登場人物
桜井浩介:高校1年生。表はニコニコ裏はものすごい後ろ向き。人生初の友人である慶と、ずっと親友でいられることを願っている。
渋谷慶:高校1年生。天使のような容姿だが性格は男らしい。親友浩介に密かに健気に片想い中。
浩介と慶、まだ高校1年生の初めてのバレンタインのお話。
時系列的には「遭逢」と「片恋」の間。
まだ浩介が慶のことを心の中では「渋谷」と呼んでいた時代です。
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桜井浩介:高校1年生。表はニコニコ裏はものすごい後ろ向き。人生初の友人である慶と、ずっと親友でいられることを願っている。
渋谷慶:高校1年生。天使のような容姿だが性格は男らしい。親友浩介に密かに健気に片想い中。
浩介と慶、まだ高校1年生の初めてのバレンタインのお話。
時系列的には「遭逢」と「片恋」の間。
まだ浩介が慶のことを心の中では「渋谷」と呼んでいた時代です。
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【浩介視点】
「桜井君っ」
いきなり呼ばれ、振り返ると、真っ赤な顔をした他校の女の子がいた。
「桜井君っ」
いきなり呼ばれ、振り返ると、真っ赤な顔をした他校の女の子がいた。
(なんでおれの名前知ってるんだろう……)
不思議に思いながら、「なあに?」と聞いてみると、女の子はさらに真っ赤になっていった。
「渋谷君、今日もくる?」
「??」
「渋谷君、今日もくる?」
「??」
渋谷の友達だろうか?
今日はバスケ部の交流試合のため、隣の花島高校に来ている。
渋谷はいつも試合を見に来てくれるので、今日も当然来ることになっていて……と、噂をすれば影。入り口に渋谷の姿をみつけた。
「来たよ。慶ー!」
今日はバスケ部の交流試合のため、隣の花島高校に来ている。
渋谷はいつも試合を見に来てくれるので、今日も当然来ることになっていて……と、噂をすれば影。入り口に渋谷の姿をみつけた。
「来たよ。慶ー!」
「え、きゃあっ」
せっかく呼んであげたのに、女の子たち5人はさあっと横にはけてしまった。なんなんだろう……
ハテナ?と思いながらも渋谷に向かって手を振り続けていると、渋谷もニコニコと手を振りながらこっちに来てくれた。
「おー、2試合目だよな? 集合まだか?」
「うん。あと5分くらい。あ、あのね」
渋谷のことを訊ねてきた女の子の方を指さす。
「あの女の子に、慶のこと聞かれたんだけど……」
「あ?」
すいっと渋谷がそちらに目をやると、また「きゃあっ」と声が上がった。
「友達?」
「いや、全然知らねえ……」
渋谷が答えかけたその時、女の子二人がサササッとこちらに寄ってきた。さっき顔を真っ赤にしてた子の横にいた子たちだ。
「あの……渋谷君っ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「なんで?」
渋谷、眉間にシワが寄っている。でも女の子は小さく言葉を続けた。
「あの……バレンタインだから」
……………バレンタイン?
バレンタイン……バレンタイン……バレンタイン……そうか! バレンタイン!
今週の木曜日はバレンタインだ。
関係のない話だからスッカリ忘れていた。
そうか、あの女の子は渋谷にチョコレートを渡そうと………
うわーすごい渋谷。さすが渋谷。知らない女の子からチョコレートもらえるなんて!
と、関係のないおれがドキドキしてしまっていたのに、
「ああ……、バレンタイン」
渋谷は冷静に軽く首を振ると、
「悪いけど、おれ、今年は誰からも受け取らないって決めてるから」
「え」
「えええっ」
思わず叫んでしまい慌てて口を閉じる。言われた女の子もビックリしたように「なんで!?」と渋谷に詰め寄った。
「どうして? 誰からもってことは彼女ができたとかではないんだよね? なんでもらわないの!?」
「あー……いや、お返しするのめんどくせーから」
渋谷、普通の表情でとんでもないことを言ってる。……と、はじめにおれに声をかけてきた女の子が慌てて渋谷の前に転がり出てきた。それで、
「お返しはいりませんっ」
プレゼントと思しき袋を突き出してきた! うわーすごい!本物だ!と、おれが興奮してしまう。
けれど……
「ごめん。受け取れない」
渋谷はやっぱり冷たいくらいアッサリと言うと、「じゃ」ってその子に向かって手を挙げた。
で、
「浩介」
その手でおれの腕を掴むと、
「お前、そろそろ集合だろ」
「え、あ、うん」
「いくぞ」
「え」
有無を言わさず、おれを引きずりながら、その場から離れてしまった。女の子たちの悲しそうな恨みがましそうな目が痛い…………
「慶……」
女の子たちが見えなくなった曲り角で、とんとん、とその手を叩いて歩みを止めさせる。
「本当に、いいの?」
「なにが」
渋谷、眉間にシワが寄っている。
余計なことかな、と思いつつ、ついつい言葉を続けてしまう。
「もらってあげればいいのに。女の子たちかわいそう」
「…………」
「…………」
「…………」
渋谷は眉間にシワを寄せたまま、おれのことをジッと見上げていたかと思うと……
「いいんだよ。うるせーな!」
「痛っ!!!」
腿のあたり、いきなり蹴られた!! なんで?!
「ちょ、慶……っ」
「お前時間だろっ。さっさと行け!」
「痛い痛い痛い」
なおも蹴ってくる渋谷。なんなんだー!!
その後もおれは、さっきとは別の女の子から渋谷の居場所を聞かれたし、女の子から話しかけられている渋谷の姿も見かけたけれど、渋谷は帰りも手ぶらだったので、やっぱり誰からも何ももらわなかったようだ。
(バレンタインかあ……)
おれは小学校中学校は男子校だった上に、中学はあまり学校に行けていなかったので、こういうやり取りを生で見るのは初めてだった。バレンタインといったら、その日の夕飯の後に、母の手作りのチョコレートのお菓子が出てくるくらいだ。
(確かにお返し大変だよなあ)
父も毎年いくつかチョコレートを持って帰ってくるので、ホワイトデーの時は母がデパートで購入したお菓子の詰め合わせとか、手作りのクッキーとかを父に持たせている。
(渋谷、「今年は」って言ってたな……。今年はってことは、去年まではもらってたんだなあ)
すごいなあ。渋谷……
「バレンタインかあ……」
帰りのバスの中、思わずつぶやくと、渋谷がボソッといった。
「お前……もらった?」
「もらってない……っていうか、バレンタインって今度の木曜だよね?」
「あ、そうか」
じゃあ、これからもらうんだな。と何だか暗く言う渋谷。なんでもらうって断定してるんだ。
「もらえないと思うけど……」
「いや、少なくとも、女バス一同ってのはもらえるはずだ。荻野がそんな話してた」
「え、そうなんだ」
荻野さんというのは、慶の中学時代の同級生で、今女子バスケ部にいる。
「わあ。楽しみ。おれバレンタインもらうの初めて」
「…………そうか」
いいながら、渋谷の頭がおれの肩に落ちてきた。
「慶、眠い?」
「寝る。ついたら起こしてくれ」
「うん」
渋谷の温もりが肩から伝わってきて幸せな気持ちになってくる。
バレンタイン……バレンタイン。
今まで本やテレビの中の世界でしかなかったことが、現実で見られた。これから体験もできるらしい。
去年のおれには想像もできなかった世界。
(渋谷のおかげだ)
全部全部、渋谷のおかげ。
(ありがとう。渋谷……)
渋谷慶。おれの親友。
渋谷の頭におれも頭をもたれかからせる。
この後、渋谷のぬくもりに安心しておれも眠ってしまい、気が付いたら終点だった。二人で焦って降りてから大笑いしたのも、楽しい初めての体験だった。
慶視点に続く。
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お読みくださりありがとうございました!
先月に引き続き、2月が終わっちゃうー!!ということで、火曜日でも金曜日でもないけど、無理矢理更新💦
続きはそのうち……
前々から書こうと思っていた、初めてのバレンタイン。気の毒な慶君のお話でした。
ちなみに、2回目のバレンタインはこのあたり↓
んー、慶とっては2回目だけど、浩介にとっては初めてのバレンタイン、ということですな。
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