創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(50/50)

2007年08月01日 10時27分54秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
4月から、長女が幼稚園の年中組に通い始めた。
長男も園長先生の薦めで、年少組に通うことになった。
ここの幼稚園は障害児の受け入れに熱心で、
それをサポートする体制も万全なのだ。
始め難色を示した夫も、私の粘りの説得でようやく首を縦に振った。
色々とトラブルはあるものの、幼稚園に通うようになって
2人とも劇的に成長していると思う。

私も週に3日、日中数時間だけのパートに出ることになり、
忙しい日々を過ごしていたら、
あっという間に月日が過ぎて・・・
気がついたら夏になっていた。

やっぱり夏が来ると、どうしても彼とのことを思い出す。

でも去年とは違うのは、
思い出した時に心が「虚しく」「苦しく」ではなく「切なく」なることだ。

11年前に彼から告白されたお台場の公園。
思い出のその日に、もう一度行ってみようか、と思う。
去年よりも身軽になった今の心でだったら、
あの場所にいっても大丈夫な気がする。

行って、まだ少し、心の中にくすぶっているこの気持ちを
全部あそこに置いてきたいと思う。

去年は子供の預け場所に悩まなければならなかったけれど、
今年は子供達は幼稚園に行っている。
ほんの少しだけれども自分の稼ぎもある。
私は自由に動けるのだ。
行くも行かないも私の心一つだ。

と、思ったのに。

なぜかその日、幼稚園で避難訓練があって、
連絡網が回ってくるのを自宅で待機した上、
幼稚園まで徒歩で迎えにいかなければならなくなってしまった。

神の手?

と思わざるをえない。
こういう偶然があると、何か大きなものの手が加わっているような気がしてしまう。

まだ、この少しくすぶっている気持ちは、心に残しておいていいということなのか。

それとも、行くと「少し」の気持ちが「いっぱい」になってしまうから、
やめておけということなのか・・・。

どちらにせよ、現状維持、ということか。

それもいいのかもしれない。

色々問題はあるものの、家族に囲まれた「幸せ」な生活。
心の奥の方にしまってある「恋心」。

幸せなはずの「家族漬け生活」が窮屈になったときに、
ほんの少しだけ昔の恋を思い出して、自分に戻る。
それで家族に優しくできるのなら、そういうのもアリだろう。

でも、、、
もしも、思い出すだけでは、自分に戻れなくなったら?
どうする?
彼に会いに行く??

その考えに慌てて首を振る。

前回のことは、過去の清算ということでいいとしても、
次からはそうはいかない。
それは未来に向かってしまう。

だから、もう会わない。

・・・・でも。

もし、会いにきてくれたら・・・?

まさか、ね・・・。


<完>


-----------------------------


思いのほか長くなってしまったのに、
最後までお付き合いくださいまして
本当にありがとうございます。

初めはただの不倫の話を書く予定でした。
だから題名も「まさか、私が・・・(不倫をするなんて)」
だったんですね。
でも、背景を書き込んでいるうちに、
話がどんどんずれてきて、
題名と内容がどうも合わなくなってきた・・・。
ので題名を変えました。

でも、始めに描いていたラストよりも、
自分の納得のいく答えに行き着けて
自分としては、安心しているところです。

ながらくお付き合いくださいましてありがとうございました。

次回・・・・
いつになるかわかりませんが、皆様お元気で・・・。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(49/50)

2007年07月31日 10時08分44秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
豆腐10丁で、長男が喋ったお祝いをした翌週から、
平日は実家、土日はマンションに帰る、というスタイルに変えた。

あと数ヶ月後には、長女が幼稚園に上がるため、
全日マンションにいることになるのだ。
少しずつ、マンションでの生活にも慣れさせなければいけない。

それに夫が「一人静かな休日を過ごすのがさすがに寂しくなってきた」と言い始めたせいもある。
シモが限界というのも大きな理由らしいが。

でも、夫は少しずつ変わり始めている。
中古物件を見てくれたり、豆腐を10丁頼んでくれたり。
まだまだ怒鳴ってしまうことも多いし、
自分勝手な行動も多いけれど、
私や子供達に寄り添おうとしてくれているのが分かる。
その気持ちに応えよう、という気になれるので、
以前ほど、夜の相手をするのが苦痛ではなくなっていた。

マンションでの生活も、
「良い物件があったら引っ越す」
という逃げ道が出来たおかげで、少し気が楽になった。

長男も以前ほど暴れなくなってきた。
そちらも良い方向に進んでいるといえる。
でもその代わり、最近、ビデオに固執してしまって、
放っておくと一日中ビデオを見ているので、
それもそれで問題だ。

言葉は本当に少しずつだが出はじめた。
念願の「ママ」も言ってくれるようになった。
でもまだ「パパ」といわないので、
夫が躍起になって「パパ」と言わそうとしている。
その姿が何だかかわいくて、いつも笑ってしまう。


掲示板に久しぶりに彼の書き込みがあった。
新婚旅行から帰ってきたらしい。
先日の披露パーティーのお礼が書かれていた。

「幸せになります」

そう結ばれていた。

・・・・・・うん。
私も幸せにならないと。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(48/50)

2007年07月30日 09時27分46秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私が道路についた時に、目に入ってきたのは・・・

長男を抱えた夫。
その横に立っている長女。
白い割烹着姿のおじさん。

・・・おじさん?

はて、と思ったら・・・
その小さなトラックはお豆腐屋さんだった。
実家に来てからは、毎回お豆腐をこのトラックから買っているので、
長男は、トラックが目に入った瞬間に、走り出してしまったのだろう。

「大丈夫?」

私が呆然としている夫に近づいて行くと、
長男は夫の腕から抜け出して、私の元にやってきた。

そして・・・

「トーフ」

と、トラックを指さしたのだ。

「・・・・・・・・・え?」

我が耳を疑った。

トーフ?

「祐介・・・今、何て・・・?」

「トーフ」

しっかりとトラックを指さした長男。
言葉らしい言葉を言ったのは生まれて初めてだった。
指さしをしたのも初めてだった。

「祐介・・・」

夫も私も驚きのあまり声も出なかった。

気がつかないうちに、両方の目から、涙が溢れでていた。
振り返ると、夫の目にも光るものがあった。

「えーーと、毎度どうもです。木綿?絹?どっちがいい?僕?」

困ったように豆腐屋のおじさんが長男に話しかけている。

「絹。絹だよね?ママ?」

長女が代わりに答えてくれた。

「何丁お必要ですか?」

泣いている私に話しかけていいものだろうか、
と躊躇しながらおじさんが聞いてきたが、
声になりそうもなかった。

すると夫が、財布を出しながら言い切った。

「10丁ください。10丁。今日は豆腐でお祝いです」
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(47/50)

2007年07月27日 08時24分29秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
翌日は、実家でのんびりすることにした。
夕方になる少し前に夫が夕飯を食べにやってきた。
実家の隣の空き地で、私の父が子供達を遊ばせてくれていることを言うと、
父と交代をしに出て行った。
普段はまったく子供の外遊びには付き合わない夫だが、
さすがに舅だけにやらせるのは気が引けるらしい。
良い傾向だ、と内心ホクホクしてしまう。

その隙に、二階に行き、パソコンを立ち上げた。
案の定、昨日の披露パーティーの様子をアップしているブログがあった。

パーティーは大盛り上がりしたらしい。
写真も数枚アップされていた。
新郎は相当飲まされたようで、すべて顔が真っ赤で写っている。
新婦も頬を赤くしている。
披露宴の時よりも、リラックスした表情をしている。
幸せそうで・・・何よりです。

やっぱり、正視はできない。
本当に平気になるには、まだ時間がかかりそうだ。


突然、窓の外から騒がしい声が聞こえてきた。
夫の大きな声が響いている。

「祐介!こっちだ!こっちに投げるんだ!」

どうやら、長男相手にボール遊びを始めたらしい。
そんな夫の姿を見るのは初めてだ。

長男は意味が分からないらしく、
ボールを取ると、投げずに夫のところまで手で持っていっている。

「そうじゃなくて、投げるんだぞ。いいか、いくぞ」

念を押したが、やっぱりまた手で持ってくる長男。

「だーかーらー!」

まるでコントだ。
微笑ましくて笑えてくる。
長女もそれを見てケタケタ笑っている。

でも短気な夫が怒り出すのは時間の問題だろう。
そろそろ助け船を出しに行こうか、と思った時だった。

「祐介!危ない!止まれ!」

いきなり、長男が道路に向かって走り出したのだ。
夫が追いつくよりも早く、長男が道路に飛び出した。

そこへ、小さなトラックが・・・!!

「祐介!」

私も慌てて階段を駈け降りて、外に飛び出した。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(46/50)

2007年07月26日 14時12分14秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼の結婚披露パーティーの日がやってきた。
「子供を預けられない」というのを理由にして、欠席した。

彼のことを吹っ切れてきた、と思いはするが、
やはり、実際に奥さんと一緒のところを見て、
正常でいられる自信はなかった。

だって!
きっとパーティーの最後には
「キース!キース!」とかコールして、
新郎新婦にチューさせたりするでしょ?やっぱり。
・・・・・・・・・・・・無理。
無理無理無理無理。


そんなわけで、とっても天気の良かったこの日、
家族で御殿場アウトレットまで買い物に行った。
もちろん、買い物なんてゆっくりできるわけもない。
子供を遊び場で遊ばせている間に、交代で買い物をするのだ。
それなりに安いものを買うこともでき、
子供達もたくさん遊べて、満足な時間を過ごすことができた。

帰りの車の中、子供達は疲れ果てたように眠ってしまった。
車中で音楽を聴きながらお喋りに花を咲かせていると、
子供が生まれる前の2人きりの時間を過ごしているような錯覚に陥る。

家の近くの野球場を通り過ぎた時に、ふいに夫が言った。

「オレさあ、男の子が生まれたら、野球を一緒にやりたいって思ってたんだよね」

夫は小学生のころから野球少年で、今でも会社の野球チームに入っている。

「オレも父親に野球習ってたからさ、同じように息子に教えてやるのが夢だった」

そういえば、子供がまだいない頃、そんなこと言っていたのを思い出した。

夫はミラー越しにチラリと長男の寝顔を見て、ポツリと言った。

「祐介って、野球できるようになるのかなあ」

「・・・・・・」

衝撃だった。
ああ、そうか、と思った。
夫は夫で、長男にたくさんの夢を託していたんだ。
それが障害という名に阻まれて・・・
いまだに受け入れられない夫。
期待が大きかっただけに、気持ちの切り替えは難しいのかもしれない。

「できるようになるよ、きっと」

無責任にそう答えた。
夫も夫で、そうだな、と肯いた。

ずっと「気持ちを分かってくれない」と嘆いていたけれど・・・
私も私で、障害を受け入れられない夫の気持ちに、
寄り添ってあげていないということに、今さら気がついた。
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