(2018年8月21日に書いた記事ですが、カテゴリーで「2つの円の位置関係」のはじめに表示させるために2019年2月26日に投稿日を操作しました)
目次↓
1(享吾視点)
2(哲成視点)
3(享吾視点)
4(哲成視点)
5-1(享吾視点)
5-2(享吾視点)
6(哲成視点)
7(享吾視点)
8(哲成視点→享吾視点)
9(哲成視点→享吾視点)
10(享吾視点→哲成視点)
11(享吾視点)
12(哲成視点→享吾視点)
13-1(享吾視点)
13-2(哲成視点→享吾視点)
14(哲成視点→享吾視点)
15(哲成視点→享吾視点)
16(享吾視点→哲成視点)
17(享吾視点→哲成視点)
18(哲成視点)
19(享吾視点→哲成視点)
20(享吾視点)
21(哲成視点→暁生視点)
22(享吾視点)
23(哲成視点→享吾視点)
24(哲成視点→享吾視点)
25(享吾視点)
26(哲成視点)
27(享吾視点)
28(哲成視点)
29-1(哲成視点)
29-2(享吾視点)
30(哲成視点)
31(享吾視点)
32(哲成視点→享吾視点)
33(哲成視点→享吾視点)
34-1(享吾視点)
34-2(哲成視点)
35(享吾視点)
36-1(哲成視点)
36-2(享吾視点)
37-1(享吾視点→哲成視点)
37-2(享吾視点)
38(哲成視点)
39-1(享吾視点)
39-2・完(享吾視点)
人物紹介↓
主人公1・村上享吾(むらかみきょうご)
中学3年。身長175cm。バスケ部。
訳あって、目立たないようひっそりと生活してきたのに、中学3年で村上哲成と前後の席になり、学級委員をやらされるはめになる。
主人公2・村上哲成(むらかみてつなり)
中学3年。身長153cm。野球部。
訳あって、ひたすら明るいお調子者。色白、眼鏡。
亨吾に学級委員を押し付けたことには理由があって……
松浦暁生(まつうらあきお)
中学3年。身長180センチ。野球部。
エースで4番。容姿端麗。成績優秀。何でも出来る優等生。
哲成とは幼稚園時代からの友人。
西本ななえ(にしもとななえ)
中学3年。身長158cm。合唱部。
成績は常に学年1位の才女。毎年学級委員を務めている。
上岡武史(かみおかたけし)
中学3年。身長167cm。バスケ部。
渋谷慶とは犬猿の仲。でも試合中は「緑中ゴールデンコンビ」と呼ばれるくらい良いコンビ。
荻野夏希(おぎのなつき)
中学3年。身長156cm。バスケ部。
サバサバ系女子。少々強引でおせっかい。
渋谷慶(しぶやけい)
中学3年。身長155cm。バスケ部。
超美少年・運動神経抜群・頭も良い。学校のアイドル的存在(←でも本人気がついていない)。
明るく気さくで友達も多い。バスケ部関係者の間では「緑中の切り込み隊長」とあだ名されている。
(「風のゆくえには」シリーズ本編の主人公)
✳身長は春の身体測定の結果です。
あらすじ
訳あって、常に「真ん中」あたりにいることを心掛けて生活している村上享吾。
でも、中学3年生で同じクラスになった、同じ苗字の「村上哲成」に無理矢理、学級委員を押し付けられてしまう。哲成みたいな目立つ人間とは関わりたくないのに、なぜか何だかんだと絡んでこられて、行動を共にすることが多くなる。
そんな中、バスケ部の練習中に学校のアイドル・渋谷慶に怪我をさせてしまい……
物語は1989年4月からはじまります。平成元年です。携帯もない時代です。
亨吾達は1974年生まれ。団塊ジュニア世代です。1学年12クラスあります。
そんな時代の物語です。
----
お読みくださりありがとうございました!
私(同じく1974年生まれ)が高校生の時に作った物語のリメイクになります。
メモによると、1992年9月にプロットをたてて、最後まで書きあげたらしい。でも、書いたノートはシュレッターしてしまったので、残ってません。
その後、1994年6月に彼らが大学生になった続編を書いてます。←これもシュレッターしちゃった。
そんな過去の遺跡を掘り返してみることにしました。
「風のゆくえには」シリーズらしく、何も特別な大事件も起こらない、平平凡凡な物語ですが、「友達の友達の友達の話」くらいのノリでお付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
***
帰り道、村上哲成はほとんど言葉を発しなかった。
いつも村上と登下校をしている松浦暁生は、クラスの奴らと学校に残ることになったため、せっかくオレが村上と一緒に帰れることになったのに……
(やっぱり、西本が何か言ったんだろうな……)
こういう風になるのが嫌だから、あえてあの話題には触れずにきたのに……
村上の家に着くと、お手伝いさんの田所さんが出迎えてくれた。相変わらずの無愛想で、一応、「卒業おめでとうございます」と、言ってくれた。そして、オレの分の昼食も用意するから、あと20分待つように言われた。
「じゃ、部屋で待ってようぜ?」
村上がなんだか緊張した顔のままで言ってきた。いつもと様子が違い過ぎて、こちらまで緊張してきてしまう。
今まで何度も村上の家には遊びにきているけれど、二階の村上の部屋に入ったことは数えるほどしかない。そのうちの一回は、クリスマスのお泊り会の時。
(あの時……)
布団の中で村上を後ろから抱きしめて、猛ったものを押しつけて……
(……ああ、ダメだダメだ)
そんなことを思い出したら、妙な気が起きてしまいそうだ。何とか記憶を押し込める。……と、
「キョーゴさあ……」
「……なんだ」
トン、と村上がベッドに腰かけたので、オレもその横に座る。ベッドが沈んだ反動で、ピトッと村上がくっついてきたことに、ドキンと心臓が跳ね上がる。
そんなこと知らない村上が、クルクルした目をこちらに向けてきた。
「さっき、西本に何言われてたんだ?」
「何って……」
先ほどのやり取りを思い出す。
『せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?』
苦笑気味に言っていた西本。西本は中学三年間、村上に片想いをしていたらしい。でも結局告白はしていない。自分にまったく脈がないことが分かって、無駄に傷つかないために、あえて告白しなかった、と以前話していた。だから、さっき何を話していたかなんて、村上本人に言えるわけがない。
「高校いっても頑張って、とかそんな話」
「……ふーん」
誤魔化したのを見破るようにじっと見つめてくる村上……なんなんだ。
「なんだよ?」
「……そんな話するのに、内緒話するみたいに、顔くっつけて話す必要ないだろ」
「…………」
「…………」
「…………え」
村上……ふくれっ面だ。なんか……かわいい。
「……………何怒ってるんだよ?」
「別に怒ってない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない!」
「え、わ」
いきなり、視界が反転した。首のところに抱きつかれた状態で、ベッドに押し倒されたのだ。
「何……」
「…………キョーゴ」
耳元で聞こえる村上の声……村上の温もり……
「別に怒ってないけど……なんか、ムカつく」
「…………」
「…………」
「………そうか」
右腕は村上の胸のあたりで押さえ付けられていて動かせないので、左手で、そっと頭を撫でてやる。愛おしい気持ちだけが、体中に満ちて、あふれ出していそうだ。
「キョーゴ……本当のこと教えてくれよ」
「なにが」
「本当は、西本に告白されたんじゃないのか?」
「…………されてない」
西本の好きな奴はお前だよ、なんて絶対に教えてやらない。
「ホントに?」
「本当」
「ホントに?」
「本当。……っていうか、告白されようがされなかろうが、関係ないだろ」
「……………」
ゆっくりと起き上がった村上。ジッとこちらを見下ろしながら、ポツン、と言った。
「関係……ある」
「…………」
オレは寝そべったまま、村上のクルクルした瞳を見上げる。
「関係あるって……どういうことだ?」
「どういうことって…………」
「………」
村上は再び寝っ転がると、オレの右腕に頭をのせて、横からピッタリとくっついてきた。腕枕、だ。
(……こっちの気も知らないで……)
若干腹が立ってくる。まずい現象が起きそうなのを、理性をかき集めて制御する。制御しつつも、欲求に勝てず、少し体を横にして、左腕を村上の背中に回し、やんわりと抱きしめる。……と、
「……d<r-r’」
「え?」
腕の中の村上がボソッと、公式を言った。d<r-r’……?
「2つの円の位置関係?」
「そう」
オレの背中に村上の腕が回ってくる。
「オレ……お前と一緒にいると、まあるくまあるく包まれてる気がするんだよ」
「…………」
dは二つの円の中心間の距離で、rは半径を表している。rの差よりもdが小さいといことは、一つの円が一つの円にすっぽりと包まれている状態ということだ。
「昔のオレ達は……d>r+r’」
二つの円は別々に存在している。昔のオレ達のdの値はすごく大きかった。
「でも、r-r’<d<r+r’ってなって……」
二つの円が交わる。
「今は、d<r-r’」
「……なるほど」
ぎゅっと抱きしめると、村上もぎゅっと抱きついてきた。オレの腕で包んでいる愛しい感触……
しばらくの沈黙の後、村上がポツリと言った。
「バレンタインの時に話してた、答えのことなんだけど」
「…………」
ギクリとしたオレの様子に気がついたように、村上はそっとオレの腕から抜け出て、そのクルクルした瞳で見下ろしてきた。
「オレさ……」
「うん」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、村上は大きくため息をついた。
「…………やっぱり、よく分かんねえんだよ。恋愛とか」
「…………」
「でも、今日、キョーゴが西本に内緒話されてるのみて、すげー腹立ったのは、やっぱり嫉妬……なのかなあと思うし」
「…………」
「そうなると、やっぱり、オレはキョーゴのこと好きなのかなあ?と思うんだけど、でも……」
「…………」
「…………キョーゴの答えは、どうなんだ?」
「…………」
オレもゆっくりと起き上がる。隣に座って、村上の眼鏡の奥の瞳をジッとみつめる。
「オレは……」
そっと、その柔らかい頬に触れる。
「オレは……」
覚悟を決めて、本心を伝える。
「お前のことが、好きだよ」
見開いたその瞳にそらさず、瞳を合わせる。
「誰にも取られたくない。お前のことが欲しい、と思う」
「キョーゴ、それ……」
「でも」
何か言いかけた言葉を遮って言い募る。
「でも、その感情を優先させて、お前に離れられるのは本末転倒なんだよ」
「え」
「お前が欲しいって思う感情よりも、お前と一緒に一緒にいたいって感情の方がずっと大きいから」
「…………」
「だから…………一緒にいてほしい」
本当に本当の思い。オレの望みはそれだけだ。
村上と、一緒にいたい。ずっと。ずっと……
沈黙が流れる……
(もしかして……嫌だとか思われてる……?)
あまりにも長い沈黙に、本心を言ったことを後悔しはじめていたところ……
「ご飯できましたよ」
鋭いノックの音とともに、田所さんの低い声がドアの外から聞こえてきて、二人してビクッと跳ね上がってしまった。
「は、はーい」
「ありがとうございますっ」
即座に答えたけれど、ドアの外の反応はない。おそらくこちらの返事なんか聞かずに、階下に戻っていったんだろう。
「び、びっくりした……」
「心臓止まるかと思った」
二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出してしまう。
「行こうか」
「そうだな」
ベッドから下りる。何事もなかったかのような村上の顔にホッとする。
これでギクシャクするのは本当に本末転倒だから。このまま、聞かなかったことにしてくれて全然かまわない。
胸をなでおろしながら、村上の後ろについて部屋から出ようとした。が、
「あ、キョーゴ、キョーゴ」
「なんだ?」
振り向いた村上に、なぜか手招きをされた。だから少し身をかがめたところ……
「え」
素早く、キスされた。
「え?」
キスされた?
え、なんだ今の。
「村上?」
呆然と見返すと、村上はニカッといつもの笑いを浮かべて、得意げに言った。
「d=r+r’」
「は?」
「だから、d=r+r’だよ!」
d=r+r’。二つの円の位置関係を表す方程式で、円がくっついて雪だるまみたいな状態になることを表す。
「うまいこと言ったオレ!」
村上はニコニコとしたまま、何でもないことのように、言葉を足した。
「オレも、ずっとキョーゴと一緒にいたい」
クルクルした瞳。
「だから、これからも、ずっとずっとよろしくな」
「………村上」
一緒に……
その言葉が、何よりも欲しかった言葉だ。
体中が温かくて嬉しくて、たまらない。
「村上……」
その柔らかい頬に手を当てて、もう一度、顔を寄せてやる。
「d=r+r’……」
「ん」
優しく触れる唇。
村上にとってこれが恋愛かどうかなんか関係ない。ただ一緒にいたいと思ってくれればそれでいい。
「d<r-r’」
ぎゅっと抱きしめる。
オレはずっと、お前と一緒にいる。
<完>
---
お読みくださりありがとうございました!
とりあえず中学生編は終了となります。
お付き合いくださいまして、本当に本当にありがとうございました!
4分遅刻っとりあえず更新します。
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帰り道、村上哲成はほとんど言葉を発しなかった。
いつも村上と登下校をしている松浦暁生は、クラスの奴らと学校に残ることになったため、せっかくオレが村上と一緒に帰れることになったのに……
(やっぱり、西本が何か言ったんだろうな……)
こういう風になるのが嫌だから、あえてあの話題には触れずにきたのに……
村上の家に着くと、お手伝いさんの田所さんが出迎えてくれた。相変わらずの無愛想で、一応、「卒業おめでとうございます」と、言ってくれた。そして、オレの分の昼食も用意するから、あと20分待つように言われた。
「じゃ、部屋で待ってようぜ?」
村上がなんだか緊張した顔のままで言ってきた。いつもと様子が違い過ぎて、こちらまで緊張してきてしまう。
今まで何度も村上の家には遊びにきているけれど、二階の村上の部屋に入ったことは数えるほどしかない。そのうちの一回は、クリスマスのお泊り会の時。
(あの時……)
布団の中で村上を後ろから抱きしめて、猛ったものを押しつけて……
(……ああ、ダメだダメだ)
そんなことを思い出したら、妙な気が起きてしまいそうだ。何とか記憶を押し込める。……と、
「キョーゴさあ……」
「……なんだ」
トン、と村上がベッドに腰かけたので、オレもその横に座る。ベッドが沈んだ反動で、ピトッと村上がくっついてきたことに、ドキンと心臓が跳ね上がる。
そんなこと知らない村上が、クルクルした目をこちらに向けてきた。
「さっき、西本に何言われてたんだ?」
「何って……」
先ほどのやり取りを思い出す。
『せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?』
苦笑気味に言っていた西本。西本は中学三年間、村上に片想いをしていたらしい。でも結局告白はしていない。自分にまったく脈がないことが分かって、無駄に傷つかないために、あえて告白しなかった、と以前話していた。だから、さっき何を話していたかなんて、村上本人に言えるわけがない。
「高校いっても頑張って、とかそんな話」
「……ふーん」
誤魔化したのを見破るようにじっと見つめてくる村上……なんなんだ。
「なんだよ?」
「……そんな話するのに、内緒話するみたいに、顔くっつけて話す必要ないだろ」
「…………」
「…………」
「…………え」
村上……ふくれっ面だ。なんか……かわいい。
「……………何怒ってるんだよ?」
「別に怒ってない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない!」
「え、わ」
いきなり、視界が反転した。首のところに抱きつかれた状態で、ベッドに押し倒されたのだ。
「何……」
「…………キョーゴ」
耳元で聞こえる村上の声……村上の温もり……
「別に怒ってないけど……なんか、ムカつく」
「…………」
「…………」
「………そうか」
右腕は村上の胸のあたりで押さえ付けられていて動かせないので、左手で、そっと頭を撫でてやる。愛おしい気持ちだけが、体中に満ちて、あふれ出していそうだ。
「キョーゴ……本当のこと教えてくれよ」
「なにが」
「本当は、西本に告白されたんじゃないのか?」
「…………されてない」
西本の好きな奴はお前だよ、なんて絶対に教えてやらない。
「ホントに?」
「本当」
「ホントに?」
「本当。……っていうか、告白されようがされなかろうが、関係ないだろ」
「……………」
ゆっくりと起き上がった村上。ジッとこちらを見下ろしながら、ポツン、と言った。
「関係……ある」
「…………」
オレは寝そべったまま、村上のクルクルした瞳を見上げる。
「関係あるって……どういうことだ?」
「どういうことって…………」
「………」
村上は再び寝っ転がると、オレの右腕に頭をのせて、横からピッタリとくっついてきた。腕枕、だ。
(……こっちの気も知らないで……)
若干腹が立ってくる。まずい現象が起きそうなのを、理性をかき集めて制御する。制御しつつも、欲求に勝てず、少し体を横にして、左腕を村上の背中に回し、やんわりと抱きしめる。……と、
「……d<r-r’」
「え?」
腕の中の村上がボソッと、公式を言った。d<r-r’……?
「2つの円の位置関係?」
「そう」
オレの背中に村上の腕が回ってくる。
「オレ……お前と一緒にいると、まあるくまあるく包まれてる気がするんだよ」
「…………」
dは二つの円の中心間の距離で、rは半径を表している。rの差よりもdが小さいといことは、一つの円が一つの円にすっぽりと包まれている状態ということだ。
「昔のオレ達は……d>r+r’」
二つの円は別々に存在している。昔のオレ達のdの値はすごく大きかった。
「でも、r-r’<d<r+r’ってなって……」
二つの円が交わる。
「今は、d<r-r’」
「……なるほど」
ぎゅっと抱きしめると、村上もぎゅっと抱きついてきた。オレの腕で包んでいる愛しい感触……
しばらくの沈黙の後、村上がポツリと言った。
「バレンタインの時に話してた、答えのことなんだけど」
「…………」
ギクリとしたオレの様子に気がついたように、村上はそっとオレの腕から抜け出て、そのクルクルした瞳で見下ろしてきた。
「オレさ……」
「うん」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、村上は大きくため息をついた。
「…………やっぱり、よく分かんねえんだよ。恋愛とか」
「…………」
「でも、今日、キョーゴが西本に内緒話されてるのみて、すげー腹立ったのは、やっぱり嫉妬……なのかなあと思うし」
「…………」
「そうなると、やっぱり、オレはキョーゴのこと好きなのかなあ?と思うんだけど、でも……」
「…………」
「…………キョーゴの答えは、どうなんだ?」
「…………」
オレもゆっくりと起き上がる。隣に座って、村上の眼鏡の奥の瞳をジッとみつめる。
「オレは……」
そっと、その柔らかい頬に触れる。
「オレは……」
覚悟を決めて、本心を伝える。
「お前のことが、好きだよ」
見開いたその瞳にそらさず、瞳を合わせる。
「誰にも取られたくない。お前のことが欲しい、と思う」
「キョーゴ、それ……」
「でも」
何か言いかけた言葉を遮って言い募る。
「でも、その感情を優先させて、お前に離れられるのは本末転倒なんだよ」
「え」
「お前が欲しいって思う感情よりも、お前と一緒に一緒にいたいって感情の方がずっと大きいから」
「…………」
「だから…………一緒にいてほしい」
本当に本当の思い。オレの望みはそれだけだ。
村上と、一緒にいたい。ずっと。ずっと……
沈黙が流れる……
(もしかして……嫌だとか思われてる……?)
あまりにも長い沈黙に、本心を言ったことを後悔しはじめていたところ……
「ご飯できましたよ」
鋭いノックの音とともに、田所さんの低い声がドアの外から聞こえてきて、二人してビクッと跳ね上がってしまった。
「は、はーい」
「ありがとうございますっ」
即座に答えたけれど、ドアの外の反応はない。おそらくこちらの返事なんか聞かずに、階下に戻っていったんだろう。
「び、びっくりした……」
「心臓止まるかと思った」
二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出してしまう。
「行こうか」
「そうだな」
ベッドから下りる。何事もなかったかのような村上の顔にホッとする。
これでギクシャクするのは本当に本末転倒だから。このまま、聞かなかったことにしてくれて全然かまわない。
胸をなでおろしながら、村上の後ろについて部屋から出ようとした。が、
「あ、キョーゴ、キョーゴ」
「なんだ?」
振り向いた村上に、なぜか手招きをされた。だから少し身をかがめたところ……
「え」
素早く、キスされた。
「え?」
キスされた?
え、なんだ今の。
「村上?」
呆然と見返すと、村上はニカッといつもの笑いを浮かべて、得意げに言った。
「d=r+r’」
「は?」
「だから、d=r+r’だよ!」
d=r+r’。二つの円の位置関係を表す方程式で、円がくっついて雪だるまみたいな状態になることを表す。
「うまいこと言ったオレ!」
村上はニコニコとしたまま、何でもないことのように、言葉を足した。
「オレも、ずっとキョーゴと一緒にいたい」
クルクルした瞳。
「だから、これからも、ずっとずっとよろしくな」
「………村上」
一緒に……
その言葉が、何よりも欲しかった言葉だ。
体中が温かくて嬉しくて、たまらない。
「村上……」
その柔らかい頬に手を当てて、もう一度、顔を寄せてやる。
「d=r+r’……」
「ん」
優しく触れる唇。
村上にとってこれが恋愛かどうかなんか関係ない。ただ一緒にいたいと思ってくれればそれでいい。
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【享吾視点】
村上哲成のことが『好き』だ。
これは、恋愛対象としての『好き』。
今までにも、そう思うことは何度もあった。でも、その度に、これは疑似恋愛的なものだと否定してきた。……けれども、もう、誤魔化しはきかない。
バレンタインデーの帰り道、そっと重ねてみた唇……
そこからは、愛しさしか伝わってこなかった。
これは、正しい。村上哲成を好きだと思うオレの心は正しい。
ただ……当たり前だけれども、それを村上に強要する気はなかった。
『答え……分かったら、教えてくれ。そうしたら、オレも言う』
受験が終わったらでいいから、と村上には言ったけれど、受験が終わっても、村上からその話をしてくる気配はなかった。
(なかったことにするつもりか?)
そんな感じもする。でも、村上がそうしたいのなら、それでいい。
もちろん、その先を望んでいないわけではない。でも、それよりも、何よりも、
(村上と一緒にいたい)
それが第一優先だ。オレはただ、村上哲成と一緒にいられれば、それでいい。
***
母の退院はまだ先になるらしい。
「だから、卒業式は誰も出席できない」
ごめんな、と父に謝られた。でも正直、安心した。これで気兼ねなく、卒業式でのピアノ伴奏を引き受けることができる。
オレは兄と同じで、冷たい人間なのかもしれない。母が入院した当初は、母が心配で心が痛んだけれど、今ではもう、何の縛りもないこの日々を楽しんでいる。
球技大会では、夏の大会同様、村上と一緒にバレーボールを選んだ。今回ははじめから全力だ。
「享吾がキャプテンになってくれ」
と、石田と林が言ってきたことは意外だった。落書きの件も謝られていないけれど、そう言ってきたことが、彼らなりの仲直りの言葉なのかもしれない。
夏の大会では、オレ達のチームは渋谷慶率いるチームに負けた。だから今回はどうしても渋谷に勝ちたい、と石田達は言う。
「キョーゴなら出来る!」
村上に背中を押され、キャプテンを引き受けた。村上がいてくれれば、オレはなんだって出来る。
前回とは違い、今回は遠慮なくチームメイトに指示を出し、自分も遠慮なく攻撃に加わった。そして、無事に準決勝で渋谷慶のチームに当たり、僅差で勝利することができた。
勝てたことも嬉しかったし、夏休み前に、オレのせいで大怪我をした渋谷が、元気に動き回っている姿を見られたことも、有り難かった。
「良い試合だったな!」
キラキラの笑顔で渋谷慶がこちらに握手を求めてきた時には、充実感でいっぱいになった。自分の実力を出し切るってこんなに楽しいんだ……。
次の決勝では、当然、松浦暁生率いる前回優勝チームとの対戦となったのだけれども………
「前の試合の疲れが残り過ぎてる……」
「もう動けない……」
メンバー全員ボロボロで、特に体力のない村上は立っているのもやっとのようだった。
「なるべく動かないよう、効率よくいこう」
松浦達だって疲れてるのは同じなんだから、と、みんなを励ましたけれど、結果は散々なものとなってしまった。
それでも………楽しかった。
「これでオレの勝ち逃げだな」
松浦にニヤリと笑われたのすら、楽しくて楽しくてしょうがなかった。
卒業式でのピアノ伴奏も、簡易バージョンの伴奏譜もある曲だったのだけれども、音楽の先生に勧められ、難しい方を選んだ。こちらの方が合唱が華やかに聴こえるし、ピアノの見せ場もある。おかげで、
「今までの卒業式の中で一番良かったよ」
と、毎年卒業式に列席している来賓の方々に声をかけられるほど、演奏は大成功した。
合唱大会の伴奏者賞の時は、少しも喜べなかったけれど、今回は、その称賛の言葉に「ありがとうございます」と素直に答えられた自分が、嬉しい。
オレは、自由だ。
「享吾君、すっかり殻を破ったねえ」
帰り際、西本ななえに冷やかすように言われた。
「もしかしなくても、テツ君と進展あった?」
「……………」
無言で見返すと、西本は小さく笑った。
「せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?」
そして、スイッと耳元に顔を近づけてくると、コソコソッと言った。
「テツ君のこと、ちょっとつついてあげようか?」
「…………。余計なことしなくていい」
せっかく、キスした後でも、ギクシャクしたりすることなく、今まで通り過ごせているのだ。これからどうするかは、すべて村上哲成の気持ちだけに任せたい。だから即座に断ったのだけれども……
「キョーゴ。帰り、うち寄ってくれ」
「………」
誘ってきた村上哲成の顔がやけに真剣なのは、西本が余計なことを言ったからだろう……
---
お読みくださりありがとうございました!
一気に書こうかとも思ったのですが、せっかくの最終回、このまま駆け足でいきたくないので、ここで切ってスピード落とそうかと……
そんなわけで、次回こそ最終回(のはず^^;)
火曜日更新予定です。よろしければどうぞお願いいたします!
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【哲成視点】
バレンタインの翌日、学校に行ったら、教室の黒板にデカデカと書かれていた。
『村上享吾♥村上哲成』
って、なんだよそれ!ご丁寧にピンクのハートで囲いまでして!
(まさか、昨日のキスを誰かに見られてた!?)
一気に血の気が引いた。
「誰が書いたんだよ……っ、って!」
言いながら、黒板消しを手にしたところ、いきなり手を掴まれた。
驚いて振り返ると村上享吾がいて………おもむろに、黒板消しを奪われた。
「キョーゴ?」
「書いた本人に消させる」
「え?」
村上享吾は、そう言うと、スタスタと窓際の席に行き………
「石田、林」
おもむろに、石田と林に黒板消しを突きつけた。
「落書き、自分達で消せ」
「は?」
案の定、石田と林は、乾いた笑顔を浮かべると、
「なんで? オレらがやったって証拠でもあんの?」
「濡れ衣だよ濡れ衣!」
ハハハと二人は笑ったけれど、村上享吾は冷静に言い放った。
「理由1、石田のズボンの右横に着いてるチョークの汚れ」
「!」
石田がハッとしたようにズボンを見た。確かにピンクの粉が着いている。村上享吾は淡々と続けた。
「理由2、木偏が林の書き方と同じ」
「木偏?」
眉を寄せた林の机を、トントンと叩いた村上享吾。そこには林のノートが……
「木偏の短い線を一みたいに書いてる」
「え」
林は慌てたように、自分のノートの名前と黒板の字を見比べた。
「そんなの、オレだけじゃ……」
「この一年、学級委員で書類を集める機会が多かったからな。クラスメートの筆跡くらい覚えてる」
「……っ」
林もばつが悪そうに、視線をそらした。
「じゃあ、掃除よろしく」
バンッと林の机の上に黒板消しを置いた村上享吾。何事もなかったかのように悠然とこちらに歩いてくる。
(なんか……変わったよな)
以前の村上享吾だったら、こんな落書きは無視するだけだっただろう。でも、最近の村上享吾は、こうして真っ向から立ち向かうようになって……
(……カッコイイじゃねえかよ)
思わず見とれてしまう……。
そんなオレの内心なんて全然気がついてない様子の村上享吾は、オレの目の前までくると、真面目な顔をして一言、いった。
「おはよう」
「…………………は?」
おはよう?
………あ、そうか。挨拶してなかった。
と、思ったら、真面目な顔のまま言葉が続いた。
「噂の原因は、昨日、二人でチョコを買いまくってるところをクラスの女子に目撃されたかららしい。西本情報だから確かだ」
「え」
「それを聞いた石田と林が落書きしたんだろ」
「あ………そう」
ホッとする。あのキスを見られた訳じゃないんだな………
胸を撫で下ろしていたら、スッと耳元に顔を寄せられた。反射的にドキッとする。と、
「あれは、人に見られないように、傘に隠れてしたから大丈夫だ。安心しろ」
「!?」
「そこら辺はちゃんと気をつけてした」
いたって真面目な顔の村上享吾……
気をつけたって…………、なんだそれ!
「なんだよそれ!」
思いきり叫んで、胸のあたりをバシッと平手打ちしてやる。
「昨日は『つい、思わず』とか言ってたくせに、実は計画的だったのかよ!」
「……………あ」
「あ!?」
なんなんだよー!!
***
昨日の帰り道、いきなり、キスをされた。ふわりと触れるだけの、優しいキス。今まで感じたことのない、震えるような感覚。呆然とする中、雨の音がやけに大きく聞こえる………と、
「じゃ、急ごう」
「え」
村上享吾が、何事もなかったかのように、オレの頬に当てていた左手を、オレの肩に再び回した。
「チョコを食べる時間がなくなる」
「え、あ……うん」
……………。
……………。
……………え?
「いやいやいやいや、ちょっと待てっ!」
我に返って叫ぶと、村上享吾は「なんだ?」と、しれっとこちらを向いた。なんなんだよお前!
「今のは何だ!何のつもりだ!」
「あー………」
村上享吾は「うーん」と首を傾げると、
「つい、思わず」
「は!?」
思わず!?
「でも……おかげで確認できた」
「は?」
確認?
「確認って?」
「正しいのかどうかの、確認」
「それ……っ」
正しいのかって、さっきの話、だ。
男同士なのに好きとか付き合うとかがおかしいのかどうかって………
(確認できたってことは……っ)
村上享吾に詰めよってやる。
「分かったのか?!」
「あー………」
村上享吾は上を向いたまま、また、黙ってしまった。
だから、どっちなんだよ!
「キョー……」
「お前は?」
ふっと視線が下りてきた。その真剣な瞳にドキッとなる。
「お前は、どう思った? 今のキス」
「どうって……」
それは……今まで感じたことない感触で……
「お前は、どう考えてる? オレ達の関係」
「それは……」
それは……抱きしめられるとすげー嬉しいし、絶対内緒だけど勃ちそうになったこともあるし、でも、男同士だし、だから、それは………それは………
「って!」
なんでオレが答えることになってんだよ!
「質問を質問で返すな! お前が答えろ」
「断る」
「は?!」
しれっと首を振った村上享吾に掴みかかってやる。
「断るってなんだよ!」
「オレが答えたら、お前、それを元に判断するようになるだろ」
「それは……」
冷静な口調で諭され、トーンダウンしてしまう。それはそうかもしれないけど……
「村上」
「……っ」
再び、頬に手を当てられ、ドキッとする。村上享吾が真剣な瞳で言葉を続けてくる。
「オレは、お前自身の答えが知りたい。だからオレの答えは教えない」
「…………」
「答え……分かったら、教えてくれ。そうしたら、オレも言う」
「…………」
答え……今のキスをどう思ったのか。二人の関係をどうしたいのか。
そんな……
そんな……そんなの。
「まあ……受験が終わってからでいい」
ふっと目元を和らげて、村上享吾が言う。
「とりあえず、チョコ買いにいこう」
「………おお」
これっきり、この日はもう、この話題は一切しなかった。
でも、あの柔らかい唇の感触とか、頬に触れられた大きな手とか、真剣な瞳とか、そういうのを思い出してグルグルなって、その晩は全然寝付けなかった。それで、寝不足の頭で登校したところ、あの黒板の落書きを目にした、というわけだ。
こっちはそんな調子なのに、村上享吾は何だか飄々としていて、なんか……………腹立つ。
***
受験は、何てことなく終わった。
うちの学校では、同じ学校を受ける生徒は全員まとまって合格発表を見に行くことになっている。
「誰か落ちてたら気まずいよな」
なんて言い合っていたのだけれども、無事に7人全員合格していた。
7人のうち、村上享吾、渋谷慶、上岡武史、荻野夏希の4人はバスケ部。
「バスケ部優秀だなー」
「当然、みんな高校もバスケ部だよね?!」
帰り道、はしゃいだように言った荻野夏希の言葉に、上岡武史は「もちろん」とすぐに肯いたけれど、渋谷慶は小さく首を振った。
「オレはバスケ部には入らない」
「はあ?! お前何言ってんだよ? 当然バスケ部入るだろっ」
慌てたように上岡が言うと、渋谷は嫌そうに眉を寄せた。
「入んねえよ」
「なんでだよっ」
「っせーな。おれの勝手だろ」
「んだと……っ」
「まあまあまあまあ」
掴み合いの喧嘩がはじまりそうになるのを、中に入って止める。この二人、本当に仲悪いよな……
「まあさあ、高校、色々部活あるんだから、渋谷だってバスケ以外の……」
「ありえねえっ。享吾!お前は当然バスケ部だよな?!」
突然、上岡に話を振られた村上享吾は、
「そうだな……バスケもいいし、何か新しいことを始めるのもいいし……」
穏やかに、微笑みながら言った。
「楽しみだな。白浜高校」
「……………」
「……………」
上岡も渋谷も、村上享吾の穏やかな声に毒気を抜かれてしまったようだ。
「そうだな」
「ああ………そうだな」
「うん」
先ほどまでの険悪な雰囲気なんかなかったかのように、みんなで笑ってしまう。
4月からは高校生……
これからオレ達には輝かしい未来が待ち受けている。
………でも、その前に。
受験が終わった、ということは、答えを出さなくてはならない。
オレは……村上享吾とこれからどうしていきたいんだろう。
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お読みくださりありがとうございました!
次回、たぶん、中学生編最終回(のはず)です。
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【享吾視点】
『はい。終わりました』
そう言った西本は、とても清々しかった。あの表情……『終わり』とは、西本の恋が終わった、と解釈してよいのだろうか?
(村上……告白されたのかな)
確認したかったけれど、帰り道、村上哲成はいつもよりも更にはしゃいでいて、聞くに聞けないでいた。この話題になるのを避けているのかもしれない。
「スーパー行ったら、ポッキーも買おうぜ! あとチョコって何がある?」
「パイの実、アポロ、きのこの山、たけのこの里……」
「お前すげーな!」
アハハと笑う村上の声がすぐ近くから聞こえてきて、くすぐったい。昼過ぎから降りだした雨。村上は傘を持っていなかったので、オレの傘に一緒に入っているのだ。
右手で傘を持って、左手で村上の肩を抱いているのは、小さめの折り畳み傘なせいだ。なるべく濡れないようにするためであって、他意はない。他意はない。と、自分に言い聞かせるけど、村上のぬくもりが心地良すぎて、もっと強く抱き寄せたいという気持ちが抑えられない。
思わず、左手に力を入れたところ、
「こうなると、雨もいいな」
ふいに村上が言った。
「くっついて歩けるから、あったかい」
「……そうだな」
村上の言葉に胸の奥の方までギュッと温かくなる。
「なあ……キョーゴ」
「なんだ」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、小さく村上が口を開いた。
「………あのな、西本に変なこと言われたんだよ」
「変なこと?」
変なこと……って告白のことか?
「何を言われた?」
「あのー……」
村上は言いにくそうに頬をかいてから、ボソッと、言った。
「オレが、キョーゴのこと、好きなんじゃないかって」
「……………え?」
オレが、キョーゴのこと、好き?
「え?」
もう一回、「え?」と言ってしまうと、村上は勢いよくブンブンと手を振った。
「ごめんごめんっ忘れてくれっ変なこといった!」
「え? あ、いや……」
ブンブン振られている手を見つめながら、その言葉を反芻する……
「『オレが、キョーゴのこと、好き』……」
「あー!だから忘れろって!」
「いや、ちょっと待て」
オレの口をふさごうと伸ばしてきた手を、傘を持っている右手で押し返す。
「それ、オレも西本に言われた」
「え?! オレがキョーゴのこと好きだって?!」
「じゃなくて、反対」
傘と一緒に村上の手を掴んでやる。
「オレが、お前のこと好きだって」
「え?」
キョトン、と村上がこちらを見上げてきた。その瞳に、手のぬくもりに、愛しさが込み上げてきて苦しくなる。
と、村上は、いきなり、ハッとしたように叫んだ。
「そうか! あいつ、オレ達のこと、からかったんだな!」
「からかった?」
「だってそうだろ! 男同士なのに好きとか付き合うとかそんなのおかしいしっ」
おかしい……
村上は、捲し立てるように言葉を続けた。
「ああ、ビックリした。そりゃさ、オレ、お前と一緒にいるのすげー楽しいし、こうやってくっついてたいって思うし、なんかすげー嬉しいし! けど、それを好きって思うのはおかしいよな!? やっぱり、おかしいよな!?」
「………………」
おかしい……
「おかしい……か」
立ち止まり、村上のことをジッと見下ろす。
『オレ、お前と一緒にいるのすげー楽しいし、こうやってくっついてたいって思うし、なんかすげー嬉しいし!』
村上……それは、オレも同じだよ。
「村上」
その柔らかい頬にそっと触れる。
「おかしいってことはオレも分かってる。だから何度も否定してきた」
「え」
パチパチと村上が瞬きをした。ハテナでいっぱいの顔。
「でも、それが正しいって気もしてきた」
「へ?」
村上の眼鏡の奥の潤んだ瞳に、誘いこまれる。
「それが、正しいのかもしれない」
「え………?」
だからその、戸惑って何か言いかけた唇に、そっと唇を重ねた。
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お読みくださりありがとうございました!
世界初オランダで同性結婚法が施行されたのは2001年4月。作中はその10年以上前の1990年2月のお話。彼らが今中学生だったら、受け止め方が少し違っていたのかもしれません。
そしてこちら私がまだ高校生だった1992年9月にプロットを立てた物語をベースに書いております。
だから余計にこそばゆいし、焦れったいし……だけど、なんとか当時の自分の意志を尊重して書き進めてきました。
中学三年生編はもうすぐ終わります。
続き……大学生になってからの話もあるんですけど、書こうかどうしようか悩み中……
次回、火曜日更新です。よろしければどうぞお願いいたします!
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