう一度、柔らかいキス。
「何度でも、する」
「慶………」
おれたち今まで何回キスしたかな。
これから何回するのかな。
慶の唇に触れながら思う。
「慶、大好き」
「ん」
これからもたくさんたくさんキスしよう。
嫉妬も愛情もすべてキスに変えよう。
----------------------
以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!
今回はいつもにも増してさらに真面目な話で……すみません。
もう物語終盤に差し掛かっている感じで…。
書き終わるのが寂しいので、またアホらしい短編でもちょいちょい挟もうかな…いやいや、ちゃんと終わらせてからにしようよ…。
という葛藤にかられております。はい。
ということで。次回もよろしければ、お願いいたします!
---
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こんな真面目な話なのに……有り難すぎて申し訳ないというか何というか……もう、すみません。
いつも本当にありがとうございます。
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
浩介は対人潔癖症気味なところがある。人に触れるのも触れられるのも苦手だ。
でも、おれに対してだけは大丈夫らしく、常にベタベタと触ってきていて、しかも、
『慶のものは何でも欲しい。心も体も、精液も唾液も全部』
だ、そうだ。……変態だな。あいつ、ホントに変態だ。
……それはさておき。
問題はその前に言っていた浩介の言葉だ。
『おれ、他の人とそういうことするって思うだけで吐き気がこみあげてくる』
そんな浩介が、万が一あの写真を見てしまったら、それこそトラウマになるんじゃないだろうか。
あの写真……三好羅々が浩介を睡眠薬で眠らせ、浩介と性行為をしているように見えるように撮った写真……。
浩介の携帯で撮られた写真はすべて削除した。おれにメールで送られてきたものも削除した。三好羅々と同居している目黒樹理亜に聞いたところ、三好羅々の携帯で撮った写真も、陶子さんがすべて削除してくれたそうだ。
だから大丈夫だとは思うのだけれども……何となく不安が消えない。
***
「慶……今、機嫌いい?」
「………」
そのセリフ、先週も聞いたな……。
あの時は、田辺先輩から連絡があった、という話だった。田辺先輩というのは、浩介の初恋の人・美幸さんの旦那さんで……
「何だ」
「………やっぱりいいです」
すごすごと台所から出て行こうとする浩介の前を足で通せんぼする。これも先週まったく同じことをした。
「何だよ。また美幸さん関連か?」
「あーうん……」
話しにくそうに浩介がぽつぽつと言いだした。
不眠症に悩んでいる美幸さんに、浩介も通っている心療内科クリニックを紹介したのだが、偶然今度の土曜日、浩介の後の予約に急にキャンセルが出たため、そこで診察してもらえることになったそうなのだ。
でも、今度の土曜日は田辺先輩はどうしても仕事が休めず、優吾君を預かることができないそうで……
「実家のご両親は、優吾君が暴れると手に負えないから預かりたくないっておっしゃってるらしくて」
「で、お前が預かるってことか?」
「うん。預かるっていっても、病院のキッズスペースで遊ばせておくだけなんだけど」
「ふーん。いいんじゃねえの?」
普通に言ったつもりなんだけれども、浩介はおれの顔色をうかがうように、
「……怒ってるでしょ?」
「怒ってねえよ」
「だって……」
コーヒーを入れるおれを後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
「……ごめんね」
「何が」
耳元にささやかれる優しい声。
「だって、本当はもう二度と会ってほしくない、とか思ってるでしょ?」
「………思ってねえよ。それより」
気持ちが崩れる前に、医者モード発動。
「クリニックの写真を、事前に優吾君に見せるようにって伝えてくれ。ホームページから引っ張ってこられるだろ? そのキッズスペースも、写真がないようならおれ明日休みだから撮りに行ってもいいし」
「え、なんで?」
「初めての場所で戸惑わないように予習だ予習。いいな? 必ず写真を印刷して、優吾君に見せながら、これからここに行く、という説明をするようにって」
「あ………はい」
ホームページに載ってるかな……と台所から出ていった浩介の後ろ姿を見送り、息をつく。
本当は、もう二度と会ってほしくない。
当たり前だ。浩介は美幸さんに対する気持ちは恋愛感情じゃなかったと言っているけれど、それでも、感情が動いたのは確かな話で。昔の話だと分かっていても、心が追いつかない。
昨日、20年以上ぶりに見た美幸さん……。綺麗に年齢を重ねていた。高校時代と印象はまったく変わっていなかった。そして、美幸さんや田辺先輩と話す浩介は、高校時代に戻ったかのように、少し頬を上気させていて……
「慶、キッズスペースも写真あった。こんなもんで大丈夫?」
「………まあ、いいだろ」
「うん。じゃあ、連絡しておくね」
スマホを手にした浩介の横をすり抜け、リビングに戻る。ソファに座ってコーヒーカップをローテーブルに置いたところで、
「一口ちょうだい」
手が伸びてきて、コーヒーを奪われた。いつの間に浩介が隣に座っている。
「お前、もう連絡したのか? 早いな」
「してないよ? 明日でもいいでしょ?」
浩介はニッコリとすると、おれの腰に手を回してきた。
「せっかく慶と一緒にいられるのに、時間もったいないもん」
「…………」
………。見抜かれている感じがしてムカつく。
「慶」
こめかみに、頬に、唇がおりてくる。
「慶、嫌だったら本当に言ってね? おれ、断るよ?」
「別に大丈夫」
「でも眉間にシワ寄ってるよ」
「寄ってねえよ」
「寄ってるって。ほら伸ばしてー」
眉間のあたりをグリグリ指でおされ、笑ってしまう。するとホッとしたように浩介が息を吐いた。
「やっと笑ってくれた」
「………なんだそりゃ」
「だって……」
ついばむようなキスがくり返され、そのままソファに押し倒される。首筋に顔を埋めながら、浩介がブツブツいっている。
「あーあ。おれも明日研修会じゃなければ休むのになー。サボっちゃおうかなー」
「何言ってんだ」
「このまま明日の夜までずっと慶とイチャイチャしてたい」
「イチャイチャって」
お前はいくつだ。
「だいたい、おれ明日出かけるから、明日の夜までイチャイチャ、なんてできねえぞ」
「あ、そうなんだ。どこいくの?」
「目黒さんと約束してて」
「……え?」
浩介の唇がピタッと止まった。そしてゆっくり身を起こすと、
「今、何て言った?」
「だから、目黒さんと約束してるんだって」
「なーにーそーれー!」
「わ、何だよっ」
いきなり肩を掴まれ思いきり揺すられ、頭がガクンガクンとなる。
「なにそれ? まさか二人きり?」
「さあ?」
「さあって! なんで分かんないの?!」
「知らねえよ。おれはただの付き添い……」
「もー信じられない!」
浩介は叫ぶと、おれの両頬をつかんで引っ張ってきた。
「はひすんらよっ」
「だって、目黒さんはまだ慶のこと好きなんだよ?! なんでそんな子と一緒に出掛けるの?!」
「だからー」
浩介の手を無理矢理はがす。
「ネイルの学校の見学の付き添いだって」
「…………」
浩介はブウッとふくれると、そんなの一人でいけばいいのに、と言いながらおれのYシャツのボタンを外しはじめた。
「お前って、わりと目黒さんに冷たいよな」
「だって」
「元々お前が目黒さんのことを気にかけてたから、おれも……」
言っている途中で、唇をふさがれた。噛みつくように唇を重ねてくる。浩介のイライラが伝わってくる。
「慶、ひどいよ」
「……何が」
浩介はふくれたまま、言い放った。
「美幸さんのことで機嫌悪くなっておれのこと困らせて楽しんでるくせに、自分は自分で目黒さんと二人で出かけるなんてさ」
「は? なんだと?」
聞き捨てならない。
「誰が困らせて楽しんでるって?」
「楽しんでるじゃんっ。おれがオロオロしてるの見るの、そんなに面白い? そんなに楽しい?」
「楽しい、だと?」
頭にきた。衝動的に浩介を突き飛ばし、胸のあたりを右足で踏みつける。
「お前、おれがどれだけ嫌な思いしてるか分かってねえだろっ」
「自分こそっ。おれだって、慶が目黒さんと連絡取るの本当はすっごい嫌なんだからねっ」
踏まれながらも、にらむような目でこちらを見上げてくる浩介。ムカつく……っ。
「あんな子供相手に何言ってんだよお前はっ」
「子供って、もうすぐハタチでしょっ。それを言うなら、慶のほうこそ、20年以上も前のこと今さらウダウダ言ってっ」
「ウダウダ?」
「ウダウダ言ってんじゃんっ」
「…………」
…………ウダウダか。
少し冷静になって足を下ろすと、浩介も、我に返ったような顔をしてソファーに座り直した。
たっぷり5分ほど、並んで座りながらもお互い黙っていたのだが、前触れもなく浩介がポツンとつぶやいた。
「慶……さっきのが本音でしょ」
「何が」
「おれがどれだけ嫌な思いしてるのか分かってないって。嫌な思い……してるんだ?」
「…………」
大人げないこと言ったな……
「別に大丈夫って言ってたけど、ホントは嫌なんだ?」
「…………」
大きく息を吐き、白状する。
「すっげえ嫌だよ。本当は美幸さんには二度と会ってほしくないって思ってる」
「……じゃあ」
「でも」
浩介の手を取り、絡ませて繋ぐ。
「優吾君の話は別だ。あの子には療育が必要なんだよ。そのためには母親の精神状態が安定しないことには話が進まない」
「慶………」
浩介が驚いたようにこちらを見た。
「それじゃ、あの子は……」
「専門家の診察受けられるのが半年後って言ったな。でもそこまで待てねえだろ。優吾君もつらいだろうし、なにより母親がつぶれちまう」
「…………」
「障がいっていうのは、環境さえ整えば障がいではなくなるんだよ。彼に一番あった環境を見つけて整えてやるのが親と医者の役目だ。今、医者にかかれない状態だっていうのなら、おれが診にいけばいいだけの話だろ」
「慶………」
ポカンとしたような顔をした浩介。
「慶……かっこいいね」
「別にかっこよかねえよ。当たり前のことだ」
「そこがまたかっこいい~」
笑う浩介。さっきまで喧嘩していたとは思えない穏やかさだ。この隙に言葉を畳みかける。
「それで、目黒さんに関しても、おれは同じこと思ってる」
「………はい」
浩介が神妙に肯いた。
「あの子はようやく毒親から自立して、自分のやりたいことを見つけられたんだ。でもまだまだ子供だ。まわりにいる大人が手助けしてやる必要があるだろ」
「………ごめんなさい」
しゅんとして謝ってくる浩介。……ちょっときつく言いすぎたかな……。
「でも……お前が気になるなら、逐一報告のメール入れるぞ? 今どこにいるとか何してるとか」
「…………」
提案すると、「いい」と断ってくるのかと思いきや、浩介はペコリと頭を下げた。
「お願いします」
「……浩介」
驚いた。いつもだったら「そんな手間のかかること慶に迷惑がかかるからいいよ」とか言いそうなのに。
浩介は真面目な顔をして問いかけてきた。
「ごめん、慶。おれ、我慢しなくていい?」
「え」
両手を握られる。
「慶に迷惑がかかるのはわかってるけど、でもおれ、気になって絶対仕事手につかなくなる。だから、お言葉に甘えさせてください」
「浩介……」
すごいな……これもカウンセリングの影響か?
ずっとおれに遠慮しがちだった浩介がこんなことを言ってくるなんて……。
ちょっと……かなり、嬉しい。
「じゃあ、メールするからな」
「うん、ありがと」
「…………」
見つめあって、どちらからともなく笑い出してしまった。
「喧嘩しちゃったね」
「久しぶりだよな。前にしたのいつだったっけな」
「んーー覚えてないなあ」
言いながら、浩介がふんわりと抱きしめてきた。耳元で優しい声がする。
「でも、仲直りのあとたくさんエッチしてたのは覚えてるよ」
「…………」
「今日もしよ?」
こちらの返答も聞かずに、唇がおりてくる。
「お前明日仕事……」
「大丈夫。いつもより行くの少し遅くていいし」
「そうなのか?」
「だから、ゆっくり……」
「だったら、ちょっと待て」
グイッと体を押し返すと、浩介がもー!!と怒り出した。
「何?!」
「ゆっくりできるんだろ? だったら明日の準備まで全部終わらせてからにしようぜ」
「…………」
むっとした顔をした浩介を置いて、飲みかけの冷めたコーヒーを飲み切り、台所に運ぶ。
「慶ってさ……」
洗面台から浩介の文句を言っている声が聞こえてくる。
「いつも冷静だよね。おればっかりがっついてて悲しくなってくる」
「何言ってんだよ」
歯磨きをしている浩介の背中に蹴りをいれる。
「お前がゆっくりできるって言ったからだろ。それなら後のこと気にしないで思う存分やりてえからな」
「思う存分……」
「そう。思う存分」
横から手を出し歯ブラシをとり、おれも歯磨きをはじめる。浩介が鏡越しに言ってくる。
「じゃあ、お風呂も一緒に入りたい」
「分かった分かった」
「お風呂でもしたい」
「分かった分かった」
「リビングでもしたい」
「なんだそりゃ」
「ベッドでも当然するよ?」
「何言ってんだお前」
変な奴。吹き出してしまう。
浩介は口をすすぐとこちらを振り返った。
「歯磨きしてあげるー」
「何言って……」
「はい。あーん」
歯ブラシを奪われ、口を開けさせられる。
なんだかなあ……
「慶、色っぽーい。たまんなーい」
「………」
アホだなこいつ。
でもそこも愛おしい。
少しずつ少しずつ、浩介の心に変化が起きてきている。
おれはそれを受け止め、包み込んでやりたい。
***
翌日、目黒樹里亜と一緒に3つの学校を見学した。
樹理亜はもらってきたパンフレットをみながらウンウンうなっている。
「こういう時は、良い点悪い点を紙に書き出していくといいんだよ」
言うと、樹理亜は素直に手帳に書き出しはじめた。「駅から近い」「校舎がきれい」「授業料が安い」………
「授業料か……」
夕食から合流した浩介がウーンとうなる。
「高いところは高いねえ」
「あ、でも、ママちゃんがいくらか負担してくれるって言ってるから何とかなりそうなんだー」
「…………………………え?」
おれと浩介、一緒に絶句してしまった。
「目黒さん、ママちゃんって………」
「連絡取ってるの……?」
「取ってるよー」
ケロリとして言う樹理亜。
「だってママだよー? 当たり前じゃん」
「で、でも」
彼女の母親は、幼い頃から彼女を自分の支配下におき、売春まで強要していたのだ。
おれ達は3ヶ月前、そんな母親の元から樹理亜を助けだしてきた………つもりだったのだが。
「ママちゃん、樹理亜の応援するって言ってくれてるんだ~」
「でも目黒さん、いいの? 今までのこと許せるの?」
浩介が真剣な顔で問いかけると、樹理亜はきょとんとした。
「許すも何も、だってママだよ?」
「…………」
「何があっても大好きに決まってるじゃん」
この愛情の純粋さはどこからくるんだろう……
「あ、噂をすればママちゃんだ! ちょっと失礼しまーす。もしも~し」
嬉しそうに携帯で話しながら席を外す樹理亜………。
「子供って………無条件に母親のこと好きだったりするよね……」
浩介がポツンと言う。
「おれが……変なのかな」
「浩介」
テーブルの下で浩介の手をギュッと掴む。
浩介は樹理亜の母に自分の母親を重ねていたところがある。その母を、あっけらかんと「大好き」と言われてしまっては……
「人それぞれだろ、そんなの」
「………」
「それに、目黒さんは今、母親と良い距離感を持ててるってことだろうな」
「………」
握り返してきた浩介の手に力が入っている。
「おれ……来週、母親に会うんだよね」
「……そうだな」
今週末のカウンセリングで最終調整をして、問題なければ、来週母親と一緒にカウンセリングを受けることになっている。
「……大丈夫かな」
「大丈夫だ。今度はおれも一緒だからな」
「……うん。ありがと」
ギュギュっと手を握りあう。
大丈夫。大丈夫。気持ちをこめて握りしめる。
「あー、またラブラブしてるー」
「……あ」
戻ってきた樹理亜に言われるまで、ここが都内の普通のパスタ屋だということをすっかり忘れて、おれ達はずっと手を握りあっていた。
----------------------
以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!
また、長々と書いてしまいました。
いきなり喧嘩はじめるので、びっくりしましたが、
でも、浩介がようやく、慶に対して遠慮がなくなってきたかな、と。
以前、「R18・負傷中の・・・」というので、
慶がフェラで飲もうとしたのを浩介がやめさせたって話があるのですが(←はい。下ネタすみません)、
そこでも慶は、浩介が自分に気を遣いすぎてるって気にしてました。
でも、きっと、この夜は……ねえ? 歯磨きのくだりはその布石なんすけどね。
……はい。私の頭の中そんなことばっかりです。
ということで。次回もよろしければ、お願いいたします!
---
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「あいじょうのかたち」目次 → こちら
帰りは、田辺先輩が車で送ってくれるというのを丁重にお断りして、徒歩で駅に向かった。
ちょうど高校時代の帰り道のような川べりに出たところで、慶がぼそっと言った。
「…………で? どう思った?」
「何が?」
何のことを指しているか分からず聞き返すと、
「お前、それマジで聞いてんの? それともとぼけてんの?」
「…………え」
本気で機嫌の悪い顔をしている慶……。
どう思った?って言われても……。
「ごめん。おれはあんなに小さい子とはあまり接した経験ないから何とも……」
「ちげーよ」
「え」
違う?
「優吾君のことじゃなくて」
「うん」
「あの………」
慶は立ち止まり、おれを見上げると……
「やっぱいい」
「え?」
プイッと歩き出す慶。慌てて追いかける。
こういうシチュエーション、今までに何度もあった。ここで聞かないと後々まで引きずることは身をもって体験済みだ。
「慶」
腕を掴んでこちらを向かさせる。慶、眉間にシワがよってる。
「何だよ」
「慶が、やっぱいい、とか、何でもない、とか言って、何でもなかったためしないでしょ。何年付き合ってると思ってるの」
「………」
慶が一瞬泣きそうな顔になった。
「…………慶」
ドキッとする。
と、同時にひどく懐かしい感覚にとらわれた。前にもこんなことが……
夏の夕暮れの中、慶の腕を掴んで振り向かせ………振り向いた慶は今みたいに泣きそうな顔をしていて………
あの時おれは、おれ達は何の話を………
『何で慶が泣きそうになってるの?』
『お前が泣きそうだからつられてんだよっ』
『じゃあ一緒に泣こうよ~』
『ばーか』
それから二人で土手に寝転んで夕焼けの空を見上げた。空の赤と青がすごく綺麗だったのを覚えてる。
あれは…………
「美幸さんが田辺先輩と付き合うことになったときか……」
「何言ってんだお前?」
いぶかしげに聞き返した慶に問いかける。
「ほら、高校の時に、今と同じ感じになったの覚えてない? ちょうどこんな夕暮れ時で……」
「ああ」
慶がすぐに頷いた。
「お前が美幸さんに振られた時な」
「振られてないよ。別に告白もしてないし。ただ田辺先輩のところに美幸さんを連れていっただけで……」
あの時、慶は………
『お前、本当に美幸さんのこと好きなんだな』
そう泣きそうな目をして言って、背を向けたのだ。だから、腕を掴んでこちらを向かせて……
考えてみたら、慶はあの時すでにおれのことを好きだったということになる。どんな思いでその言葉を言ったのだろう。どんな気持ちで隣にいてくれたんだろう……。
「……ちょっと寄り道するか」
慶は小さくいうと土手を下りていき、途中で腰かけた。河川敷では小学生くらいの子供たちが遊んでいる。
隣に腰かけ、川に目をやるその整った横顔を惚れ惚れと見つめる。まるで高校時代に戻ったようだ。
慶はあの頃から全然変わらない。強くて、綺麗で、優しくて、可愛くて、温かくて……
こんな人が一途におれのことを思い続けてくれているなんて………。
そんなおれの浮かれた気持ちとは対象的に、慶は思い詰めたような顔をしたままだ。
「慶?」
「………」
心配になって呼びかけると、慶がふっと息をついた。
「さっき聞きたかったのは……」
「うん」
「お前が久しぶりに美幸さんを見てどう思ったかってこと」
「美幸さん? ………慶?」
そっと手を重ねられた。慶、手が震えてる……?
「どう、思った?」
「どうって………」
慶、何を聞きたいんだろう?
「うーん……大変そうだなあって思った」
素直に答えると、慶の手にさらに力が入った。………慶?
「それだけ?」
「あとは……女の人って母親になるとみんなあんな風になっちゃうのかなあ……とか」
別人のようになって、息子に手を振り上げた美幸さんの姿を思い出して、胸が痛くなる。
あの、女神のようだった美幸さんがあんなことをするなんて……まるでおれの母のようで……
と、思い出の中に入り込みそうになったところ、
「………ごめんっ」
「え?」
慶の声に呼び戻された。
ごめん?
「ごめんごめんごめんごめんっ」
「慶?」
慶はおれの手を掴んだまま、頭を抱え込んでしまった。なんだなんだ?
「何? どうしたの?」
「………ごめん」
慶は下を向いたまま、言いにくそうにつぶやいた。
「おれ……自分のことばっかだな」
「え?」
「おれ、だめなんだよ、やっぱり。美幸さん苦手」
「え」
そんな風には全然見えなかった。慶は頼りがいのあるお医者さんって感じで、すごいかっこよかったよ?
そういうと、慶は苦笑した。
「医者モード入ってないと冷静さ保てる自信なかったからな」
「冷静さって………、あっ」
しまった! と思い出す。途中までは覚えていたのに、今まで約束をすっかり忘れていた。
「ご、ごめん。忘れてた。おれ、一秒以上続けて見ないっていったのに、最後の方見てたかも……」
「かもじゃなくて、見てたよ、お前」
「………ごめん」
それで機嫌悪かったのか……っていうか、「どう思った?」ってそういうことか……
「ごめんね、おれ、ホントダメだね。慶の気持ち考えられてなかった」
「いや、嫉妬深すぎるおれが悪い。一秒の話は忘れてくれ」
「慶………」
掴まれていた手を、絡めるように繋ぎ直す。ギュギュッと握ると慶が少し笑ってくれた。ちょっと安心する。
「あのね、慶」
「ん」
慶。愛おしい慶。手が震えてしまうほど嫉妬してくれていたなんて。抱きしめたい衝動が沸き起こるけれども何とか我慢する。
「ずっと前にも言ったことあるけど……おれ、美幸さんのことは恋愛感情とは違ったんじゃないかなあって思ってて」
「…………」
「女神、とか思ってたし」
「ああ……そんなこと言ってたな」
軽く肯く慶。機嫌悪くなってないかな、大丈夫かな、と心配ながらも話を続ける。
「それで、今回もね、おれ、美幸さんはすごいいいお母さんになってるんだろうなって勝手に思ってたんだよね。高校の時みたいにいつもニコニコしててちょっとぽやんとしてて、でも肝心なところではビシッと決める、みたいなお母さんにさ」
「…………」
「あ、そうか」
ここまで言葉に出してみて、はじめて気が付いた。
「おれ、高校の時も、美幸さんの中に、理想の母親像を見てたのかもしれないね」
そう考えると、色々なことに納得がいく。
美幸さんのことを好き、と言いながらも、そばにいられるだけで充分で、性的な欲求がまったく起きなかったのは、母親像を求めていたからなのかもしれない。
こういう風に振り返られるのは、おそらく心療内科で治療を受けているおかげだろう。最近、自分の言動を冷静に分析できるようになってきている。
「でも、実際お母さんになった美幸さんは……」
あの姿は少なからずショックだった。あの美幸さんがおれの母みたいに目を吊り上げていて……
「親ってのは大変だよ」
慶がポツリという。
「おれはその一時しか一緒にいないから、いくらでも冷静に見られるけど、親はそれが24時間続くからな。」
「……………」
おれの母親も、もしかしたらおれが生まれる前までは、もっと違う人だったのだろうか。
いや、そもそも、母もおれに関わらなければ、普通のそこらへんにいる女性の一人でしかない気もする。料理上手で裁縫も得意で、本来なら自慢の母になるはずだったのでは……。
「慶……」
「ん」
再びキュキュキュッと絡めた手に力を入れる。愛おしさが伝わってくる。
こんな風に冷静に母のことを考えられるようになったのも慶がいてくれるおかげだ。
昔からずっとずっと一緒にいてくれて、ずっと支えてくれている慶……。
あらためて、溢れてくる思いを言葉にする。
「おれね、慶が好き」
「………」
「大好き」
「………お前」
慶は何かを言いかけ、また黙ってしまった。かまわず今湧き上がっている思いを告げる。
「あのね、慶。おれ、潔癖症じゃん?」
「何を急に……」
眉を寄せた慶に、身を寄せてピッタリくっつく。
「だから一生キスとか出来ないと思ってたんだよ。でも慶とだけはしたいと思った。美幸さんにしたいと思ったことは一度もないよ」
「それは、女神だから穢しちゃいけないとかそういう神聖化の上での……」
「それもあるのかもしれないけど、でも、絶対無理。おれ、他の人とそういうことするって思うだけで吐き気がこみあげてくる」
「…………」
困ったような顔をした慶の手に口づける。
「でも、慶とだけはしたいと思う。慶のものは何でも欲しい。心も体も、精液も唾液も全部」
「………っ」
途端に真っ赤になっていく慶。
「おま……っそういう具体的名称言うなよ恥ずかしいっ」
「だって、本当のことなんだもん」
「………」
変態、とボソッと言う慶に、えへへ、と笑ってみせる。
「自覚あるよ。おれ慶に関してだけは、昔っからおかしいもん」
「………」
「慶だけは特別。だから、美幸さんのことはもう……」
「それとこれとは話は別だ」
「え」
せっかくいい流れだと思ったのに、バッサリ切られた。
「言うとホントにバカバカしいから言いたくないんだけどこの際だから言うけどな」
慶は子供みたいに頬を膨らませると、ブツブツいいだした。
「お前、あの頃、美幸さんにぽやーっと見惚れてたり、昇降口の前でソワソワ待ち伏せしたりしただろ。美幸さんのことを恋愛感情的に好きだったんじゃないとしたって、そういう初恋的な行動を美幸さんのためにしてたのは事実だろ」
「……慶」
ポンポンと頭をなでると、ますます慶の頬が膨らんだ。
「そういう初めてのことの相手がおれじゃないってのが、なんかすっげえ悔しいんだよっ」
「慶………」
本気で怒ったように言う慶。まるで子供だ。
かわいいすぎる。本当に高校時代に戻ったみたいだ。
負けず嫌いの慶。昔から、そう。中学時代に偶然バスケの試合で見た慶も、負けず嫌い全開で……
「あれ?」
中学時代のことを思い出して、はっと気が付く。
そうだ。そうじゃないか。
「慶、違うよ。やっぱりおれの初めては慶だ」
「は?」
眉間にシワを寄せた慶に、ピッと指を立ててみせる。
「おれ、この話したら引かれるんじゃないかと思ってずっと言えなかったんだけどさ」
「なんだ今さら」
今さら何を言われても引かねえよ、と慶。
それもそれで何だなあと苦笑いしながら話を続ける。
「中学の時、慶のバスケの試合を見たって言ったでしょ?」
「あー、うん」
おれは故意に中学の時の話をするのを避けてきたので、慶にこのころの話を詳しくしたことはない。慶もおれが今さら話しだしたことにちょっとビックリしているようだ。
「あの頃おれね、離人症っていうの? こう、ブラウン管の中にいる状態なのがひどくて……」
「うん」
一度離していた手をもう一度つないでくれる慶。
「そんな褪せてる世界の中で、慶の姿だけが光輝いていて……、それこそ、ぽやーと見惚れてたってレベルじゃなくて、息するの忘れて苦しくなるくらい慶に見惚れてた」
「…………」
「慶は本当に綺麗で眩しくて、こんな人がこの世の中にいるんだって感動した。ずっとずっと見ていたかった」
「…………」
照れたように慶がうつむく。かわいい。
「それでね、おれ、慶のこともう一度見たくて、慶の中学の校門の近くで待ち伏せしてたことがあるんだよ」
「えええ?!」
慶が河川敷の子供数人がこちらを振り返るくらい大きな声で叫び、ハッとしたように声をひそめた。
「マジかよ……初めて聞いた」
「うん。だから引かれるかなと思って言えなかったんだって」
「引かねえよ……引くわけねえだろ」
慶、本気で驚いてる。そんなに驚く話だったか……
「でも、おれ、お前のこと見た覚えねえぞ?」
「うん。1週間ぐらい通ったんだけど、会えなかったから」
「え、なんで……、あ、そうか! おれが怪我して入院してた時ってことか!」
そうなのだ。高校になって再会してから怪我のことを聞き、あの時会えなかった理由を知った。
「うわーそうか。ごめんなー」
「ごめんって」
笑ってしまう。何年……何十年も前の話だ。
「だから、見惚れたのも、待ち伏せも、慶が初めてだよ」
「そうか……」
まだ驚いた表情をしたままの愛おしい慶を見つめ返す。たくさんの初めてを思い出す。
「友達になったのも、自転車の二人乗りしたのも、慶が初めて。……それに」
繋いでいる手に口づける。
「抱きしめたのも、デートしたのも、キスしたのも、セックスしたのも、慶が初めて」
「………」
「初めてで唯一。おれのたった一人の人」
「………浩介」
見つめあう。あの頃と少しも変わらない輝く瞳。その瞳に写る自分だけは好きになれた。
あなたと一緒にいられたら何もこわくない。
「慶………」
そっと頬に触れ、その愛おしい唇に………
「って、公衆の面前で何しようとしてんだ、お前」
「いたっ」
思い切り額を叩かれた………。
「けーいーっ」
「子供が見てる。ほら」
言われて河川敷に視線をやったけど、みんな遊びに夢中でこっちなんか見ていない。
「見てないじゃん」
「さっき見てたんだよ」
「今見てないからっ」
隙を狙って一瞬だけ唇を合わせる。慶の柔らかい唇……。
「あー、慶の唇って、なんでこんなに柔らかくて気持ちいんだろう……」
思わずしみじみとつぶやくと、
「うるせえよっ」
「うわわっ」
真っ赤になった慶が立ち上がって蹴ってきた。
「そういう恥ずかしいことを外で言うなっ」
「じゃ、うちでならいい?」
「…………」
ピタリと足が止まった。そして、
「………いい」
ボソッと言うと、慶はさっさと土手を上がって行ってしまった。
いい、だって。かわいすぎだ。………何言おうかな。慶が照れそうなことたくさん言ってやろう。
「浩介?」
振り返った慶。夕日に照らされた美しい姿。まるで映画の一シーンのよう。
「帰るぞ?」
「うん」
帰る。うちに帰る。おれ達のうちに。
色々な、本当に色々なことがあったけれど、今、一緒の「うち」に帰れることが何よりも嬉しい。
「けいー大好きー」
「だからそういうことはうちに帰ってからにしろっ」
うちに帰ってから。
それが何よりも幸せだ。
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以上です。
長っ!長い!いつまで喋ってんの?!え?その話、今するの?
という感じの回でございました。
でも、ちょっとずつ、浩介の、お母さんに対する気持ちに変化が………
そして、慶の、美幸さんに対する対抗心もちょっとは減ったかもしれません。
よろしければ次回もどうぞよろしくお願いいたします!!
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