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風のゆくえには~巡合 目次・人物紹介・あらすじ

2016年03月22日 18時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合
(2016年2月20日に書いた記事ですが、カテゴリーで巡合のはじめに表示させるために2016年3月22日に投稿日を操作しました)


目次↓

巡合1(慶視点)
巡合2-1(浩介視点)
巡合2-2(浩介視点)
巡合3(慶視点)
巡合4(浩介視点)
巡合5(慶視点)
巡合6(浩介視点)
巡合7-1(慶視点)
巡合7-2(慶視点)
巡合8(浩介視点)
巡合9-1(慶視点
巡合9-2(慶視点)
巡合10(浩介視点)
巡合11(慶視点)
巡合12-1(浩介視点)
巡合12-2(浩介視点)・完



人物紹介↓

主人公1:渋谷慶(しぶやけい)

高校2年生。身長161cm(高3時164cm)
中性的な顔立ちと背が低いことがコンプレックス。そのせいか、口が悪く、喧嘩っ早い。
人懐っこく友達は多い。でも交遊関係は典型的な『広く浅く』。浩介は初めての『親友』といえる。

ものすごい美少年。でも、本人に自覚ナシ。
中学時代はバスケ部在籍。その顔の上に、スポーツ万能で頭もそこそこ良かったため女子に非常にモテた。けれども、理想の女の子がいない、と言って全部お断りしていた。
8歳年上の姉・2歳年下(学年は一年下)の妹がいる。両親共働き。

高校1年の秋に、浩介への恋心を自覚。以来ずっと、気持ちを隠しながら健気に片思い中。
写真部所属。


主人公2:桜井浩介(さくらいこうすけ)

高校2年生。身長175cm(高3時176cm→大学2年177cm)
人の記憶にあまり残らないような平凡な顔立ち。
中学まで通っていた都内の私立男子校でいじめを受けていた影響で、高校ではとにかく笑顔でいることを心掛けている。
頭が良く、特に英語は学年首位の座を守り続けている(理数を含めると学年順位は毎回10位以内)。
威圧的な弁護士の父と過干渉な専業主婦の母がいる。一人っ子。

バスケ部と写真部に所属。
バスケ部の先輩・美幸さんに片思いをしていたけれど、美幸さんとバスケ部キャプテン田辺先輩のキューピットをして、自らは失恋(←『片恋』編)

何だかんだと常に暗~いことを考えてしまうネガティブ男子。
でもそれではダメだ!と一念発起(←『月光』編)。
慶の隣にいるのにふさわしい男になる、と頑張りはじめるけれども……



<2年10組>

溝部祐太郎(みぞべゆうたろう)
身長168cm。ちょっと太め。お調子者。野球部所属。

山崎卓也(やまざきたくや)
身長172cm。ヒョロリとしている。真面目で大人しい。鉄道研究部所属。

斉藤健一(さいとうけんいち)
身長170cm。明るく社交的。バスケ部所属。

浜野ちひろ(はまのちひろ)
身長153cm。色白。眼光が鋭い。独特の雰囲気を醸し出している。美術部所属。


<写真部>

渋谷南(しぶやみなみ)
高校1年生。身長155cm
慶の妹。今で言う『腐女子』。陰となり日向となり勝手に兄の恋を応援している。
せっかく美人なのに自覚がなく洒落っ気もないため、隠れ美人止まり。

橘真理子(たちばなまりこ)
高校1年生。身長149cm
ふわふわした可愛らしい容姿だが、実は腹黒いしっかり者。
実兄である橘雅己に片思い中。

橘雅己(たちばなまさき)
高校3年生。身長174cm
真理子の兄。学年首位。将来は実家の家業を継ぐため写真家への道は諦めている。


<バスケ部>

篠原輝臣(しのはらてるおみ)
高校二年生。身長171cm
部活内で浩介と組まされることが多く、二人セットで『しのさくら』と呼ばれている。
平均的男子。恋愛話大好き。常に彼女絶賛募集中。

荻野夏希(おぎのなつき)
高校二年生。身長158cm
慶と同じ中学出身。高1のとき浩介と同じクラス。

上岡武史(かみおかたけし)
高校二年生。身長173cm
慶と同じ中学出身。中学時代は慶と犬猿の仲だった。


<文化祭実行委員>

安倍康彦(あべやすひこ)
高校二年生。身長169cm
慶の元同じクラス。浩介以外で慶が一番仲の良い男子。通称ヤス。石川さんに片思い中。

石川直子(いしかわなおこ)
高校二年生。身長159cm
慶の元同じクラス。一年生の時からずっと慶に片思い中。

鈴木真弓(すずきまゆみ)
高校三年生。身長172cm
文化祭実行副委員長。



あらすじ↓

高校2年生2学期。

文化祭実行委員長になってしまった慶。忙しすぎて浩介とロクに話もできずストレスマックスな日々。
一方、浩介も、文化祭クラス委員になり、苦手な人前に立つ仕事に奮闘中。

そんな中、浩介は、慶の友人ヤスから、真理子が慶の理想の女子にピッタリだという話を聞かされる……

浩介がとうとう、慶への恋心を自覚する、かも?!
そして、小中学校時代のトラウマを乗り越え、本当の意味で学校生活を謳歌できるようになるための物語。



----------------------------------------


明朝朝7時21分からはじまる『巡合(めぐりあわせ)編』の人物紹介とあらすじでした。
お読みくださりありがとうございました!

文化祭……青春ですね~~。
あ、でも、一回目の明日は、プロローグ的に体育祭の話!
この学校、体育祭は9月末、文化祭は11月頭、なんです。

と、いうわけで、新章もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合12-2(浩介視点)・完

2016年03月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 12月25日が終業式のため、24日は午前授業で3、4時間目は大掃除だった。

 慶とおれは掃除の班も同じなため、一緒に階段の掃除を担当していたんだけど、お互い階段の端から洗剤のついたスポンジで磨いていって、真ん中あたりでぶつかる度、一緒のバケツで雑巾を洗う度、嬉しくてしょうがない。

「お前、ニヤニヤしすぎ」

 慶に苦笑して言われたけれど、どうしても止まらない。
 大好きな人がそばにいて、その人もおれのことを好きっていってくれてて。こんなに幸せなことってない。

 夜のデートの約束までずっと一緒にいたかったのだけれども、あいにく午後からはバスケ部の練習。
 でも、その前に……


「見せたいものってなんだろうねえ?」
「さあ……」

 ホームルーム終了後、おれ達は写真部の部室に向かった。
 昨日、橘先輩の妹の真理子ちゃんから、慶の妹の南ちゃん宛に電話があり、伝言されたそうなのだ。

 橘先輩が、おれに見せたいものがあるから、放課後写真部の部室に来るように言っている、と……


 写真部の部室は鍵は開いているのに誰もいなかった。暗室にもいない。

「トイレかな?」
「まあ、待つか……。あ、お前、弁当食ってれば?」
「あ……うん」

 今ごろ、バスケ部員は体育館で弁当を食べているはずだ。おれも今食べないと食べそこなってしまう。

「うわっうまそー」
「……そう?」

 弁当を開いたなり慶に言われて、複雑な気持ちになる。毎日、毎日、栄養バランスの考えられたすべて手作りの完璧な弁当。その完璧さに追い詰められて息が苦しくなる……

「……食べる?」
 思わず言うと、慶が目を輝かせた。

「やった! じゃあ……これ!」
「うん」

 ピーマンやらニンジンやらが入った肉団子を箸でつまみ、顔をあげると……

(……うわっ)

 慶が、あーんって口を開いて待っている。その破壊力抜群の可愛さにクラクラきてしまう。
 なんとか平常心をかき集めて、慶の口の中に肉団子を放り込む。

「んーーーー、んめえっ」

 肉団子を頬張った慶が嬉しそうに咀嚼している。

「もっといる?」
「うん! あ、でも、お前も食え」
「うん」

 いつもは苦しくなる弁当も、慶と一緒だとおいしい。
 慶に時々あげながら、弁当を全部食べ終わり、幸せな気持ちが止まらなくて微笑み合っていたところで、

「え!?」
「わあっ!」

 いきなりのシャッター音に飛び上がってしまう。

「た……橘先輩!」
 いつの間に、ドアを入ってすぐのところで橘先輩がカメラを構えて立っていた。いつからいた……!?

「なんだ………」
 驚いているおれ達にもかまわず、橘先輩はもう一度シャッターをきると、

「君たち上手くいったんだな……なら必要なかったか………」
「え?」
「は?」

 上手くいった………って! えええ!?

「いや……渋谷には真理子の件で世話になったから、礼をしないとと思っていてな」
「え………」

 橘先輩、真面目な顔をしてこちらにやってくると、鞄をテーブルの上に置いて何かゴソゴソ取りだしはじめた。

 世話って……慶が真理子ちゃんを慰めた件?
 上手くいったって、それは、慶とおれが付き合いはじめたことをいってる……?

 頭の中が「?」でいっぱいの中、橘先輩に見せられたのは、2枚の写真………

「これを桜井に見せてやろうと思ったんだ」
「おれに……?」

 それは合宿の最終日、帰る直前に、橘先輩のカメラで、おれが慶を、慶がおれを撮った写真だった。
 自分で言うのもなんだけど……二人ともすごく柔らかい良い表情をしている。

 これが? と首をかしげたおれ達に、橘先輩は無表情に言い放った。

「愛に溢れている写真だろう」
「え………」

 愛に溢れて………

「アングルその他は平凡そのもので何の評価もできないが、この表情はプロでも撮れない」
「…………」
「君たちが思い合っている証拠だ」

 思わず慶と顔を見合わせる。
 思い合っているって………

「桜井が自分の気持ちに気がついていないようだったから、教えてやろうかと思ったんだが………気がついたんだな?」
「あ………はい」

 素直にうなずく。
 この人は、カメラのフィルターを通すと色々なことが見えてしまうのだろう……。

「お礼って……」
「渋谷が桜井に片思いしてることは最初から分かっていたからな。お礼に桜井を自覚させてやろうかと」
「……………」

 慶は額を押さえて複雑な表情でうつむいている。

「あの……」
 この際だから聞いてみたくなった。

「先輩に聞くのも変なんですけど……、おれって、いつから渋谷君のこと好きでした?」
「おま……っ何を……っ」

 慶は赤くなって顔を上げたけれども、橘先輩は淡々と答えてくれる。

「最初から友情以上の感情はあったようだが……変化があったのは、合宿の時だな……」

 合宿の時……憧れの『渋谷慶』でなく、慶自身と一緒にいたい、と気がついた……

「あと、体育祭後くらいから、色んな感情が渦巻きはじめたって感じか……」

 体育祭後……文化祭の準備が始まったころだ。慶の隣に並ぶのにふさわしい男になりたい、と委員を引き受けて……それと同時に醜い嫉妬心と独占欲が押さえられなくなって……

「被写体としては君たちは本当に優秀だったが……」

 橘先輩は再びカメラをおれ達に向け……でも、すぐに下ろした。

「なんか面白くなくなったな……。今までは、渋谷のうちに秘めた情熱を写真に写し出すことが面白かったのに……」

 肩をすくめる橘先輩。

「今はもう、その情熱が外までだだ漏れていて、面白くともなんともない」
「だだ漏れって……っ」

 慶、真っ赤。可愛い。
 橘先輩が次におれをみてため息をついた。

「桜井も、殺意すら滲んでたのに、すっかり穏やかになって……つまらんな」
「さ、殺意……」

 おれ、そんなに酷かった?

「まあ、それじゃあ礼は別に考えよう」
「…………あ、でも」

 思わず言葉が出てしまった。

「おれ、自分の気持ちに気がつけたの、橘先輩のおかげです。こないだの木曜日に橘先輩が言ってくださった言葉がきっかけなので……」
「え、何それ」

 すかさず慶につっこまれる。おれが答える前に橘先輩が「ああ、なんだ」と言葉を継いだ。

「いや、土曜日に二人を見かけたとき状況が変わってなかったから、もっとはっきり言わないとダメだったか、と思って今日呼び出したんだが」
「あ……そうだったんですか……」

 ほんとすごいなこの人………何もかもお見通しなんだ。

「じゃあ、これが礼ってことでいいな? 渋谷」
「って、だから何を言ったんですか?」

 橘先輩の言葉に、慶が眉を寄せながら言うと、橘先輩は無表情のまま告げた。

「喜怒哀楽の怒って話だ」
「怒?」
「まあ、詳しくは桜井に聞け。でもそろそろ時間じゃないか?」
「あ」

 あと8分で集合時間だ。まずい。まだ着替えてもいない。

「じゃ、また休み明けにな」
「……はい」
 慶は、釈然としない、という顔をしてうなずき、おれに「行くぞ」と声をかけドアに向かった。

「あの……ありがとうございました」
 橘先輩にあらためて頭を下げると、先輩は今日はじめてニヤリと笑った。

「今は喜と楽ばかりだな」
「………はい」

 かなわないなあ……と苦笑するしかない。

「浩介、遅れるぞ?」
「あ、うん」

 ドアを開けて待ってくれている慶にかけよる。
 大好きな慶がおれを待ってくれている。本当に、喜と楽ばかりだ。


***


「で、喜怒哀楽って?」

 クリスマスデートの帰り道、駅からのんびりと慶の家に向かって歩いている最中に、ついにそのことを聞かれた。

 今日はクリスマスだからピザを食べたい、というよくわからない慶の希望を叶えるために、自転車と荷物を慶の家におかせてもらって、電車でピザの食べ放題の店に行った。

 慶は細いのに良く食べる。今日もおれの倍は食べていた。でもさすがに食べ過ぎた!と最後にはフラフラになっていて、子供みたいでおかしくて、愛しくて、何度も何度も頭を撫でた。クリスマス一色の店内のおかげですっかりクリスマス気分。幸せな夜だ。


「あの文化祭のポスター、恋愛の喜怒哀楽を表そうとしたんだって」
「え、そうなのか?」

 文化祭のポスターとは、『恋せよ写真部』という煽り文句の書かれたポスターで、柔らかい笑顔の慶と、泣き顔の真理子ちゃんの写真が使われていた。

「慶のが『喜』、真理子ちゃんが『哀』。それで、こないだの木曜日に橘先輩がおれを撮った写真が『怒』になるって」
「怒?」

 不思議そうな顔をした慶の頭を再び撫でる。

「おれ、慶と真理子ちゃんが仲良くしてるのがムカついてしょうがなくて……。橘先輩にその顔が『嫉妬に怒り狂った恋する男の顔』だって言われて……」
「怒り狂ったって……」

 撫でている手を上から押さえられた。

「お前、前から妙に真理子ちゃんにこだわってるけど、真理子ちゃんとは本当に……」
「真理子ちゃんだけじゃないよ」

 手を裏返してぎゅっと掴む。

「慶と仲良くする人はみんな嫌だった。石川さんも安倍も上岡も、みんな許せなかった」
「……………」

 慶は困ったような、でもちょっと照れたような表情になっている。

「それで気がついたんだよ。慶のことが好きだって」
「…………」

 慶の頭の上で繋いだ手が強く握り返される。愛しい体温が伝わってくる。
 慶の手はいつでも温かい。おれの冷たい手を包み込んでくれる。

「慶は……あのポスターの写真の時、何を見てたの?」

 喜怒哀楽の『喜』。柔らかい笑顔の慶の写真。何を見ているのかずっと気になっていた。

「何って……」 
 慶は目をパシパシさせながらおれを見上げると、 

「それ、本気で聞いてんのか? それとも言わせたいだけ?」
「……え? わっ」

 聞き返すよりも早く、慶が「えいっ」とおれの背中に飛びのってきた。おんぶ、だ。
 伝わってくる温かさ……後ろから耳元に唇を寄せられ囁かれた。

「あんな顔、お前のこと見てたに決まってんだろ」
「………っ」
「おれはお前のことだけ、ずっとずっと見てきたんだからな」
「慶……」
「今までも。これからもだ」

 ぎゅっと抱きついてくれる慶。背中が温かい………。

 怖いくらいの幸せ……

「おれ……慶に出会えてなかったらどうなってたんだろう……」

 思わず出た言葉に自分でもゾッとする。
 慶に出会えていなかったら今もまだあの暗闇の中に……

 深淵に沈みこみそうになったところ、慶に肩をバシバシ叩かれ引き戻される。

「そんなの愚問だ愚問」
「…………」
「おれ達は絶対に出会ってる。おれ達は巡りあう運命なんだからな」
「……慶」

 慶がするするっと背中から下りてきて、おれのことを見上げニッと笑った。

「そうじゃなかったら、こんなに好きになるわけないだろ?」

 慶、慶…………
 なんであなたはこんなに真っ直ぐ、おれなんかのことを見つめてくれるんだろう。体中温かいものに包まれていく……

「慶……大好き」

 抱き寄せて、その愛しい唇に………

 と思ったのに。

「痛っ」
 顎に頭突きされた! 本気で痛いっ!

「もー慶!」
「こんな住宅街の道ばたで何しようとしてんだお前」
「えー………」

 顎をさすりながら、ぶーっとする。

「ケチ。誰もいないじゃん」
「窓から外見てる人とかいるかもしんねえだろっ」

 慶が赤くなりながら小さく言って怒っている。その耳元に呪文のようにささやいてやる。

「キスしたい。キスしたい。キスしたい。キ………」
「うるせえっ」

 普通に蹴られた……。

「もー慶が……とと?」
 文句をいいかけたけたところを、腕をつかまれ、ずんずん引きずられるように歩かさせられる。でも家に向かう角を通りすぎてしまった。

「けいー? ここ曲がるんじゃ……」
「いいんだよっ」

 そのまま曲がらず連れて行かれたのは……昨日キスした川べりだ。

 と、いうことは………

「慶………いいの?」
「…………」

 慶、真っ赤になって、言い訳するようにボソッと言った。

「食べ過ぎたから、ちょっと休憩してから帰る。お前も付き合え」
「…………」

 真っ赤。本当に真っ赤。か、かわいい……

「いいだろ?」
「もちろん!」

 二人並んで土手を下りていく。
 この土手にも何度もきた。悔しくて泣いたことも、嬉しくて笑ったことも、すべてが慶との思い出だ。

「慶……大好きだよ」
「ん」

 そっと唇を合わせる。

「これからも……ずっと一緒にいてくれる?」

 頬を囲み、おでこをコツンとすると、慶がふわりと笑ってくれた。

「当たり前だろ。おれ達はずっと一緒にいる」
「……うん」

 巡りあう運命……
 おれ達は出えた。そして、今、一緒にいる。

 慶……大好きな慶。

 おれ……頑張るから。慶の隣にいるのに相応しい男になるから。

 だから、いつまでも一緒にいて。
 それだけがおれの願い。




<完>


-------------------


お読みくださりありがとうございました!
なんだかまったりした回ですみません。
山あり谷ありありましたが、慶と浩介、無事に両想いになりました。
そしてこの『巡合』編を経て、浩介は少しだけ自分に自信が持てるようになりました。

次回から、お正月以降~高校二年生の終わりまでのお話『風のゆくえには~将来』をお送りいたします。
『将来』の名の通り、2人の今後のこととか、進路のこととか、あいかわらず何も大事件の起きない普通のお話です……
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

そしてクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!おかげさまで無事に『巡合』最終回までたどり着くことができました。もう後は安心してラブラブさせてあげられます。
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BL小説・風のゆくえには~巡合12-1(浩介視点)

2016年03月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


『嫉妬に怒り狂った恋する男の顔をしてる』

 そう、橘先輩に指摘された日、おれは自分自身と一晩中向き合ってみた。でも、何度否定しても、出てくる結論は同じだった。


 慶のことが好き。


 そう認めたら、何もかもに合点がいった。バラバラだったパズルのピースが一気に正しくはめ込まれた感じだ。
 けれども、おれたちは親友で、しかも男同士で。そんな気持ちを打ちあけたら、嫌われて、今までの関係が崩れてしまうと思った。
 それだけは嫌だった。おれは慶のそばにいたい。それだけは譲れない。だから、自分の気持ちを押し隠すしかないと思った。

 だけど……どうしても会いたくて、会いたくて、触れたくて………。
 我慢できずに、12月23日の祝日、バスケ部の練習の帰りに慶の家に行った。でも、慶は外出中で……。

 気が抜けた拍子に思わず慶の妹の南ちゃんに、思いの一端を話してしまったら、南ちゃんに冷静に諭された。

『思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと』

 南ちゃんの言葉には説得力がある。
 でも、伝えて嫌われたら………

『そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?』

 言われて、はっとする。
 そんなものではない……はずだ。何があっても、一緒にいられる。一緒にいたい。

『頑張って!』

 思いきり背中を押された。
 そのまま勇気をだして、駅前のクリスマスツリーの下で慶を待ち伏せして………


『慶のことが好き』


 一世一代の告白をした。



 そして………



 昨晩は、一睡もできなかった。

『ずっとずっと好きだった』

 慶がいってくれた言葉が頭の中をグルグルグルグル回っている。

 両想い。そんな夢みたいなことがあっていいのだろうか。
 眠ったら、夢から覚めてしまうのではないだろうか。

 そう思ったら、まったく眠れず、ひたすら、慶との今までのことを思い出しながら夜が明けるのを待った。

 一年以上前からおれのことが好きだったと言ってくれた慶……
 一年以上前……。おれのことを『浩介』と名前で呼んでくれるようになったころだろうか……
 おれと一緒にいるときが一番楽しいっていってくれたのも、おれのことを全部知りたいっていってくれたのも、そういうことだったのかな、と思うと、気がつかなくてごめんねって気持ちと、すっごく嬉しい。嬉しすぎるって気持ちで、顔がニヤケてしょうがなくなる。


 でも、本当に夢みたいで……慶に会わないと信じられない。
 そう思ったらいてもたってもいられなくて、いつもよりも30分早く登校した。

 窓際の自分の席に座りながら、ボーっとしていると、頭の中は昨日の慶のことでいっぱいになってくる。

 昨日、少しだけ寄った川べりの土手。二人で並んで座って、ギュッと手を強くつないで、何度も何度もキスをした。
 こめかみのあたりにキスをすると、慶がくすぐったそうに首をすくめる。それが可愛くてしょうがなくて、こめかみや瞼や頬やおでこにキスの嵐を降らせていたら、

「お前しつこいっ」

 慶が笑いながらおれの胸にぎゅうっと頬を寄せて、腰に手を回して抱きついてきたので、よいしょって慶を持ちあげて足の間に座らせて、後ろからぎゅううっと抱きしめて、うなじにキスをして……



「はよーっす」
「!」

 慶の声に我に返る。慶……いつもより早い。

「おー?渋谷早いなー?」
「ちょっとな」

 委員長の長谷川に声をかけられ、軽く手を挙げて答えた慶。
 いつも通り……いつも通りだな。いつも通り爽やかだ。

 慶はそのまま真っ直ぐにおれのところまで歩いてくると、

「………はよ」
「………慶」

 立ったまま、座っているおれをジッと見下ろしてきた。

「あの……」
「うん」

 慶の左手が、机の上に置かれたおれの右手の上に、そっとのせられる。
 そして、ボソリ、といわれた。

「昨日のこと……夢じゃ……ないよな?」
「………」

 慶の瞳が不安げに揺れている……

(夢じゃないよなって……)

 慶……慶。

(か……可愛すぎるっ)

 思わずニヤケてしまいそうなのをこらえて、のせられた手を掴む。

「夢じゃないよ」
「…………」

 ぐっと引っ張り、寄ってきた耳元にささやく。

「大好きだよ」
「……………」

 慶の瞳に安堵の光が灯る。

 ああ、可愛い。可愛い慶。


 慶の温かい手がおれの目元をスッとなでてきた。

「お前、目、赤いな。寝不足か?」
「うん。寝たら夢が覚めちゃいそうで怖くて眠れなかった」
「………ばーか」

 慶は柔らかく笑うと、おれの頬をきゅっとつまんだ。

「夢じゃない。夢じゃない……」
「慶………」

 慶の笑顔……

 ああ、もう、我慢できないっ!

「けいーーー! 大好きーーー!!」
「うわっ」

 立ち上がってぎゅううっと抱きしめると、慶がバタバタと暴れ出した。

「お前何すんだよっ!離せっ」
「えーいいじゃんいいいじゃんっ」
「よくねーよ!!」

 二人で揉みあっていたら、後ろの席の山崎が登校してきて、呆れたように言った。

「二人とも何やってんの?」
「おおっ山崎っ助けてくれっ浩介が壊れたっ」
「壊れてないっ慶っ大好きだよっ」
「はーなーせええええっ」

 本気で押されて、腕の中から慶が出ていってしまった。あーあ……

 むーっとしていたら、今度は溝部がやってきた。

「男同士でじゃれあっている、そこの寂しい二人」
「ああ?」

 慶が「あ」に濁点をつけて振り返る。

「何だと?」
「寂しい二人に朗報です。今夜のクリスマスイブ、パーティをします。もちろん女子も誘って!」
「…………」

 横目で慶を見る。
 昨日、おれたち「明日はクリスマスデートしよう」って約束したんだけど……
 慶、どうするのかな……パーティ行くって言うのかな……

 内心ドキドキしながら、慶の様子を見ていたら、慶はあっさりと、

「ああ、悪い。おれパス。今日予定入ってる」
「なんだとー!!」

 溝部が慶に掴みかかる。

「ま、まさか、デートとか……」
「そうそう。デート」

 慶、溝部の手を剥がしながら、無表情に肯いている。

「誰だよ!相手誰だよ!」
「教えねー絶対教えねー」

 表情を崩さない慶に、溝部が今度はおれに掴みかかってきた。

「お前知ってるだろ? 渋谷の相手! 誰なんだよ?!」
「あー……うん」

 必死な溝部に、ニッコリと笑いかける。

「おれ。デートの相手、おれだよ?」
「はあああ? 冗談言ってねーで教えろって!」
「だからおれだってー」

 言っても一向に信じてもらえない。本当なのになあ……。
 笑いをこらえている慶を見て、溝部が怒り出した。

「もういい! お前らは誘ってやらねえ! 山崎! お前は来るよな?」
「女子って誰がくるんだ?」
「とりあえず、鈴木は決定」
「鈴木?」
「鈴木!?」
「鈴木さん!?」

 思わず3人で声を揃えてしまう。

「お前ら仲悪いんじゃねえの?」
「べ……つに、悪くねえよ……」

 溝部が照れてる……。へええ……。

「まあ、頑張れ」
「うるせえっ」
 慶の言葉に溝部は怒りながら席に戻っていってしまった。


「鈴木かあ……難しいだろうな」

 席につきながら山崎が言うので「なんで?」と二人で聞くと、

「前に文化祭のメニュー班で喋ってた時に言ってたんだけど、鈴木、同じ歳の男は眼中ないんだって。年上の大人の男が好きなんだって」
「あー……そうなんだ……」

 残念ながら、溝部は言動その他かなり子供っぽい……。

「好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ」
「…………」
「…………」

 山崎が頬杖をつきながらつぶやいた言葉に、思わず慶を見ると、慶もおれのことを見ていて……

「ホントだな。奇跡だな」
「うん……奇跡だね」
 
 誰からも見えないところで、キュッと指を絡める。
 愛おしい気持ちが伝わってくる……

 奇跡だ。

 慶との何もかもは奇跡としか言いようがない。

 でも……

「……慶」
「ん」

 慶の恥ずかしそうな瞳に、愛おしさがあふれてどうしようもなくなる。

 慶の隣にはおれがいる。おれの隣には慶がいる。それは奇跡なんかじゃなくて、これからはもう、当然のことにしたい。





-------------------


お読みくださりありがとうございました!
まだ、「キスをした」っていっても、触れるだけのカワイイキスしかしてない初々しい二人です。

クリスマスイブイブの告白の話が終わったので、今まで非公開にしていた読切『影日向(南視点)』を公開にしました。
2014年12月1日に書いた、南視点のお話です(1年3ヶ月前の私、今と違って改行空欄少ない。そして文章がアッサリしてる……)。
上記の『思いは言葉にしないと伝わらないよ』って話の詳細です。南ちゃん、影となり日向となり2人の関係を応援しています。

今後のことなんですが…。
約4か月前に「高校時代に作ったプロットを元に高校時代の話を書こう」と思った時には、両思いになるこの『巡合』まで書ければいいや、と思っていました。
でも実はこのプロットには続きがありまして……。ええ。続きがあるんです。高校2年生の終わりまで。
でも、なんというか、話が地味で、後半は特に全然BLじゃなくなっちゃうし……。
ということで、書くのを迷っていたのですが、この際だから書くことにしました。つまんないけどいいの。私が読みたいから!

ただ、これから春休み期間に入りパソコンを使える時間が限られる関係で、更新頻度が落ちるか、一回の更新量が減るか、どちらかになると思われます。
それでもお付き合いくださる心優しいお方、もしいらっしゃいましたら今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

とりあえず、明後日『巡合』は最終回です。どうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!おかげさまで次回最終回になります。どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合11(慶視点)

2016年03月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合

 浩介の様子が変だ。

 今思えば、木曜日の体育の時、らしくなくムキになっていたことが始まりかもしれない。
 写真部に顔を出したあとの帰り道では、妙に暗く沈んでいて、いつものバスケの練習もせずに帰ってしまった。

 金曜も土曜も心ここにあらずで……
 それでいて、何か言いたげにおれを見るので「どうした?」と何度か聞いたのだけれど、「なんでもない」と首を横に振るばかり……。

 なんなんだろう……。まさかおれの気持ちに気がついて距離を置こうとしてるわけじゃないだろうな……。

 そんな不安な気持ちのまま、日曜を過ごし、そして祭日の月曜日……


 母に頼まれて、姉の家に届けものにいった。
 今日は12月23日。姉夫婦の一周年の結婚記念日だ。思えば、一年前、姉が結婚して家を出ていったことに落ち込んでいたおれを、浩介は優しく抱きしめて慰めてくれたんだよな……。なんて、頭の中はすぐに浩介のことでいっぱいになってしまう。

 4月下旬出産予定の姉のお腹はだいぶふっくらしてきている。そんな幸せいっぱいの姉に、浩介のことを愚痴るのも気が引けたんだけれども、

「何かあったでしょう?」

と、すぐに見破られ、話すよう促されたので、浩介が男であることだけ伏せて現状を話した。

 姉は、キスをしてしまったくだりでは「まあ」と目を輝かせたけれど、その後、結局友人関係が続いていると話すと「あらら」とため息をついた。

「どうしてキスしたところで、もう一押ししなかったの……」
「………。友達じゃなくなるのが怖かったから」

 姉の問いに素直に答える。そう。おれが一番恐れていることは、浩介のそばにいられなくなることだ。

「慶は、本当にその子と友達のままでいいの?」
「いい」

 浩介の恋愛対象は女性だ。おれの気持ちを受け入れられるわけがない。拒絶され、友達でいられなくなるくらいなら、おれのこの想いなんかいくらでも隠し通してやる。

「ただ、そばにいたいだけだから」
「そう……。でも……」

 姉は頬に手をあてて何か言いかけたけれども、ふっと笑顔になった。

「それが慶の選んだ道なら、応援するわ」
「……ありがとう」

 コクリと肯く。
 本当は、そばにいるだけじゃ嫌だ。触りたい。抱きしめたい。キスしたい。でも、そんなことはできない。そんなことは知ってる。
 でも一緒にいたい。それが一番の望みだから。だからそれ以上は望まない。望まない……


***


 姉の家の最寄り駅からうちの駅までは電車で30分ほどかかる。電車を降りると、外はもう真っ暗だった。駅前の大型スーパーの入り口近くにある大きなクリスマスツリー。赤や青の電飾が余計に目立ってキレイに光っている。……と?

「………え」
 そのツリーの横に……浩介が立っていた。驚きのあまり心臓が止まるかと思った。

「浩介……」
 今にも泣きだしそうな顔をしている浩介。駆け寄って、抱きしめたくなる衝動をどうにか抑え、静かに歩み寄る。

「……どうした?」
「うん……」
 手を伸ばされ、反射的に身をすくめてしまう。伸ばした手が空を切り、ますます泣きそうな顔になる浩介。

「慶……おれのこと、嫌い?」
「え」
 そんなこと、あるわけがない。

「何言って……」
「最近、ずっとおれに触られるの避けてるよね」

 気がついてたのか……

「それは……」

 お前に触られると、心臓が跳ね上がって、血のめぐりが3倍になって大変なことになるからだ。なんて言えるわけがない。
 木曜日から様子がおかしかったのは、そのことに気がついて、理由を聞きたかったからなのか……。でも本当のことなんて答えられない。

 黙っていると、浩介が眉を寄せたまま聞いてきた。

「もしかしてなんだけど……後夜祭の……あのことが原因?」
「………」

 今さらそれを言うか。
 こっちはあのキス以来、感情が渦巻いてどうしようもなくなっているというのに、浩介は今までとずっと変わらなかった。変わらなくて有り難いという気持ちと、こいつにとってあのキスはなんでもないことなんだ、という微妙に腹立だしい気持ちが入り混じって、ずっと複雑な心境でいる……なんて言えるわけもなく……。

「……お前、なんでここにいんの?」
 質問には答えず、ツリーの飾りを意味もなくいじりながら尋ねると、浩介も横に立ち、同じようにツリーにかかった星をなぞりはじめた。人通りはそこそこあるけれども、みな忙しそうに歩いていて、男子高校生2人がツリーの陰にいることには誰も気に留めていない。

「部活の帰りに慶のうちに寄ったら、お姉さんのうちに行ったって南ちゃんが教えてくれて……」
「おれのうちに? 何か用だったのか?」
「うん………」

「!」
 ふいに、飾りをいじっていた手をつかまれた。とっさに振り払おうとしたが、思いの外、強い力で握られていてほどけない。

「何……」
「聞いて」
 真摯な浩介の瞳がまっすぐにこちらを向いている。

「何を……」
「おれね、すっごい悩んだ。慶のこと」
「…………」

 浩介が何を言い出す気なのか、聞くのがこわい。逃げだしたいけれど、逃げられない。

「後夜祭の後、慶、何も言わないから今まで通りにしようと思ってたけど……一か月くらい前からおれに触られるの避けるようになったよね?」
「…………」

「それで、おれ、嫌われたのかなあって……」
「そんなことあるわけないだろ……っ」

 ふるふると頭を振ると、浩介がやわらかく微笑んだ。

「良かった。嫌いになったわけじゃ……ないんだよね?」
「……当たり前だろ」

 うなずくと、浩介がホッとしたようにため息をついた。

 ああ、なるほど。だから今まで通りの友達に戻ろうって話だな? ……良かった。友達やめたいとか言われたらどうしようかと思った。

 そう、安心したのも束の間、

「あのね……慶」
 浩介が真剣なまなざしで、言った。

「おれ………慶の友達やめたい」




「…………は?」

 なんだと?

「なんで……」

 なんで、もないか。キスなんかしたからか? そんな奴とは友達続けられないってことか?

 足が震える。浩介の瞳から目をそらせない。

 なんでだよ……今、良かった、って、お前、良かったって言ったのに……
 おれはそばにいられるだけでいいのに。何も望まないから、そばにいられるだけで……
 だから、お願いだから、お願いだから、浩介……っ


「こう……」
 何か言おう、と思ったその時……

「慶……」
 ぎゅっと、繋いでいた手に力がこめられ……そして……

 浩介の唇が下りてきた。軽く、触れるだけの……キス。


「……え?」

 なに……?
 今、なにが起きた……?

「慶」
 呆気にとられたおれに、浩介がささやいた。

「おれ……慶のことが、好き」



 浩介の揺るぎない瞳……


「え……」

 今、なんて……?

 聞き返すと、浩介は真面目な顔をしたまま言葉を継いだ。

「慶のことが好き」
「……え?」

「手つなぎたい。頭なでたい。抱きしめたい。キスしたい」
「は?」

 え?

「………え?」

「それってもう、友達に対する感情じゃないと思って」
 浩介の瞳にイルミネーションが映りこむ。

「こんなこと言って嫌われたらどうしようって思ったんだけど、でもこの蛇の生殺し状態が続くのは、もう無理だから」
「生殺し?」
「生殺しだよ。こんなに近くにいるのにふれられない。抱きしめられないなんて」
「…………」

 浩介の瞳の光。とてもキレイだ。

「慶……」
 浩介のおれの手をつかむ手に力が入る。

「こんな風に思われるの……嫌?」
「…………」

「正直にいって。それならおれ……極力我慢するから」
「我慢……?」

「あまり自信ないけど……」
「…………」

 何を……言えばいいんだろう。
 何を……思えばいいんだろう。

 まわりの音がすべて消えて、この世界におれ達二人しかいないような感覚に陥る。

 浩介……おれは……


 言葉にならないまま、その誠実な瞳を見上げていたら、

「慶?!」
 ぎょっとしたように浩介が手を離した。

「そ、そんなに嫌だった?!」
「え?」

「慶……泣いてる」
「あ………」
 無意識のうちに涙があふれだしていた。ただただ流れ落ちる。浩介の姿がにじんでいる。

「ごめん。そんなに嫌なら、もう言わない。もう触らない」

 浩介が降参、というように両手を挙げた。

「でも、近くにいることは許して」
「………浩介」

「おれ……どうしても、どうしようもなく、慶のことが好き……なんだ」
「………」

「……ごめんね」
 悲しそうにいう浩介。なんだ……なんだそりゃ。

「……ごめんってなんだよ、ごめんって」
「んーーー好きになって、ごめん?」

「ばかっ」
 ちょっと笑った浩介の胸をどんと叩く。

「でも……ごめん。慶のことが、好き」
「ばかっあほっ」

 涙が止まらない。

「だから、ごめんって」
「ごめんじゃないっ」

 浩介の胸に両手をおいたまま、見上げる。久しぶりに間近でみる浩介の瞳。おれの大好きな瞳。
 その瞳に向かっておれは一気にまくしたてた。

「おれなんてもう一年以上前からお前のこと好きなんだぞっ。好きになってごめんっていうなら、おれはどんだけ謝んなくちゃなんねえんだよっ」
「……え?」

 今度は浩介が呆ける番だった。

「今、なんて……」
「だーかーらー」

 ババッと涙を手の平でぬぐい、胸倉を掴んで顔を見上げる。

「お前のことが、好きだっていってんの」
「………うそ」

 ぽかんとしてる浩介の胸をグリグリと押す。

「なんでうそつかなきゃなんねえんだよ」
「……本当に?」

 こっくりとうなずく。

「うそだあ……」
「なんでだよっ」

 浩介が戸惑ったように言う。

「だっておれ、男だよ……?」
「おまえなーーー!!」

 それをお前がいうか!!

「あほかっおれはそんなこと百も承知で一年以上片思い続けてきたんだよっなめんなっ」
「け……」

 掴んでいた胸倉をぐっと引っ張り、近づいた浩介の唇に素早く口づける。

「おれがどんだけお前のこと好きか思い知れ!」
「わわわ……っ」

 浩介がよろけるのも構わず、ぎゅううっと抱きつく。背中に手を回し、ぎゅうううううっと力を入れる。肩口に額をぐりぐりぐりと押しつける。

「慶……」
 ぎゅっと抱きしめ返される。久しぶりの浩介の腕。浩介の匂い。

 ずっと、ずっと、ずっと、こうしたかった。

「慶……夢みたい……」

 耳元で浩介の優しい声が聞こえる。

「それはこっちのセリフだ」
 背中に回した腕に更に力をこめる。

「ずっとずっと好きだった」
「慶……」
 またぎゅっと強く抱きしめ返される。

「慶……幸せすぎる」

 それもこっちのセリフだ。

 ああ、でも、と、ふと思いつく。

「でもおれ、お前と友達やめたくないぞ?」
「ああ……そうだよね」

 浩介は笑い、腕の力を緩めると、おれの頭のてっぺんにキスをした。

「なにもやめることはないよね。じゃあねえ……親友兼恋人、は?」
「親友兼恋人?」

 おれも笑う。それはいいな。



「それにしても……」
 浩介がポツリといった。

「早く言ってくれればよかったのに……」
「何だよそれ」
「だって!」

 コツンとおでことおでこをくっつける。

「そうしたらおれこんなに悩まなくてすんだじゃん」
「たかだか数日で何言ってんだよ。おれなんて一年以上悩んできたんだぞ。途中でお前、美幸さんのこと好きになるし」
「それはっ」
「なんだよ」

 眉間にシワを寄せて見上げると、浩介が真面目な顔をして言った。

「……スミマセンデシタ」

 棒読みな謝罪の言葉に、思わず吹き出す。

「心こもってねー」
「だってー……あーおれ一生言われ続けるんだろうなー」

「一生って」
 何でもないことのように「一生」という浩介。嬉しくなる。

「……そうだな。一生言ってやるよ。だって、好きだったのは本当だろ?」
「んー……」

 おれの髪を弄びながら浩介はうなると、
「今考えると……アイドルとかアニメのキャラとか好きっていうのと同じ感じだったのかなーとも思うんだよね」
「そうなのか?」

「んー…だって……」
 再びぎゅーっと抱きしめてくる。

「こんな風に抱きしめたいって思わなかった」
「…………」

「慶のことは、抱きしめたいって思う。いつでもそばにいて触れていたいって思う」
「…………」

「キスしたいって思う」
 頬を囲まれ、上を向かされる。

「キス……しても、いい?」
「…………………………………ちょっと待った」

 ぐりぐりぐりと浩介を押しかえす。

「え、ダメ?」
「ダメ」

「なんで!?」
「なんでも! まわりみろっ」
 そうだ。冷静に考えてみたら、ここは駅前のスーパーの前。ツリーと建物の間でわりと目立たないとはいえ、まったく人目につかない場所というわけではない。

「えーいいじゃん。あ、ほら、あそこのカップルもしてたよ」
 浩介があごで指した先には、手を繋いで歩いている男女のカップル。

「お前なーあれは普通のカップルだからいいけど……」
「おれ達もいいじゃん」
「いや、よくないだろ」
「えーいいじゃん」

 むーっとふくれた顔をしている浩介。嫌な予感がしてきた……

「お前……くれぐれも言っておくけど、明日学校で……」
「隠すなんて無理だよ。おれウソつけないもん♪」
「…………」

 本当にケロッと言いそうで怖い……
  
「おれはウソつくからな」
「なんで?!」
「なんでって、あのなあ、男同士なんて世間的にはまだまだ認められる関係じゃないだろ? 色々言われるのめんどくせーよ」

「えー」
 浩介はぶつぶつ言っていたが、渋々と結論つけた。

「じゃあ付き合ってること『だけ』は内緒にするよ」
「付き合ってる?」
 なんだかしっくりこない響きだ。

「え、だっておれ達これから付き合うんでしょ?」
「付き合うって……なにするんだ?」

「うーん……」
 二人で首をかしげる。

「一緒に下校するとか?」
「部活ないときはしてるよな?」

「休日一緒に出かけるとか」
「出かけてるよな……」

「抱きしめるとか!」
「今までも散々してたな」

「…………」
「…………」

 顔を見合わせ、吹き出してしまった。

「今までとあんまり変わらないね」
「だな」

「あ、でも、キスはしてない。これからはしてもいいよね♪」
「………人目につかないところでな」

「あー、あと手つないで歩きたい♪」
「人目につかないところでな」

「えー……肩抱くのはいいよね?」
「人目に……」

「ええ!肩は人前でもありでしょ!」
「なしだろ」

「ありあり!寒いしくっついて歩いてるってことで」
「……んー……冬の夜ならあり?」
「あり!」

「!」
 ぎゅっと肩を強く抱かれ、今さらながらドキリとする。

「送っていくよ。自転車、駐輪場に停めてあるんだ」
「……おお」
 赤くなっているであろう顔を見られないように下を向く。

「ちょっと遠回りして帰ろ? 川べり行こうよ~」
「川べり? 寒いぞ?」
「いーのいーの。だから人がいないでしょ♪」
「お前な…………」

 不思議な感じだ。なんだこの自然さは。
 一年以上もかかってようやく両想いになったというのに、ずっと前からそうだったような気がする。
 そう思っていたら、同じようなことを浩介が言い出した。

「なんかさーこれが正しい関係って感じがする」
「え」
「何ていうか……パズルが正しい位置に戻されたっていうか……」
「それ、言えてる!」

 思わず叫んでしまった。
 それだ。微妙に違っていたものが正しくなった感じ。

「まさにそれだ!」
「わ~慶も同じこと思ってたんだっ嬉しいっ」

「わわわっ」
 後ろからギューギューと抱きしめられる。

「だから浩介、人目につくところでは………」
「寒いからあり!クリスマスだからありあり!」

「……なんだそりゃ」
 回された腕をギュッと掴み、顔をうずめる。

「慶~~幸せ~~」
 後ろから頬を寄せられる。心が温かい。

「うん………」
 ツリーの光がきれいだ。クリスマスの夜にふさわしく……

 ………あれ?

「なあ……クリスマスって言ってるけど、今日クリスマスじゃないよな?」
「………そういえば」

「…………」
 顔を見合わせ笑いだす。

「じゃ、明日の夜、あらためてクリスマスデートしようね」
「……なんだそりゃ」

「デートデート、初デート♪ いいでしょ?」
「…………ん」

 小さくうなずく。
 明日の約束ができる幸せをかみしめる。

「大好き。大好き。大好きだよ、慶」
「…………ん」

 この広い世界の中で巡りあえたおれ達。これからはずっとずっと一緒にいよう。



-------------------


お読みくださりありがとうございました!
2014年12月10日に書いた読切を加筆修正したため、最近とは文の書き方が若干違うかも。
ちなみに、その読切での後書きがこちら↓↓

延々とラブラブモード全開の2人。キリがないから終わりにした^^;
このあと、自転車おしていくときに、慶が左のハンドルを持って、その上から浩介もハンドル持って、コッソリ手繋いでるって話もあったんだけど。
今後、浩介は学校でも慶にベタベタしまくってて、慶は否定して隠しててっていうことになるわけです。
浩介は一応慶の気持ちを尊重して、付き合ってることも慶が自分のことを好きなことも秘密にしましたが、自分が慶を好きなことは猛アピールします。
なぜなら、浩介は独占欲の塊みたいな男。アピールすることで慶に他の男女を寄せつけないようにしていたのでした。
慶は人前では浩介のことを邪険にしますが、二人っきりのときはわりとデレます。雰囲気に流されるタイプなので、夜とかデレデレです。浩介にしてみればそのギャップがたまらなかったりするんだろうなー。

↑↑
以上でした。いらっしゃらないとは思うのですが、前にそれ読んだよ!という方いらっしゃいましたらスミマセン……。

さて次回で『巡合』は最終回……のつもりでしたが、長いので2回にわけました。よって残り2回になります。続きは明後日。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~巡合10(浩介視点)

2016年03月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 最近、また、慶の様子が変だ。
 おれが触ろうとするのを避けている気がする。

 以前にも同じようなこと……慶がおれと二人きりになるのを避けたことがあった。理由を問いつめたら、おれに執着し過ぎて嫌われないため、という意味の分からない理由を言われた。おれ的には執着してくれた方が嬉しいんだけど……。

 今回はなんだろう。今まで通り話しかけてくれるし、今まで以上に一緒にはいる。ただ触らせてくれないのだ。触ろうとすると、ふっと避けられたり、手で軽く払いのけられたりして………。

 やっぱり原因はあれだろうか………後夜祭でのキス。

 後夜祭で、おれと慶はキスをした。
 おれはもちろん初めてのことで、想像を遥かに越えた気持ち良さに呆然としてしまったんだけど……
 慶は、中学時代モテモテだったというし、キスの経験くらいあったんだろう。
 翌々日、慶はいつもとまったく変わらない爽やかさで現れて……緊張していたおれが馬鹿みたいだった。

 あれからそのキスの話はしていない。慶にとっては何でもないこと……あの場の雰囲気に流されてしちゃっただけのことなのに、それを今さら言って呆れられるのも嫌だな……と思ったからだ。

 でも、おれにとっては大事件だった。キスがあんなに、体が震えるほど気持ちいいものだったなんて……。

 おれは昔から対人潔癖症なところがあって、人の触ったもの……例えば電車の吊革とかにつかまることが苦手だ。
 バスケ部内で、ジュースの回し飲みとかすることがあるんだけど、それも本当はすごく嫌で、飲んだふりをして次の人に回してしまうこともしばしばだ。

 だから、キスなんて一生できないと思っていた。
 片想いをしていた美幸さんに対してさえ、キスするとかそういうことをまったく想像できなかったのは、潔癖症が原因なのかなあとは薄々思ってはいた。

 それが、慶とのキスは………

 なんなんだあれは。唇と唇を合わせただけなのに、愛しさがつのって心臓がぎゅっとなって………ふわふわ気持ちよくて……。

 他の人としてもそう思うんだろうか?
 そう考えて、あのキスを他の人……美幸さんとか真理子ちゃんとかに置き換えてみた、けれども………

(ちょっと……気持ち悪い)

 ものすごく失礼なんだけど、そんなことを思ってしまった。

(慶だから大丈夫なんだ……)

 慶だから。
 でも、親友なのに。男同士なのに……。

 それ以上のことを突き詰めて考えると、今までの関係を続けられなくなりそうで怖い。
 だからあまり深く考えるのはやめよう。今まで通りでいよう。そう思っていたのに……。


 よくよく考えてみると、触らせてくれなくなったのは、期末テスト一週間前の、英語の授業の後からだ。

 あの時、慶がおれのことをちゃんと見てくれているってことに感動して……

(……キス、したい)

 そう思ってしまって、我慢できなくて唇に指で触れた。でも、触れただけで我慢した。


 考えてみたら、あれからだ。慶がおれが触ることを避けるようになったのは。

 おれがキスしたい、なんて思ったのがバレたんだろうか。そもそも、後夜祭でキスなんかしたせいじゃないだろうか……。

 でも、それ以外は今まで通りだ。今まで通り、仲の良い親友。だから何も不満はない………はずだったのに。



***


 あと一週間で2学期が終わる。

「今日の体育、楽しみだな!」

 慶は朝からずっと機嫌がいい。今日の4時間目の体育でバスケをやるのがそうとう楽しみらしい。

「おれ、お前と同じチームでバスケ、ずっとずっとやりたかったんだよー!」

 そんな嬉しいことを言ってくれている。
 体育は男女別のため、2クラス合同で行われる(だから、慶が毛嫌いしている隣のクラスの上岡武史とも一緒だ)。
 普段、体育は出席番号順で区切られた5人組の班で行動している。おれと慶は11、12と出席番号が続いているので同じ班だ。だから、

「いつもの練習の成果を見せつけてやろうな! おれ達ゴールデンコンビのな!」

と、張り切って言っていたのに………。

「上野先生………」
 慶が気の毒なくらいガックリしている。

「どうしていつもの班じゃないんですか……」
「いつもの班だと、実力にバラツキがありすぎるだろ。そこで、おれが独断と偏見でチーム分けをした!」

 得意そうな上野先生に、慶が食ってかかる。

「じゃあ、何でおれと武史を同じチームにしたんですか! おれ達仲悪いの先生だって知ってるでしょ!」
「わざとだ」

 ケロリと言う上野先生。

「これをきっかけに仲直りしろ」
「そんなの無理っ」
「まあ、おれが個人的に、かつての緑中コンビを見たかったってのもあるんだけどな。お前ら中学の時、コート内では良いコンビだっただろ」
「……………」

 慶と上岡武史は中学時代、同じバスケ部でプレーをしていた。でも当時からものすごく仲が悪くて、殴りあいの喧嘩を何度もしたことがあるらしい。
 上岡の方は、もう仲良くしたいと思っているんだけど、慶は、上岡がいるからバスケ部に入らなかったくらい、まだまだ嫌っている。

 上野先生は、バスケ部顧問をしている関係か、中学時代の二人のことを知っていた。
 おれも一度だけ二人の試合を見たことがある。何も言わずに連携が取れていて、まさかプライベートではそんなに仲が悪いなんて想像もできない感じだった。


 そんな二人の、2年以上ぶりの連携プレーは………

「うわっすっげー」
「かっけー!!」

 歓声が上がっている。おれはもう一つのコートで審判をやっていたので、見ることができなかったんだけど、確実に慶と上岡のことだ。

 見たい。のに、見れない。

 今回、8チームに分けられ、4チーム1ブロックで総当たり戦をして、それぞれのブロックの1位のチーム同士が最後に試合をすることになっている。

 慶のチームとおれのチームはブロックが違うので、審判や試合で慶達の試合を見れないまま総当たり戦は終了してしまった。
 でも、お互いブロック優勝したので、最後に試合をすることになった。

 慶、目が完全に戦闘モードに入っている。
 こちらのチームの面子を見ながら、上岡と何かコソコソ話している……

(仲良いじゃん……)

 なんだか複雑………

「桜井、渋谷が突っ込んできたら渋谷について」
「あ、うん………」

 同じチームの斉藤に言われうなずく。そうは言っても、いまだかつて慶に勝ったためしがない。悪い予感しかしないんだけど……。


 悪い予感を払拭できないまま試合ははじまった。

「すげーっ」
「渋谷はえー!」

 ギャラリーはものすごく盛り上がっているけれど、試合をしているこっちはたまったもんじゃない。

 慶と上岡は、バスケ部員であるおれと斉藤以外のメンバーのいる場所をとことん狙って攻めてくる。「渋谷が突っ込んできたら渋谷について」と言われていたけれど、あまりにも速くて対応しきれない。

 こちらも何とか攻め返すけれども、慶と上岡の反応が速すぎてすぐに止められてしまう。

(くそ……っ)

 ゴールを決める度、こちらのゴールを阻止する度、慶と上岡がハイタッチをする。慶が無表情なのがまだ救いだけど、その姿を見る度に腸が煮えくり返ってどうしようもなくなる。どうしておれじゃない? どうしてそこにいるのがおれじゃないんだ……

「残り1分!」
 試合時間が短すぎる。二人の攻撃の癖を見抜く前に終わってしまう。

(あ、そうか)
 でも、おれは慶の癖は知ってるじゃないか。慶の得意なシュートコースも知ってるじゃないか。

 ゆっくりとドリブルをしながらどう攻めるか考えている風の上岡……
 そこへ慶がサッと走りこんだ。走る先を分かっていたかのように鋭いパスを送る上岡。当然パスは繋がる。でも……っ

(ここだっ)
 慶よりも先にゴール前に入りこみ、立ちふさがる。慶がシュートしようとジャンプした先に手を伸ばし……

「え……」
 ニッと慶が笑った。これ、もしかして………っ

「!」
 慶がおれから視線を逸らさずジャンプをしたまま、ふっと斜め後ろにパスをした。そこにはいつの間にか上岡がいて……

(やられた!)
 ノーマークの上岡が楽々とシュートを決めた。
 うわあああっと歓声があがる。

「うわー!なんだ今の!」
「かっこよすぎ!」

 歓声の中で試合終了のホイッスルが鳴った。当然おれたちのチームの負けだ。

(あれは……)
 最後のあのフェイント……中学の時に見た。あの時も慶がパスした先には上岡がいた。緑中コンビ……

「渋谷ナイスパス!」
「ナイシュー武史」

 慶と上岡が両手でハイタッチしてる。そして……

「お前まだまだ現役いけるじゃん。やっぱバスケ部入れよ」
「やなこった。お前がいるから入んねーよっ」
「なんでだよー!」

 上岡が慶の頭をくしゃくしゃとして……、慶……笑ってる……

「慶………」

 どうしておれじゃない奴が慶の頭なでてるんだ?
 どうしてそこにいるのがおれじゃないんだ?
 どうしてあのパスをもらうのがおれじゃないんだ?
 どうして、どうして慶、笑ってるんだよ。
 どうして上岡の手を払いのけないんだよ。
 どうして頭なでられたままでいるんだよ。
 どうしておれ以外の奴に笑いかけてるんだよ。

 どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうして……っ

 嫌だ……っ 慶……っ


「くっそおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 こらえきれなくて、腹の底から出てしまった叫びに……

「あ……」

 体育館の中がシーンと静まり返ってしまった……

 し、しまった……っ おれ、何叫んでるんだ……っ


「うわ……びっくりしたー桜井がキレたー」

 お調子者の溝部が沈黙を破ってくれたので助かった。次々に「初めてみた!」だの「そんなにムキにならんでもっ」だのみんなに口々に言われ、最後に上野先生から、

「桜井、お前は部活でもそのくらいのガッツ見せろよ。そうすりゃスタメン上がれるぞ」

と言われて、「すみませーん」と頬をかいて誤魔化す。


「そんなに悔しかったかー?」
 おれの気持ちなんか知らない慶が、おれの腕をポンポンとたたいて気軽に言ってくる。

「今度は同じチームでやりてえなあ?」
「………うん」

 何とか肯いて、たたかれた腕をぎゅうっと掴む。そうしないと我慢できそうになかった。

(抱きしめたい。抱きしめたい。抱きしめたい……)

 今すぐに慶を抱きしめたい。痛いと悲鳴をあげさせるほど強く抱きしめたい。それから……それから……

(慶……)

 おれは、どうかしている……


***


 放課後、2人で写真部に顔を出した。引退したはずの橘先輩も普通に来ている。橘先輩は稼業を継ぐため進学はしないので、受験とは無縁で暇なのだそうだ。

「あのポスターも、展示自体も評判良かったから、新規の部員が増えてくれるかと思ったのに……」
「誰もこないねえ……」

 橘先輩の妹の真理子ちゃんと、慶の妹の南ちゃんが、ジュースを飲みながらぼやいている。そこへ橘先輩がいつものようにカメラをいじりながら、ボソッと爆弾発言をした。

「OBの先輩方とも話したんだが……この部は今年で廃部にすべきだと思っている」
「え……」

 廃部って……

「かつては人数も多くて、コンクールで金賞をとるほどの実力のあった部だ。過去の栄光が傷つく前に華やかに撤退というのもありだな、と……」
「なにそれ……」

 一同、キョトンとしてしまう……

「まあ、年明けにOBの先輩方も集めて話し合いをするから、それまでに考えておいてくれ」
「考えてって……」

 突然の話で言葉をなくてしてしまう。でも、確かに、橘先輩が卒業してしまったら、まったくのド素人の集団でしかなくなってしまう。顧問の中森先生はまったくあてにならないし、自分たちでどうにかしようといっても、質が落ちるのは目に見えている。それに、部員最低人数の5人を確保するために新入部員に入ってもらわなくてはならないが、入ってくれたとしてもその指導を誰がするんだ?という話も……


「過去の栄光作品、見ます? 私この前整理したんですよ」
「わあ、みるみる」

 真理子ちゃんの誘いに、渋谷兄妹が食いついて、ダンボールからパネルを出し始めた。

「あ、渋谷先輩、こういうの好きじゃないですか?」
「おおっ!かっこいー」

 慶と真理子ちゃん、あいかわらず仲が良い……。
 二人でああでもない、こうでもない、と話しながら一緒に写真を見ている……

(慶……楽しそう…)

 ぼんやりと眺めながら……
 腹の内側がグツグツと煮えたぎってくるのを止められない。

(慶……真理子ちゃんを抱きしめてたんだよな……)

 文化祭前に見てしまった映像が甦る。あれは真理子ちゃんを慰めていただけだと言っていたけれど………

 慶の真理子ちゃんをみる優しそうな目。頬を紅潮させながら慶を見上げる真理子ちゃん……

(お似合いだな……お似合い、だけど……)

 慶が誰かに笑いかけるのが嫌だ。嫌だ……

(!)

 心臓がぎゅうっと掴まれたようになる。
 真理子ちゃんが慶の腕に触れた……

(やめろ……)

 慶に触るな。慶に近づくな。慶に笑いかけるな。

(慶………)

 微笑み返さないで。おれ以外の人間にそんな顔見せないで。
 おれのことは避けるくせに、他の人には触らせるのはどうして? 慶、おれのことが嫌? キスなんかしたから? だから避けるの?

 慶……慶……っ


「……え?」

 突然、真横でシャッター音がした。
 橘先輩が、カメラを構えて立っている。
 今、おれを撮った……?

「先輩、今……」
「いい顔してるな、お前」
「え」

 きょとんとしたおれに、橘先輩がボソボソとつぶやくように言った。

「今の写真に題名をつけるなら……『嫉妬』」
「……」

 嫉妬……

「今の写真なら、あの文化祭のポスターに載せられたな」
「え?」

 文化祭のポスターとは、『恋せよ写真部』と煽り文句のついた2枚の写真のことだ。一枚は慶が微笑んでいる写真。もう一枚は真理子ちゃんが泣いている写真。
 橘先輩は淡々と、おれだけに聞こえるような小さな声で続ける。

「あれは恋愛の『喜怒哀楽』を表現しようとしたものだからな。渋谷の写真が『喜』、真理子の写真が『哀』。今のお前の写真なら『怒』として載せられた」
「怒……?」

 恋愛の……怒……?

「お前、今、嫉妬に怒り狂った恋する男の顔をしてるぞ?」
「え………」

 恋する男……?

 誰が……誰に……?

「カメラはウソをつかないからな」
 橘先輩はそれだけいうと、暗室に入っていってしまった。


 その姿を目で追っていき、再び慶と真理子ちゃんの姿が視界に入ってしまう……

「…………」
 心臓が痛い。耐えられなくて胸のあたりをぎゅうっと掴む。

(慶………)

 おれは……おれは………

(慶………)

 あなたに触れたい。

 これは……この思いは……




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お読みくださりありがとうございました!
次回は、以前公開していて今は非公開にしている2014年12月10日に書いた読みきりを加筆修正します。
いらっしゃらないとは思うのですが、前にそれ読んだよ!という方いらっしゃいましたらスミマセン……。
続きは明後日。どうぞよろしくお願いいたします。

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