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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係6

2018年09月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 球技大会で、オレの参加したバレーボールのチームはベスト4に入った。全校36クラス中のベスト4なんだから相当すごい。

「テツ君、練習頑張った甲斐があったね」

と、学級委員の西本ななえは手放しで褒めてくれた。確かにオレは練習は頑張ったけど、本番ではたいしてボールに触っていないから、活躍したのかと言われれば「全然」。でも、役割は果たした、らしい。


「自分の目の前にきたボールだけは、必ずあげろ。あとは何とかする」

 当日の朝、同じチームの村上享吾に真剣に言われた。だから、目の前に飛んできたボールだけはなんとか上にあげた。何度か変なところに行ってしまったボールを、村上享吾は本当に「何とか」してくれた。

「享吾って、あんなこと出来る奴なんだな」

 あとから、その様子を見ていたオレの幼稚園からの親友・松浦暁生に感心したように言われた。村上享吾は普段地味なので、この活躍は「意外」なのだ。暁生みたいに派手な奴が活躍するのは「当然」。

 当然、暁生のいるチームは1位になった。そして、2位は渋谷慶のいるチームだった。

 渋谷慶というのは、オレと暁生と同じ小学校出身の友達で、オレと同じくらいチビなのに、運動神経がやたらと良い奴だ。その渋谷のチームにうちのチームは負けた。渋谷は、何だかものすごい気合いが入っていた。

「渋谷、エゲツナイ……」
 試合終了後、渋谷と同じバスケ部の石田と林がぐったりしながら文句を言っていたくらい、渋谷は怖かった……


 でも、ベスト4という結果に、チームのみんなもクラスのみんなも大満足していて、みんな楽しそうで、それは本当に嬉しかった。頑張った甲斐があったというものだ。


「キョーゴ、ありがとなー」
 表彰式の後、村上享吾にあらためて礼を言ったところ、奴は「何が?」と眉を寄せた。

「何がって、うちのチームはキョーゴの活躍で勝ったようなもんだろー。オレもすげーフォローしてもらったし。キョーゴいなかったら、オレのミスで何点取られてたか分かんねえよ。オレ役立たずだからさー」
「……そんなことはない」

 村上享吾は首を振った。

「村上は自分の役割をちゃんと果たしただろ。ちゃんと目の前のボールを上げてた。点数入れるだけが大切なんじゃない」
「え」

 役割?

「オレもオレの役割を果たしただけだ」
「…………え」

 ポカン、としてしまった。

 役割果たしてたって……、それ……

「暁生と同じこと言うんだな……」

 思わず言うと、村上享吾がまた眉を寄せた。

「何の話だ?」
「ああ、うん……野球部の話」


 あまり外の人間に話すべきではないだろう、野球部の話だ。

 先日、レギュラーの3年生の一部が、あまりにも横柄な態度を取っていたため、暁生がみんなの前で説教をしたのだ。

「お前らだけで試合できると思うな!」

 暁生のピシッとした声に皆が姿勢を正した。

「お前らは試合に出るっていう役割を果たしてるだけなんだよ。スコア付けてる奴、ボールボーイしてる奴、道具出ししてる奴、みんなそれぞれの役割果たしてるんだよ。試合に出てる奴が偉いわけじゃない!」

 一番試合に出て一番活躍している暁生にそう言われたら、誰も何も言えない。下働きばかりの1、2年生は、暁生のこの言葉に感動して、泣いている奴もいた。

「オレ達はオレ達の役割を果たす。だから、みんなも頼む」

 暁生の笑顔に、下級生たちは「はい!」と腹の底から返事をしていた。

 暁生はみんなのヒーローだ。


 
 そんな暁生と同じようなことを言う、村上享吾……

「実はキョーゴも、ヒーローの素質があるんじゃね?」
「は?」
「実際、オレのこと助けてくれたし。な?」
「………」

 せっかく褒めたというのに、村上享吾は一瞬、ものすごく嫌そうに鼻に皺をよせて、それからすぐにいつもの無表情に戻ると、さっさと歩いていってしまった。

 その後ろ姿。暁生と……

「……全然、似てない、か」

 でも、何となく、似てる気もする。



 この球技大会をきっかけに、村上享吾と親しくなれた……ということはなく、奴はあいかわらず線を引いていて、踏み込める感じがない。やっぱりよく分からない奴、という印象に変わりはなかった。


 7月に入り、各部活で3年生にとって最後の夏の大会が始まった。


 そんな中………


「渋谷がバスケ部の練習中に大怪我をして、入院したらしい」

 月曜日、どこのクラスもその噂で持ちきりになっていた。そのせいで、何人もの奴がうちのクラスをのぞきにきた。

 なぜなら……

「怪我をさせたのは、村上享吾」

 そう、言われているからだ。


 

---

お読みくださりありがとうございました!
全然BLじゃないじゃん!って、つっこみつつ……

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると幸いです。

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係5-2

2018年09月26日 07時25分52秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

『バレーボールの村上哲成と卓球の井上をチェンジする』

と、球技大会の出場選手に関して、石田と林から提案された件は、翌朝、もう一人の学級委員・西本ななえに判断を仰ぐことにした。正直、変な責任をおいたくなかったからだ。

 ベテラン学級委員の西本は、オレの話をふんふん肯きながら聞いてくれた後、

「享吾君は、チェンジに反対なんだ?」
「あ、いや……」

 なるべく中立を保って話したつもりなのに、あっさりと内心を見破られ、詰まってしまった。

 実はこの件のことを考えると、

『サーンキュー』

と、ニカッと笑う村上の顔が、どうしてもチラついてしまうのだ。村上には何の思い入れもないけれど、あの無邪気な頑張りを否定するのは、やはり抵抗があるというか……3週間も練習に付き合ってやったから、多少は情がわいたのかもしれない。

 詰まったままのオレに、西本は真面目な顔をして肯くと、

「そういうことなら、私に任せて」
「え」

 任せて?

「『人のせいにして、自分の意見をそれとなく通す』っていうのが、私の処世術だから」

 ニヤリとした西本。

(処世術……)

 そういえば西本は、毎年学級委員をやって目立っているのに、クラスの連中から少しも煙たがられたりしない。みんなの意見をきちんと聞いてくれる印象がある。でも実はうまく誘導しているというか……その眼鏡の奥の瞳にジッとみられると、すべて西本の良いように動いていってしまうというか……

「今回は、国本先生にかぶってもらうよ」

 西本はそう宣言して、ピースサインをしてきた。

(担任にかぶってもらう?)

 なんだそれ? という疑問は、昼休みに解消された。西本は昼休みになった途端、みんなの前で言ったのだ。

「国本先生に確認したら、球技大会のプログラムの印刷もう終わってるから、今さら種目替えはダメだって。だからみんな決められた種目で頑張ってねー」

 ああ、なるほど……

 クラスのどよめきの中、大きくうなずいてしまった。これならば、誰も文句を言えない。

 視界の端に、眉を寄せている石田と林の姿をとらえたけれど、気が付いていないふりをする。奴らだって、正当な理由でダメと言われたことを押してまで交代を望んだりはしないだろう。

(あ、村上……)

 そんなことを知らない村上哲成が、いつものように「バレーボール練習する奴、中庭なー」と声をかけていることに、なぜかホッとした。

「キョーゴもー!」
「ああ」

 いつものように大声で誘ってきた村上に軽く手をあげ、そちらに行こうとしたのだけれども……

「あーあ。じゃあ、オレら一勝もできないかもな」
「あいつと一緒じゃあな」

 石田と林と、それに高橋と岩沢まで加わって、コソコソと言っているのが聞こえてきて、足を止めた。

(別に村上のせいで負けるって決まってねえだろっ)

 腹の奥の方がグッと熱くなる。4人は薄ら笑いを浮かべながら、コソコソ話を続けている。

「なあ、練習行くか?」
「行かねえよ。どうせ負けるし」
「元凶の村上テツが一番一生懸命なのが笑えるよな」
「言えてる」

 ……………。

 ムカムカが喉まで上がってくる。

 と、同時に、ふっと昨日の渋谷の声が頭によみがえってきて、頭が冷えてきた。

『こんな風に、陰でこそこそ言うのは間違ってる。それに、練習誘うテツを悪くいうのも、間違ってる』

 間違ってる……間違ってる。

 そう、こいつらは間違ってる。間違ってる。けれど………オレは渋谷みたいにこいつらに言うことはできない。

 だって………

『享吾……』

 今度は、暗く、か細い声が、頭に響き渡ってきた。凛とした渋谷の声とは対照的な声。

『なあ……享吾。どうしてこうなったんだろうな……?』

 暗い部屋の中。兄の小さな小さな声……

『享吾はお兄ちゃんみたいにならないで』

 お願いだから、こんな思い、もうしたくない。

 母の悲痛な願い……

(だから。だから、オレは………)

 オレは兄さんみたいな失敗はしない。当たらず触らず、波風立てない。目立たない。ひっそり、ひっそりと生きていく……

「キョーゴ?」
「!」

 いつの間に、村上が目の前にいた。くるくるした瞳がオレを見上げている。

(村上……)

『あー、知ってる知ってる。そんなの言わせとけばいいんだよ!』

 クラスの奴らに悪く言われている、と聞かされた時の、村上を思い出す。そんな風に突っぱねられる強さが、オレにあれば……兄さんにあれば。そうしたら……

「どうかしたのか?」
「いや…………、行こう」

 トン、と背中を押してやると、「うわ、押すなよ!」と村上が大袈裟に言って笑った。

(………村上)

 お前はいつも笑ってるな。

 隣を並んで歩きながら、大きく深呼吸する。

(でも、それでいい。笑ってろ)

 石田達の嫌な視線を、毒のある言葉を、弾き返すみたいに、笑ってろ。



***


 球技大会当日、オレは久しぶりに真面目にプレーした。

 兄が中学時代、バレーボール部に所属していたため、オレは小5から中1の途中までは、毎日のように練習に付き合わされていたのだ。おかげで、そこそこ……というか、かなり、出来る。でも、バレーボールという競技は一人が上手くても、どうしようもない、というところもある。なんとか、村上をフォローしながら、自分のサーブの順番が回ってくるまではやりすごし、その後、サービスエースを量産しまくってやった。こうして、第一試合は、一年生相手だったこともあり、あっさりと勝利をものにできた。

「お前、すげーな!」

 試合終了後、そう言って飛びついてきた村上。石田達も顔を見合わせて「享吾の1人舞台だったなー」と笑っている。

(……やりすぎたかな)

 ヒヤリ、と背中に嫌な汗が流れる。けれども、ここで負けて、石田達が村上のせいにするのは腹が立つからしょうがない。それに……

(ちょっと、楽しかったな……)

 なんて思ってしまった自分に戸惑ってもいた。

(……なにやってんだ、オレ)

 自分で自分が分からない。


 
---

お読みくださりありがとうございました!
大遅刻……m(__)m
続きは金曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると幸いです。

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係5-1

2018年09月21日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 梅雨の中休みで良く晴れた空の下、球技大会がはじまった。

 始まって早々、おちゃらけている村上哲成をとっ捕まえて、

「ヘラヘラしてんじゃねえよ!」

 ………と、怒鳴りたいのをこらえて、

「勝つぞ?」

と、一言だけ言ってやった。せめてそれくらい言わないと気が済まなかった。

 何が面白くて、こいつのためにオレがこんなに切羽詰まらなくてはならないんだ……と腹が立つけれど、勝たなければもっと腹が立つだろうから、本気でやる。久しぶりに、本気で、やる。



 こうなったのは、球技大会の一週間前の出来事のせいだ。

「なあ、享吾。村上テツ、卓球に回さねえ?」

 バスケ部の練習が終わり、着替えている最中に、同じクラスの石田と林がコソコソと言ってきた。

「あいつバレーボール下手過ぎだろ? あれだったら井上の方がマシだからさ、村上テツと井上、チェンジしようぜ?」
「卓球よりバレーのほうがポイント高いじゃん? バレー一勝もできないと痛いじゃん?」
「…………」

 確かに、クラス優勝のためにはそれは有効だけど……

「でも、井上、卓球第一志望だったから……」
「えー、第一希望が通らなかった奴なんて何人もいるじゃん!」

 林が笑いながら言うと、石田が「そうそう」と力強く肯いた。

「だいたいさ、村上テツ、鬱陶しいんだよ。下手くそなくせに、練習仕切ったりしてさ」
「毎日練習するほどこっちは暇じゃないっての」
「…………」

 村上は毎日、昼休みがくると「練習しよう!」とみんなに声をかける。石田と林も時々は参加していたけれど、内心はそう思ってたのか……。

「享吾、クラスを優勝に導くのも学級委員の仕事だぞ?」
「そうそう。これは戦略だよ。下手くそは捨てでいいじゃん」
「その方が村上テツのためにもなるって。もしかしたら奇跡的に卓球勝つかもしんねえし」
「うんうん。オレらのストレスも無くなるし、一石二鳥」
「………」

 今から種目替えとなると、ここ3週間近くの練習が無駄になってしまう。まあ、村上は無駄になるというほど成長もしていないが……

 でも……

『サーンキュー』

 練習中、フォローしてやると、毎回、二カッと笑う村上の顔を思い出して、ちょっと胸が痛くなる。ヘタなりに頑張ってたんだけどな、あいつ……

 色々な思いが錯綜して黙ってしまったのだけれども……

「なんだよ、それ?」
 凛とした声に、ハッとして振り返った。完璧美形の渋谷慶が、腕組みをして、眉を寄せて立っている。

「下手くそは捨て? チームプレー第一のバスケ部員とは思えねえ言い草だな?」
「渋谷……」

 石田と林は気まずそうにうつむいた。けれども、すぐに顔を上げると、

「これも戦略。クラス優勝のためには、そういう選択もありだろ」
「つか、渋谷、他のクラスのことに口出ししてくんじゃねーよ!」
「ああ?!」

 案の定、血の気の多い渋谷が、石田につかみかかった。

「他のクラスとかそういう問題じゃねえだろっ。バスケもバレーも、フォローし合うのがチームプレーだって言って……」
「うっせーよっ」

 石田は、バシッと、渋谷の手を振り払うと、背の小さい渋谷を見下ろして、嫌な笑いを浮かべた。

「いつもスタメンの渋谷様らしい発言だな」
「は?」
「オレら万年控えの選手も試合に出て渋谷様にフォローしてほしいなあ」
「んなこと……っ」

 渋谷は何か言いかけて……口をつぐんだ。何を言っても藪蛇になる、と思ったのだろう。その横で、追い打ちをかけるように、林も小さく笑いながら言った。

「しょうがないじゃん。試合に勝つためには上手い奴が出るのが一番。これ鉄則。だから、渋谷は毎回スタメン。オレらは毎回控え。な?」
「……………」
「だから、村上テツがバレーから外れるのもしょうがない。だろ?」
「……………」

 渋谷は唇を噛み締めて、石田と林を見上げていたけれど……

「でも」

 ハッキリとした口調で言い切った。

「でも、こんな風に、陰でこそこそ言うのは間違ってる。それに、練習誘うテツを悪くいうのも、間違ってる」
「……………」
「……………」

 渋谷……

 ああ、そういえば、オレが入部して早々にも、こんなことあったよな……と思い出した。一人の部員をイジメみたいにしごいてた奴らを渋谷が怒鳴りつけて……

 渋谷は真っ直ぐだ。そのキラキラした眩しい光は、こちらの闇を際立たせるようで……。だから………

「渋谷……お前は正しい」

 吐き捨てるように石田が言った。

「正し過ぎて、息が詰まる」
「……………」

 ああ…………、そう。「息が詰まる」。石田、うまいこと言うな。

 渋谷といると、真っ直ぐなその瞳が眩し過ぎて………

 息が、詰まる。




---

お読みくださりありがとうございました!
真面目!真面目か!誰得?!いいの!私が読みたいからいいの!!
と、いつもの自問自答をしながらの……
続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると幸いです。


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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係4

2018年09月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 松浦暁生はオレのヒーローだ。

 幼稚園で同じクラスになったことをキッカケに友達になった暁生。体が小さくて揶揄われやすいオレのことをいつも守ってくれた。ずっとそばにいてくれた。オレ達は自他ともに認める「親友」だ。


 中学生になって、暁生と一緒の部活、という理由で野球部に入った。

 オレは、昔から運動が苦手で、まともにキャッチボールもできないし、打てないしで、まわりから馬鹿にされまくっていた。

 でも、暁生は、中学入学時点で、すでに上級生と変わらないほど体格が良かった上に、小学3年生から少年野球チームに所属していて、市の選抜メンバーに選ばれるほどの実力者だったので、入部早々に、上級生を押しのけてベンチ入りした。

 そんな暁生のことを僻んで、良く言わない奴らもいた。顧問の先生に贔屓されてるからレギュラーになったんだ、とか、色々。だから、先生が「一年生のリーダーは暁生に」と言っているのに、反対派がいて、決めることができていなかった。

 でも、そんなある日……

 練習中、フライを取り損ねて、額にボールをぶつけてしまったオレ。
 周りの連中はゲラゲラ笑ったり、「何やってんだよ!」って呆れたりしていたけれど……

「いいぞ!」
 そんな声を打ち消すほどの大きな声が校庭に響き渡った。振り返ると、暁生が大きくガッツポーズしていた。

「おでこに当たったってことは、ちゃんと落下点に入れてるってことだぞ! 後は取るだけ! その調子!」
「!」

 その時の、連中のハッとしたような顔。暁生との格の違いにようやく気がついたか。ザマアミロ。

(暁生は、違う)

 人の失敗を笑ったり呆れたりするような、お前らとは違う。暁生は人を貶しめたりしない。人の良いところを見つけてくれる。やる気をくれる。暁生はいつでも真っ直ぐだ。

「一年生のリーダーは松浦暁生で」

 そう決まったのは、この件の直後のことだった。暁生のことを僻んでいた奴らも、暁生のことをリーダーとして認めざるをえなくなったのだ。
 オレは暁生が誇らしくてしょうがない。優しくて、かっこよくて、強くて、頼りがいがあって。暁生は完全無欠のヒーローだ。


***


 暁生とは残念ながら、中学3年間、一度も同じクラスになることができなかった。
 その代わり……といってはなんだけど、一緒のクラスになってみたい、と思っていた奴と中学3年生で同じクラスになれた。

 村上享吾、という、オレと同じ苗字の奴だ。

 奴は、2年生の球技大会で、途中から手を抜きやがった。今回はそんなことさせないために、強引に学級委員にしてやった。学級委員になれば、責任を感じて本気でやるに違いない、と思ったからだ。

 そのおかげなのか何なのか分からないけれど、奴は、球技大会の練習を一度も休まず参加した。その上、本番当日も、

「勝つぞ?」

と、何だかものすごい気迫で言ってきて、実際、試合中も大活躍していた。

(こいつ……すげえな)

 その立ち上るオーラみたいなものに目が離せなくなった。写真に撮って飾っておきたいような完璧なフォーム。何もかも跳ねのける力をボールに与えていて、誰も奴のボールに手出しすることはできない。とにかくすごい……

 でも……

「お前、すげーな!」

 試合終了後、そう言って飛びついたところ、奴は、

「別にすごくない」

 つぶやくように言って、そのオーラを消し去ると、さっさとコートから出て行ってしまった。

「すごいのに……」

 村上享吾。やっぱり……何だかよく分からない奴だ。



---

お読みくださりありがとうございました!
前半は、話が進まないよーでもここは押さえておきたいしー……と、葛藤しながら書いた哲成の中学入学当初のお話でございました。

次回、なぜに享吾君が球技大会本番当日ヤル気だしてたのかというお話でございます。
お時間ありましたら、お付き合いいただけると幸いです。


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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係3

2018年09月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 一緒に学級委員になった西本ななえは、人の上に立つことに慣れている女子だ。人の意見を汲み取るのも上手だし、黒縁メガネの奥の鋭い瞳に見られながら、スパッと言い切られると、みんな納得してしまう。

「私、せっかちなの」

 どうして毎年学級委員になるのか? という、村上哲成の質問に対して、西本は軽く肩をすくめながら言った。

「委員決めの時間が嫌いだから、さっさと決めたくて立候補しちゃうんだよね。まあ、仕切れない人が学級委員になって、モタモタされるのがイヤっていうのもあるけど」
「なるほどなー」

 村上はウンウン肯いてから、オレの腕をバンバン叩いてきた。

「じゃ、キョーゴも頑張ってなー」
「………。西本の補佐を頑張るよ」

 若干投げやりに言ってやると、村上は軽く笑って、またバンバン叩いてきた。こういう仕草、仲良さそうな感じがして嫌だ。こいつと仲良しだと思われたくないのに。


 しかし、村上は相当鈍感なのか、オレのそんな内心にはまったく気が付かないようで、避けようとしているのに何かと絡んでくる。

 休み時間ごとにオレの席の横に立っては、くだらないこと……例えば、前日夜のテレビ番組のこととかを話し出す。オレが「みてないから分からない」と言っても、その場で周りのクラスメートに話しかけはじめ、結果、オレの席の周りに人が集まってきて……

(なんの嫌がらせだ……)

 頭を抱えたくなってしまう。オレは目立たず、ひっそりと生活したいのに。


 そんな感じで、その眼鏡チビが勝手にくっついてくるため、気が付いたら、クラス内では、村上を含めたわりと派手な連中と一緒のグループの一員と位置づけされてしまった。迷惑もいいところだ。オレ的には、クラスの中間に位置するグループに潜り込むつもりだったのに。

 こんなはずじゃなかった「のに」。

 村上と知り合ってから、オレは「のに」ばかり思っている。


***


 6月に入り、球技大会の練習が始まった。

 うちの中学では、6月と3月に球技大会が行われる。6月はクラスの親睦を深めるため、3月はクラスのお別れ会のため、らしいけれど、スポーツが苦手な人間や団体行動が苦手な人間にとっては苦行以外の何物でもない。

 いや、でも、スポーツ苦手なくせに、やけに楽しそうな奴もいる。村上哲成だ。

「キョーゴ!キョーゴ!一緒に練習してくれー!」
「………」

 昼休みになった途端、誘いに来た村上。
 一緒のクラスになって2ヶ月。素っ気なくしていても全然堪えない鈍感さは尊敬に値する。

「他の奴だと取れないボールもキョーゴは取ってくれるからホント助かるんだよなー」
「…………」

 村上は、野球部に所属しているけれど、相当な運動音痴なのだ。色も白いし、貧弱だし、体力ないし、全然野球部員に見えない。
 球技大会のバレーボールももちろんものすごく下手くそで、レシーブも明後日の方向に飛んで行ってしまうので、一緒にやっていると無駄に体力を削られる。けれども、ここで断ってもしつこく誘われることは目に見えているので、無駄な抵抗はしないでうなずいてやる。

「………。分かった」
「やったー!サンキュー♪ 練習する奴、中庭集合ー!」

 村上の大きな声に、数人が返事をして、一緒に移動を始める。でも、行かない連中は顔を見合わせて、コソコソと「村上テツ、鬱陶しー」とか言ってて………

(やな感じだな……)

 でも、参加メンバーを見て、こちらに属していて大丈夫……と瞬時に判断し、村上の後を追う。

(村上……気づいてないんだろうな……)

 鈍感ってある意味羨ましいかもしれない。


 と、思いきや。


「あー、知ってる知ってる。そんなの言わせとけばいいんだよ!」

 お節介に忠告してきたクラスメートの言葉に、村上がケロリと言い放ったので、驚いてしまった。

 村上は下手くそなトス練習をしながら、叫ぶように言った。

「でもさーこんなんさー、絶対、一生懸命やった方が楽しいのなー。踊らにゃ損損ってやつだよ! なあ、キョーゴ!」
「……………」

 オレに話を振るな。と、思いつつ、村上が外したボールを取って、投げてやると、村上は「サーンキュー」と言って、ニカッと笑った。

(……本当に、変な奴だな)

 何だかため息が出てしまう。その前向きさと強さはどこからくるんだ?


***


「それは、松浦君のおかげかもしれない」
「松浦?」

 って、野球部の松浦暁生のこと? と聞くと、西本ななえは「yes」とうなずいた。

 放課後、学級委員に任されたアンケート集計を二人でしながら、それとなく聞いてみたところ、村上と同じ小学校出身の西本は、訳知り顔で色々と教えてくれた。

 村上は昔から小さくて色白で、頭は良いけれど、運動は全然ダメだった。
 松浦は昔から体格がよくて、運動神経も抜群で、頭も良くて、リーダーシップも取れるモテモテ男子だった。
 そんな二人は、幼稚園からの親友で、いつもいつも一緒に行動していた、そうだ。

「テツ君ってお調子者だから、みんなから邪険にされがちなんだけど、あの松浦君の親友ってことで大目に見てもらえてたというか……」
「…………」
「だからテツ君の中では、松浦君に守ってもらえるっていう自信があるんじゃないかな……」
「ふーん……」

 虎の威を借る何とかってやつだな。それって……

「松浦……村上のことイヤにならないのかな」
「え?」

 思わずつぶやくと、西本はキョトン、とした後、いやいやいやと大きく手を振った。

「イヤになんかならないでしょ。だって、テツ君、かわいいもん」
「は?」

 かわいい?

 西本の答えに頭がハテナでいっぱいになる。

「どこが?」
「どこがって……」

 しばしの沈黙の後、西本は軽く肩をすくめた。

「分からないならいいよ。テツ君のかわいさは、分かる人にだけ分かればいいから」
「は?」

 は?しか言えないオレの目の前で、西本はトントンっとプリントをまとめると、

「じゃ、これ、先生に出してくるね」
「え、あ……」

 意味不明の言葉の解説はしないまま、さっさと出ていってしまった。その背中に思わず呟いてしまう。

 かわいい? あの眼鏡チビが?

「意味が分からない……」

 分からないけれど……
 最上位の存在である松浦とかなりの絆があるらしい村上。やはり、関わらない方がよさそうだ。


 と、思っていたのに………



---


お読みくださりありがとうございました!
お休み中も、クリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当に本当にありがとうございました!おかげで戻ってこられました。

いつもながら、マッタリしたお話でm(._.)m
「風のゆくえには」シリーズ本編主役の慶と浩介みたいに、出会った途端、ビビビッてきたら物語の進みも早いのでしょうけど、享吾と哲成はあいにくそうではなく……
いつになったら、2つの円がくっつくのか? 私が一番心配してたり💦
次回もマッタリしてますが、見守っていただけると幸いでございます。
次回、火曜日更新予定です。お時間ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。


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