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風のゆくえには~その瞳に*R18 目次・人物紹介・あらすじ

2018年03月13日 08時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18

(2016年4月24日に書いた記事ですが、カテゴリーで「その瞳に」のはじめに表示させるために2018年3月13日に投稿日を操作しました)



目次

その瞳に1(浩介視点)
その瞳に2(浩介視点)
その瞳に3(浩介視点)・完

その瞳に・後日談(慶視点)


その瞳に・裏話1(真木視点)
その瞳に・裏話2(真木視点)
その瞳に・裏話3(真木視点)
その瞳に・裏話4(真木視点)・完




人物紹介

桜井浩介(さくらいこうすけ)
28歳。身長177cm。高校教師。子供向け日本語教室のボランティアも続けている。
表は明るいが、裏は病んでいて、慶に対する独占欲は相当なもの。母親の束縛に苦しんでいる。

渋谷慶(しぶやけい)
28歳。身長164cm。小児科医。浩介の親友兼恋人。
道行く人が振り返るほどの美形。芸能人ばりのオーラの持ち主。だけど本人に自覚ナシ。
憧れの小児科医になったはいいけれども、理想と現実の差に悩んでいる。でも、基本前向き。
病院内では口調も穏やかで笑顔を絶やさないが、本当は口も悪いし手も足もすぐ出る。

一之瀬あかね(いちのせあかね)
28歳。中学校教師。浩介の友人。
人目を引く超美人。同性愛者。女関係はかなり派手。
大学の時から、浩介の両親の前では、浩介の恋人のふりをしている。
(『自由への道』では名字「木村」でしたが、大学卒業と同時に親が離婚し「一之瀬」になりました)

真木英明(まきひであき)
34歳。身長187cm。慶の勤める病院の系列病院の医師。



あらすじ

高校二年生の冬、無事に両想いになり付き合いはじめた慶と浩介。
大学時代、浩介の母親と問題があり、浩介の両親の前では、表向きは別れたことになっているが、裏では順調に交際は続き、もうすぐ丸11年。

慶の仕事が忙し過ぎて、なかなかゆっくりは会えないけれども、お互いの気持ちに揺るぎはなく、幸せな日々を送っていた。
こんな日がずっと続くと思っていたのに。
母親の束縛と真木の存在により、浩介の慶に対する思いが歪んだものになっていく……




-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
慶と浩介が28歳(2002年9月)のお話になります。
この暗い話を3日間で終わらせて、2016年4月28日(慶の誕生日)に読み切りを載せて、本ブログは一時休止します。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!おかげでここまで書いて来られました。あと数回、どうぞよろしくお願いいたします。
(※そういって休止したものの、5月に戻ってきました。失礼いたしましたm(__)m)

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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話4・完

2018年03月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18


 突然やってきたチヒロは、「お願いがあるんですけど……」と、小さな小さな声で言った。

「姉と同伴出勤してほしいんです」
「………は?」

 同伴?

「姉は、歌舞伎町のキャバクラに勤めてて……」
「キャバ嬢?」
「はい。それで同伴を」
「……………」

 意味が分からない……。

「何で?」
「あの……」

 チヒロは、祈るように組んだ手を口元にあてて、こちらを上目遣いで見てきた。男に媚びる仕草。慣れている感じがする。

(ああ……やっぱり、なかなかの美形だな)

 あらためてそう思う。
 体は貧弱すぎて少しもそそられないけれど、顔だけは合格点だな………

 そんなことを思いながら見下ろしていたら…………
 突然、チヒロは壊れたお喋り人形みたいに一本調子で言葉を発しはじめた。

「真木さんは今まで見た誰よりもカッコよくてお金持ちで背も高くてカッコいいからアユミちゃんも絶対に満足して大喜びしてカッコいい真木さんを同伴していったらみんながビックリしてセーラちゃんすごいねって言われてアユミちゃんもたくさん喜んでカッコいい真木さんが……」
「ちょ、ちょっと待て」

 慌てて手で制する。な、なんなんだ?!

「………」
「………」

 チヒロは、停止ボタンを押されたように、ピタッと言葉を止め、ジッとこちらを見上げている。

「……意味が分からない」
「だから」
「ああ、いいいい」

 口を開きかけたチヒロを再び手で制する。また言葉の羅列を聞かされたらたまらない。

「俺がカッコイイって話はもういい。そんなのは分かってる」
「……はい」
「で……君のお姉さんの名前がアユミ?セーラ?」
「あ……アユミが本名で、セーラがお店の……」
「………ふーん」

 キャバクラか……接待や付き合いではしょっちゅう行くけれど、個人的には面倒くさくていかないんだよなあ……

「で、その同伴するってお願い聞いたら、俺に何か利点はあるわけ?」
「はい」

 チヒロは、また祈るように手を組むと、コックリと肯いてから、言った。

「僕のこと、好きにしていいです」
「…………………………………。は?」

 なんだそれは!? 呆れすぎて、開いた口がふさがらない。
 姉のために自分の身を投げ出すっていうのか?
 っていうか、それ以前に、その貧弱な体に、俺に言うことを聞かせるだけの価値があるとでも思ってるのか? 図々しい。
 先日、コータと一緒だった時も、コータに3Pを提案されたけれども、ガリガリのチヒロを抱く気にはどうしてもなれなくて、結局、俺はコータとしかしなかったというのに。……まあ、もちろん本人にはそんなこと言ってないが。

 無言のまま見返していたら、チヒロは俺に聞こえていないと思ったのか、「あの!」と叫んで、再び言った。

「僕のこと好きにしていいです!」
「………いや、あの……聞こえてるから」

 つ……疲れる。何なんだこの子……。音声調節機能とか音声速度機能とかそういうもの全部壊れてるのか? 先日は、チヒロはほとんど言葉を発しなかったので気が付かなかった……

「……ダメですか?」
「あー………」

 いつもだったら、こんな意味の分からない依頼は速攻で断るところなんだけれども……

(やっぱり……少し、慶に似てる)

 手に入りそこねた天使の姿と重なる。この子と一緒にいたら少しは気が晴れるだろうか。

「まあ………、いいよ」
「ありがとうございます」

 ほっとしたように息をついたチヒロ。その白皙に触れてみる。

(ああ……慶の方が年上なのに、慶の方が艶やかだったな……)

 栄養状態が悪いのだろう。血色も良くない。そういうところも、少しも似ていない。

(まあ、しょうがない……)

 今晩はニセモノで気を紛らそうか。



***



 それから4日後。
 渋谷慶に再会した。彼の勤める病院の研修室で行われた勉強会に参加したのだ。あいかわらずの完璧の美貌と輝くオーラに圧倒される。

(ああ……やっぱり)

 ちらちらとこちらに視線を送ってくる彼の様子にほくそ笑んでしまう。やっぱり俺のことが気になってしょうがないらしい。
 お仕置き的に無視していたけれど、勉強会終了後に、慌てて追いかけてきたので、許してやることにした。の、だけれども……

 そこで、驚くべき事実を告げられた。

「おれ、バリタチなんで!! すみません!!!」
 
 …………。

 …………。

 …………え?

 バリタチ? この子が? この可憐な天使が???

 よ、予想外すぎる……。

 予想外過ぎて………笑い出してしまった。

「君のその情熱的な視線は、完璧なタチである俺への憧れのものだったのか……」

 すっかり勘違いしてしまったじゃないか。でも、タチだなんて、その可憐な容姿からは想像できないからしょうがないだろう。

(あ、でも、この子、すごい体鍛えてるんだった。それに、あの鳩尾に繰り出した蹴りは……)

「君、喧嘩しなれてるの?」

 たずねてみたところ、彼は頬をポリポリとかいて、

「ええと……、おれ、背も低いし、顔もこれだから、昔から馬鹿にされることが多くて……それで鉄拳制裁っていうか……」
「なるほどね」

 納得。バリタチなのはそのコンプレックスのせいだろう。

(では、作戦変更だ)

 当然、この完璧な天使を手にいれることを諦めるなんてことはしない。
 頼りになる先輩、という地位を確固たるものにして、その後でゆっくり攻略していこう。

「ここは潔く、君のことは諦めるよ。また蹴られたらたまらないしね。これからは友人として、医師仲間として、よろしくな」

 最上級の頼りになる先輩風の笑顔で手を差し出すと、彼はパアッと表情を明るくして、

「よろしくお願いします!」

 ぎゅっと強く手を握り返してきた。その笑顔の可愛いこと!

「うわ、その笑顔……ホント天使だな……」
「!」

 思わず本音をつぶやいたら、思いっきり飛び離れられてしまった……。

 ああ、気を付けないとだな……


**


 その日の夜、チヒロを呼び出した。

(ほんと、顔だけはいいんだけどなあ……)

 その無気力な瞳と痩せすぎの体がどうにもこうにも気に食わない。顔だけはいいんだから、もう少しマトモになってくれれば、彼を手に入れるまでの慰めになるというのに……

 でも、チヒロには一つだけ特技があった。

「前回と同じ感じでいいですか?」
「うん」

 ふわりと漂うラベンダーの香り。温かい手が体中を辿ってきて、心地が良い。アロマオイルを使ったマッサージ。リラックス効果は抜群だ。
 こないだやらせてみたら思いの外上手だったので、「姉との同伴出勤」という意味の分からない依頼の報酬は、マッサージにすることにした。聞いたら、よく姉のマッサージをしているので慣れているそうだ。

(ああ……気持ちいい)

 惜しいなあ……。これでもう少し魅力的な子だったらなあ……。ああでも、魅力的すぎたら、こうして呑気にマッサージなんかされていられなくなるから、ちょうどいいのか……

(あ、それとも……)

 太らせてから喰うっていう手もあるな。そんな童話もあったっけ……

「ねえ、チヒロ君」

 うつ伏せの状態から、顔を少し上げて横にいるチヒロを見上げる。

「君さあ……ご飯ちゃんと食べてる?」
「ちゃんとって……」

 チヒロはキョトンとしてから……

「ちゃんとというのが他の人と同じ量という意味なら食べてないことになるけど僕にとってはそれで問題ないのでちゃんとだけど他の人にとってちゃんとかと言われると……」
「わかった。もういい」

 またはじまった言葉の羅列を即座に止める。

「量は人それぞれ適量があるから構わないが……」
「…………」
「その少ない量の食事は、きちんとバランスの取れたものなのか?」
「バランス?」

 首をかしげたチヒロ。

 ………。何も考えて無さそうだな……。

「じゃあ、明日の朝は、『ちゃんと』バランスの取れた食事をしよう」
「え………」
「このホテルのビュッフェ、おいしいから。俺がセレクトしてあげよう」
「え!」

 泊まっていいんですか?

 ビー玉みたいな瞳に嬉しそうな色が浮かんだ。

 綺麗な……色。

(………。そんな顔もできるのか)

 ふーん……と思いながら、頭を元に戻す。そして、その心地良い手と、香りに身をゆだねていたら、ウトウトしてきて……
 しばらくして、隣に潜り込んできた痩せた身体を抱き枕かわりに抱きしめて眠ったら、久しぶりに朝まで一度も目が覚めることはなかった。




<完>……そして、二人の物語に続く
 

------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の3と後日談の真木さん視点でした。

次回から真木さんとチヒロの新シリーズ「グレーテ」をはじめます。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話3

2018年03月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18


「………痛っ」
 目覚めた途端、首の後ろのズキズキする痛み、腹のあたりの鈍い痛み、吐き気、床の固い感触……、とにかく、ありとあらゆる不快なものに襲われた。

「………なんだ?」
 ぼんやりと天井を見上げる。今、俺は床に転がっていて……ここは俺の滞在するホテルの一室で。ベッドルームとリビングルームの境目あたりで……

「………?」
 思考を遮るように、ピンポーンと呑気な感じのインターフォンが遠くから聞こえてきた。誰か来たのか……?
 壁に掴まりながら立ち上がり………、リビングルームのテレビに繋がれたビデオの線が視界に入って、ハッとした。

(そうだ。ビデオをみせてあげて、それで……)

 記憶を辿っていく。あの時、彼とソファに並んで座って、15分ほどの映像を一緒にみて、その話を少しして、それから……



「こっちがベッドルームになってるんだよ」

 そう言って誘導すると、彼は「へえ~~」と感心したような声を上げて、

「あ、この仕切りの先が寝室なんですね? すごいなあ。こんな大きなホテルの部屋、初めてきました」
「そうなんだ?」
「こんな風に部屋が分かれてるなんて……、わ!すっげー大きいベッド!」

 スライドドアの先の、通常のキングサイズよりもさらに大きめのベッドを見て、はしゃいだように言った彼。子供みたいで可愛い。

「ここで一人で寝るなんて、贅沢ですねえ」
「うん。だから今日は慶君も一緒に、ね?」
「あー、いやいやいや」

 あはは、と笑いながら手を振った彼。

「だから、そこまで甘えられませんって」
「甘えてよ」
「え」

 振っている手をギュッとつかむと、彼が、きょとん、とした表情をした。

「真木さん?」
「全部、俺にゆだねて?」
「え?」

 そのキレイな瞳が何度か瞬いた。
 期待してここに来たくせに……。そんな駆け引き、面倒くさいからいらないよ。

「君は本当に美しい。君こそ、俺の隣にふさわしい」
「え……と、あの?」

 彼が戸惑ったように、一歩後ろに退いた。空いた分の距離を即座に詰める。

「慶君……」
「……わっ」
「え」

 顔を寄せようとしたのに、しゃがみこまれて、空振ってしまった。おいおい……

「慶君?」
「え?! いや、あの……何を言われているのか……」

 頭を抱えている彼。そんなカマトトぶらなくても……同級生の親友君とやることやってんだろ?という言葉は胸にしまって、ニッコリと微笑みかけてやる。

「ねえ………、慶君って、ドライでイッたことある?」
「は?え?」

 彼はしゃがみこんで頭を抱えたままこちらを振り仰いだ。その上目遣い、そそられる。

「経験ない、よね?」
「…………」

 ジッと見かえしてくる瞳。少し開いた唇。ああ、おいしそう……

「君の知らない快楽、俺が教えてあげる」
「………」
「出さないでイかせて……」
「あのー……」

 彼はゆっくりと立ち上がると、はい、と手をあげた。

「真木さんって………、おれのことそういう対象としてみてたんですか?」
「そういうって?」
「性的……対象?」

 言いながら、上がっていた手が力なく下ろされた。
 今更、なんの確認だ?

「そうだよ? 君もそうだろ?」
「え?」
「隠さなくていいよ」

 そっとその白皙に触れる。………瑞々しい。吸い付くような肌……想像以上だ。見返してくる瞳も湖のように綺麗で………

「君は本当に美しい。俺だけの天使……」
「……………」
「慶……」
「!」

 ビクッと震えた手を掴み、そっとその愛らしい唇に……………



「……………。それから、何があった?」

 再び鳴らされたインターフォンの音に記憶の旅を邪魔された。けれども、何とか記憶を繋いでいく。それから……それから……

 ………思い出した。

「っざけんな!」

 彼の鋭い声。次の瞬間、鳩尾に痛みが走り、身を折ったところで、首の後ろにゴッと衝撃が………


 …………………。


 彼にやられた、ということか?
 ここまで的確に、人の急所を狙えるなんて、どんだけ喧嘩慣れしてるんだ。あんな可愛い顔して……

「………くそっ」

 痛みに顔が歪んでしまう。

「あのクソガキ……っ」

 この俺をコケにするとは良い度胸だ。どうしてくれよう……………

 そう思いながら、3度目のインターフォンの音に、ドアスコープから外をのぞいて………ハッとした。

(………慶!)

 彼が、立ってる。謝りにきたのか? そうだよな。驚いて条件反射的にあんなことしたんだよな? そうか、そうか………

 内心、安心しつつも、怒っている風に顔を作って、ドアをあけ………


 ……………。

 ……………。

 ……………。


「……………なんだ」

 そこに佇んでいる人物を見て、盛大にため息をついてしまった。

 ドアの先にいたのは、天使のような彼ではなく………

「何か用? チヒロ君」

 ビー玉みたいな目をしたチヒロだった。




------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の3の真木さん視点。

慶君、人懐っこいのも大概にしないと勘違いされちゃうよ~?というお話でした(ん?そうなの?)。

次回裏話最終話になります。
それをあげたら、諸事情により2週間ほどお休みをいただこうと思っております。

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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話2

2018年03月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18
 
 俺の運命の相手。天使のような『渋谷慶』。
 彼の生き生きとした瞳、触りたくなる白皙を思い出すだけで、自然と頬がゆるんできてしまう。

「真木ちゃん、今日は特にご機嫌ねえ?」
「………………まあね」

 この2ヶ月ですっかり行きつけになったバーのママから指摘され、素直にうなずいた。

「今、ものすっごい美形の子を狙っててね。今日、その子の友達と三人で飯行ってきたんだよ」

 天使の親友『桜井浩介』。俺とは勝負にならない、つまらない男だった。やせ型で背も高く、顔も悪くないのに、内面からにじみ出る自己肯定感の低さが、外面の魅力を損なわせてしまっている。俺はノンケ喰いもタチ喰いもするけれど、あんな奴には少しも興味を持てない。あの男が俺の天使と付き合っているかと思うと腹立たしくてしょうがない。

「その美形、近いうちに落として連れてくるから楽しみにしてて」
「わー。なんか悪い顔してるっ」

 ケラケラと笑うママ。短髪、顎髭、ギョロッとした目、程よく筋肉のついたガッチリした体。でもその見た目と反して声はわりと高い。優しい音色はとても心地が良い。

「美形ってどのくらい美形なの?」
「うーん……非の打ちどころのない美形。だけどそれだけじゃないんだなあ……」
「それだけじゃない?」

 きょとんと首を傾げたママに指を揺らして見せる。

「溢れでるオーラが凄いんだよ。キラキラしてて……あんな子みたことない」
「あら、あたしは見たことあるわ。すっごいオーラの子!」
「え」

 ニッと笑ったママに、へえっと身を乗り出す。

「どこで……」
「ここ」

 シルバーの指輪が光るママの太い指が俺を指さしている。

「真木ちゃんも相当なオーラの持ち主よ。それにすっごい美形だし。知らなかった?」
「………知ってる」

 ママの手を掴んでその指先に軽くキスを送って上目遣いで見返す。と、

「……悪い顔」
「痛っ」

 ビシっと額を弾かれてしまった。なんだ。やっぱり乗ってこないか。

「アタクシ、二度と騙されませんから」
「つまらないなあ……」

 ここに通うようになって早々に、ママとは一回だけ関係を持った。20歳ほど年上のママはさすがの手練れで、いつもとはひと味違った楽しい時間を過ごせたけれど、その後は誘ってもなびいてこない。泥沼にハマりたくないそうだ。まあ、お互いのためにも賢明な判断かもしれない。

「じゃあ、今日、ママがオススメの子、教えてよ」
「んー……、今いるお客さんの中で一番カワイイ子って言ったら……」

 ママがジャズの流れる木目調の店内を見渡して……ピッと指さした。

「あの子じゃない? チヒロ」
「ああ……」

 ソファに座って数人に囲まれている20代半ばくらいの男の子。時々見かける。一度話したこともある。顔は系統的には彼と同じ感じで、確かに綺麗な子だけれども……

「俺、あいにく人形遊びの趣味はないんだよねえ……」
「何それ」
「だってあの子、人形みたいじゃない? 中身が入ってないって感じ」

 何も写していないような目。人形を相手にしている気分になる。

「それだったら、その隣の子の方が……」
「ああ、コータね? コータ!」

 ママの呼びかけに、丸メガネの背のわりと高めの男の子が、「はーい!」と元気よく返事をして、こちらに跳ねるようにやってきた。

「なに~?」
「真木ちゃんが、今晩どうかって」
「えええええ?!」

 ママのコソコソ声に、わあああっと手で頬を押さえたコータ。チヒロと同年代くらいなのに、真オレンジのシャツにオーバーオールが良く似合っている。確かショップ店員と言ってたな……

「ホントにー?! 噂にきく真木スウィート!行きたかったー!」
「噂にきくって……」

 噂になってるのか、と苦笑してしまう。
 宿泊しているホテルは、親が懇意にしているホテルで、まあ、名前を出して恥ずかしくないレベルのホテルと言える。俺が今、連泊しているのは、キングサイズベッドのあるベッドルームと、ソファとテーブルとテレビのあるリビングルームが、スライディング式ドアで仕切られているスイートルームだ。ホテルの一室というよりも、自分の部屋のようで大変居心地が良くて気に入っている。

 コータはその場でもぴょんぴょん跳びはねると、

「チヒロも一緒でもいい?」
「………」

 イタズラそうな目でこちらをのぞきこんできた。

(………チヒロ)

 人形の相手はしたくないけれど、何か趣向があるというのなら、それはそれでいいか。

「どっちでもいいよ」

 肩をすくめてみせると、コータは「やった!」と握りこぶしを作って、「チヒロもこっちおいでー!」と、ニッコニコで振り返った。

 その視線の先、ソファに埋もれるように座っている色白の男の子。やっぱりその瞳は何も写していない。

(顔は似てるのに………)

 俺の天使君とは大違いだ。



***



 10月2週目の日曜日、天使と約束をした。

「俺の持ってる資料映像、部屋に見にくる?」

 そう誘ったら、彼は目を見開いて、

「わあ!いいんですか!?是非!!」

 キラキラ笑顔をこちらに向けてきた。本当に、この子は内側から光を放っているようだ。

 たまらないな………

「そのまま泊まっていきなよ」

 頭をナデナデしながら言うと、彼は「あはは」と笑って、

「そこまで甘えられませんよー」

と、さらにくすぐったそうに笑った。その笑顔の可愛いこと………。彼も次のステップへ進みたがっていることが伝わってくる。

(もう………いいだろう)

 さあ、最後の仕上げに取りかかろう。

 


 まだ仕事の残っている彼を置いて、俺は先に病院を出た。彼の『親友』桜井浩介に会うためだ。
 浩介は、俺の呼び出しに応じて、日曜の午後の公園には似合わない、覚悟を決めたような表情で俺を待ち構えていた。

「単刀直入に聞くけど……」

 早々に容赦なく、切り込んでやる。

「君と慶君って、付き合ってるよね?」
「…………はい」

 浩介が青白い顔をしたままうなずいた。

「高2の冬からなので、もうすぐ丸11年になります」
「へえっ、11年!」

 まさかとは思っていたけれど、高校時代からずっととは!

「長いね~」

と、いうことは、おそらく彼は浩介以外の男を知らないだろう。それは開発のしがいがあるというものだ。ああ………楽しみだ。

「あの………話ってなんですか?」

 耐えかねたように言った浩介に、わざと明るく言ってやる。

「うん。君、慶君と別れてくれる?」
「何を……」

 目をみはった浩介に畳み掛ける。

「だって、君は慶君にふさわしくないよ」


 さあ、これで心置きなく、彼は俺のものになれる。




-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の2の真木さん視点でございました。

コータ&チヒロは2年前「その瞳に」を書いたときから存在していたので、こうして書けて嬉しかったです。
次回、金曜日も、お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話1

2018年03月02日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18

「その瞳に」の真木視点です。
本編・裏話、どちらを先に読んでも大丈夫、のつもりで書いております。


-------


2002年秋


【真木視点】


 幼い頃から、願いが叶わなかったことは、一度もない。

 裕福な家庭で育った上に、この完璧な容姿、人を魅了するオーラ、優れた記憶力・分析力、抜群の運動神経、手先の器用さ、等々、天が二物も三物も与えてくれたおかげで、求めて手に入らないものはなかったのだ。

 だから、彼を「欲しい」と思ったことは、いつものように「手に入る」に繋がるはずだった。絡めとる網を張って、自分の手に落ちてくるように仕掛けたはずだった。

 けれども……


***


 彼との出会いは9月の初め。さして興味のない勉強会に参加したときのことだった。

 開始ギリギリに会場に飛び込んできた彼を見て、思わず「へえ……」と感嘆の声を漏らしてしまった。

(綺麗な子だな……)

 綺麗なだけでなく、人目を引くオーラを放っている。俺と同じだ。

「ここ、空いてるよ」

 座る場所を探している様子の彼に手を挙げて教えてあげると、

「ありがとうございます!」
「………!」

 キラキラキラ………と光が舞ったような笑顔をこちらに向けてきた。息を飲んでしまう。まるで天使だ。

(これは………欲しい)

 こんな子、今まで見たことない。震えるような衝撃が走った。この出会いは運命だ。

 完璧な俺の隣には、彼のような子がふさわしい。
 



 彼……『渋谷慶』は、驚いたことに、卒後3年目の28歳だという。ずいぶん若くみえる。まあ、おれも若くみられるので、実年齢の6歳の差は見た目と合っているかもしれない。

 彼は非常に真面目な青年で、勉強会の最中は、メモを取ったり、資料に印をつけたり、と、ずっと熱心に話を聞いていた。
 中でも、小児アレルギーの小林先生の講義を食い入るように聞いていたので、

「もしかして、小林先生目当てで参加した?」

 終了後にたずねてみたら、彼は恥ずかしそうにうなずいて、

「実は先生の本、何冊も持ってて……」

 頬を赤らめたその様子………かわいすぎるじゃないか。

「……………。俺、小林先生と面識あるから、紹介してあげるよ?」
「え!?」
「おいで?」

 戸惑った様子の彼の肩に手を回す。

(へえ……結構鍛えてるな)

 華奢に見えるけれど、体はガッチリしている。そんなところも、好ましい。

「ご迷惑では……?」
「大丈夫だよ」

 微笑みかけると、彼は大きく瞬きをしてから、

「ありがとうございます。お言葉に甘えます!」

と、ニッコリとした。その物怖じしないところも気に入った。



 知れば知るほど、彼は俺にふさわしい理想的な青年だと思えた。

 医者としてはまだまだ未熟。でも、それを自覚して懸命に取り組んでいるところが良い。少々、空回っているところも微笑ましい。

 勉強会では常に隣に座るようにして、その後、飲みに行ったり、スポーツジムに行ったり……、と、計画通り、この一ヶ月ほどで着々と距離を縮めた。健康的で真っ直ぐな彼が俺に向けてくる視線は、すっかり『頼りになる先輩』だ。込み入った仕事上の悩みを打ち明けてくるくらい、俺に気を許している。


 そろそろ次の段階へ行こうかな………と思っていた矢先のことだった。


「今日は浩介のうちから直接来たので……」
「………そう」

 彼から発せられる『浩介』の言葉に、またか、と思う。一度何かの話題に出たのをキッカケに、彼はよく『浩介』の話をするようになった。高校時代からの『親友』だと言う。高校の社会科の教師をしているバスケ部顧問。その名前を口にするとき、彼の瞳は少し柔らかくなる。

(彼氏……とか?)

 以前、恋人はいるのかと聞いたら、少し間を空けてから「いません」と答えていた。あの間が、同性の恋人を隠すためのものだとしたら、彼も『こちら側』の人間ということになり………話が早くて好都合だ。恋人の有無なんて、俺にとっては何の問題にもならない。

 よし。決めた。

「ねえ、慶君」

 ポンッとその小さくて可愛らしい頭に手をのせる。

「俺、その親友君に会ってみたいなあ」
「え」
「今度一緒に食事でもどう?」
「いいんですか?!」

 ぱあっと目を輝かせ、キラキラ笑顔になった彼。眩し過ぎる。

「おれも是非、真木さんに会っていただきたいって思ってたんです!」
「………」
「わ~嬉しいなあ」

 無邪気な瞳。溢れでる真っ直ぐさ。触りたくなる白皙……

(ああ。欲しい……)

 今すぐ落としてしまいたい。……けれども、まだだ。ゆっくりと、着実に、俺のものにしてやる。




-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の1の真木さん視点でございました。
この調子で「その瞳に」の裏話を書き終えてから、あらためて!真木さん主役のお話を書こうと思っております。
なので、真木さんの詳細……家庭環境とかそういったことはその時に。今回は裏話に徹します。

次回もお時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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コメント (2)
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